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第6章

第11話

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 移動する直前に、今まで存在を消していたソルトが俺の肩に手を置いて、移動後はすぐさま俺を守るように前に出た。

「ミーツ様お下がりください。ミーツ様の実力では敵わない相手がいます」

 移動後の辺りを見渡す前に視界を遮られるものの、彼女の身体の隙間から前方を見たら、練武場であろう、ラフな格好した騎士らしき者たちが跪いていた。

「レイン殿下。このような所に何用でございましょうか」
「皆さん、普段通り自由にしていただいて結構です。今回ここに来た理由は、ここにSSランクの冒険者を呼び寄せて、この方と戦ってもらうために来たんですよ。
 私はこの方の付き添いと見学です。
 それと近々、私の騎士団の副団長の交代をしますので皆さん、副団長に代わる実力を今のうちに身に付けて置いて下さいね。
 理由としては今、私が話すことでもありませんので、本人からにでも聞くか、後日に分かることになります」

 彼は跪ついている者たち皆にそう言うと、誰かと連絡を取っているのか、ボソボソと話し出した。

「いつもお世話になってますレインです。
 ふふふ、良いんですよ。それで、いつもの方でいいので今から浮遊城にある練武場に寄越して下さい。報酬はいつもの倍お支払いしますので、依頼内容は私のお気に入りの冒険者の再登録に関する実力の試合をしてもらって、ランクを決めてもらって下さい。それが終わり次第、ギルド本部にて再登録の手助けをしてあげて下さい」

 話が終わったのだろうか、横にいる俺を見てニコリと笑い、待っている間に暇つぶしに騎士たちと準備運動として手合わせをされては如何ですか?と言ったことで、騎士たちの目が一斉に俺を睨んでいるのが分かった。
 暇つぶしというなら書物塔の主から貰った冊子を読みたいと思っていたのだが、俺のそんな気持ちはすぐに消えた。
 何故ならば、跪いている騎士の一人が俺と手合わせしたいと手を挙げたからだ。
 これでまた冊子を読む時間が取れないと思いつつも、ソルトが言う俺が敵わない相手というのが誰なのかが気になることから、目の前で跪いている騎士と手合わせしてやろうかという気持ちが芽生える。

「これは私だけ楽しんでもいいのかと思うほど、贅沢な試合ですね。今度、お婆姉さまに自慢しなければ」

 たかが一冒険者であるおっさんな俺と若い騎士の手合わせ如きで、やたらと興奮気味の彼の肩を背後から小雨が叩いて現れた。

「誰が誰に自慢するですって?」
「お婆姉さま!何故此処に?」
「リファレンとマリノアリアに聞いたのですよ。あの子たちは、わたくしを尊敬してますからね。それ以外でもわたくしに今でも連絡してくれます方は多いのですよ。
 あの子たちに教えて貰わなければ知らないままだった、こんな素晴らしいことを一人で独占しようなんて、貴方にはあとで説教しなければなりませんね」

 小雨が現れたことで、練武場の空気がピリつき、俺を睨んでいた騎士たちも、こちらを一切見なくなり、皆んな俯いて下を見つめている。
 こんな状況でまともに手合わせができるか不安になったため、小雨にここは退場してもらうと彼女に声を掛ける。

「小雨、悪いけどちょっと退場してもらえるかな。キミがいると騎士の人たちが萎縮しちゃってまともに手合わせ出来ないと思うんだ」

 俺がそう言うと、俯いていた騎士たちは顔を上げて驚いた表情になり、レインも二~三歩後退し、小雨は残念そうに俯いてしまった。

「ミーツさん、私がミーツさんの勇姿を独り占めしたい気持ちはありますが流石にそれは可哀想です。 確かに、お婆姉さまがいらっしゃることで、騎士たちが萎縮してしまいますが、萎縮しないようにミーツさんに勝利をした者に褒美を与えますので、お婆姉さまはこのまま居させて下さい」

