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第6章

第12話

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 結局、あれから小雨とレインにソルトを宥めるのに一時間は掛かった。
 騎士たちも小雨とレインがいるなか、勝手に退場する訳にはいかず、困惑した様子で俺たちを眺めていたのだった。

「ふう、やっと落ち着いてくれて良かったよ」
「わたくしはミーツさんの言うことだから聞くのですよ?」
「私もです!でも、父上が陛下として命令を下しましたら聞かないといけませんけど、既に随分と前に隠居したお婆姉さまの言うことは聞く必要がありませんからね」
「私はミーツ様の命令は絶対ですが、この者たちは独断での判断で排除すべきだと判断しました結果でございます」

 レインの余計な一言でまた面倒なことが勃発しそうな雰囲気になってきたところで、逃げるように訓練場を抜け出そうと動く。
 そんな俺を追いかけるソルトに小雨、最後にレインが追いかける前に騎士たちに一言解散してもいいよ。と言ったことにより、騎士たちの安堵した顔がチラッと見えた。

 訓練場から抜け出して小雨とレインを途中で撒いたのはいいものの、俺が何処を歩いているのか分からないでいた。
 そもそも、この皇宮内の何処に何があるか分からないため、俺の後方を歩くソルトに今の現在地を聞くも、皇宮内の通路ですと見たままの答えしか返って来たことでこれ以上聞くのを止め、何処に辿り着くか分からない通路をひたすら歩いていたら、通路の突き当たりの扉に辿り着いた。

 辿り着いたからといって、勝手に開けるのはどうかと思いながらも、これから行くところがなかったため、念のためノックを数回して待ってみたら、扉が外側に向けて開いた。
 部屋の主は騎士の部屋だろうか、男らしい黒のサンドバッグにバーベルやダンベルが転がっているのがすぐに目についた。だが、よくよく部屋を見渡したら、部屋自体はかなり広い。
 奥域もあるようで物が散乱した部屋以外にも部屋があるようだ。
 でも今俺が違和感を感じているのが、部屋の中央に天幕が付いた女性が寝るようなベッドが置いてあることだ。

 入った扉の前で待てども、部屋の主が見当たらないことも違和感の一つにあった。
 扉が開いたってことは、部屋の主が開けてくれたと思いこんでいたのだが、何処を見渡しても部屋の主の姿はなく、扉が開いたという理由だけで勝手に入ってしまったから、このまま出て行こうとしたその時、部屋の奥から純白のシースルーのネグリジェを着た半裸の女性が眠たそうに目を擦りながらやってきた。

「ふあ~あ、だれ~」
「あ、す、す、済まない!ノックをしたあとに扉が開いたから入ってしまったんだ」
「え?え?キャーーー!誰よ貴方は!
 扉が開いたって言ったわね。そんなことするのはあの子しか居ないわ!何処隠れてるの!出てきなさい!」

 半裸の女性は悲鳴を上げて、窓のカーテンで身を包めて扉を開けた張本人であろう人物に怒鳴った。そうすると、ベッドの前に一人のメイドが現れた。
 姿を消すスキルを持っているのだろうか、気配も何もない所から現れたことで驚いた。

「さっすがお嬢さまですねー!
 さっく戦大成功ー!お嬢さま、この方がミーツさまですよー。レインさまと小雨さまがお慕いしている方で、そこの魔導人形でありますNo.4とNo.0を所有しています方ですよー」
「相変わらずですねNo.5。ミーツ様に無礼を働くとはいい度胸です。機能停止をもって償いなさい」
「わー、待って待って!No.4、悪かったって!こっそりでもあんたに言えばよかったね」

 ソルトがNo.5と呼んでいることで、目の前にいるメイドは原初の魔導人形であることは間違いないだろうが、ソルトと違って表情が豊かで、喋りも随分と流暢に喋り、悪戯もできる魔導人形がいるなんてと思っていたら、ソルトがNo.5の顔面を鷲掴みをして、そのまま俺に無理矢理頭を下げさせた。

