6 / 35
1章 異世界転移編
6話 後悔
しおりを挟む
バイト場から家の間には傾斜のきつい長い坂がある。通称『地獄坂』。
行きは下りで楽なのだが問題は帰りにある。
ショウトは、今まさにその長い長い坂を必死に登っていた。
いかにこの坂で足を着かずに登れるかとチャレンジしているだが……、バリバリの野球少年時代は何度も成功しているチャレンジも今の怠けきったショウトの身体では中腹の公園までが関の山。
「はぁ……はぁ……はぁ、あと……少し……」
ダンスのように左右に揺れる自転車と同時にカゴの中では例の本も弾むように踊っている。
そんな長子で必死に足を動かしていると、
…………メだ。
「はぁ……はぁ……」
……てちゃダメだ。
「……なん……だ?」
どこからかともなく声が聞こえた気がした。その声に釣られて必死に動かしていた足を止める。
自転車を降りて、呼吸を整えるため大きく深呼吸。そして辺りを見回す。しかし、人らしき姿は何処にもない。
――気のせい? 確かに聞こえた気がしたんだけどな……
この坂で一度でも自転車から降りてしまうと、その場から乗ることは不可能に近い。前に一度試みたこともあるのだが、その時は本末転倒、逆行するという悲惨な結果になった。
そんな経験もあり、無謀な賭けをせずに仕方なく公園まで押して登ることにした。
公園に着くと近くの自販機で買ったお茶をベンチで一気に飲み干し一呼吸。
「さっきのは何だったんだ? まさかこれか?」
空のペットボトルと入れ替えで、カゴの中に入っている本を手に取る。だが先程のような反応はない。
「確か、さっきは開いたら光ったよな……」
店での出来事が脳裏に浮かぶ。店では急な事で恐怖はなかったのだが今は状況が違う。
さっきの声といい、光る本といい通常では考えられない事が連続して起きている。
それにより多少なりとも恐怖心が芽生えているのは確かだ。
普段は周りにあまり見せないが、気になったらとことん追求するのがショウトの性分。
目をそっと閉じ、
――大丈夫、何も起きやしない。さっきも大丈夫だったんだから。
自分にそう言い聞かせ慎重に本を開いた。
本を開いて数秒たっただろうか恐る恐る瞼を上げた。
――何も起きない?
本はおそらく発光してはいない。もし光ったのであれば瞼の裏の世界も、朝太陽の光が部屋に射し込んでくるような眩しさがあるはずだ。それどころか先程のような奇妙な声さえなかった。
ショウトは開かれたページに視線を移した。するとそこには、ただの白紙のページではなく、表紙同様読めない文字が三行ほど書かれ、隣のページには鎖に囚われた少女の絵が描かれていた。
「絵本?」
開いたページをまじまじと見つめる。しかしいくら見たって読めない物は読めなかった。だが、ふとあることに気付く。
「あれ? この女の子……」
良く見るとバイト場の店長、葵に似ているような気がした。ウェーブがかった肩より少し長い黒髪で前髪を留めるための髪留め。
「いや、流石にそれはないよな?」
葵がこんな奇妙な本に描かれているはずがない。
現に葵はこの本を見せた時、知らないと言っていた。しかし、あまりにも特徴が似ているせいか確証が持てない。
悩んでも仕方ないと思ったショウトは、次のページをめくろうと手をかけた。その時だった、
「――開いちゃダメだ! 早く捨てて!」
今回は鮮明に声が聞こえた。しかし本は既に開かれ、白紙のページがあらわになった。
すると、その本はバイト場の時のように発光を始めショウトの視界を奪う。
――おいおい! まぢかよ!
何も見えない。手足の自由が効かない。まるで金縛りにでもあっているかのように。
――くそ! どうなってんだよ! 動けよ! オレの体!
力を入れてみても身体は硬直するばかり、動かし方を忘れてしまったかのようにいくらもがいても身体に信号が届かない。
そうこうしているうちに段々と本から放たれる光が段々弱まっていく。それと並行するように視界が甦ってくる。
――おいおい! 嘘だろ!?
ショウト目に映った光景は、自分の周辺だけが泥沼のように波打ち、下半身は既に沼に呑まれていた。
共に走ってきた自転車も半分以上が沼に飲まれ、今すぐにでも視界から消えようとしている。
――くそっ! 誰か助けてくれよ! 誰か!
叫ぼうとしても声すら出ない。それでも必死に叫ぶ。すると、
「あーあ、だから言ったのに……」
またあの声だ。何度が聞こえた声。気のせいだと思っていた声。その声に必死に問いかける。
――おい! これは何なんだよ! お前知ってんだろ! 答えろよ! お前は誰なんだよ! 早く助けてくれ!
