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第5章

第18話

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第18話

「おじさん!何したの!」
「え、ミーツさんが何かしたんですか?
だったら何したんですか?」

 あれから意識を取り戻した彼女らに、何をしたか問い詰められて先程、殺気を使った経緯を説明したあと、正座をさせられて叱られてしまった。

「いや、だから何度も言うけど悪かったって、新しい使い魔の脚を一本くれとか言われたから、ちょっとカッとなったんだって」

 とにかく謝って弁明をしようと口を出すも、それなら冷静にダメだって言えばよかったじゃない!とか、弁明すればするほど余計怒られてしまうため、仕舞いには黙っていることになった。


「でも、冷静に考えたら、そんな仲間思いのミーツさんは素敵です」
「ちょっと!もう、アミは甘いんだからね」
「でもアマ、ミーツさんは私たちが同じように脚を差し出せとか言われても怒ってくれると思うよ?」
「そりゃあ、あたし達は人間で仲間だから…」
「それだと使い魔のブルトも同じだよ。
ミーツさんの使い魔だけど私たちと同じ仲間だよ」
「それでも!あたしたちとは別じゃんか!」

 彼女らは俺のことを散々叱ったあと、姉妹喧嘩をしだしたことで仲裁をしようと、今にも取っ組み合いになりそうな彼女らの肩を押さえようと間に入ったら、タイミング悪く二人の胸に手を置いてしまった。

 それにより彼女らは叫び、叫び声を聴いたシーバスが現れ、再び彼女らと新たに兄であるシーバスからも叱られてしまったが、詫びとしてシーバス兄妹に風呂を入れてやることにして、それぞれに広めの岩で作った浴槽を想像魔法で作り、湯を張って岩壁を作って出入口には岩の引き戸を取り付けたところで、ようやく許して貰えることになって一安心した。

 鬼人たちも興味津々といった感じで遠巻きで、見つめていたものの、俺がいることで近寄ることが出来ない感じなため、鬼人の中に少数だが女の子の鬼人を風呂に入れてやろうと思い、シロヤマを使って女の子のみ入っていい事にしてやると、岩壁の中から鬼人の女の子のため息と、アマとアミにシロヤマたちのキャッキャとはしゃぐ声が聴こえ、遠巻きに見ていた男の鬼人がソワソワしだす。
 そんな声が薄壁一枚向こう側から聴こえてくるからか、俺が近くに居てもお構いなしで股間を押さえながら近寄りだしたことで、ヤスドルが一喝して仲間の鬼人たちはビクッと硬直したあと、散り散りに自分たちの穴倉に戻っていき、ヤスドルは俺に向かって一礼して自分の穴倉に戻って行った。

「おじさ~ん、今のな~に~?凄い声が聴こえたんだけど~」
「なんでもないよ。ただの思春期な男の子達が自分たちの仲間に怒られただけだから」

 壁の向こう側の彼女らは意味分からず、シロヤマに何か質問しているみたいだが、彼女だけは察しがついたみたいで、適当にあしらっているみたいだ。
 お風呂タイムも終わり、作った風呂は潰して跡形もなくしたあと、しばらくの間、暇になったため鬼人たちが谷底でどのような生活をしているのか観察していたら、数人で何処かに行って、残りの者たちはひたすら筋トレをしたり、座り込んで瞑想をしていたりしている。

 シロヤマが言う試練とはどのような事だろうと思いながらも、数人で行った先に付いて行ったら、谷底に落ちて死んでいる小物の魔物から肉を剥ぎ取っている姿があり、中には瀕死の魔物にトドメを刺していたりしている。此処に落ちてきた時にあった魔物の骨はこういうことかと納得し、肉を持ち帰ったあとは少しづつだが皆んなに分け合っている。
 そんな中、シロヤマは自分たちが持って来ていた食材を使って鬼人たちに振る舞っていた。