 彼の提案で大丈夫だろうかと騎士たちの方を向くと、断るなと目で訴えかけているのが分かるくらいの目で俺を凝視している。
 ここでまだ断ったら、人でなしな男として軽蔑されるかも知れないと思い、彼の提案を受け入れたら、明らかに落ち込んでいる彼女は俺が受け入れる言葉とともに満面の笑顔になり、でかしたレインと背伸びをして彼の頭を撫で回す。

「さあ聞いての通り、現陛下のお婆さまである、小雨お婆姉さまが見物します。
 ミーツさんに勝った者は、空白の副団長になれます。もし、負けても何もありませんが、多少日々の訓練が厳しくなると思って下さい」
「レイン殿下。発言をよろしいでしょうか」

 跪いている騎士たちの最後尾の方で、声を張り上げて手を挙げる者が彼を呼んだ。

「許します。なんですか?団長」
「私がそこの男に勝利したらの褒美はどうなるのでしょう。私は団長の任に就かせてもらってます。副団長だと降格になってしまいます」
「それでしたら、私が叶えられるだけの望みを叶えましょう。ですが、私のミーツさんに勝てたらの話です」
「ちょっとレイン!誰が私のミーツさんよ!
わたくしのミーツさんの間違いでしょう!」
「お婆姉さま、その討論はミーツさんが嫌がりますから、また今度話しましょう。
 それでは我こそはという者は挙手しなさい、多ければ私が指名します。ミーツさんにはSSランクの冒険者とも試合をしなければなりませんから、ここは団長を含めた十人までとしましょう。
 ミーツさんには特別な魔剣がありますが、あくまで手合わせですから、木剣や先が丸い槍などの殺傷力が皆無な物を使用します。
 それと、念のために結界を張ります。
 効果は一定のダメージを受けたら、結界内から弾かれて外に出てしまうというものです。
 結界内でのダメージは無かったことになるので、安心してミーツさんに殺されて下さい。ミーツさん、またも魔力をお借りしますね」

 レインはそう説明した後、俺の背中の中心に手を置いて、不死結界と唱えた。
 練武場内の跪いている騎士たちの中心に、半径二百メートルほどの白色の半透明の結界シールドが現れた。
 そのシールドの結界に入っていた騎士たちは動くことなく、結界内だろうと跪いたままだ。

「皆さん立ち上がる許可を出します。さあ、我こそはという者は挙手を!」

 レインがそう言ったら、全ての騎士が一斉に手を挙げた。
 その中をレインは躊躇なく一番目から九番目までを選んだ。
 最後の十番目は言うまでもなく、騎士団長だから九番目が選ばれた途端に手を挙げていた騎士たちは手を下げた。
 結界内にいた騎士たちはぞろぞろと結界外に出て、最初の一人目となる者だけが残った。

 そして、最初の一人目が木剣を持って構える。見た感じの佇まいは、ダンジョンで別れる前のシーバスよりやや弱いくらいだと感じる。
 騎士の一人が木剣と槍を持ってくるも、それらを手に取ることなく、結界に足を進めたら背後から服を掴まれて進めなくなった。
 掴んだのはソルトだった。

「ミーツ様、あの一番から九番までの者くらいでしたら余裕で勝てるでしょうが、最後に控えてます騎士団長とは戦うのを止めて下さい。
 いくら手合わせといえど、ミーツさまは敵いません。あの者まで到達したら棄権をして下さい。あの者は、ミーツさまを痛め付ける気配がしますので」

 彼女がここまで言うのに驚いたものの、逆にどれだけの差があるか興味も出てきた。
 若い頃みたいになんでも出来ると思える歳でもないため、キツくなったら止めるよと微笑み、彼女の頭を軽くポンポンと叩いて結界内に入った。

 結界内に入る直前に羨ましいとレインと小雨の二人の声が重なって聴こえたものの、何に対してだろうかと思いつつも結界内の相手を見ると、敵意剥き出しで始めの合図も待たずに襲い掛かってきた。