「壊れる、壊れるってば!今の顔気に入っているんだから壊さないでよねー。
 ミーツさまー、ごめんなさーい」
「また貴方はそんな不真面目に…。
私の主たるミーツ様に無礼が過ぎます」
「ね、ねえ、チア~。そこのお方がミーツさんってホント?なんか、ちゃんと服着てるし、父さまかレインの所の下っ端騎士の雑用とかじゃないの?」
「そだよー。キリサメさまー。雑用とか失礼なこと言っちゃってたら、小雨さまの耳に入っちゃうと大魔法が飛んでくるよー」
「ミーツ様、申し訳ございません。No.5は私と姉妹型で、私と同時期の造りになっていますが、私が無表情で造られたことで、彼女は表情豊かに造ったのだと創造主は仰っていました」

 ソルトにそう言われてNo.4であるソルトとNo.5を交互に見比べて見るも、見た目は全然違ったことで首を傾げたら、No.5は顔を仮面のように変えることができるらしく、先程の今の顔が気に入っているという言葉も、顔を変えることができる彼女なら納得というものだ。

「ミーツさまー。悪いんだけど、お嬢さまを着替えさせたいから、ちょっとだけ部屋から出てってくれるー?あ、お嬢さまを嫁に貰ってくれるなら見てても良いよー」

 一人でうんうんと頷いていたら、No.5がカーテンに身を包んだ女性を着替えさせると言い出したことで、俺はすぐさま部屋から退出した。
 部屋から退出後、もうこの部屋には戻れないと思って、また長い通路を歩き始めようとしたときに部屋の方から、No.5の声でもうちょっとだから待っててーと声が聞こえてきた。

 扉が開いたとはいえ、勝手に入って半裸の女性の姿を見てしまったことに対して、ちゃんとした謝罪をしなきゃいけないと思って、このまま逃げるように行くのはあまりにも失礼なことだと考えを改めて、扉の前で待つこと数十分。

 どうぞーと言う声と共に扉が開いた部屋の中は、先程のサンドバッグやバーベルが消え、海を連想しそうな青色のドレス姿の女性が微笑んで立っていた。
 先程の半裸の女性は何処に行ったのだろうかと、カーテンに包まれた箇所を見るも、もちろん着替えたであろうことから、居ないのは分かっている。目の前に立って頬がほんのりピンクがかって微笑む女性に、先程までこの部屋にいた女性が何処に行ったかを聞くと、クスクスと笑いだした。

「やったねー。ほらー、キリサメさまー、ミーツさまは分からないって言ったでしょー?
 ミーツさまー、この方が第二妃のマリノアリア様の第一子であるキリサメさまだよー。
 で、私が原初の魔導人形と呼ばれるNo.5ことチアフールでーす。
 気軽にチアって呼んでねー」

 先程の半裸の女性は髪もボサボサであったゆえ、目の前の綺麗な女性との変わりように驚きを隠せない。
 だが、チアフールが悪いとはいえ、勝手に婦女子の部屋に入って半裸状態の女性の姿を見たことを正式に謝らなければならない。

「これは失礼しました。キリサメさま、先程の無礼をお許し下さい。
 そちらの魔導人形のNo.5が悪いとはいえ、無断で部屋に入って、しかも貴女の無防備な姿を見てしまったことに心から謝罪を致します。
私にできる限りの責任を取りたいと思います」
「ふふふ、貴方みたいなとても強い方が、簡単に責任を取るなんて言わない方がいいですよ。
 私も冒険者をやってますから、少しくらいの肌の露出は慣れてますから、気にしないで良いです。それと言葉使いも普段通りで構いません。私も貴方の映像を観ていたので、普段からどのような話し方をされているかは存じ上げてます」
「そだよー。ミーツさまは小雨さまに豪雨さま、レインさまとタメ口で話してるんだから、今更キリサメさまに丁寧に話す必要なんてないんだよー」

 チアフールは俺のこの短期間である皇宮での出来事を把握しているのか、俺が小雨らとタメ口で話すのを知っていた。
 キリサメも皇族なのに冒険者をやっているのに驚いたものの、普段の俺の話し方を知っているなら、普段通り接した方が彼女も砕けた話し方をするかも知れないと考え、咳払いを一つした。