「さあ、明日はいよいよ試練なんだから、そんな質素な物食べてないで体力のつく物を食べさせてあげるよ」


 彼女は良かれと思って料理を振る舞っているが、ヤスドルが料理に近づく鬼人たちを止めた。


「シロヤマおばちゃん、気持ちはありがたいけど、毎回こういうことしてくれるならいいけど、できないなら余計なことをしないで欲しい。
偶々、試練の時にきたおばちゃんが俺たちだけに特別なことをして、このままでは大人の試練に合格できないと思う。本当なら、風呂とかいうのも入れたくなかった。そちらの化け物…いや、強い人が言うから仕方なく受け入れただけだから」


 ヤスドルは一瞬俺の方を見て化け物と言ったものの、すぐに目を逸らして強い人と言い直した。
 彼の言う試練とはどのような事だろうかとシロヤマに聞いたら、この巨大な谷底で一年間生き延びなければならないのだそうだ。
 そして、一年の間に食料がなくて死ぬこともザラにあるとのこと。試練の一年間が今日で終わり、明日には谷を脱け出してもいい事なのだが、抜け出すのも自分たちの力で崖を登って行かなければならないのだ。
 自力で谷を抜け出してようやく、一人前の大人として認められる。これを数年に一度の頻度で行われる。

 俺はこの話を聴いて、元の世界での『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』を思い出した。
 確か意味は獅子は生まれたばかりの子を深い谷に落として、這い上がってきた生命力の高い子供のみを育てるという言い伝えだったはずだ。

 しかし、それは本当に深い愛情を持つ相手にわざと試練を与えて成長させることや、成長させるべきである考えの意味があることから、鬼人族に元の世界でこういうことを教えた者か、転生者がいたのだろう。

 俺はシロヤマに『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』のことを説明も含めて話したら、何で俺がこのことを知っているのか問い詰められたものの、かなり昔から行われているらしく、彼女もいつから始まったかは知らないようだ。
 だからといって、鬼人のヤスドルに聞いても恐らく何も知らないだろうし、俺にシロヤマの仲介なしで近寄るのも嫌みたいだ。

 シロヤマと話していると、もう昼時くらいになった頃のようで、何もせずに谷底に居ても暇なため、鬼人たちの生活を見ていたら、筋トレをしている者がごく一部だけいて、他の者たちはただひたすらに瞑想している。
 明日のために体力を温存しているのかとも思ったが、どうやらこの谷底で暮すための一番の方法だと、シロヤマから聞いた。
 彼女の話では、一日に一度交代で食料となる魔物や、食べられる植物を見つけて皆んなと分けて合い、それが終わればただひたすら体力温存に心掛けるか、明日の分の食料を見つけに行くかのどちらかしかないようだ。

 崖を登るための筋トレなどは腹を空かせるだけで、特に意味がないのだそうだが、現在筋トレしている者たちは、暇潰し程度にやっているのだとか…。元々鬼人は何年も動かない者は別として、たかが一年くらい動かない程度では、筋肉は落ちないといった人間とは違う性質を持っているのだとか。

 ただ俺はそんな話を聴いても現状、暇で腹も空かせているため、シーバス兄妹と拘束している士郎を加えて共に地上に転移した。
 安全性を考えて谷から離れた場所で昼飯を取る事にした。
 彼女らからは何で下で食べないのかを聞かれたものの、谷底では鬼人たちの目があって、俺たちだけで食事をたらふく腹一杯に食う訳にはいかないからだと、シーバスが代わりに答えてくれた。

 それからは拘束を解いた士郎と共に地上の魔物を適当に狩りつつ、谷に誘導して落としたりして時間を潰して谷底に戻ると、谷底では落とした魔物を怪しんで手を付けていなかった。


「これってミーツくんの仕業でしょ?」
「やっぱりバレたか」
「うん、バレるよ。こっちじゃ上でスタンピードが起こったって問題になったんだよ。
こんなのが落ちてくるって事は、鬼人の村が危険な目に遭っているんじゃないかって、あの子たち不安がっているんだよ。
流石に、あの族長が生きているうちは安全だろうけどね」

 なるほど、魔物に手を付けていないのは、そういう理由かと理解し、俺は魔物の状態を調べている鬼人の若者たちに声をかけるべく近寄ると、ヤスドル以外の者たちに避けられて離れて行かれ、彼だけにでも落ちて瀕死の魔物の説明をしようと試みる。

