異世界転生だと思ってたのにただのタイムスリップでさらに歴史が変わってしまいました

桜ふぶき

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大統領の息子リアム

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20xx年パリスーー

ここは、パリス大統領官邸が立ち並ぶドルノア街である。

ここへは多くの貴族が訪れ、それぞれ交流を深めていく。

しかし、今や世界的に熱狂的な人気があるリアムを一目見にやってくる者たちも少なくはない。この日も多くの令嬢が訪れていた。

「ねえ、聞きまして?リアム様はこの前は日本のテレビまで出演されたとか」


「ええ!ネットでも流暢な日本語だったと賞賛の嵐でいらしたそうですわ!

なんとかして仲良くなりたいものね」

と、話していると、大統領官邸に入っていくリアムの姿が見えた。

「あっ!リアム様よ!歩いている姿も素敵ね。いつも優しい笑みで紳士的なんてあの後ろについているメイドが羨ましいわ」


「あら、じゃ私たちもメイドに変更なさる?」

うふふふふと、令嬢たちの笑い声がイギリスの夕方の空に響き渡る。
その後もきゃっきゃっと騒ぎながら話は続いていた。



ーーパリス大統領官邸

リアムが入ってくると、従業員たちは足を止め頭を下げる。

リアムの表情も優しい顔から一変し、機嫌の悪い表情に戻った。後ろにいたメイドもリアムの表情の変化に、緊張感に包まれる。

「今日の予定は?」

無愛想に2階への階段を登りながら後ろのメイドに問いかける。

「もうこの後、予定は入っていません」

部屋へ入ると、乱雑に上着をソファへ投げ捨てた。
それを見て、慌ててメイドが投げ捨てられた上着を拾い上げる。拾い上げると、少しだけ嬉しそうな顔をした。


このメイドは、以前りんごを庇おうとしたメイドで、名前はエリーゼという。
前回のりんごを庇った失態でリアムの逆鱗に触れたが、すんでのところで許してもらえた。



チラッとリアムの様子を伺う。
それと同時に、紅茶の準備をした。



私たち従業員の中でもリアム様は本当に恐れられているけれど…
本当は怖い人じゃない
きっと、疲れているから不機嫌なのよね

根は優しい人って知っているもの…。



そして、ふと先日の出来事を思い出す。

そういえば、あの朝の人、いったい誰だったのかしら?
リアム様に見つかった時はどうなることかと思ったけど…

それに警備員もいたはずだと言うのに、どうやってくぐり抜けてあそこまで来たのかしら…。
リアム様の熱烈なファン?