「んん、えー、そこのチアフールの紹介の通り、俺は冒険者のミーツだよ。
 よろしくねキリサメ。因みに君は冒険者ランクはどのくらいかな?」
「冒険者ならそうこっなくちゃ!あたしも冒険者時の普段通りの話し方にするよ?
あたしはね、Sランクだよ」
「へー、まだ若いのに凄いねえ。
 俺はまだBランクだから、キリサメは断然上なんだね」
「ミーツさまーミーツさまー、あのねあのねー。ミーツさまは、かのダンジョンを踏破してきたんだから本当なら最低でもSランクなんだよー。
 今は更新してないからBなだけなんだよー。
 でもでもー、あたしの情報によるとミーツさまは更新さえしたらSSか、それ以上のランクでもおかしくないよー。あ、でもでも登録し直しらランクは最低ランクだね。
 さっき戦った冒険者のカードをギルド本部に持って行けば最低でもSSランクになれるんだよー」
「そうなのかい?まあ、本当のランクは後日に分かるとして、期待しておこうかね。
話は変わるけど、それで君は第二妃の子だというなら、レインが言っていた母違いの姉になるのかな。見た目はマリノアリアさまによく似てるね。歳は幾つになるのかな」

 キリサメの冒険者ランクがSなのに驚いていたら、チアフールが俺とキリサメの間に割って入って、俺の今現在そうであろう本来の冒険者ランクを喋りだすも、現時点ではランクがどうなっているか分からないため、彼女の本来なら高ランクという言葉を鵜呑みにせずに軽く流して、キリサメのことをレインに聞いていたことで、率直に彼女に聞いた。

「ははは、そうだよ。年齢は…調べたら直ぐに分かることだけど、一応秘密で通してんだ」
「そっか。豪雨は俺と変わらないくらいの歳だって言っていたから、彼の年齢を考えたら逆算して分かるし、そもそも女性に聞く質問じゃなかったね。悪かった」
「ちょっ、ちょっと!ミーツって父さまを呼び捨てで呼んでいるの?近隣の国々を束ねているこの国の皇帝陛下だよ?分かってて言ってる?」

 俺が豪雨の名前を呼び捨てで話したことで彼女は驚き、父親で皇帝陛下である豪雨の説明を焦りながら話す。

「うん。分かってて言ってるよ。本人にもタメ口で話してくれって頼まれたしね。
 それに、君たちの曾祖母である小雨ともタメ口で話しているし、それについては気にならないかな」

 小雨の名前を出したことにより、キリサメは目を見開いて口もポカーンと開けたままなのだが、その開いた口にチアフールが指に何かを挟んで放り込んだことにより、酷い咳と共に何かを吐き出したら、黒い虫だった。

「ちょっと!またアンタはこんなくだらない悪戯をやって!虫の死骸なの?」
「違うよー。知らないのー?虫の佃煮だよー。
ぷぷぷ、笑える。あれだけ無防備に口を開けてたら、悪戯して欲しいと思っちゃうよー」

 チアフールはなんの悪びれた感じもなく、自分の悪戯の正当性を主張した。
 いつもこんな感じなのか、キリサメもため息を一つ吐いて、拳骨を一つお見舞いして、これでおあいこだからねと言って、真面目な顔をして俺に近づいた。
 チアフールも大袈裟に痛がって転がっているものの、ソルトに足蹴にされてケロッとした表情でソルトに抱き付いて甘えている。

「ねえ、ミーツ。まだ皇族であるあたしだから良いけど、皇族の、しかも曾祖母さま、お婆姉さまって呼ばなきゃ不機嫌になっちゃうけど、お婆姉さまを崇拝している人たちには絶っっっ対にタメ口で話しているとかって言っちゃダメだからね?あたしでも、お婆姉さまと話すときは緊張しちゃうんだから」
「ああ。分かった。こうして小雨たちと普通に話すのは、この皇宮の中だけにしておくよ。外で人目のある所では皆と同じように接すればいいんだね。あと、君たち身内以外の人がいる前では様を付けることだね」
「うんうん。流石におじさん冒険者なだけあって、理解があるね。若い子だと何でも反発しちゃって言うこと聞かない子が多いからね。
 あ、あたしも皇女としての時は、こうしてフランクに話さないでね。絶対、周りに気を付かせてしちゃうからね。それで、此処には何しに来たの?あたしに会いに来たんじゃないんでしょ?」

 そう彼女に言われて、馬鹿正直にレインたちから逃げるために知らない通路を走り回り、道に迷って此処に行き着いたことを話したら、何をそんなにツボにハマったのだろうか、急に大笑いをしだした。

「ヒーヒー、あー笑った笑った。こんなところ誰も来ないから、あたしが勝手に自室にしてんだ。でも、そろそろレイン辺りが来そうだね。
 あの子の神の目があれば、何処に逃げ隠れようと、あの子が行ける場所なら必ず見つかるからね」

