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第5章
第17話
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第17話
【主サマ主サマ、起きて起きて】
「ん、ふわぁ~あ、あ、昨夜はあのままブルトの上で寝てしまったんだったね。重かった?悪いね」
【ううん、主サマは軽いよ。でも外がなんかうるさいから起こしたの】
ブルトの身体の上で眠っていたようで、ブルトの声が聴こえて欠伸を一つしたあと、昨夜のことを思い出した。 昨夜は青いアリの魔物であるブルトを使い魔にしたあと、谷底に戻ってそのまま眠ってしまったのだが、ブルトの言う通り、壁の向こう側で俺の呼ぶ声が聴こえていた。
声が谷底内にこだまして誰が呼んでいるか分からなく、囲んでいる壁を壊し、ついでに隣の馬車を囲んでいた壁も壊して馬に餌と水を与えながら、誰が呼んでいるか耳を澄ませて聴いた。
「おじさーん!おじさんどこいったのー」
「ミーツさーん」
声はアマとアミで俺を呼んでいた。
それと同時に顔にロップが飛び付いてきた。
「そんなに叫ばなくても聴こえるよ。
なに?どうした?ロップも離れてくれ」
「あ!おじさん!もう、どこいってたの!
捜したじゃない」
「ホントです!朝になって昨夜の所にいっても、ヤスドルさんしか居ないし、全部の鬼人さんの寝床を覗いて捜しても見つからないから、皆んなにミーツさんが何処いったかを聴いたら、私たちを置いて行っちゃったってシロヤマ姉様が…」
シロヤマが昨夜の出来事を彼女らに話したのだろうか、俺が皆んなを置いて先に進んで行ったのだと彼女らは思ったようだ。ロップは黙ったままで怒っているのか、顔に貼り付いたあと、無言で猫耳のカチューシャを邪魔そうにしながら頭の上によじ登った。
「馬鹿だなぁ。俺がそんな薄情な男なわけないじゃないか。それとも、アマとアミは俺がシロヤマの言う通り、一人で先に行くと思ったのかい?」
「いや、だって、シロヤマ姉ちゃんが…」
「ミーツさんが何処にもいなかったから…」
「いやいやいや、ミーツさん済まなかった!
俺が酔い潰れたあとのことを、彼女に聞いたときは青褪めたぜ。もちろん彼女には罰として、今後しばらくヤマトに到着するまでの間、ミーツさんの許可のない酒は禁止にしてもらう」
シロヤマはシーバスに昨夜のことを話したようで、シーバスは自分の彼女に罰を与えたことに驚いた。
「良かったのかい?両思いでようやくできた彼女にそんな罰を与えてさ。嫌われたりしないかい?」
「心配無用だ。こんなことで嫌われるようなら、彼女はそういう女だったってことで諦める」
シーバスは胸を張ってそう言ったが、その彼女が後ろで冷めた目で彼を睨んでいた。
「ふーん、シーバスはボクに嫌われてもいいんだ」
「ふあ!いつの間に!いや、それはだな、言葉のアヤというものでだな」
「ふふふ、冗談だよ。今回ボクは酒に酔ってたとはいえ、冗談でも言っちゃいけないことを言ったんだ。シーバスじゃなくても怒るのは当然だよ。
ミーツくん以外の冒険者なら殴られていただろうね。それに今回はミーツくんのMPを貰って酔いが早めに醒めて憶えていたし、起きたらミーツくんの気配も馬車がなかったから、やっぱり昨夜のことで怒って一人で行っちゃったんだと思ったんだよ」
彼女はかなりシーバスに怒られたのだろう、いつもの軽い感じはなくなり、見るからに落ち込んでいるのが分かるくらい声も態度も小さくなっている。
「シーバスが俺のことで彼女に怒ってくれたのは嬉しいよ。ただ、昨夜も言ったとおり怒ってはいないし、この話はもう終わりにしよう。
それで、士郎は何処にいるのかな?士郎だけが見当たらないけど」
「あ、士郎さんは介抱してくれた鬼人さんと一緒にいますよ。なんか、鬼人さんのことが好きになっちゃったとかって相談されました」
「またか、もう無理矢理でも連れて行こうかね。
士郎は惚れっぽいタイプみたいだし、元々それが原因で辛い目にあったというのに、懲りてないし、その惚れられた鬼人も迷惑だろう」
アミに士郎の居場所を聞いてその場所まで行ったら、迷惑そうに士郎の頭を押さえている鬼人と腕を組んでくる士郎の姿があったことから、士郎の腹を殴って気絶させて、鬼人にうちのメンバーが迷惑かけたと謝り、馬車に放り込んで出発しようとシロヤマに言うと、彼女はあと一日だけ待って欲しいと言ってきた。
