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第5章

第8話

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第8話

「それでミーツさんたちは何処に行こうとしてるんですか?何処か目的地はあるんですか?」

 シロは付いてくると言い出したのに、何処に向かうのか知らずに来てそう質問してきた。

「あー、言ってなかったっけ?行き先はヤマトだよ」
「えーー!ヤマトなんですか!ヤマトってとても大きな国なんですよね?僕も人伝いで聞いただけだから、どんな所かよく知らないんですけど、なんか夢のような国だと聞いたことあります」

 彼は目的地であるヤマトの名は聞いたことあるようで、目的地がヤマトであることを知って驚いた。 しかし、ヤマトの行き方については、シーバスが知っているのか、知っている人がいるのか彼だけが頼りで、これからはシーバスの道案内なしでは、とてもじゃないがどう行ったらいいか分からない状況だ。

「シーバス、これからどうしたらいい?
一度、野営した場所に戻るかい?」
「そうだな。こんな森の中じゃ方向が分からないし、戻った方が良さそうだ。
大きな街だと高額だが転移屋という店があるが、今の時期は利用できないかもしれないから、案内人がいる街に行こうと思う」

 俺はシーバスに相談すると、彼はとりあえずのところは、あの広場に戻ろうと言い出し、広場である方向に歩き出したが、俺は正直歩いて戻るなんて面倒だと思っていたため、瞬間転移でシーバス兄妹とシロを元の広場に転移させた。

「え?え?何で?ミーツさん、何やったんですか?さっきまで僕たちは森の中にいたのに」

 シロは混乱しているのか、辺りを見渡して質問してくるも、幻覚でも見てるのかと頰を抓ったりしだした。これからは一緒に行動を共にするわけだし、想像魔法については秘密のまま、瞬間転移だけ打ち明かした。

「えーー!おじさんって転移魔法使えたのぉ?」
「本当ですか?ミーツさん。確かに思い返したら、思い当たるところが幾つかありますけど」
「やっぱりな。ミーツさんは特別なスキルが何かあると俺は睨んでいたぜ。でも転移魔法だけじゃないんだよな?」
「うーん、スキルの話を聞いても僕にはピンと来ないけど、つまりはミーツさんが行きたいと思った場所だったら、好きなタイミングで瞬間的に移動できるってことですか?」

 俺が瞬間転移を使えると話した途端、アミアマは驚き、まだ信じられないといった感じだが、シーバスはやっぱり何かあると睨んでいたと、いかにも分かってたぞと言わんばかりにドヤ顔で他のスキルも聞いてきたものの、シーバスにデコピンして秘密だと言い、無防備な状態にデコピンが入ったことでシーバスは白目になって気絶して倒れてしまった。

「ありゃ、少しは防御か避けるくらいはするかと思ったのに、綺麗に入っちゃったな」
「おじさん酷い!兄ちゃんが何したっていうんだよ」
「本当です。今のミーツさんの動きでは、まさかデコピンするとは思いませんよ!」
「ははは、ミーツさんあの時より更に強くなってるんですね。今ならジャイアントゴブリンさえもデコピン一発で倒せそうですね」
「ジャイアントゴブリンはあの国以外で戦ったことなんてないけど、確かに今ならデコピンで倒せるだろうね。でもそんな大物だったら俺の使い魔たちが黙ってないと思う」
「ミーツさん、使い魔って頭に乗ってるウサギのことですか?それに『使い魔たち』ってウサギ以外に何かいるんですか?」
「うん、そうだね。新しい仲間としてシロが加わったことだし、俺の使い魔たちを紹介するよ。
まず、頭に乗ってるのが、ウイングラビットのロップで、俺の胴体にへばりついているのが、スライムのアッシュだ。二匹とも結構強いから怒らせないようにね」
「確か、ウイングラビットって別名、幸運兎って呼ばれてますよね?ミーツさんってそんな魔獣も仲間にできたんですね。ところで、胸のスライムってミーツさんの胸辺りには、何も付いてないように見えますけど、見えないだけでそこにいるんですか?」