 彼女がそう言った途端、扉をノックする音が聞こえてきた。

「姉さま、こちらにミーツさんがいらっしゃいますよね。会わせていただいてよろしいですか?」

 扉越しに聞こえるレインの声だった。
 キリサメは、はいはいと言いながらチアフールに扉を開けさせると、彼は部屋に入る前に一度お辞儀をしてから部屋に入ってきた。

「ミーツさん捜しましたよ。私のスキルを使わなければ、こんな所にいますなんて分かりませんよ」
「こんな所で悪かったわね。一応、あたしが普段使いで使ってんだけどね」
「あ、いえ、姉さま。そういうつもりで仰ったわけではありませんよ。姉さまが皇宮にいらっしゃるということは、何かご用があって参ったのでしょう?」
「そうだよ。父さまと母さまに呼ばれて仕方なくね。 内容としては、まさかあのミーツが来てるというから依頼中の仕事を放って来たんだけど、まさかのミーツが、この人だとは紹介されるまでは分からなかったよ」
「ですよね。ミーツさんは普段お仲間たちとじゃれあっています時やお一人でいます時と戦闘時とで纏っています雰囲気が全く違いますから、姉さまがミーツさんとお会いしても、本人だと確認出来なかったのも分かります。
 それだけではなくてですね、ミーツさんは多重人格かと思うほど、性格が変化する時もあるんですよ。ホントいくら見てても飽きないどころか、ますます好きになってしまいます」

 レインは母親違いの姉が苦手なのだろうか、彼女に対して余所余所しいものの、彼女が俺についての話題を話し出したら、途端に余所余所しい感じが消え、自ら俺についての話題を振るのに正直そういう風に見られていたのかと恥ずかしくなった。
 彼女もそんな余所余所しい時と、熱く語る時の彼のことについて気にしてないようだ。
 キリサメが皇宮に帰ってきた理由が俺に会いに皇宮に来たのだと言うのにも驚いた。

「ところでレインが此処に来たってことは小雨も此処に来るってことだよね。だったら、早めに切り上げようとするよ」

 彼が此処に来たということは小雨も来るということだから、早めに退散しようと話し合っている彼らの間に入って、そろそろ退散することを告げた。

「ミーツさん、お婆姉さまは自分の領地にお帰りになりましたよ。ミーツさんが冒険者である限り、いずれ必ず立ち寄るだろうと思ってのことです。今回、こちらに来られたのは、ミーツさんのパーティーに出席するための他、お爺さまのお迎えも兼ねていたんです。
 お爺さまは残り少ない人生、お婆姉さまが統治してます地で過ごしたいそうです。
 お婆姉さまも、今ミーツさんにいくらアタックしても逆効果だと思ったのでしょうね。確かにお婆姉さまの考えは正解だと思って、私もミーツさんにアプローチするのは控えます。
 でもお婆姉さまも私もミーツさんのことをお慕いしています気持ちは変わりませんので、心の隅にでも留めてください。
 話が少々長くなりましたので、そろそろミーツさんはお仲間と使い魔たちと逢いたいでしょうし、共に参りましょう」

 レインはそう言ったのち、キリサメに礼をして扉を開けた状態で俺の退出を待つ。
 彼の紳士的行動に会釈して部屋を退出しながら、彼女に冒険者として何処かで会えたらいいねと言葉を残して外に出てレインが扉を閉めようとした途端、彼女は何が不服だったのか、扉を開けてレインが瞬間移動の使用をしようとした俺の手を握って皆一斉に移動した。

「なんで姉さまが付いてきたんですか!」
「だって、ミーツの使い魔の話が出たら見たいじゃない。絶対、妹たちも見たがってると思うよ。特に幸運兎のロップちゃんなんか、もふもふしたいよ」

 彼女が追いかけてきた理由が俺の使い魔であることに納得し、追い返そうとするレインを止めて、そんな理由で付いてきたのだから、会わせてあげて懐くかどうかは使い魔たちに委ねようということで使い魔たちがいるという獣舎に行ったら、馬小屋みたいな所を想像していたのが、貴族が住むような豪勢な建物で、普通に大きな扉があって中に入ったら、入口に馬がいて馬の上にアッシュが乗っていた。

