悪女”と呼ばれた妹は、失踪した聖女の姉の代わりに敵国王子を婿に迎える

冬田シロクマ 

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キスのあと

拒否らなかった。
わたし━━━━━━━
ゆっくり顔が近づき,目が合った。
美しく恐ろしいに引き込まれるように,わたしもキスをしやすく顔を上げた。
操られていたというか……魅了されていたというか………………

あとでいくら自分に言い訳しても,あのときわたしは,自分からも口をつけた。

忘れられない。
顎を上げた瞬間,偽王子の口角が上がった。
無意識か,片手がわたしの首を持つようにされる。
そして味わうように,偽王子にまた口を付けられた。

「んん」

第二王女の片方の口角の下に,ヨダレが垂れてくる。
わたしはこのとき,それに気づかないくらい夢中で…

わたしの方から,ゆっくり口を離した。
慣れてなくて,苦しくなったからだ。
気付き,王子は目を開けた。
離したあと,王子に唾液が垂れた方の口角と顎を指で拭かれた。
そのとき,両方の手で顔を持たれていたが,わたしはずっと王子の顔を見ていた。
征服欲に満ちた瞳だった━━
それに上から晒されていた。
そんな瞳,わたしは見たことがなかったので,思わずジィッと見てしまう。

「…どうしたの?」

雰囲気が柔らかくなった。
第二王女はそのあと,照れ隠しのように,自分でも口元を拭く。

「気分は,どうですか?」
「え」  

半分正気に戻ったわたし。
急な質問に戸惑う。
わたしは,なんて答えればいいかわからなかった。
頬についた髪の毛も取るようにして,王子に触れられる。

「楽しかったですか?」

優しい子どものようなみに,心臓を撃ち抜かれる。

「別に…」

言いながら,顔が赤くなっているのを自覚した。
恥ずかしくなる。

「…もっとしてみる?」

呑み込まれそうだった。

そう言うと,猫のように目を見開いて,固まっている第二王女。
ぼくはその様子に,思わず笑いそうになった。

「これ以上進んだら━━━」
「進んだら?」

甘く優しい声。
わたしは,これ以上会話を続ける自信がなかった。
甘ったるさで肺が苦しくなる。

「しないわ……
そういう取り引きだったはず」

声のトーンを下げた。
さっきのことを,なかったことにするかのように,目も合わせず突き放す第二王女。

「はい。嫌がることはなにひとつしません」

いつもよりずっと丁寧な口調だ。
イラッとしたのだろう。
それがなんとなくわかった。

恐る恐る見る。
ニコッとほほえまれる。
作り笑顔を貼り付けた王子に,内心ビクつく。

「心配しないでください。
キスや身体の関係…どっちも王女さまが嫌がることは,これから通りしませんから」

優しくほほえまれるも,わたしは固まる。
次の嫌味が予想できたからだろう。

「キスをぼくと楽しみましたね。王女さま?」

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