「この低ランクの冒険者があ!我ら青雨(せいう)騎士団を舐めやがって許さん!」

 見た目は二十代前半といった若僧だが、やたらとキレて剣を振り回してくる。
 何をそんなにキレているのだろうかと思いながらも、彼の繰り出す攻撃を紙一重で避けていき、残り九人とまだ戦わなくてはいけないことを思い出して、剣を振った直後のガラ空きな肩にやや強めの手刀を与え、更に腹に強めに拳を打ち込んだら、その場で崩れ倒れて消えた。

 結界の外に弾かれたのだろうか、次の対戦者が歩み進める方向を見ると、先程の者が辺りを見渡してどうやって負けたのか分からずにいそうだが、悔しそうな目でこちらを睨んでいた。
 彼の様子を見て、この結界についての特性を理解した。 
 この結界は、先程レインが説明した通りなのだと理解して、これなら少々本気で殴っても平気だと思い、二人目も剣を構えて開始の合図を待たずに斬りかかってきた。
 騎士なのに礼儀が無いなと思いながら溜め息を一つ吐いたら、対戦者は何を勘違いしているのか、舐めるなよと言いながら、振り上げる剣の動作が速くなるも、大振りになったことで、先程の対戦者よりもやや強めの拳を腹に与え、殴っている最中に消えた。
 結界外に弾かれた二人目は一人目と同じく直ぐに何が起きたか理解できないようだが、辺りを見回した反応でまたも睨んでくる。
 もしかしたら開始の合図ってないのだろうかと思って、レインに結界内から聞く。

「レイン!開始の合図ってないのかな。
 だったら、次からは俺から先に仕掛けて勝つけど」
「勿論ありますよ。先の負けた二人は、私の合図を待たずに攻撃を仕掛けたので、あとで罰を与えます。次からの方も罰が欲しいのでしたら、合図を待たなくてもいいですが、私の注意を受けても無視するのであれば、私の騎士団には不要な人間でありますから辞めていただきます」

 彼はそう言ったあと、小雨が立ち見だと俺の姿が見えにくいと言い出し、レインが溜め息を吐きながら指を鳴らすと、椅子を持ってきたメイドが数人やってきて、彼と小雨がその椅子に座ると、メイドごと宙に浮かび上がった。
 ソルトは浮かび上がらずに、下で相変わらず無表情で俺を見つめている。
 この城にいた魔導人形のサンみたいに人間っぽい表情ができてれば今頃、どのような表情をするのだろうかと思いながら、次の対戦者に向き合って礼をしたあと構える。

「私は前の二人とは違いますよ。
 前の二人は騎士団に入団して、まだ日が浅いですからね。と言っても、下界の騎士団で団長や副団長を任さられるくらいの実力はあるのですがね」

 今回の騎士は少しお喋りのようで、前の二人について教えてくれる。レインの始めの合図と共に、彼の構える姿は冷静でレイピア風の細い木剣で突いては元の位置に戻るといった行動を取っていく。
 確かに前の二人とは違うと思ったものの、その動き自体余裕で見切れるため、攻撃のために突いて戻る瞬間に詰め寄って顔面目掛けて拳を振ったら、鼻の先に当たった感触があったものの、結界外に飛ばされた。

 彼は直ぐに敗北を認め、結界外から礼をして仲間が待つ騎士団の中に入っていき、次の対戦者が代わりに現れた。
 それからはどの対戦者も、どんぐりの背比べと例えるだけの実力しかなく、四人目から九人目までもが俺の拳一発で終わりを迎え、最後の十番目である団長が前に出て来た時、騎士団全体から歓声が沸き起こった。

「私で最後だ。あんたの今までの動きを見てたが、全部が素早く動いて力任せで殴るといったものだ。だが、私にはそれは通用しないぞ。
本物の騎士の剣捌きを受けるがいい!」

 彼はそう言ったあと、レインの合図のもと礼をして剣を構える。
 その時、レインが投げ入れたのだろう木剣が宙を舞って俺と彼の前の地面に突き刺さる。
 彼はその剣を取るまで自身の持っている木剣を下げて待ってくれるようで、俺を見て首を縦に振る。
 俺は彼を見つめながらも剣を手に取って構えたら、彼は下げた剣を中央に構えてお先にどうぞと言って先手を譲ってくれるようだ。