何故ならば、あと一日待てば鬼人たちが成人になるために、この崖を登って行く試練の日が明日なのだそうだ。
そうそう滅多に見られない鬼人の成人になるための試練を見たいと言われ、仕方なく承諾して、士郎は交代で見張りをすることで想像魔法で出したロープでぐるぐる巻きにしておいた。
それからはメンバーに壁で隠していた俺の新しい使い魔のブルトを紹介したら、シロヤマ以外のメンバーは驚いたものの、シロヤマだけがヨダレ垂らしながらブルトを見つめていた。
なんでもアイアンアントの仲間だと思っていたブルトは、ブルーアントという珍しいアリの魔物で、脚がとても美味らしく、この辺りに住んでいる鬼人でも滅多に食べられないみたいで、シロヤマも最後に食べられたのは、五十年ほど前だとか。
ふと視線を感じてメンバーの背後に目を向けると、シロヤマと同様に鬼人たちもブルトを指を咥えて見つめているのに気が付いた。
「さあ!新しい使い魔の紹介は終わったし、ブルトは出発の間までは隠しておこうかな」
「あ、あ、ちょっと、ミーツくん、脚の一本でもいいから貰えないかな?」
「またお前は…ミーツさんの使い魔にそんなこと要求して、貰える訳がないだろう」
鬼人にこそこそと話しかけられていたシロヤマが、恐る恐るブルトの脚一本欲しいと要求してきたものの、シーバスが彼女の頭に拳骨して怒ってくれた。まだ説教が足りないようだなと言いながら、彼女の襟首を掴んで引きずって行く。
鬼人たちにも使い魔だから勘弁して欲しいことを軽い殺気を込めて言うと、一番最前列にいた鬼人は泡を吹いて倒れてしまって、俺を中心に辺りが静寂に包まれた。
「ミーツくん!ダメだよぉ、この子たちは見た目こそ大人だけど、まだまだ子供なんだよ?怒るのも無理ないけど、ミーツくんが殺気なんか出しちゃったら、死んじゃうよ」
引きずられている途中で止まっているシロヤマがそう言ったあと、足を止めているシーバスを見たら汗をダラダラと流して俺を凝視していた。
「い、今のがミーツさんの殺気なのか?
伝説のドラゴンか何かが現れたと思って正直、怖くて今すぐにでも逃げ出したくなった」
彼にも俺の殺気を感じたようで、怖かったと言いながら足をガクガクと震わせながらシロヤマを引きずって行き、俺の近くにいたアマとアミに関しては泡は吹いてはいないものの、白目剥いて気絶して倒れてしまって、彼女らの地面が濡れているところをみると、二人とも漏らしているみたいだ。 どうやら俺が鬼人たちに向けた殺気が、仲間たちにも被害を受けてしまったようだ。
「えと、悪かったね。でもこれで俺の使い魔に手を出そうとしないでくれるかな?」
未だに固まっている鬼人たちに声をかけると、静まり返っていた空気から一変して、鬼人たちは叫びながら我先にとこの場から逃げ出して、それぞれが休む穴倉に入って行く。
「あ~あ、まぁ、こうなるよね。ボクはボクでこれからシーバスに怒られるんだけど、ミーツくんもあとで妹ちゃん達に怒られなよ?」
シロヤマは倒れているアマとアミを指差しながらそう言って彼と穴倉の中に引きずられて入って行った。
確かにこれは怒られる案件だと思いながら、彼女らの服を乾かして漏らしたことを隠蔽しようと、地面も乾かして彼女らが倒れている場で胡座をかいて、俺の脚に彼女らの頭を乗せて意識を取り戻すのを待った。
【主サマ主サマ、起きて起きて】
「ん、ふわぁ~あ、あ、昨夜はあのままブルトの上で寝てしまったんだったね。重かった?悪いね」
【ううん、主サマは軽いよ。でも外がなんかうるさいから起こしたの】
ブルトの身体の上で眠っていたようで、ブルトの声が聴こえて欠伸を一つしたあと、昨夜のことを思い出した。 昨夜は青いアリの魔物であるブルトを使い魔にしたあと、谷底に戻ってそのまま眠ってしまったのだが、ブルトの言う通り、壁の向こう側で俺の呼ぶ声が聴こえていた。
声が谷底内にこだまして誰が呼んでいるか分からなく、囲んでいる壁を壊し、ついでに隣の馬車を囲んでいた壁も壊して馬に餌と水を与えながら、誰が呼んでいるか耳を澄ませて聴いた。
「おじさーん!おじさんどこいったのー」
「ミーツさーん」
声はアマとアミで俺を呼んでいた。
それと同時に顔にロップが飛び付いてきた。
「そんなに叫ばなくても聴こえるよ。
なに?どうした?ロップも離れてくれ」
「あ!おじさん!もう、どこいってたの!