 俺の姿を見た馬が力いっぱいに鳴き声を上げ、その鳴き声に反応したアッシュが俺の腹にへばり付き、主さまと連呼する。
 奥からロップが猛スピードで顔面に向かって飛んできたことで、当たる直前で避けたら俺の背後にいたソルトに当たって後方に倒れた。

 どれだけの速度で飛んで来たんだと思って倒れたソルトを見たら、何で避けるの!と声を荒らげるロップに至近距離で顔に飛びつかれて、アッシュと同様に主様と連呼する。
 残りのブルーアントのブルトが見当たらないことで、身体ごと顔にくっ付くロップの隙間から辺りを見渡すと、ロップの身体に小さくて青い蟻が付いており、遠慮がちに主さまに会いたかったと言いながら俺の頭に移動する。
 馬は後頭部をベロベロと舐め始めて、一旦使い魔たちを落ち着かせなければいけないと、顔面に張り付いたロップの腹を押した。

「俺に会いたかった気持ちは分かったから一旦落ち着こう!」

 俺がそう言うも、どの使い魔も言うことを聞かないところで、とりあえず押したロップの腹がまたも俺の口を塞ぐように押し付けられたことで、息苦しいこともあって、顔面にへばり付くロップを無理矢理引き剥がし、次に後頭部を舐め続ける馬も、優しく撫でて見つめたら舐めるのを止めた。

 腹にくっ付くアッシュは邪魔にならないから、少し落ち着いて黙ろうと言って落ち着かせる。ブルトに至っては頭に飛び乗ったのまでは見え、声は聴こえるものの、馬の唾液で濡れた髪の何処にいるか分からず、とりあえず間違って潰したらいけないと思って肩に移動してもらった。

 俺の使い魔たちを見てロップとアッシュは変わってないものの、馬とブルトの変わりように使い魔たちを落ち着かせて聞くことにした。
 先ずは馬に翼と小さな角が生えている件と、ブルトの身体の縮小についてだが、これらは使い魔たちが答える前にレインが微笑みながら教えてくれた。その間、背後ではキリサメが生のロップちゃんと言いながら、怪しい息づかいと目をしていることで、抱き抱えるロップを持ったまま彼女から少し距離を取る。
そんな俺の行動を見たレインが、俺と彼女の間に入ってくれて彼女がロップに近づかないようにしてくれた。

 彼の説明では、俺がダンジョンで戦っている間に俺との繋がりを持った使い魔たちにも経験値が分配され、馬は元々『天馬』という種類の馬で、偶然にも天馬と『一角馬』と呼ばれる馬との配合馬であったらしく、配合馬なだけあって生まれた時は何の変哲もない普通の馬だったため、馬車馬用として育てられて売られたとのこと。 下の大陸では馬に経験値が入ることなど滅多にないことで、普通の馬として扱われていたのだが、俺の使い魔になったことで経験値が入り、両親からの良い部分の翼と角が生えたらしい。

 このことをなんで彼が知っているのかといえば、彼は神の目のスキルで過去を見ることができるのだ。もちろん人間にも使えるものの、人相手だとどうしても見なければならない相手以外は、プライバシー侵害になると思って控えているとのこと。だが、俺関連のことになると、そこは積極的に見ることがあるのだとか。
 そこは俺のことでも控えて欲しいものだ。

 それで身体が縮小したブルトについては、馬と同様に経験値が入ったことによって、身体の大きさを自在に変えることができるようになったのだった。元の大きさでは、ロップのように頭に乗ることが出来ず、かといってアッシュのように腹にへばり付くことなどできないことに、使い魔たちが待機させられていた所で悩んだ結果、小さくなればいつでも俺と一緒にいられるという考えに至って小さくなったらしい。
 大きさについては、今のところ元の大きさまでしか大きくなれないようでよかった。

