悪女”と呼ばれた妹は、失踪した聖女の姉の代わりに敵国王子を婿に迎える

冬田シロクマ 

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根に持つ偽王子、逃げようとする第二王女

「まだ残ってますよ」

掴まれた強い手に、これは偽王子だ……と実感する。

腕は離してくれそうもない……

使用人のような、薄い微笑を浮かべる偽王子。
ガッチリ掴まれている自分の手を見る。
逃げようとしていたわたし。
心はもう、廊下を一目散に走っていた。

恐怖からか顔が青くなっている第二王女。

「いら…ない」

思ったより怖がっているみたいだ。
声が震えている。
反対に、感情のなさそうな瞳を浮かべている偽王子。
優しく諭す。

「先ほどはお気に召していたようですけど……
もしかして、私が作ったと知って気分を害されましたか?」

丁寧な口調。
偽王子はわたしに、自分で作った。とまで言い、食べ物になにか混ざっていることをわたしに匂わせた。

なのにこの男は、わたしが自分の意思でそれを口にするのを望んでいる。

悪趣味だ。

そう文字が頭に浮かぶ。

殺されるか…眠り薬か………

フレンチトーストを遠目に見下ろす。

それか、わたしが怯えているのを楽しむ演出で、なにも入っていないこともこの男ならありえる。

「……」

付き合ってられない。
早く……部屋に

「あ、あとで食べる…」

視線を泳がせ言うわたし。
手を引き剥がそうとし、ガタッと音をさせた。
全然腕を離してくれない。

「……」

沈黙が、怖い。
それでもわたしはゆっくり腕を引き剥がそうとする━━━━━

「わたしは自分の部屋に戻る━━━ゔっ」

ガタンッ

椅子を蹴られ、それが足に当たった。
反動でわたしは座る。
一斉に、というか食べさせあっている皇太子と愛人がこっちを向く。
顔を下げているが、メイドたちの意識も一斉にこっちを向いたのがわかった。

「いい加減にしろ!なんなんだ?食事中に!」

皇太子の声。
思ったより幼い声だった。

「すみせん。
第二王女さまが、フレンチトーストに蜂蜜が少ないと癇癪を起こしたもので……」
「はあ!?」

わたしは偽王子をバッ!と見上げる。
睨みつけた。

「やはりワガママだな……」 

ため息混じりに言う、髭面の幼い皇太子。
わたしは苛つきながら、釈然としない。

「私が第二王女さまの面倒を見ときますね」

「いや…あっ…」と戸惑っている第二王女を無視して続ける。
にこやかに、皇太子に向かってお辞儀をする偽王子。
従順な使用人ぶる偽王子に、ここですべてバラしたくなった。
だが、多分ここでわたしが喚いたところで誰も信じてくれないだろう。
わたしの狂言と思われる可能性すらあった。

「ああ…」

そう返事をし、愛人を連れ立って席を立つ皇太子。
愛人にされた一瞥は、微かに見下された感じがした。
すべてにムカつく。

「それで……残すおつもりですか?」

皇太子たちがいなくなり、ガラッと砕けた雰囲気になる偽王子。
ピエロのようなにっこり笑顔で、わたしはゾッとした。
助けを求めるように周りを見渡すも、使用人たちは顔を下げ、そのまま。
それで、この者たちは偽王子の従者だということがわかった。

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