ありえるわ、今や世界的に人気だもの
全世界の女の子たちがリアム様をねらっているのよ


全世界の…

そう思ったところで、突然チクリと胸が痛んだ。


そう…。
いつかはリアム様だってだれか別の御令嬢と結婚して家庭をもつ。
一介のメイドの私なんてあの方の眼中にもない


エリーゼの紅茶のポットを持つ手が震える。脳裏に何度も何度も頭をかすめた言葉が浮かんだ。



ーーこんなに近くにいるのに…



エリーゼがそう考えていると、突然リアムの声が聞こえてきた。

「溢れてるんだけど」


「きゃっ!!」


「ーーー」

エリーゼは、突然の声に驚いてコップを落とした。その際に破片や液体が床に盛大に飛び散る。見ると、リアムの服にも飛び散っていた。

エリーゼの顔色がみるみるうちに真っ青になっていく。

「も…申し訳ありません…っ!」

慌てて、リアムの足元の破片に手を伸ばす。怖くて顔を見れなかった。自分でも体が震えているのがわかった。リアムが静かに口を開く。

「いい度胸だね。この僕の前でぼーっとするなんて」


冷たい声だった。エリーゼの頭が真っ白になる。

「そういえば前回も不審者を匿ってたっけ?本当に尊敬するんだけど。そうそうに出来ることじゃないよ」


「ごめ…んなさ…」


「顔、上げて?」

その言葉に冷や汗が背中を伝う。震えながら恐る恐る顔を上げるエリーゼ。目には水滴が溜まっていた。

顔を上げると、冷たく笑うリアムの顔がありエリーゼを見下ろしていた。

ーーしばらくしてリアムが膝をつきエリーゼと同じ目線になる。

真っ青な顔のエリーゼを見つめ、リアムが口を開く。

「最近、新しい拷問器具を手に入れたんだよね。バレないように地下においてあるんだけど

ーー今いる人形は、かなり出血がひどくて。今じゃ全然喋らなくなっちゃった」

リアムが楽しそうに笑いながら、エリーゼの手を取り、まっすぐ目を見据えた。

「お前は一体どこまで耐えられるんだろうね?」


冗談で言っていないことは顔から見ても明らかだった。

自然と溜まっていた水滴が両目からこぼれ落ちる。


ーー恐怖


ーーと、脳裏に浮かんだところでコンコン、と扉のノックの音がする。

突然の邪魔が入ったことに、先程までの楽しそうな笑みは消え、リアムの機嫌が一瞬で悪くなった。

「何か用?忙しいんだけど」


扉を開けてリアムが返事をした。あまりにも不機嫌な返しに、ビビっているようで辿々しい声が聞こえてきた。

「リアム様…ミア王女様がいらっしゃっています」


「ミア?ーーあの知性のかけらもないじゃじゃ馬が?」


「は…はい。突然いらっしゃって…下の応接室にお通ししております」


「ーーちっ!王女のくせに連絡もできないなんて本当に笑える」


エリーゼの掛けた上着を乱雑に外し、服を手に取る。固まっているエリーゼにリアムが冷たく言い放つ。

「命拾いしたね。運だけはいいなんて。
今回は見逃してやるけど、次は容赦しないから。

覚えてなよ」

ギロっと震えているエリーゼを睨みつけた。思わず伝言を言いに来た使用人もビクッと首をすぼめるほどであった。

怯えている2人を見て、すぐにリアムがふい、と身を翻す。

「ーー着替える。

さっさとどっかいってくれない?」


エリーゼはただ涙を流していた。伝言を言いに来た使用人が慌ててエリーゼを立たせる。

「し…失礼しました…っ!」


と、急いでドアを閉めた。
泣いているエリーゼを落ち着かせようと従業員用の部屋へ行く。


「どうしたんだ?!エリーゼ」

エリーゼと使用人が部屋へ入ると、アッシュの髪の男が駆け寄ってきた。

「まさか、あいつに何かされたのか?!」

使用人がその言葉を慌てて注意する。

「おい!ばか!あの方に聞こえたらどうする!」


「聞こえても全く構わないね!最初から俺はあいつが嫌いなんだ。知ってるだろ、コネリー」

コネリーと呼ばれた使用人が冷や汗を拭う。そして、ため息をついた。

「そうだったな。アイザック、お前はバカだった。

ーーエリーゼは多分リアム様に紅茶を溢したんだろう。彼の服が汚れてた。
しかし、寿命が縮むかと思ったよ。相変わらず、気迫がすごい」


「私が悪かったの…」

ようやく落ち着いたのか、エリーゼが力なく微笑んだ。

「君は悪くない。悪いのは全てあの調子に乗ったドクズのーー」