「なるほど、ありがとうレイン。皆んなが俺のことが好きなことがよーく分かったよ」
「そうですね。もちろん私も…っと今は自粛してるんでした。ここでミーツさんにお願いといいますか、ヤマトでは必ずしなければいけないことなんですが、使い魔を所持している者は正式に使い魔との契約魔法をしなければならないのですよ。
 下の大陸では、使い魔と本人にしかその繋がりが分からないのを魔法によって、その繋がりを可視化して他の人たちに見せる必要があるのです」
「へえ、そんなのがあるんだ。俺が自ら使い魔にしたくてした訳じゃ無いけど良いよ。その契約魔法ってのやるけど、何処に行けばいいのだろうか」
「それについては皇宮内にあります宮廷魔法科に行けば契約できます。ですが、私が抱えてます宮廷魔法師の所に行けば、わざわざ宮廷魔法科まで行かなくて済みます。
宮廷魔法科には陛下である父上の許可が必要なので、少々手間がかかるんですよ。
 使い魔は正式に契約すれば繋がりを可視化するだけではなく、繋がりもより強固となって、契約の内容次第ですが、主人が深刻なダメージを受けた際、使い魔が肩代わりするといったこともできるのです。
 他にも経験値の分配など、主人が意識的に分けることが出来たりと様々なことが出来るようですね」

 経験値の分配などゲームじゃあるまいし、そんなことができるのか質問したら、とりあえず聞くより体験した方が早いとのことで、彼が雇っているという宮廷魔法師が集う部屋に彼の瞬間移動で移動したら、瞬時に青色のローブを羽織った者たちが議論していた場面に出くわし、突然現れた俺たちに驚くものの、彼の姿に気付いて跪く。

「これはこれは、レイン殿下。本日はどうなされたのでしょう。前回作った監視用の魔導虫が不具合でも起こりましたでしょうか」
「いえいえ、今回は違いますよ。この方の使い魔の契約魔法を行なってもらいにきたのです」
「殿下。お言葉ですが、我らは皇宮魔法師です。
皇族以外の者でしたら街で契約できます。
 わざわざ、我らが行わなくてもよろしいのではないでしょうか」
「何よあんたたち、あたし達より偉いつもり?
 しかも、レインが雇ってあげてて自ら頼みに来ているのに、反論した挙句拒否までする気?レインの専属皇宮魔法師ごときが図に乗ってんじゃないわよ!」

 一人の魔法師がレインの要求に断ると同時に、今まで黙っていたキリサメが威圧と共に怒鳴り声を上げたことで、この場にいる多くの魔法師たちが口から泡を吹いて気絶した。
 その中でもギリギリ持ち堪えた者も、身体を震えさせて自分で震えを抑えようとするも、どうにもできないらしく、土下座をして何度も頭を床に打ち付けて、部下が申し訳ありませんでした!と謝るも、彼女の怒りは収まらない。

 そんな中レインは平謝りをする魔法師に、そこまで謝らなくても良いですが、私の要求を断った彼には皇宮魔法師としての自覚がないので解雇し、これから5年間は下街でも魔法師として名乗るのを禁止にするとのこと。
 ついでに、その断った魔法師の背後でニヤニヤと笑っていた者たちも、解雇しよとしたことで、平謝りをする魔法師にそれだけはご勘弁をと懇願され、未だに怒りを抑えられないキリサメによって中々の殺気を食らって、彼も気絶した。

「もう姉さまは邪魔しに来たんですか!
折角、処分を言い渡していたというのに」
「だって仕方ないじゃない。この皇宮内であたし達は舐められちゃ行けないんだよ?
 それなのにあんたは黙って冷静に解雇処分しちゃうなんて我慢できないよ」
「ふう、もうやってしまったことについては後日また話し合いましょう。姉との言い争いをミーツさんに見られたくないですからね。
 では私のお抱え魔法師たちの処分については後日にするとして、今回は父上の魔法師たちを使いましょう。姉さま、先に父上の所に行って許可を貰ってきて下さい」
「いいけど、あたしは移動系の魔法使えないよ?」
「魔導具も持って来てないんですか?」
「だって実家だし、急いであんたに付いて来ちゃったんだもん。なにも持って来てないわよ」
「姉さまも普段は冒険者として頑張るのは良いですが、こちらに帰ってきたときくらいは皇族としての心構えを持って下さいよ。
 姉さまも、この皇宮がどれほど広いかご存知でしょうに」

 彼はそう言ったのち、気絶している魔法師たちを縫うように避けて、テーブルの上に散乱していた青色の小さな箱を手に取り、俺に魔力の供給をお願いしてきた。言われるがままに箱に魔力を入れて、彼はそのまま箱を彼女に手渡した。

「行って許可取るのは良いけど、父さまは今は何処いるの?」
「ああ、そうですね。えーっと、今は執務室にいますね」

 彼はそう言ったら、彼女は分かったと一言そう言ったのち、瞬時に消えた。





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