 シロにそう言われて腹回りや胸を触ってみたら、アッシュがいる感覚が無くて、周りを捜しながらアッシュ名を呼ぶと、森の方からアッシュの声が聴こえてきたものの、姿が見えないところ森の奥にいるようだ。

【あれー?戻れない、なんでー?】

 声のするアッシュが近くに帰ってきているようだが、アッシュ自身も戻れなくて困惑しているでアッシュの声に誘われるように、聴こえる方向の森に足を歩んで行ってみたら、広場と森の境目にいるアッシュが何かを捕まえている姿が目の前にいて、アッシュは紫色の毒々しいマダラ模様の木をズルズルと引きずっていた。

「アッシュ何やっているんだ。早く戻っておいでよ。お前を紹介しようとしていたところなんだよ」
【うん、でも主様に褒めてもらおうと思って、捕まえた魔物を連れてこようと思ったのに戻れないの】
「ミーツさんの使い魔がどうしたんだ?
って、うお!マダラトレントじゃねえか!」

 俺の様子がおかしいと思ったのか、意識を取り戻したシーバスが、皆んなを引き連れて近づいてきて、森の方に目を向けると聴いたことのない名前を言った。

「気絶から復活するの早いね。それでシーバス、マダラトレントって?
アッシュが捕まえたけど、戻れないって言っているんだけど、何故か知ってる?」

「この辺りにいる樹木の魔物で毒を持ってるんだけど、ミーツさんトレント知らないのか? それにこの広場には、害意のある人や魔物は入れない結界の魔道具が設置されているみたいなんだ。
だからミーツさんの使い魔が、マダラトレントを捕まえたのに戻れなくなったってのは、害意のある魔物だから戻れないってだけで、その魔物を捨てれば戻れるはずだ」

「へえ、そんな結界の魔道具が設置されているんだ。それならここに村を作ればいいのにね」

「そうなんだよ!でも村を作ろうとしたら、魔道具の効果が切れて魔物が押し寄せてくるらしいんだ。で、作るのを辞めると元に戻るらしいんだけど、その魔道具も何処にあるのかと、なんでそんなことになるのかがまだ分かってないんだ。
そのことと、この場所の特性を知らない冒険者は、いつも通り警戒して野営をしているけどな」

「その魔道具が何処にあるか知らないのに、何で魔道具があるって分かるんだい?」

「それはここを調査しようと、国の偉い人がヤマトからそういう分野に詳しい人を呼んで調査したところ、地中の何処かに魔道具が埋められているが、それがどの辺りにあるかまでは分からないけど、その特性についてを話していたらしいんだ」


 どうやって、何のために魔道具が埋められているとかを聞いても、シーバスは知らないだろうから、なるほどと相槌を打って地面に手を当てながら地中に大量のMPを放つようイメージする。
 そうしたらシーバスの言う通り、地中のとある地点で俺のMPが動いて吸収されていくのが分かった。掘り返して見てみようと、MPが動いた地点に移動したら、シーバスに肩を掴まれた。


「ミーツさん、もしかして掘り起こして見ようとでも思ってんじゃないか?」
「ありゃ、バレた?でもシーバスもどんな物か気になるだろ?」
「そりゃあ気にはなるけど、その調査員の話によれば下手に触ったりしたら暴走したり、壊れたりする可能性があるらしいから、止めた方がいい」
「そうなのかい?うーん、気になるけどそう言われれば仕方ないね。アッシュ、そこの魔物は捨てるか食べるかして戻っておいで」

 アッシュは、はーいといった返事とともに戻ってくると、俺の足元に来たところで改めてシロに紹介してあげた。

「スライムってなんか柔らかそうでいいですね。
よろしくね。アッシュちゃんにロップちゃん」

 シロが使い魔たちに触れようと手を差し出したら、ロップは前足で払い除けた。
 アッシュは触らせてあげているところ、ロップはまだシロのこと警戒しているようだ。

「はは、なんか嫌われちゃってますね」
「大丈夫だよ。ロップはいつもこんな感じだから、まだ会ったばかりで警戒しているだけだと思う。シロと行動を共にして信用できれば、そのうち触れると思うよ」
「そうですよね。だったら僕、ロップちゃんに信用してもらえるように頑張ります!」