「わわ!!お前もうだまれ!」

慌ててコネリーが手でアイザックの口を押さえ、あたりを急いで見渡す。そして、ため息をつきながらエリーゼに言う。

「ところで、なぜそんな事をされてまで君はやめないの?リアム様が怖くないの?」


「そうだ!辞めちまえばいいんだ!こんなとこ!」


「静かにしーーー」
  

「辞めないわ。最後まで使えるって決めてるの」

コネリーがアイザックの口を抑えようとしてるときに、真剣な表情でエリーゼがいう。すぐにアイザックがコネリーの手を払い、口を開いた。

「それはなんで?」


「昔、路頭に迷っている私を拾ってくれた恩があるの。だからーー」


「それでも!恩よりもあいつにやられた数の方が多いじゃないか!考え直せ」

というと、他の使用人が入ってきた。
アイザックの名前を呼ぶ。突然のミア王女の登場に混乱しているようだった。

「くっ!ーー早めに戻るから、みててくれ、コネリー」

アイザックが部屋を出ていくと、コネリーとエリーゼのみが部屋に残る。


突然、コネリーがポツリと言った。
 

「そんなに、離れられないほどリアム様が好きなの?」

ハッとするエリーゼ。驚いたようにコネリーの顔を見た。


「あのバカは騙せても僕は騙せないよ。リアム様と一緒にいる時の君の表情は恐れているけど、いつも優しい顔だから」


「…気づいてたの…」

エリーゼが静かに下を向いた。その様子に耐えられずコネリーが話す。

「言っておく。いくら君がリアム様を思ってもあの方が君を見ることは一生ないと思ったほうがいい。表では、優しくても本心は身分が下の者を極端に毛嫌いしているからね」


「…知ってるわ」


「それに、君が以前不法侵入者を庇った時もあの方は君をどうしようとした?ライト様が止められてなかったら今ここにいなかったかもしれない。それほどまでに君はあの方の眼中にもないんだよ。」


「……ええ」


なんとも言わないエリーゼに意を決したようにコネリーが言った。

「はっきり言う。あの方は化け物だ。心も氷のように冷たい。でも、今や世界的に熱狂的な人気がでてる。
だから今後、他の令嬢と交際するかもしれない。そんな時に君はそばで笑っていられるの?これから惨めな思いしかしなくなるんだよ?

もうこの際いっそ諦めた方がーーー」


「それ以上言わないで!!」

突然のエリーゼの大声にコネリーはかけているメガネがずれるほど驚いた。

「私だってバカじゃないもの!自分が不釣り合いなことぐらいわかってるわ!あの方の眼中にもないことも!

ーーでも!!!」


エリーゼの瞳が大きく揺れる。葛藤しているのがひしひしと伝わってきた。

「でも…っ、諦め切れないの!何度も何度も諦めようとしたわ!でも、ダメだったっ!
何をしてても、必ずリアム様の顔が浮かぶの…っ

たしかに、冷酷だと思うことはあるわ!でも根は優しい人なの!

離れられるはずなんてないじゃない…っ
だってこんなにーーーっ!」


想っているんだもの…っ


最後まで言う前に涙で視界がぼやけてくる。声がうわずり、思うように話せなかった。コネリーが心配してこちらへ寄ってきたのがわかったが、それに気にかける余裕がないほど嗚咽でいっぱいであった。


その様子を見てコネリーは思う。

普段は冷静なエリーゼがこんなにも…。
本当に好きだからこそこんなに苦しんでるんだ。

あの冷酷な極悪人のことですら優しいって言うなんて、たまげたけどよほど愛してるんだね
でも今回ばかりは相手が悪いよ

今リアム様はイギリス王室までも狙っている。今いらっしゃっているミア王女もリアム様にぞっこんなんだ。だからこうして連絡も忘れて会いにきている。

どう考えたって、王室の王女に一介のメイドの君が敵うわけがないじゃないか。
あのドクズは、身分と地位にしか興味ないんだから


ーーそれに

君もリアム様と同じように周りに気づいていない。

本当に板挟みの僕は苦労するよ。
アイザックの熱愛ぶりに気づかないエリーゼも余程だけどね


仕方ない。
エリーゼはこんな状態だし、アイザックはアイザックだし。

僕が陰で支えないとーー



くい、とメガネを指で上げるコネリー。



はぁ。僕って本当に優しいな

ーーなのに何でモテないんだろ



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