「それではお言葉に甘えて先手を取らせてもらうよ」

 構えたまま待ってくれている彼にそう言ったあと、彼の構えている剣を弾き飛ばそうと剣を振って当てたら、そのまま流されるようにスルリと躱された。
 彼自身は動いていないのに剣だけで、簡単にいなされたのだった。俺はバランスを崩して隙だらけだったのに、彼は追撃をせず俺を見下ろして構えている。

 ここで頭に血が昇って突っ込んだら簡単に負けそうだと思い、彼から数歩後退りして深呼吸を数回したあと、石板の一つにあった底辺剣士から長い年月と努力で剣聖まで至った者の人生の内容を思い出した。

「あなたの剣は素人だな。私の部下たちも、動体視力が私並みにあって、あなたが最初から剣を持っていれば、あなたに負けてなかっただろう。魔物には通用するだろうが、修練を重ねた私みたいな者には通用しない」

 石板の内容を思い出しているとき、勝手に一人で話す彼にクスリと笑ったら、何を笑っていると今度は自ら攻撃に転じて剣を振り下ろしてくるも、石板の内容を思い出した俺にとって彼の剣は稚戯に等しかった。
 俺に当てにくる彼の剣を先程、俺がやられたみたいに剣で受け流し、その流れのまま剣を彼の首元で寸止めをした。

「な!もう私の剣技をモノにしたのか!
 だが、寸止めとは馬鹿にするな!」

 彼は跳んで後退りし、再度剣を構えて真剣な表情で俺が向かってくるのを待ち構えているようだ。それならばと、俺は石板で憶えた剣技で、武器に魔力を込めて攻撃したらとんでもない攻撃力になるのがある。それを試そうと木剣に魔力を込めたら、木剣が俺の魔力に耐えきれずに砂のようにサラサラと崩れ去った。
 同じことを想像魔法でも出来たから、想像魔法でもやれば良かったと思ったものの、崩れ去った後で考えても後の祭りだ。
 突然対戦相手である俺の持つ木剣が崩れたことにより、彼は驚きを隠せないでいるものの、勝機と思ったのだろう、彼の方から仕掛けてきた。

 剣が無くなったことで無手で、彼の斬りかかる剣を受け止めるも、木剣とはいえ、普通の剣のように腕が傷付けられて行くなか、無手でも手刀を剣に見立て攻撃する方法があるのも、他の石版の記憶にあって、先に傷だらけの腕を治療するも、斬りつける攻撃が止まらないことで、腕を治療しながら手に魔力を込め、手刀で斬りかかる彼の剣に当てたら、木剣ごと彼の身体は真っ二つになって消えて結界の外に弾き出された。

「流石ミーツさんです!期待通りでした。
 SSランクの冒険者たちも到着して見物していたみたいなので、ミーツさんさえ良ければこのまま結界の内に入れますが如何でしょうか。
それとも一休みされますか?」

 団長との決着が着いた直後、レインが皆んなに聴こえるようにそう言い放った。

「これ、レイン。興奮するのは分かりますけど、流石に休憩は取らせるべきですよ。
 わたくしもミーツさんとお話しがしたいですし、そちらのお人形も心配しているようですからね」

 休憩はしなくても戦えるとは思うが、小雨が休憩を取らせるべきだと言ってくれて、その言葉に甘えて休もうと結界外に出ようとしたその時、背後から凄まじい殺気を感じて殺気の感じる方向に裏拳を振った。

「ほお。おっさん、やっぱりただ者じゃねえな。
流石、複数の暴食竜を単独討伐できるだけの実力の持ち主だぜ」
「紅!余計なことを今は言うものではないですよ!うちの相方が貴方についてバラしてしまい、申し訳なく思います」

