見えない「愛情」と「幸せ」を求めて。

思い出せば、それは苦しく、辛くて。

2

「···結論から言うと、奏はいじめを受けてたんだ。」


覚えていない。でも、体はそれを全て記憶しているかのようにガクガクと震え、冷や汗をかく。

「それで、奏は少しずつ元気が無くなってった。俺は奏の周りに人がいっぱい居るだけだと思って、気付けなかったんだ。」

頭にかかった霧が晴れていくように思い出していく。

すると、楓はさらに声を低くして、


「···でも、ある日、奏は空き教室に連れ込まれた。」


そう言った瞬間、俺の身体は震えを通り越し僅かに痙攣して、目の前が暗闇に閉ざされるように見えづらくなる。


「···そこで、奏は酷い仕打ちを受けたんだ。」


鮮明に蘇る、あの時の記憶···












「う゛っ、！い゛や゛っ、だすげっ、！」

「がはははっ！こいつすげー情けねえ声出してる！」

「おい、こいつなんか持ってるぞ。···何だこれ。」

「あ？これ楓との写真か？」

「なんでお前なんかが楓と仲良くしてんだよ！」


ボコッ、バコッ、バキッ、


「ひぅ゛ぅっ、！だれ゛かっ、！だっ、！？」

「助けなんてこねーんだから。でもあんまり五月蠅くすると···お前のこと殺しちまうかもな！！」

何処からか取り出したスタンガンを全身のあちこちに当てられる。


「へぐッ、！も゛う゛やめっ、でッ、！」


「きゃはははっ！アンタ凄いことになってんじゃん！アンタが楓と仲良くするからこんなことになるの！ちょっとは反省してよね！」


そう言ってここに入ってきた女子はスマホを取り出し、俺の痛々しく、制服を全て破られたあまりにも惨めな姿に動画を撮りだした。

「あははっ！おもしろっ！後でクラスラインに送っちゃおっ！」

意識が朦朧としてくる。床は殴られたり蹴られたりした俺の身体から垂れる赤い液体で染まり、俺の身体にはスタンガンを当てられた跡が痛々しく残っていた。


「······ぅ、···ぁ···」

「ん？こいつ気絶してねえ？」

「おい、起きろ。···チッ。」


頭を掴まれたと思ったら、顔面を本気で蹴られる。

ようやく意識が朦朧としてきて、気絶すれば痛みから逃れられると少し安心していたのに、一瞬で現実に引き戻されてしまう。


顔面を蹴られたとき、バキッっという音が教室中に響き渡った。

「あーあ、お前気絶なんかするから、顔の骨折れたか割れたか粉々になったんじゃねぇか？」

その言葉が今の顔の痛さを示しているように思えた。

しかし、お構い無しにベチベチと叩かれる。

「ねえー、ちょっと、そこにいるとそいつの顔見えないんだけどー。今撮ってるんだから。」

「ああ？そうかそうか。悪りぃな。」


目の前にはもはや見るも無惨な俺がいるはずなのに、全く気にしていない様子だった。



ーーーーーーーー


······段々身体の痛みを感じなくなってきた。


···どのくらい経ったのだろう。さっきはまだ青が勝っていた空も、今はオレンジが覆い尽くしている。


「い゛だっ、ぃ、···ごめ゛っ、ん、···ゆるし゛で、」


さらに人は増え続け、もうこの時は10人ほどのクラスの奴らが、俺で遊んでいた。


(楓···ごめん······俺もうだめだ···)

もうタラタラと流れる血も少なくなっている。

床は元の木の茶色を、俺が真っ赤に染め上げていた。
そして、もう抵抗する気力も失ってしまった。


(ああ······ごめん···楓···俺······死んだ···)


そして、視界は暗黒に包まれた。