名無しの勇者は隠しスキルで最強を目指す

佐竹アキノリ

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第二章

9 名無しの旅立ち

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 王都を離れ、南へと向かう街道を走っている少年が一人。
 彼は疲れも見せずにずっと走り続けていた。

 街道には馬車も通っているが、それよりも自力で駆け抜けたほうが時間はかからない。なにより、彼には馬車を利用するほどお金がなかった。

「見たことのない土地は、なんとはなしに楽しいな」

 アルトゥスは呟き、辺りを眺める。ここまで遠出したことは一度もない。遠征自体はあったが、場所は南ではないのだ。

 勇者たちと離れてやってきた彼の格好は、簡素な鎧の上に外套を纏っただけ。どこをどう見ても、流れの傭兵や旅人である。

 だから、自然と旅を楽しむような心持ちになってしまうが、呑気にしてもいられない。彼はほかの勇者たちに追いつくために、わざわざ単身、王都を飛び出してきたのだから。

 そうして進んでいく彼はやがて、向こうに馬車を見つけた。

 しかもゴブリンに襲われており、苦戦しているようだ。商人と思しき者が一人と、護衛が三人いるが、どうにもへっぴり腰だ。

「見過ごすわけにもいかないな」

 アルトゥスはさらに足に力を込めて駆け出すと、距離を一気に詰めていく。ギャアギャアと喚くゴブリンの声が次第に聞こえるようになってきた。

 商人は震えながら声を上げる。

「お前たち、ゴブリンくらい、さっさと仕留めてしまえ!」
「うるせえ! 俺たちには、俺たちのやり方があるんだ! 口出しすんな!」

 剣を持った男たちは、何体ものゴブリンたちが入れ変わりながら次々と剣で切りかかってくると、防戦一方になってくる。

 そのうちの一人が切られると、陣形が崩れてゴブリンが一斉に襲いかかり始めた。

「ひ、ひぃ! 来るな!」

 怯える商人の声を聞きながら、アルトゥスは彼らの戦いに割り込む。
 亜空間収納から剣を取り出して、まだ接近に気づいていないゴブリンの首を刎ねた。

「『俺たちのやり方』、見せてもらえるかな?」
「うぐっ……」

 アルトゥスはただ興味があって尋ねた。彼は勇者、あるいは勇者候補に指導するような人物の剣しか知らない。

 旅人や傭兵がどんなものなのか、純粋に興味があったのだ。
 けれど、彼らは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 どういうことかと、アルトゥスが考えている間にも、ゴブリンは攻めてきていた。

「グギャギャ!」

 放たれた石を回避し、背後から襲ってきた小鬼に視線を向ける。相手との距離が近くなると、ほんの少し体を引くことによって剣を回避し、たたらを踏んだ相手の足を払う。

 浮いたところに剣の一振り。
 あっさりと、ゴブリンは絶息した。

「いいぞ! やってくれ! 倒してくれ!」
「……全部?」
「礼はする! そいつらじゃ当てにならない!」
「それなら、頑張ろうかな」

 アルトゥスは剣を構えると、敵を見据える。ゴブリンは数匹。

(ハレックなら、一瞬で片づけたんだろうな)

 雑魚を相手にするなら、彼の祝福は非常に強力だ。気づかれることもなく全滅させることもできただろう。

 けれど、アルトゥスには彼なりのやり方がある。

 ゴブリンへ近づくと石が放たれるが、狙いが雑で当たりはしない。

 そして近距離になると、相手の剣をかいくぐり一振りで切り倒す。敵が迫ってくれば切り返して喉をかき切り、囲まれると強引に突破する。

 あっという間に小鬼は全滅していた。

「す、すげえ……」

 護衛の男たちが感嘆の声を上げる。
 アルトゥスはそんな姿を見て、ちょっぴり失望していた。

(……ハレックは、俺にこんなやつらと一緒になれと言いたかったのか)

 これと比べれば、祝福がなくとも勇者の天職があるだけで、力の差は歴然だ。

 さっき言っていた、『俺たちのやり方』というのも、根拠のない「なにか」なんだろう。昔のアルトゥスが信じていたような、実態のない空虚なものだ。自分が特別である、と思うための拠り所と言えよう。

 ハレックにそこまで見下されていたのか、と彼が少しショックを受けていると、商人が駆け寄ってくる。

「お助けいただき、ありがとうございます」
「いえいえ」
「ご高名な方とお見受けしました。どうか、お名前をお聞かせくださいませんか?」
「全然有名じゃないけど……俺はアルトゥスです」
「アルトゥス様でございますか」

 商人は必死に考えたようだが、特に思い当たるところもなかったようだ。
 アルトゥスはしばし考えていたが、やがて率直に尋ねることにした。

「ところで、お礼は――」
「そうでした。その話もございますし、もしよろしければ、近くの都市までご同行いただけませんか?」

 商人は彼を馬車に促す。
 どうやら、護衛が頼りないから、彼についてきてほしいようだ。

 アルトゥスは面倒だな、と思ったのだが、商人が「もちろん、護衛の報酬はお支払いいたします」と金額を示すと飛びついた。

 そうして馬車とともに街道を行くことになったアルトゥスは、商人の話を聞くことになる。

「……最近はここらでゴブリンが巣を作っておりまして、こうして街道にも出るようになってしまいました」

 街道を進む者たちを殺し、あるいは捕らえて、持ち帰ってしまうのだとか。生きて帰った者はいないそうだ。

「巣といいますとネストですか?」
「いえ! そのような大規模なものではなく、十数体の規模ですね。しかし、百を超えるゴブリンの群れもできてしまって、そちらの大規模な討伐が行われるらしく、護衛を引き受けてくれる者がおりません」