 赤髪と青髪の男たちが結界内に入っており、赤髪である紅と呼ばれた者が暴食竜を単独で倒せることを話した瞬間、青髪の者がそれを注意して俺に頭を下げて謝った。

「いや~、悪りい悪りい。おっさんが俺の殺気に反応したのが嬉しくてよお。
 お喋りをしにやってきたんじゃねえんだ。
 早速やろうか!もちろん何のためにやってきたか理由は聞いてんだ。蒼、俺がやってもいいだろ」
「ふう、仕方ないですね。貴方は騎士団の人たちと手合わせ後で休みたいでしょうが、続けて戦ってもらいます。
 レイン殿下が作ってくれたこの結界がありますし、私は外で貴方の本当の実力を見させていただきますね」

 冷静な方である青髪は蒼と呼ばれ、紅が俺と戦う気満々だが、直ぐにでも殴りかかってくるかと思いきや、意外と冷静で結界の中央部で握手を求めてきた。
 見た目に反して紳士だと思いながら、俺も中央に戻って握手に応じると、万力で締め付けるように力を入れてきた。
 こういう挨拶かと思って、俺も力一杯に力を込めて握り返したら、彼は呻き声をあげて空いた方の手で腹を殴り付けてきた。
 腹を殴られた瞬間、内臓が潰れたと思うほど、痛みでどうかなってしまったと思ったものの、握り締める手は緩めずに思いっきり握ったら、彼の手の骨が音を立てて折れ割れた。

「畜生があ!初っ端からやりやがったな!」
「それはお互いさまだよ。俺も君のパンチで腹が痛いんだからさ」

 彼の骨や俺の内臓が壊れたくらいでは結界の外に弾かれないところをみると、レインが結界の内容を緩くしたみたいだ。
 俺とSSランクの冒険者の戦いでは、これくらいのダメージは想定済みだったのだろう。  
 腹が痛いのは我慢していたら、紅はポケットから回復薬を取り出して壊れた拳に振り掛けた。

「おっさん、ズルイとか言うなよ?これはおっさんの実力を測る戦いなんだからよ。
 こんな拳じゃ、正当な実力を測れないだろうがよ。だからおっさんも、魔法を使っても良いぜ」

 先に彼が回復薬を使ったからか、魔法を使っても良いと言ってくれたことで、俺も回復魔法を使って腹の痛みを回復した。

「さあ、これからは本気でやるぜ!」

 彼はそう言ったあと、全身真っ赤な炎に包まれた。その全身に纏った炎が拳に凝縮して集まって白炎になり、拳を振ったら白炎の残像が宙を舞った。どれだけ温度が高いのだろうかと思っていたら、彼はその白炎を纏った拳を当てに来たものの、スピードは左程早くないため、軽く避けたら当たってもないのに頬が熱く焦げる。

 頬の焦げはすぐさま魔法で治療したものの、どういう攻撃なのだろうかと警戒していたら、俺の様子を見て余裕が出来たのだろう彼は、今の攻撃について不思議に思っているのだろう?と聞いて来て、これはまさか教えてくれるのだろうかと思って、声に出して聞き返した。

「え、教えてくれるのかい?」
「バ~カ!教える訳ねえだろうがよ!」

 そうしたら彼は俺のことを馬鹿にした。
 ついでにとっておきのスキルだから、教える訳がないとも追加で言われてしまった。
 それなら何故、聞いて来たと思いつつも、会話中に彼の拳の炎は白炎から青白色に変化して、連続で拳を振って攻撃してくる。
 それらを避け続けるも、服や顔などが焼け焦げて行く。
 もしかしたら、見えている攻撃の軌道は幻で、本当の攻撃は別にあるのではないかという考えが生まれて、試しに手で青白い拳を受け止めたら、手が焼け爛れ、自身の肉ながらに香ばしい焼けた肉の良い匂いが鼻に入ってきた。

「クハハハハ!おっさんもこのタイプだったか!大方、俺の繰り出す攻撃自体が幻とでも思ったんだろうよ!
 だが、違って残念だったなあ?なあ、おい。今どんな気持ちだ?え?おい」

