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4章

154話 ルカルドの日常 夜

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 昼からの綿密なハードスケジュールも夕方前にはしっかりと片付け、屋敷に戻り夕食を食べ終えた俺は、いつも通り妹のサーシャに本の読み聞かせを行なっていた。

 既に、何百回という回数読み聞かせているのに、サーシャは飽きを見せない。

 それが、地味に俺への精神攻撃となっているのを知らないサーシャは、満面の笑みを浮かべて早く読んでと催促をしてくる。

 何故、絵本を読む度に俺がダメージを受けるのか。

 その答えは、簡単だ。

 読み聞かせる絵本の内容が……

「ハイデル王国の王都が魔物の氾濫で滅亡の危機に瀕した時、空に白装束の何かが現れました。その何かとは、何を隠そう、ハイデル王国の守護神である世界最強の神、白神様。白神様は、ハイデル王国を魔物から守るために、その至高のお姿を顕現なされたのです」

 この通り、三年前の王都での俺が神として世界に認知された時の話だからである!

「はくしんしゃまー! まものなんてやっつけちゃえー!」

 唯一の救いは、白神の正体を知らないサーシャが、間接的とはいえ、俺こと白神を応援してくれるところだろう。

「ただ、魔物の群れを率いているのは、過去数ヵ国の国を滅亡させた最悪の災厄、鬼神。いくら世界最強の白神様といえど、その身一つでは、犠牲を出さずに討伐することは難しい。でも、白神様にはそんなピンチすら簡単に退けてしまえる手段が残されていました」

「しゅりゅばーにゃしゃまといえっどしゃまとほわいとりゅしゃまをしょーきゃんしましゅたー! はくしんしゃましゅごいのー!」

 ここでいつも通り、舌ったらずで可愛らしい口調で続きを口にするサーシャ。

 正確には、“シルバーナ様、イレッド様、ホワイトル様という白神最高の三忠をその場に召喚させたのです“だが、そんな細かいことはどうでもいい。

 サーシャの辿々しい口調の可愛さは絶対の正義であるからね。

「……こうして、白神様と三人の使徒の力のおかげで、ハイデル王国は歴史上最大の危機から守られたのでした。めでたしめでたし」

「わあーーー! おもしろかったでしゅーーー!」

 サーシャは、ぱちぱちぱちと拍手をしながら、楽しそうにいつも通りの感想を口にする。

 それにあい反して俺の方は、この物語がハイデル王国のみにならず、隣接する他国にまで広がっているのだと思うと、テンションは下がる一方である。

「ルカにいしゃまー、サーシャもいつかはくしんしゃまにあえりゅかにゃー?」

 もう既に毎日顔を合わせているなんて事実を知らないサーシャは、真剣な目つきで聞いてくる。

 ここで、実は白神の正体は、俺なんだよといってしまえば、彼女の壮大な白神像をぶち壊してしまう。

 だから俺は、サーシャに決まってこう言うのだ。

「白神様は、僕達が住んでいるハイデル王国の守護神様だからね、きっとサーシャのことも毎日のように見守っているだろうし、サーシャがいい子にしていれば、いつかきっと会うことができると思うよ」

「ルカにいしゃまがゆうなりゃ、きっとあえりゅよにぇ! えへへっ」

 いつかその時がくると信じて、満面の笑みを浮かべるサーシャ。


 彼女の夢を叶えるためにも、サーシャが大人になる前に最低でも一度は、サーシャが一人になる時を狙って白神として顕現せねばならないな。

 その時は、アテナ達にも一緒にやってもらおう。


 妹の夢を叶えてやるのも、立派な兄の務めだからね!


「さあ、サーシャ。そろそろお寝んねの時間だよ。白神様に会えなくなるかもしれないから、ちゃんと寝るんだよ? おやすみ」

「はーい! ちゃんとねりゅー! ルカにいしゃま、おやしゅみなしゃーい……」

 サーシャを寝かしつけたところで、俺の長く充実した一日はようやく終わりを迎える。

 そして、数時間後には、また次の一日がやってくる。

 さあ、明日に備えて、俺もゆっくりも寝ることにしよう。

「おやすみアテナ」

『おやすみなさい、マスター』

 こうして、俺の充実した日常は繰り返されるのだった。
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