 そちらのほうが報酬はいいため、皆流れていってしまった、とのこと。
 だから、こんなへっぽこな護衛を雇うことになったのだとか。

 アルトゥスは少し、ほっとしていた。皆がこの男たちと一緒ではないことに。それから、収入の見込みができたことに。

(それにしても……油断していたな。まさか、旅にこんな金がかかるとは)

 勇者候補として生活していたときにはかからなかった支出が大きいのだ。

 宿代はかかるし、食費だって馬鹿にならない。王都を出て数日であるが、その間に経済的に危機感を抱き始めたのだ。

 これも、旅に出たから得られた経験である。
 こちらの近況を聞きながらしばらく進んでいくと、小さな都市が見えてきた。人口は千人かそこらだろう。

「あれが都市クォロアでございます」

 交易の拠点となっているそうだが、王都に住んでいた彼からすれば、なかなか信じられないことだった。

 が、中に入ってみると理由がわかる。

 家の面積に比べて、人が多いのだ。要するに、定住している人は多くないが、あちこちから人が来ているということだろう。

 アルトゥスはそこで商人に頭を下げた。

「では、これで失礼します」
「またなにかございます際は、どうぞごひいきに」

 彼らと別れると、一人で街中を歩き始める。
 自由気ままな旅ではあるが、目的がないわけじゃない。

 アルトゥスは店先に展示されている魔石を見ると、金額を確認する。レベル1の魔石でさえ、手が出せそうにない。これまでの都市でも見てきたが、どこも相場は似たようなものだ。

 そうして見ていたのだが――。

「あれ、この魔石だけ安いな」

 アルトゥスが目をつけたのは、「ショットLv1」の魔石だ。ものを飛ばすスキルなのだが、ほかと比べると3割くらい値段が低い。

「お目が高い。こちらは、この都市クォロアの特産物です」

 店主がやってきて説明を始める。

「そうなんですか」
「ええ。この近くではよく取れましてね。ゴブリンはご覧になりましたか?」
「そういえば……石を飛ばしてきましたね」
「ほとんどのゴブリンがそのスキルを持っております。あやつらはスキル「岩石」と「ショット」を組み合わせて、石を飛ばしてくる……と言われており、魔石もその二つが落としやすく、お買い得ですよ」

 こうした地域差があるため、魔石を効率よく集めるには、あちこちを旅したほうがいいのだ。

 自分で集めるという方法もあるが、販売されている魔石はだいたい、何人もの人が魔物を倒してかき集めた欠片を一つにまとめたものだから、一人でやろうとすればどれほど時間がかかるかわからない。

(……魔物は複数のスキルを合わせて使えるんだったっけ)

 人でできる者はいないようだが、魔物はそれらを同時に使うことができる。

 例えば人では「岩石」の魔法で石を生み出し、「ショット」で放つことになるが、ゴブリンは石をいきなり放つことができる。

 人には祝福があるため、スキルによる不利は特に感じないそうだが、アルトゥスはその感覚がわからなかった。

 ともかく、安いのであれば買っておきたいが……。

「今、手持ちの金が少なくてですね」
「では、少しおまけいたしましょう。これくらいでいかがですか?」

 値下げされた価格を提示されると、確かに安い。先ほど商人からもらったお礼もあり、買えなくもない。

 だが、これから旅をする資金も必要だ。
 彼は悩んで悩んで、

「お兄さんもなかなか、粘り強いですね。わかりました、あと少しだけ下げましょう」

 その一声に背を押されて、結局購入することにした。

「お買い上げ、ありがとうございます」

 アルトゥスは店を出るなり、魔石に魔力を込める。魔石は砕け散って光となり、彼の体に絡みつく。

 流れ込む力を感じながら、彼はスキルスロットに意識を向ける。

 ――「亜空間収納Lv1」「浄化v1」「スラッシュLv3」「ショットLv1」 残りスロット96

 確かにスキルが追加されているのだが……。

(あれ、またスロットが減っていない?)

 それとも、スロットが増えているのか。
 彼は次に魔石を買ったときは、使用する前にスロットを確認しておこうと思うのだった。それで結果は判別する。

 そんなことを考えながら街中を歩いていると、商人から聞いていた大規模討伐に関する募集があった。

 傭兵の募集であり、基本となる報酬のほか、活躍に応じてボーナスが出るようだ。

 アルトゥスは亜空間収納を用いて、残金を確認。

(……やるしかない)

 魔物を倒していれば、なにか掴めることもあるかもしれない。討伐の日時は明日だ。長く待つこともない。

「よし、やろう」

 アルトゥスは早速、依頼主のところに駆け込み、申し込みを行うのだった。
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