悪女”と呼ばれた妹は、失踪した聖女の姉の代わりに敵国王子を婿に迎える

冬田シロクマ 

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暴君か英雄か

よくわかってるなぁ,と思った。
顔には出さないが,苛立ちがつのる。

ほんとうに,第二王女との絆があるのか…はたまた一方的に第二王女が騙されているだけなのか……
現女王の冷たい表情を見ると、後者の方が近い気がした。

「ほんとうはね,私…戦争があまり好きではないの」

まるで,少し怖がっているように言う現女王に,冷ややかな視線を送る。
「へぇ」と適当に相槌を打った。

「もしあなたの予想通り,他の国と協定を結んだとしても,あなたの国に攻め込む気はない。
私が戦争をするのは,自分に火の粉が降り注ぎそうなときだけ。
母とのときも━━━」

現女王は一瞬苦しそうに一息ひといき置く。
そして言った。

「ほんとうはしたくなかった。
だけど,ほっといたら殺されるから━━━先手を打った」

淡々と言う。
まるで自分のことじゃないように。
いつもは余裕そうに笑うその顔も,このときは生気せいきがなかった。

「だからあなたの懸念けねんしていることは絶対に起きない。


とりなしたようにほほえむ現女王。
偽王子は,よくわかってるなぁと感心する。
気づかれないよう,表情を変えないようにした。
……

そして…重い口を開く偽王子。
聞くか迷ったのは,曖昧にしといた方がいいこともあると思ったからだ。
だが……知っていた方が,現女王のひととなりが見える。

「元女王は…ご存命ですか?」
「え?」

半笑いだ。
嫌な予感が走った。

「殺したわよ。当たり前でしょう」

声にもならなかった。
ほほえむ現女王に,ぼくは絶句する。

嘘に,聞こえなかったからだ。

まさか━━━━ほんとうに?

「なに驚いてるの?
あなたなら予想してたはずよ」

これで確信した。
この女は,誰だって殺せる。

「毒親だろうと……親を殺すとおかしくなってしまう権力者は多い」
「おかしくならない権力者もいたわ」
「それは父親だろ?
母を殺して…英雄でい続ける人を,ぼくは歴史上でひとりも知らない」
「必要なことだったわ」
「島流しや,禁足でもよかった」
「甘っちょろいこというのね」

話をダンッと切る。

「いくらかかると思ってるの。
それならそのお金を,民に回した方がずっといい」
「一理あるが…先人の失敗からも学ぶべきだ」 

「はぁ」とため息をつく現女王。
「考え方の相違ね」と軽く言う。

現女王を見ながら,ぼくは内心ヤバいんじゃないかと思った。
いい統治者になると思ったが……暴君になる可能性を大いに秘めている。
思い通りにならない人間を,こういう人間はどうするか……
とことんかしこければいいんだが。
 
魂が抜けた顔で,現女王を見ている偽王子。
偽王子の瞳は,黒く,読めない。

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