 シロとの話が一区切りついた頃、広場に一台の馬車が入り込んで一人の男が降りて近付いてきた。

「シーバス!久しぶりだな!お前何やったんだよ」
「おお、お前か!久しぶりだ。何ってなにかあったのか?」
「ああ、俺たちはガーダンのアニキに頼まれて、この先にある関所のところにいる、人たちを一人前の冒険者にさせるために来たんだけどよ。
ここに来る途中で、アニキのパーティの奴らが珍しくアニキと離れて待ち伏せしてたんだよ。
で、誰を待ち伏せしてるか聞いたら、お前だっていうじゃねえかよ。
絶対に秘密にして言うなと言われたけど、俺はあいつらの事は未だに信用してねえからよ。秘密にする必要がねえんだよな。何やったかは知らねえけど、気を付けろよ?あ、ちなみにアニキは信頼してるぜ」


 男はシーバスに忠告したのち、馬車に戻って関所の街の方に向かって行った。ガーダンは俺との約束を守ってくれたみたいで安心したものの、この先の道で待ち伏せとは、ガーダンと別行動を取ってまでするとは、余程俺のことが気に食わないようだ。

「シーバス、待ち伏せの対象は俺だからシーバスたちとはここで別れようと思う」

 俺はシーバスにそう言い、シーバスから離れて道を歩き出したが、シーバスはふざけるな!と言いながら肩を掴んで頰を殴ってきた。

「ミーツさん、俺はあんたと一緒にガーダンと敵対する意思をあの場で見せた時点で、俺もあんたと一緒の立場なんだよ!
だから今更あんたと別れたところで、あいつらが俺への敵対意識は変わらないんだよ!」
「そ、そうなのか。それは済まない。
だったらどうする?待ち伏せしてる道は避けて、別の道を通るか?」
「いや、途中から森を抜けて先を行こうと思う。
ミーツさんの使い魔たちがいれば、魔物だらけの森でも難なく進めるだろうからな」
「そうか、分かった。それなら俺はシーバスの指示に従って進む。道中で魔物が現れたら戦闘は使い魔たちもだけど、俺も戦って守ってやるよ」
「ミーツさん、前々から思ってたけど、俺たちのこと弱いと思ってないか?」
「うん。思ってるよ。現に普通に弱いしね。
殴られた頰は痛むけど、戦闘不能になるほどじゃないしね」
「まあまあ、兄ちゃんが弱いのは仕方ないよ。
兄ちゃんになら距離さえ詰められなきゃ、あたし達でも勝てるしね」
「もうアマ!本当のこと言ったらダメだよ!
兄様がいなかったら、接近戦に弱い私たちは簡単に殺されます。だから落ち込まないで下さい」


 俺の言葉にショックを受けたのか、シーバスは膝を付いて落ち込んでしまった。
 だが、妹たちに肩に手を置かれて励まされているものの、励みの言葉が励みになっていなくて余計に落ち込む案件になっているのに、流石にフォローしてやろうという気持ちになった。

「その、な。人には役割というものがあると思うんだよ。接近戦が向いてない妹たちを守る兄シーバス、その兄を守るための後方支援の妹たちのアマとアミ、そのどちらもいなかったら、パーティとして成り立たないと思うんだ。だから、シーバスが弱くても前衛として今までやっていたんだからいいじゃないか!
それに弱いと自覚があるなら、レベルを上げて強くなればいいだけだしね」

「ミーツさん良いこと言ったつもりでしょうけど、あまり響いてないですよ。ほら、シーバスさんが更に落ち込んでるじゃないですか」

 シロの言う通り、シーバスは更に落ち込んで四つん這いになってしまったが、アマとアミには俺の言葉が心に響いたみたいで、更に落ち込んでるシーバスに今までやってきたのだから、これまで通りにやって行こうと言って励ましていくこと数分、ようやく我を取り戻したシーバスは、待ち伏せしている奴らは蹴散らしてやると意気込んで先頭を切って歩き出した。
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