 俺の手の状況を見て、彼にとって読み通りになったのか、興奮した様子で一気に捲し立てて来たものの、これしきの火力だとまだドズドルの炎の龍の方が強かったと思いながらも、ここは笑うべきと思ってニヤけると、なに笑ってやがる!と逆上して自分が優勢だと思っていただけに更に繰り出す攻撃の速度が上がった。

 しかし、折角の強い攻撃も速度が上がれば、それだけ雑になってくるもので、繰り出す攻撃を避けていると、次第に身体に焦げ目が付かなくなってきて、俺も自分の拳を治療しながら彼の拳に直接当てるといった荒業を使ったら、彼の炎の拳は砕け、呻き声をあげるなか、両脚が揃って無防備だったため、脚も思いっきり蹴ると簡単に折れ、自身の体重を支えられなくなって倒れた拍子に腹部も蹴り上げたら、目の前で消えて結界外に弾かれた。

「ほら、貴方は優勢だと思ったら簡単に油断するから負けるのですよ。
 次は私の番です。私は紅のような無様な負け方はしませんからね。
 得意とする攻撃魔法がお有りでしたら、惜しみなく使うことをお勧めしますよ。
 でないと、一瞬で終わる可能性が高いですからね。もちろん私が勝つ方の可能性ですがね」

 紅と交代で結界内に入ってきた蒼と呼ばれる者が話すなか、何もせずに待っていたのに、今回は攻撃魔法も使っていいのかと思って、彼が手を翳して手が光り始める瞬間に、想像魔法で彼の感じているであろう重力が一万倍掛かるように想像魔法を使ったら、一瞬で潰れて消えた。
 結界外の向こう側で痙攣して倒れているようだが、命に別状はないようで安心した。

「ブッラーヴォー!流石ミーツさんです!
これで文句なしのSランク以上ですよね!」
「ああ、蒼の奴は一瞬のこと過ぎて気絶しちまったけど、このおっさんは文句なしのSSランクだと思うぜ。蒼が起きたらランクアップについてギルドに伝えといてやるからよ。ギルド本部で俺たちの名前とコレを提出しろよ。で、それでよう、おっさん。
 おっさんとの手合わせは楽しかったぜ。また機会があったらやり合おうぜ!
 おっと、そうそう。おっさんのその強さは異常だからよ。最初の内は隠しといた方が良いぜ。じゃねえと、いくら自身が率いるパーティリーダーだとしても、パーティを無理矢理解散させておっさんが単独になったところで引き抜きとか、上位ギルドやクランじゃ当たり前でやってるからよ」

 レインはやたらと興奮した様子で立ち上がって拍手喝采をし出している時、紅は蒼の胸元をゴソゴソと漁ったあと、自身の胸元からカードを取り出して、こちらに投げ付けてきた。
 それをキャッチして見てみると、赤のカードと青のカード二枚重なっていた。
 それらのカードには、それぞれ蒼と紅の文字が書かれていて、彼の方を見たら、蒼を背負って後ろ向きで片手を上げながら去っていた。
 騎士団と冒険者との手合わせが終了したところで、結界は解かれ、背後からソルトが抱き着いてきた。

「ミーツ様、やっぱりミーツ様は規格外です。
 私たちと別れていた間に、これほどお強くなられているとは、思いませんでした」
「そ、そうかな。俺自身はそんなに変わってないと思うんだけど…」
「いいえ!今のミーツ様でしたらダンク様でも敵わないでしょう!」

 無表情のまま声だけは興奮した様子のソルトは、俺のことを過大評価し過ぎているようだ。
俺がダンク姐さんより強いなんて、とてもじゃないが考えられないからだ。

「はいはい。魔導人形はわたくしと交代致しなさいな」

 俺が姐さんより強いなんてと考えていたら、小雨が俺の背後から抱き付くソルトを引き剥がして正面に回った彼女が抱き付く。
 それに嫉妬して憤慨するレインと、まだ騎士たちが見ているなか、混沌とした現状にうんざりしながらも、レインと小雨が無理矢理引き剥がされたソルトを言葉での喧嘩をしているのをなだめるのに、しばらく時間を要するのだった。




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