捜したじゃない」
「ホントです!朝になって昨夜の所にいっても、ヤスドルさんしか居ないし、全部の鬼人さんの寝床を覗いて捜しても見つからないから、皆んなにミーツさんが何処いったかを聴いたら、私たちを置いて行っちゃったってシロヤマ姉様が…」
シロヤマが昨夜の出来事を彼女らに話したのだろうか、俺が皆んなを置いて先に進んで行ったのだと彼女らは思ったようだ。ロップは黙ったままで怒っているのか、顔に貼り付いたあと、無言で猫耳のカチューシャを邪魔そうにしながら頭の上によじ登った。
「馬鹿だなぁ。俺がそんな薄情な男なわけないじゃないか。それとも、アマとアミは俺がシロヤマの言う通り、一人で先に行くと思ったのかい?」
「いや、だって、シロヤマ姉ちゃんが…」
「ミーツさんが何処にもいなかったから…」
「いやいやいや、ミーツさん済まなかった!
俺が酔い潰れたあとのことを、彼女に聞いたときは青褪めたぜ。もちろん彼女には罰として、今後しばらくヤマトに到着するまでの間、ミーツさんの許可のない酒は禁止にしてもらう」
シロヤマはシーバスに昨夜のことを話したようで、シーバスは自分の彼女に罰を与えたことに驚いた。
「良かったのかい?両思いでようやくできた彼女にそんな罰を与えてさ。嫌われたりしないかい?」
「心配無用だ。こんなことで嫌われるようなら、彼女はそういう女だったってことで諦める」
シーバスは胸を張ってそう言ったが、その彼女が後ろで冷めた目で彼を睨んでいた。
「ふーん、シーバスはボクに嫌われてもいいんだ」
「ふあ!いつの間に!いや、それはだな、言葉のアヤというものでだな」
「ふふふ、冗談だよ。今回ボクは酒に酔ってたとはいえ、冗談でも言っちゃいけないことを言ったんだ。シーバスじゃなくても怒るのは当然だよ。
ミーツくん以外の冒険者なら殴られていただろうね。それに今回はミーツくんのMPを貰って酔いが早めに醒めて憶えていたし、起きたらミーツくんの気配も馬車がなかったから、やっぱり昨夜のことで怒って一人で行っちゃったんだと思ったんだよ」
彼女はかなりシーバスに怒られたのだろう、いつもの軽い感じはなくなり、見るからに落ち込んでいるのが分かるくらい声も態度も小さくなっている。
「シーバスが俺のことで彼女に怒ってくれたのは嬉しいよ。ただ、昨夜も言ったとおり怒ってはいないし、この話はもう終わりにしよう。
それで、士郎は何処にいるのかな?士郎だけが見当たらないけど」
「あ、士郎さんは介抱してくれた鬼人さんと一緒にいますよ。なんか、鬼人さんのことが好きになっちゃったとかって相談されました」
「またか、もう無理矢理でも連れて行こうかね。
士郎は惚れっぽいタイプみたいだし、元々それが原因で辛い目にあったというのに、懲りてないし、その惚れられた鬼人も迷惑だろう」
アミに士郎の居場所を聞いてその場所まで行ったら、迷惑そうに士郎の頭を押さえている鬼人と腕を組んでくる士郎の姿があったことから、士郎の腹を殴って気絶させて、鬼人にうちのメンバーが迷惑かけたと謝り、馬車に放り込んで出発しようとシロヤマに言うと、彼女はあと一日だけ待って欲しいと言ってきた。
何故ならば、あと一日待てば鬼人たちが成人になるために、この崖を登って行く試練の日が明日なのだそうだ。
