攻めに乞う

冬田シロクマ 

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芋づる式に思い出す

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モワモワと高く煙が上がった。
下一面は灰色だった。
独特な臭いに顔を歪める。
片手で顔半分を覆い、自分を正気に戻した。

「………う」

涙が、一粒落ちた。
目元を隠すように拭う。

すべてが、バカバカしくなった
……

客引きしている女たち。
目を閉じる。
拙い日本語が聞こえて来、耳を抑えた。
怒りが湧き起こり、心を休める。

あの中に、父さんもいるだろうか?

頭の中に上の文章が浮かんだ。
ポツポツとある街灯、下を強く見る。
いたのは50代くらいの中年の男だった。
知らない男。

父さんがいたら…なんだと言うんだ?

自分に問いかける。

どうするんだ??
胸ぐらを掴んで、どれだけ母さんがお前のせいで苦労したかと責めるのか?

おれは泣き喚いて、みっともないことになるだろう。
そしてアイツは言うんだ。

「『飽きたからって』」

ブワッと頭の血が逆流した。
ピクピクと目元が軽く痙攣を起こす。
涙がぬるい…

変わらない。アイツは、一生…

バカバカしくなり、さむしくなった。
おれは、わざわざマニラに来てまでなにをしたいんだ?
落ちぶれたアイツを見たいと……

治安が悪いとわかっていても、ここから離れられなくなった。
離れたくない、と言っている。
思考がぐるぐると気持ち悪いほどに回った。
汚い濁流に呑み込まれているようだった。

嫌だ…なんで?

喉が苦しく込み上げる。

ぼくはなんにも悪くないのに 

そう思った。それなのに母さんと共に捨てられた。

頭が真っ白になった。
捨てられたという事実だけが、ぼくの中に強く残る。

自分が無価値のような気分になった。

「なに…してるの?」

落ち着いた声が響いた。 
声の主が10代後半に見える…綺麗な少年だったことにも驚いた。
……

後悔は一気に昇って来る。

なんでおれは、夜中外に出たんだろうか

呆然と思い、少年を見る。
ニコニコと愛想よく笑っている…
綺麗だな、と言う感想と胡散臭い… という気持ちが一気に来た。
おれの顔は引き攣って歪んでいるだろう。
馬鹿にしているようにも見えただろうか?

「お金はない」

静かに答える。

「やだな、僕がお金に困っているように見える?」

ニッコリ目を細め、ほほえむ。
やっぱり綺麗だと思った。
少年のような青年?ギリ10代だろうか?

ぼくはその少年から目を離さないまま、一歩ジリッ…と下がる。
そっぽを一瞬で向き、その場からいなくなろうとした。
そうすると、だ。

殺されるかと思った

ゲホゲホとむせる。

「ラウンジ…?」

涙目で恨みがましく睨みつけながら起き上がる。

「うん。正確には、良い場所知ってるから一緒に来ないかなぁと思って。
寂しいんでしょ。お兄さん」

笑顔で言う少年に、ぼくを逃がすつもりはないと、直感でわかった。
自分より歳下だろうに強い圧を感じた。
遠く、排気ガスがたくさん出ている方を見てその綺麗な少年は言う。

「2人っきりになりたいな。
ここもいいけど、息苦しいし、なにより騒がしすぎる」  

高い女の声が下からした。
ニコッと笑うその少年。

「オ、…オーケー⤴︎?」

このときも、ぼくは逃げる気満々だった。

「でしょ?嫌なことは忘れさせてあげるから」

急に父親の女のことを思い出した。
ブワッと体内の血が跳ね上がり、咄嗟に身を引く。 
怒りに満ちた目でその少年を見ていた。
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