悪女”と呼ばれた妹は、失踪した聖女の姉の代わりに敵国王子を婿に迎える

冬田シロクマ 

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29 血判

惹き込まれてしまいそうな顔と話し方。
つい魅了されてしまう自分を、必死で引き留める。

「財産なんてものより、きみがずっと、ここに居てくれたらいいな」

思わず落ちそうになった。

「…で?」

自分の感情の揺れを悟られないよう、短く話す。

「ここに名前を書いてほしい。
そうしたら、きみの嫌がることはなにひとつしないって誓うよ」

婚姻届書の上に、青い羽ペンを置かれる。

「そもそもわたしたちは結婚しているのに,この国でも結婚する必要が?
わたしの国よりも、制約が多いの?」

渡された紙をくまなく見る。
大したことは書かれてない。
だが……この国は、わたしの国より男性優位だ。
なにか従わせようとか……
でも………

「………わたしの嫌がることは、なんであろうとしないのよね?」

第二王女の瞳に、輝きを取り戻す。
王子はその様子を冷めた瞳で見ていた。
ニコッと笑う。

「なにを望んでるんですか?」
「できれば……姉を殺さないでほしい」

内心、面倒くさいなぁと思うも、表情かおに出さないように努力する。

「…あとは?」
「あなたと…したくない。その…わかるわよね?」

偽王子は「へぇ」と笑う。

「あの男たちの中に、お気に入りでも見つけた?」

魅惑的に言う偽王子。
若干バカにしているようにも見えるが━━
これは、無意識にやってることなのだろうか?

「いいや、そうじゃなくて……」

そんなつもりなかった。
だが、ああいう男たちはとても便利で……
まったく使えないというのは不便だ。
お金さえ出せば,どんな口裏も合わせてくれるし…

「王女?」

怒っている声。
優しい雰囲気なのが余計に怖かった。

「それは………」
「あの男らを呼ぶくらいなら、ぼくとして?」

非常に魅力的で、唾を飲まないように我慢した。

「ええと……」
「どっちかだよ。
ぼくが夫だってこと、わかってますよね?」

コクコクと頷く第二王女。
急に恐怖がぶり返す。
偽王子の表情や雰囲気が、元に戻ってきていた。

「取引完了でいいですか?」
「ええ」

第二王女は、名前を書いてる途中で、止まる。
王子の顔を見上げた。

「約束を破るのはなしよ」
「はい、わかってますよ。
その代わり逃げないでください。
夫婦なんですから」

最後まで書く。
すると、指を数ミリ剣で切られた。

「あ」

シャキッという音。
手を掴まれ,指を紙に押される。

「なんで…」

驚きを隠せない王女。
王子はその視線を気にした風もなく、自分の指も剣で切る。

「血判がある方が、契約書の効力が増すんです」
……

少し経って言われた。

「このくらい舐めても治ると思うけど、まだ痛いなら手当てしますよ?」
「………お願い」

嫌だったが、救急箱の場所さえわからない。

「こわがらないでほしい。
それは本意じゃない」
「じゃあ、なんで急に指を切ったの?」

責めるような口調。
明らかに怒っていた。

「嫌がると思って」

平然と言う偽王子の顔を叩いた。

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