「ここで俺が食料を分け与えようとしても受け取らないから、自然に見せかけて上から魔物を落としたんだけど、逆に不安にさせちゃったみたいだね」

 俺はそう言うと、彼に余計なことをするなと怒られてしまった。
 だが、彼は俺に怒鳴ったことに気が付いて、すぐさま頭を下げて謝ってきた。

「すみません、強者に口答えしてごめんなさい。
でも、シロヤマおばちゃんと同じことはしないでもらいたいと思っています」
「今回の試練に挑む君たちだけが、俺たちがいる所為で特別扱いされたくないのは分かった。
じゃあ、今後試練に挑む子たちのために、ここに豊富な食料があれば問題ないわけだ」
「それはそうですけど、もう明日には俺たちは此処を発ちますし、今更なにかを育てるなんてことは遅いし無理です」
「じゃあ俺は、とあることをやるけどいいよね?
俺が勝手にやるんだし、今の君たちは関係ない」


 俺はそう言うと、穴倉がある住処から離れて、地面や壁いっぱいに彼らが普段から食べている植物を想像魔法で出した。
 しかも、それらは摘み取っても再度すぐに生えてくるようにしようと思って、この生やした植物の地面や壁の内部に俺のMPが行き渡るように張り巡らしていき、試しに生えている物を摘み取ると、すぐさま次のが生えてきたことから成功したと思って大丈夫だろう。

「ミーツくん、それってどうやったの?
こんな現象、ダンジョン以外ではヤマトでも見たことないよ」


 背後でシロヤマが俺のやったことを聞いてきた。彼女の後ろにいる鬼人たちもポカーンとして、緑に染まった色んな植物を見つめている。


「これでこの谷での食料事情は問題なくなったね。少なくとも餓死することはなくなった訳だ。
だから君たちが特別扱いされることもなくなる訳だから、俺が上で落とした魔物たちに手を出しても問題ないよね」
「ミーツ様、ありがとうございます。
明日、無事に試練を終わらせることができれば是非、お手合わせをお願いします」


 ヤスドルは俺を恐れて目も見れていなかったのが、キリッとして目を見つめてそう言い放ち、手を差し出して握手を求めてきたことで、俺は手を差し出して握手をしたら、他の鬼人たちも俺も俺もと握手を求めてきた。


「あ~あ、正式に握手しちゃったね。
鬼人族の男と握手したら戦いましょうって意味があるんだよ。ちなみに決闘は両手で握手だからね」
「なんでこのタイミングで言うんだよ!
じゃあ、俺は地上に上がったヤスドルたちと戦わなきゃいけないってこと?」
「うん、そだよ。でも手合わせだから死ぬことはないと思うよ。ヤスドルで多分、シーバスの五倍くらいの強さだからね」

 彼女にそう聴いて、シーバスの五倍なら大したことないなと思い、それなら大丈夫かなっと言ったら、近くで聞いてたシーバスは俺は決して弱くないと反論してくるも、吹っ飛ばない程度に強めのデコピンを与えたらその場で崩れ落ちて気絶した。

 それからは谷底にいる男の鬼人全員と握手して、俺が想像魔法で出した植物で谷底での最後の食事となったが、植物は俺が自ら摘み取るぶんには何も問題なく摘み取れるが、他の者が摘み取ろうとしたら、植物が絡みあってトレントのような塊になって襲い掛かってくるというのが分かった。

 だが、鬼人にとっては凄くありがたく、この谷底には生きた魔物など滅多に現れないから、食料にもなって戦うことができる植物は凄くありがたみがあって、最後の日なのに、こぞって蔓やヨモギなどが絡み合って一つの塊となった植物トレントと戦いを繰り広げ、明日への試練の気持ちを高まらせるものとなった。

 ヤスドルがシロヤマのことをおばちゃん呼びしていたのも、彼女は聞き逃してはおらず、しっかりと罰としてくすぐりの罰を受けるも、彼には効かずに彼女が疲れるだけとなっていた。




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