そうそう滅多に見られない鬼人の成人になるための試練を見たいと言われ、仕方なく承諾して、士郎は交代で見張りをすることで想像魔法で出したロープでぐるぐる巻きにしておいた。
それからはメンバーに壁で隠していた俺の新しい使い魔のブルトを紹介したら、シロヤマ以外のメンバーは驚いたものの、シロヤマだけがヨダレ垂らしながらブルトを見つめていた。
なんでもアイアンアントの仲間だと思っていたブルトは、ブルーアントという珍しいアリの魔物で、脚がとても美味らしく、この辺りに住んでいる鬼人でも滅多に食べられないみたいで、シロヤマも最後に食べられたのは、五十年ほど前だとか。
ふと視線を感じてメンバーの背後に目を向けると、シロヤマと同様に鬼人たちもブルトを指を咥えて見つめているのに気が付いた。
「さあ!新しい使い魔の紹介は終わったし、ブルトは出発の間までは隠しておこうかな」
「あ、あ、ちょっと、ミーツくん、脚の一本でもいいから貰えないかな?」
「またお前は…ミーツさんの使い魔にそんなこと要求して、貰える訳がないだろう」
鬼人にこそこそと話しかけられていたシロヤマが、恐る恐るブルトの脚一本欲しいと要求してきたものの、シーバスが彼女の頭に拳骨して怒ってくれた。まだ説教が足りないようだなと言いながら、彼女の襟首を掴んで引きずって行く。
鬼人たちにも使い魔だから勘弁して欲しいことを軽い殺気を込めて言うと、一番最前列にいた鬼人は泡を吹いて倒れてしまって、俺を中心に辺りが静寂に包まれた。
「ミーツくん!ダメだよぉ、この子たちは見た目こそ大人だけど、まだまだ子供なんだよ?怒るのも無理ないけど、ミーツくんが殺気なんか出しちゃったら、死んじゃうよ」
引きずられている途中で止まっているシロヤマがそう言ったあと、足を止めているシーバスを見たら汗をダラダラと流して俺を凝視していた。
「い、今のがミーツさんの殺気なのか?
伝説のドラゴンか何かが現れたと思って正直、怖くて今すぐにでも逃げ出したくなった」
彼にも俺の殺気を感じたようで、怖かったと言いながら足をガクガクと震わせながらシロヤマを引きずって行き、俺の近くにいたアマとアミに関しては泡は吹いてはいないものの、白目剥いて気絶して倒れてしまって、彼女らの地面が濡れているところをみると、二人とも漏らしているみたいだ。 どうやら俺が鬼人たちに向けた殺気が、仲間たちにも被害を受けてしまったようだ。
「えと、悪かったね。でもこれで俺の使い魔に手を出そうとしないでくれるかな?」
未だに固まっている鬼人たちに声をかけると、静まり返っていた空気から一変して、鬼人たちは叫びながら我先にとこの場から逃げ出して、それぞれが休む穴倉に入って行く。
「あ~あ、まぁ、こうなるよね。ボクはボクでこれからシーバスに怒られるんだけど、ミーツくんもあとで妹ちゃん達に怒られなよ?」
シロヤマは倒れているアマとアミを指差しながらそう言って彼と穴倉の中に引きずられて入って行った。
確かにこれは怒られる案件だと思いながら、彼女らの服を乾かして漏らしたことを隠蔽しようと、地面も乾かして彼女らが倒れている場で胡座をかいて、俺の脚に彼女らの頭を乗せて意識を取り戻すのを待った。
応援ありがとうございます!
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