ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

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第2章 オークハート領編

2 グレース夫人

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 テオドールは、実母が見つかるまで、グレース夫人のもとで世話になることになった。

 近くに止めてある馬車の扉を、執事のアルフレッドが開けると、馬車に乗り込むグレース夫人。
 初めて見る貴族の馬車に、テオドールは目を見開き、
 
「これ……アンタの家か?」

 こんな狭いところに寝泊まりするのなら、野宿の方がマシだと思った。
 
「これは馬車という乗り物でございます。これに乗って、旦那様のお屋敷に向かうのです。どうぞ、ご乗車くださいませ」

 そう執事に促されて、テオドールは馬車に乗り込み、グレース夫人の対面に座った。
 執事が御者を務め、馬車はゆっくりと、男爵邸に向けて動き出す。
 車窓の外を眺めながら無邪気にはしゃぐテオドールを見て、体は大きくてもまだ子供なのだと、グレース夫人は微笑んだ。
 
 グレース夫人は、テオドールの身の上や、家族などについて尋ねたが、度々お茶を濁されてしまう。
 言えない事情があるのだと察した彼女は、それ以上の言及はしなかった。
 
 やがて男爵邸が見えてくると、明らかに他の建物とは違う城館を、テオドールは指差して、
 
「あのデカいヤツ、なんだ?」
「あそこが、わたくしの住まいである、セドリック・オークハート男爵邸よ」

 馬車は男爵邸の敷地に入ると、城館の玄関前で停車した。
 グレース夫人に連れられて、建物の中に入ったテオドールは、物珍しげにキョロキョロとまわりを見る。
 そこにグレース夫人の一人娘エレナと、侍女のソフィーが出迎えに出てきて、
 
「お帰りなさい。お母様」
「お帰りなさいませ。奥様」
「ただいま。エレナ、ソフィー。こちらの方は、テオドールさんよ。今日からしばらく此処で暮らすことになったから、よろしくね」

 母親の言葉に、エレナは眉根を寄せる。
 グレース夫人が、テオドールに娘と侍女を紹介してから、行こうとすると、
 
「待ってください、お母様。二人きりで少し話をしたいのですが、よろしいですか?」
「ええ。構わないわ。それじゃアルフレッドとソフィー、テオドールさんを客間に、ご案内してちょうだい。あとは頼んだわよ」
「「はい。奥様」」
 
 三人がいなくなると娘は、母親に詰め寄り、

「お母様。此処で暮らすって、どういうことですか? 詳しく説明してください」

 グレース夫人が経緯を説明するとエレナは、
 
「いい加減にして、お母様。他人に施しを与える余裕など、私たちにはないでしょ」
「でも彼は、異国から来たので、わからないことが多いのよ。知らずに魔物の森へ入り込んでしまったくらいだもの。放って置けないわ。それにまだ15歳なのよ。野宿させるわけには、いかないでしょ」
「だからって……」

 エレナは、諦めたような溜息を洩らした。
 
 お昼になるとテオドールは、グレース夫人とエレナの三人で、食事をすることになった。
 各自がテーブルの席につくと、侍女のソフィーが、野菜の煮込みとパンを運んできた。
 野菜の煮込みは、具材の少ない質素なもので、庶民のような食事である。
 食事の前に、グレース夫人とエレナが胸の前で手を組み、感謝の祈りをした。

「さぁ、頂きましょう」

 祈りが終わるとグレース夫人は、テオドールに声をかけた。
 母娘が硬いパンを野菜の煮込みに浸して食べるのを真似て、テオドールも食べ始める。
 
 竜は肉食で、魔獣を捕らえて、そのまま食べるので、人間のように味付けをしたり、調理をすることはない。
 貧しい庶民の料理ではあるが、未知の味に衝撃を受けたテオドールは、こんな美味いものは初めてだと感動して、いっきに平らげた。
 
 物足りなさそうなテオドールにグレース夫人は、
 
「ごめんなさいね。育ち盛りのテオドールさんには、足りないわよね。煮込みにお肉を入れられたら、よかったんだけど……」
「肉、入れるのか? それ、ウマそう。肉入り、食べたい」
「ごめんなさい。お肉はないの。今日も主人が、魔獣狩りに行っているんだけど、めったに獲れなくて……」

 困り顔で申し訳なさそうに謝るグレース夫人。
 肉入りの煮込み料理を想像しただけでも、涎が出てきたテオドールは、居ても立っても居られず、「肉、食べたい!」と叫んで、部屋を飛び出した。
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