そう心の中で叫んだが、その瞬間ショウトの視界から完全に色が消えた――。
呼吸も出来ず、ただただ漆黒の世界に漂う動かない身体――。
しかし、不思議な事にショウトに恐怖心はなかった。
感情を置き去りにして無意識に身体が生きるの事を諦めたのだろうか。
こうなると滑稽な自分に笑えさえしてくる。
だか、それも長くは続かないようだ。意識が遠ざかっていくのがわかる。
薄れ行く意識の中で後悔が積み重なる。続きを見れなかったDVDの事、突如倒れた葵さんの事。そして……、朝八つ当たりしてしまった母の事……。
意識がなくなる直前、最後に聞こえた声がこう言った。
「――大丈夫。すぐに会えるよ」と。
行きは下りで楽なのだが問題は帰りにある。
ショウトは、今まさにその長い長い坂を必死に登っていた。
いかにこの坂で足を着かずに登れるかとチャレンジしているだが……、バリバリの野球少年時代は何度も成功しているチャレンジも今の怠けきったショウトの身体では中腹の公園までが関の山。
「はぁ……はぁ……はぁ、あと……少し……」
ダンスのように左右に揺れる自転車と同時にカゴの中では例の本も弾むように踊っている。
そんな長子で必死に足を動かしていると、
…………メだ。
「はぁ……はぁ……」
……てちゃダメだ。
「……なん……だ?」
どこからかともなく声が聞こえた気がした。その声に釣られて必死に動かしていた足を止める。
自転車を降りて、呼吸を整えるため大きく深呼吸。そして辺りを見回す。しかし、人らしき姿は何処にもない。
――気のせい? 確かに聞こえた気がしたんだけどな……
この坂で一度でも自転車から降りてしまうと、その場から乗ることは不可能に近い。前に一度試みたこともあるのだが、その時は本末転倒、逆行するという悲惨な結果になった。
そんな経験もあり、無謀な賭けをせずに仕方なく公園まで押して登ることにした。
公園に着くと近くの自販機で買ったお茶をベンチで一気に飲み干し一呼吸。
「さっきのは何だったんだ? まさかこれか?」
空のペットボトルと入れ替えで、カゴの中に入っている本を手に取る。だが先程のような反応はない。
「確か、さっきは開いたら光ったよな……」
店での出来事が脳裏に浮かぶ。店では急な事で恐怖はなかったのだが今は状況が違う。
さっきの声といい、光る本といい通常では考えられない事が連続して起きている。
それにより多少なりとも恐怖心が芽生えているのは確かだ。
普段は周りにあまり見せないが、気になったらとことん追求するのがショウトの性分。
目をそっと閉じ、
――大丈夫、何も起きやしない。さっきも大丈夫だったんだから。
自分にそう言い聞かせ慎重に本を開いた。
本を開いて数秒たっただろうか恐る恐る瞼を上げた。
――何も起きない?
本はおそらく発光してはいない。もし光ったのであれば瞼の裏の世界も、朝太陽の光が部屋に射し込んでくるような眩しさがあるはずだ。それどころか先程のような奇妙な声さえなかった。
ショウトは開かれたページに視線を移した。するとそこには、ただの白紙のページではなく、表紙同様読めない文字が三行ほど書かれ、隣のページには鎖に囚われた少女の絵が描かれていた。
「絵本?」
開いたページをまじまじと見つめる。しかしいくら見たって読めない物は読めなかった。だが、ふとあることに気付く。
「あれ? この女の子……」
良く見るとバイト場の店長、葵に似ているような気がした。ウェーブがかった肩より少し長い黒髪で前髪を留めるための髪留め。
「いや、流石にそれはないよな?」
葵がこんな奇妙な本に描かれているはずがない。
現に葵はこの本を見せた時、知らないと言っていた。しかし、あまりにも特徴が似ているせいか確証が持てない。
悩んでも仕方ないと思ったショウトは、次のページをめくろうと手をかけた。その時だった、
「――開いちゃダメだ! 早く捨てて!」
今回は鮮明に声が聞こえた。しかし本は既に開かれ、白紙のページがあらわになった。
すると、その本はバイト場の時のように発光を始めショウトの視界を奪う。
――おいおい! まぢかよ!
何も見えない。手足の自由が効かない。まるで金縛りにでもあっているかのように。
――くそ! どうなってんだよ! 動けよ! オレの体!
力を入れてみても身体は硬直するばかり、動かし方を忘れてしまったかのようにいくらもがいても身体に信号が届かない。
そうこうしているうちに段々と本から放たれる光が段々弱まっていく。それと並行するように視界が甦ってくる。
――おいおい! 嘘だろ!?
ショウト目に映った光景は、自分の周辺だけが泥沼のように波打ち、下半身は既に沼に呑まれていた。
共に走ってきた自転車も半分以上が沼に飲まれ、今すぐにでも視界から消えようとしている。
――くそっ! 誰か助けてくれよ! 誰か!
叫ぼうとしても声すら出ない。それでも必死に叫ぶ。すると、
「あーあ、だから言ったのに……」
またあの声だ。何度が聞こえた声。気のせいだと思っていた声。その声に必死に問いかける。
――おい! これは何なんだよ! お前知ってんだろ! 答えろよ! お前は誰なんだよ! 早く助けてくれ!
そう心の中で叫んだが、その瞬間ショウトの視界から完全に色が消えた――。
呼吸も出来ず、ただただ漆黒の世界に漂う動かない身体――。
しかし、不思議な事にショウトに恐怖心はなかった。
感情を置き去りにして無意識に身体が生きるの事を諦めたのだろうか。
こうなると滑稽な自分に笑えさえしてくる。
だか、それも長くは続かないようだ。意識が遠ざかっていくのがわかる。
薄れ行く意識の中で後悔が積み重なる。続きを見れなかったDVDの事、突如倒れた葵さんの事。そして……、朝八つ当たりしてしまった母の事……。
意識がなくなる直前、最後に聞こえた声がこう言った。
「――大丈夫。すぐに会えるよ」と。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる