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第6章

第21話

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「ゴラァァァ!ミーツちゃん起きろーー!」

 あれから結局のところ、全く眠りに就けないで身支度を完了していたところに、姐さんが扉を開けるなり怒鳴り込んで来た。
 しかし、既に起きているどころか、いつでも出発できる状態で準備を終わらせている俺の姿を見た姐さんは、あらごめんなさいと部屋を退出した。
 あの怒鳴り声でもまだ寝ているヤスドルはそのままで、俺も部屋を出たらアマとアミが部屋の前で待っていた。

「おじさん、昨日は無事に帰って来たんならいいけど、今日は絶対に負けないでよね!
あたし、アイツの所になんか行きたくないからね」
「私はミーツさんを信じてます。今日までに帰って来ることも、今日の決闘でも勝つことを」

 彼女らは、賭けの対象となった自分たちは早めに闘技場に行かないといけないとのことで、それだけ言ったのち、二人同時に俺の手の甲にキスをし、更にアミは背伸びをして俺の首にもキスをして顔を赤く染めて顔を手で覆い隠すアミを引っ張るアマが最後に「絶対勝ってよね」と念を押すように言って足早く走り去って行った。

「ミーツちゃん、あの子たちの言う通り、絶対に負けられないわね。相手は単体でだとあたしより弱いけど、パーティでとなったら、あたしでも手を焼く相手よ。気を付けてね」
「ミーツ、聞いたぞ。パーティ戦で一人で戦うのだとな。いくらミーツでも無謀だぞ。
俺も参戦しよう、今からでも遅くないはずだ」
「そうだそうだ。シオンさんの言う通りだ。
 しかも今回は俺の妹たちが賭けの対象だ。
やっぱり俺も参戦したい。いやするべきだ!」

 彼女らが走り去って行った後にシオンとシーバスが部屋から出てきてそう言うも、今回は俺が一人で戦うと決めて、ミーツと愉快な仲間たちのリーダーとしての実力を闘技場に来た全ての人たちに見せつける必要があると仲間たちの提案を断った。

「じゃあ、俺も行ってくる。ベンチ席での仲間たちの観戦は自由らしいから、今の俺がどれくらいのものか見ててくれよ。
 ただし、どんな状況になっても一切手出しをしないこと!これが条件ね。ここだけの話、最初の戦いは…。いや、今話すことじゃないし、戦いを楽しみにしててよ。
 この決闘を観戦した冒険者たちは、俺たちに手を出そうとは思わないはずだからね」

 俺がそう彼らに話したのち、想像魔法による転移によって闘技場前に転移した。
 転移する前の彼らの反応は待てと言わんばかりに手を伸ばした姿が目に入った。
 仮面は昨日帰ってきた時のまま装着していたままだったため、仮面の付け忘れを心配する必要はなく、闘技場に入る前に辺りを見渡したら、お祭り騒ぎか闘技場周辺に出店が立ち並び、沢山の人たちが楽しそうに今回の決闘について話し合っていた。
 その話の中には昨晩聴いた、俺が逃げたとの話も聞こえていた。

「ミーツさん、もうこちらに来ていたのですか。
中に入られますか?それとも、なにか用事がおありでしたらそれを済ませて来ますか?」

 俺をミーツだと認識しているのか、一人の綺麗な女性が近付いてそう話すのに、警戒して距離を取った。

「あ、ははは、お忘れでしょうか。今回決闘においてのミーツさんの担当のギルド本部のハラミです」

 苦笑いをしている女性はハラミだった。
 三日前に会った時より綺麗であったため、俺に話しかけて来るものだから警戒してしまったが、担当者だと分かると警戒を解いて今日はよろしくお願いしますと頭を下げた。

 そこで、今日の決闘で勝った場合の対戦相手の名前の変更について、どのような名前にするかについて問いかけて来て、まだ話すつもりがなかったのだが、どうしても聞いて起かないと勝った時に発表できないと言われ、渋々こっそりと彼女の耳元で話したら、彼女は吹き出してプルプルと笑いを堪えているようだ。

「あの、本気でそのような名前で発表するのですか?思わず吹き出してしまいましたが…」

 しばらく震えていたが、ようやく落ち着いたのだろう。涙目でそう聞いてきたものの、俺が決めたことに変更はないことを伝えると、分かりましたと若干震えながらそう返してきた。

「あらあら、そこにいるのはハラミさんじゃありませんか~」

 彼女との話が終わった頃、一人のコテコテのケバイ化粧をした女性が近付いて来た。
近くにいるだけで、ツンと鼻につく匂いに息が詰まりそうになるくらいの香水の臭いに数歩後退りした。

「あー、サガリさんですか。今日もケバケバな化粧ですね。今日はよろしくお願いしますね。
恐らくですが、私の担当の方が勝ちますけど」
「凄い自信ですわね。そちらの方が今回の相手でしょうが、今回は相手が悪かったですね。
 しかも、聞いたところ、そちらは一人でこちらはパーティ戦希望って、勝つ気がないのですわね。では、のちほど勝たせてもらう様を見させていただきますわねオーホッホッホッ!」

 サガリと名乗ったケバイ化粧の女性はそれだけを言って去って行った。

「今回は絶対に勝って下さいね。あんな変な名前に変更をされ、しかも相手のパーティ戦希望をされるのですから、余程の自信があってのことですよね」

 彼女にそう言われ、無言で拳を前にガッツポーズをし、勝つと宣言する。
 彼女は頭を下げて、では後ほどと言って、入場するのに必要だという決闘と書かれたカードをくれて闘技場の中に入って行った。
 残った俺は出店で何か買って食べようと思って、出店を見て回っていた。

「あれあれ、どうしておじさんが先に来てるの?」

 出店を見て回っていたらアマとアミに出会った。アミは先程のことがあってか、俺の顔を見れないようで、アマの身体の後ろに隠れるように姿を隠した。

「どうして先に出たあたしたちが、おじさんより遅いの?って、まさかおじさん転移屋に行ってないの?」
「転移屋って初めて聞いたけど、どういう所だったんだ」
「高いお金を払って転移してもらう所だよ。
この前宿に帰った時に使って帰ってきたのに憶えてないの?今日は、あたしたちの後はめっちゃ並んでたんだよ」
「へえ、そんな所があるんだな。あの時はアマに付いて行くので全く周りを見てなかったんだよ。先に俺が来ていた件なら、この闘技場に下見に来ていたから宿から直接転移してきたんだ」
「ずっるーい!ずるいずるいずるい!おじさんがいれば、高いP払わなくて良かったじゃん!ね、アミもそう思うでしょ!」

 転移について話したら、ずるいを連呼するアマがアミに同意を求めるも、恥ずかしがっているアミは真っ赤な顔をして無言で闘技場の方に走って行った。
 アマはそんなアミを追いかけて行く直前に、決闘後はおじさんの奢りで美味しいの食べさせてよね!と言って闘技場の中に入って行った。

 残された俺は闘技場の中で食べる用に、出店で食事を購入し、闘技場の選手用入場口でハラミに貰ったカードを見せて中に入ってしばらく道なりに進んで行ったら、幾つもの扉が並んでいたものの、そのうちの一つにミーツ控え室と書かれた扉を見つけ、扉を開けたら見覚えのある男が腕を組んで立っていた。

「あ?てめえ誰だ?おっさんの助っ人か?」

 今日の決闘相手だった。

「俺がミーツだよ。訳あって仮面を被って戦うつもりだけど、ダメかな?一応、確認のため、戦う直前に顔をキミたちのパーティのみ見せても良いけど、どうする?」
「ケッ!そんな必要ねえよ!その声であの時のおっさんだって分かるぜ。俺がここに来たのはなあ。おっさんとこのアマとアミ以外に、シオンとシーバスも貰ってやると言いに来たんだぜ。俺様の所の三軍パーティに入れて、斥候扱いにしてやんよ。アマとアミは俺の性奴隷だけどな! ギャーハッハッハ!
 でも、いくら強くてもダンクのカマ野郎と、男娼にしかならねえ士郎は要らねえけどな!
 あとは、オーガもどきの魔物野郎も要らねえな」

 彼の言葉に心底腹が立って、思わず殺気を放ってしまったら、彼はビクリと青ざめた表情になったものの、俺も彼の言動に許せず、俺の言いたいことも言おうと口を開く。

「キミは俺の逆鱗に触れた。俺はキミを容赦なく潰す。でもとりあえずのところ、最初は手加減してやるよ。早く潰しても観客もつまらないだろうしね。
 それに今回の決闘について、キミはとても後悔することになると思うよ」
「ケッ!テメエは名前の変更と死んでも名前の変更が出来ないとか、くだらねえのが希望だったな。俺様『チダンカダス』様の名をどう変えるつもりか知らねえが、俺様に勝とうなんざ何回転生しても無駄なんだよ!」

 彼はそれだけを言い残して、扉を蹴り壊して出て行った。残された俺は壊れた扉をI.Bに収納して想像魔法で新しくて頑丈な扉を出して取り付けた。
 出店で買った食事は冷め切っていたが、肉串や焼きそばなど、冷めても美味で、決闘が終わっても出店があれば購入しようと思いながらも、先程の怒りを鎮めながら黙々と食べ続ける。

「ミーツさん、そろそろ出番ですが大丈夫でしょうか?」

 食事の途中だが、ノックの音と共にそう声が掛かった。声からしてハラミだ。

「ああ、まだ食べ切れてないけど大丈夫だよ」
「ヒィ!ど、ど、どうささささされたんでしょしょしょうか?そ、そ、そ、そんなに殺気立って」

 扉を開けて姿を見せたら、ハラミは吃りながら尻もちをついた。この時、自分の怒りがまだ沸々と煮えたぎるように沸き出しているのに気付いたものの、まだ冷静になれない自分自身に喝を入れるために、仮面を外して自分の頬を思いっきり殴った。
 それによって、口の中が切れて歯も何本か抜けたが、自身の想像魔法によって歯を再生させて冷静を取り戻し、仮面を装着し直した。

「済まないね。つい先程、今日の決闘相手が俺を挑発してきて、その時の怒りが中々鎮まらなかったんだ」
「そ、そうだったんですか。物凄い殺気でしたので驚きました。あ、あの、出番ですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ大丈夫だよ。結界が張られていても、結界を破ってでも殺してしまいそうになるくらいにね」

 そう俺が言うと、彼女はビクリと身体を震わせた。身体だけじゃなく、手も震わせながら、控え室の中に設置してあるボタンを押したら、控え室自体が動き出した。

「この控え室の壁が開きますので、開いたら出て行って下さい。闘技場のグラウンドに出ます。因みにですが、この部屋は何か問題あった時のために記録されてます。
 私は実況席で対戦相手担当のサガリと一緒に見守ります。実況は別の者がしますが、どうかご武運を。
 そして、貴方が無事に勝利したその時、この控え室で起きた一部始終を流します」

 彼女がそう話したのち、控え室の壁の一面が開いて、闘技場のグラウンドが見え、そのまま進んだら大きな歓声が上がり、相手も歓声に応えるように手を振ったりしている。

「さて今回の決闘は、今波に乗っていると過言じゃないパーティ『俺様伝説』のチダンカダスと、長いこと不在だったリーダーの『ミーツと愉快な仲間たち』のミーツがお互い大事なものを賭けての戦いだあ!」

 何処からともなく闘技場全体に響くように声が聞こえた。これが実況かと思いながらも、相手を見ると、彼がニヤけた笑いをして中指を立てたりして挑発しているのが分かったものの、俺は最初の戦いは本気どころか、手加減して戦ってギリギリで勝つという演出をやろうと思っていた。 変更後の相手の名前を聞けば、もう一度戦いたいと思わせるような名前を思い付いていたため、もう一度戦えば勝てると思わせる必要があるのだ。
 もう一度戦いたいと思うのは、相手の名前だけじゃなくパーティ名も変えて、解散が出来ないようにするのが俺の今回の本当の目的だ。
 そのうえでまた更に戦いたいと思わせられたら、その時は俺の仲間たちに全裸で土下座でもさせて謝罪させようと思うが、恐らくその可能性はないだろう。
 何故ならば、二回目の決闘では本気を出して、更に執拗に痛め付けるからだ。

「さあ、久々に行われる決闘は、まさかの陛下を含む皇族の方々まで観戦にこられる注目の一戦!
 陛下はどちらが目当てかは、分かりませんが、決闘の合図の鐘が今、鳴らされました!
 おや、今回俺様伝説のパーティは、リーダーと一緒に出ているのは二軍ですね。
 この辺りは担当のサガリさん、どうしてかお聞きしてもいいですか?」
「ふふふ、それはですね。いくら拳聖のダンクがいるパーティだからって、今まで噂も聞いたことないリーダーが現れ、ここ数日の間、冒険者としての活動を一切しなかったとのことで、大したことのないのだと判断したのですわ!
オーホッホッホッ」

 実況の言う通り、鐘が鳴っても相手に動きはなく、他のメンバーも動かないまま決闘が始まったが、動きがない事で彼は笑いながら片手を上げたことで、戦闘開始の合図か、大きな火炎弾が空から降り注ぎ出した。魔法の詠唱が無かったところをみると、無詠唱での発動のようで、グラウンドに降り注ぐ火炎弾に観客たちは湧いた。

 ここは同じように火炎弾で相殺してもいいが、ギリギリの戦いを見せるためには、あまり魔法は使わない方がいいだろうとの判断で降り注ぐ火炎弾を避けて行きながら、わざと数発腕や足に当たってダメージを負ってみる。
 腕や足は軽い火傷を負ってジンジンと痛むも、回復魔法で軽めに癒す、そうすることで大した魔法が使えないと印象づける。

「ハッハッハ!殺気だけは超一流だが、やっぱり雑魚だったなあ!」

 彼は俺が実力を隠しているのを気付かず、思いっきり油断している。
 だが、ここで油断した彼に勝っても、ギリギリの戦いにはならず、彼も魔法を発動させ大きな火炎玉で逃げ惑う俺に追撃をする。
 ここで、初めて俺も拳に魔力を纏わせて追撃する火炎玉を殴って霧散させ、俺自身が火炎に包まれて全身火傷を負うも、すぐさま治療する。

 そうやって、何度も攻撃を喰らっては治療するといった行動を繰り返した結果、俺の手足はボロボロに黒く焼け焦げ、決闘前に食べた物も吐き出し、身体は大量の汗と擦り傷だらけになったところで反撃開始とばかりに、バカの一つ覚えみたいに火炎弾を繰り出す彼のメンバーたちの元に苦し紛れに出したように見せた氷の槍を放つ。

 氷の槍は並大抵の攻撃では破壊できないよう魔力を込めた氷で、放った氷の槍は彼のメンバーに突き刺さって一人退場した。
 彼のパーティは彼入れて全部で六人。
 残りは五人だが、彼は一人くらいとまだ油断しているところの隙を見て、魔法を放つために固まっている彼のメンバーたちの元へ放たれる魔法を避けながら近づき、至近距離で一人一人に氷の槍で貫いて退場させた。

「チッ!死にかけの奴にトドメを刺せねえなんて使えねえ奴らだぜ!やっぱ、二軍は二軍だな」

 彼はそう言ったのち、今まで抜かなかった剣を抜いて、彼一人になったところで斬りかかってくるも、これも紙一重で無様に転げながら避ける演技をしながら、反撃してラッキーパンチ的な一撃の機会を伺う。

「クソがあ!ちょこまかと逃げやがって!」

 頭に血が昇ったのか、キレ気味に剣を振る速度が上がったものの、振る動作が大雑把になってきたことで、剣を振り切った隙を見計って、身体ごとタックルしてぶつかり、観客たちから見えないように高速で彼の腹に超手加減した拳を打ち込む。

 彼も何が起きたか分からない様子で嘔吐し、口周りが吐瀉物だらけになったものの、腕で拭って無詠唱で火炎弾と氷の塊を放つ。
 俺がまたも転げながら避けると、避けた先で待ち構えて剣で斬りかかって腕が一本斬り飛ばされた。
 一瞬、結界の外に弾き出されるかと思ったら、この程度ではまだ大丈夫なことに安堵し、止血に回復魔法を使った。
 彼はまたも同じように魔法を放って逃げた先に待ち構えるといった戦法を使ったが、今度は結界から弾き出されると思って、転がって逃げた先で待ち構える彼の顔に向かって、焼けくそ気味で放たれたように見せかけた氷の槍が貫き、彼は結界の外に弾き出された。

「おおっと!予想外にもチダンカダスが結界外に弾き出されました!これにより、ミーツと愉快な仲間たちのリーダーのミーツの勝ちが決まりましたーー!」

 実況がそう言った瞬間、ふざけんなあと野次が飛んで聴こえてきた。観客の誰もが俺が勝つと思っていなかったようで、金返せとか聴こえてくるところをみると、今回の決闘でどちらが勝つかの賭けがあったようだ。

「さあ、ここで賭けの対象となったアマとアミの姉妹はミーツの元にに走って行きます。
 そして、同じく賭けの対象となったチダンカダスの名前の変更について、ミーツの担当のハラミさんに聞きたいと思いますが、どのような名前かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私も初めて聞いた時は笑いを堪えるのを必死でしたが、皇族の方々がいる前で発表していいものかと思いますが、ミーツさんの意向を汲んで発表させていただきます!
 今回、ミーツさんが彼の名前の変更に考えた名前は『チンカス』です!チダンカダスの『ダ』を抜いただけらしいですけど、私は初めて聞いたときは吹き出しました」

 実況者とハラミの発言で闘技場が一瞬、静まり返ったものの、闘技場全体が揺れるほどの大笑いが湧き起こった。
 腹を抱えて笑い転げる者もいて、なんとも面白い風景に満足して見ていたら、駆け寄ってきたアマとアミに抱きつかれた。

「ミーツさんのバカバカバカ!私たちのためなんかに、なんでそんなにボロボロになってまで戦うんですか!」
「おっじっさーん、あたしは信じてたよ~。
でも、なんで手加減してたの?普通に戦ったら勝てるのになんで?なんで?」

 ポロポロと涙を流すアミとは対象的に笑顔のアマ、二人の言葉に先に安心させるようにアミの頭を撫でて落ち着けと言いながら抱き付いたら、徐々に落ち着いたものの、顔が真っ赤に染まった。
 アマの問いかけに本当の俺の目的を伝えると、アマはケラケラと笑い、アミは怒ったようにたったそれだけの為にそんなボロボロになったんですか!と俺の胸をバシバシ叩いて来た。

「痛い痛い、痛いって!今、こんなに叩くなって!こんなの結界の外に出たら治るんだからさ」
「ああ!ご、ごめんなさい。でも、やっぱりミーツさんのバカみたいな行動は許せません。
 それに、あの人はもっと許せません」
「アミったら固いんだからあ。あたしはおじさんの作戦には賛成だな。それでそれで、次は本気でやるんでしょ?おじさんがどんな戦い方するか楽しみだよ」

 アミは叩いたことについて謝ったものの、チンカスについて許せない気持ちが強いのか、結界の外で怒りで仲間たちに暴力を振るっている彼を睨みつけている。
 アマは変わらず笑いながら、次の戦いについてワクワクしているようだ。

「クッソがああああああ!こんなの認めねえぞ!偶然の一撃で勝った分際で勝ち誇りやがって!大体、お前たちが油断すっから行けねえんだぞ!
 もう一度だ!もう一度の決闘を求める!
 今度は一軍を出して本気だ!賭けの対象は名前だ!誰がチンカスだあ!死んでも変更なしだと?ふざけんなあ!」

 結界の外でそう叫ぶ彼の声は、俺には聴こえるが、闘技場で笑い響く声にかけ消されて観客たちは勿論のこと、実況者たちにも聴こえてないようだ。そんななか、皇族が観戦していた特別席の垂れ幕が上がり、豪雨とレインが姿を見せ、豪雨が手を挙げるのと同時に闘技場全体が地震でも起こったかのように揺れて、笑っていた者たち全員が黙って椅子にしがみついた。

「へ、陛下のお言葉です!皆さん、陛下のお言葉をお聞き下さい」

 実況者がそう言うと、豪雨は静まり返った闘技場を一瞥し、深い呼吸をしたあと口を開いた。

「中々に楽しめた戦いであった。我ら皇族の友人ミーツ殿の実力はこんなものではないのは、我らがよく知っている。
 それにも関わらず、どうしたものか。
 ミーツ殿の対戦者よ、再戦の意思はあるか?有れば、次なる賭けの対象を決め、もう一度対戦し次こそは勝ってみせるがいい」

 そう豪雨が言うことで、チンカスが先程掻き消された言葉を口にし、その言葉に闘技場全体がまたも湧いた。

「ミーツ殿は何を賭けの対象とするのだ」

 闘技場全体が騒ぐ中、また落ち着かせるように地震を起こして静まりかった頃、豪雨はそう言ったあと、俺の次なる要求を口にする。

「俺の次の要求はそこのチンカスのパーティ名の変更と、変更後の解散出来ないようにすることだ。メンバーの脱退は認めるが、チンカス一人になっても解散出来ないようになるのが、今回の俺の希望だ。それに次も俺一人で戦うから、そちらは一軍と二軍両方を出して挑んで構わない。ただし、戦闘の内容は俺に決めさせて欲しい」

 俺がそう口にすると、望む所だあと彼は怒鳴り、一度結界の外に出て身体の怪我を全快し、アマとアミにベンチで観戦するように押しやった。次の決闘の内容は、結界の外に出てもすぐさま参戦できるようにし、降参や参ったなどの負けの言葉をしない限り、何度も戦えるようにすることで決定した。

 チンカスのパーティは元からいた二軍に一軍が加わって、総勢十一人にもなった。
新たに入ってきたのは、ギルド本部地下ダンジョンで見た五人の女性だらけで、二軍は男女の混合パーティである。
 彼のパーティは完全ハーレムパーティというわけではなさそうだが、一軍の面々を見る限りでは綺麗どころが多いところ、普段はハーレムパーティとして活動して、ここ一番の戦闘の時に二軍をも入れての戦闘をするのだろうと予想できる。つまり、彼が二軍と言っていたのが本来の一軍の戦闘力であることだと予想する。

 一軍はダンジョンで見た感じの面々で、戦い方を思い出してみても、二軍の方が優れていたと思ったからだ。 二軍は火炎弾を降り注ぐだけの戦法をしていただけに、一軍入れての戦い方はどのように戦うのだろうかと思いながら戦闘開始の鐘が鳴るのを待つ。

 緊張の中、鐘が鳴った途端、向こうのパーティの一軍が一斉にチンカスに向かって魔法を放ち、二軍は最初の戦いと同じ戦法で火炎弾を放ち始める。 リーダーである彼は、魔法を受けたことにより、光り輝いて二本の剣を手に全力で向かってくるものの、今回は俺も手加減なく全力でやるつもりであるため、向かってくる彼を無視して、先ずは、後方の二軍の火炎弾を放ち続ける男を先に腕と足をへし折って、痛みで魔法を放てないようにして行った。
二軍の女性の方も女性だからといって、加減は一切しない。
 一瞬で男同様に両手の指をへし折った。
 彼らが結界の外に弾き出されないギリギリを狙いながら、戦意喪失になるように仕向けるも、一軍が二軍を回復して戦線復帰させて行くか、わざとトドメを刺して結界外に出させて復帰させて行った。

 今回は結界から弾き出されても、また参戦できるようにしているため、万全の状態で復帰した彼らは復帰した途端に火炎弾以外に氷の矢も降り注ぎ始めて行くのに、復帰した者たちから順番に手刀で心臓や首を突き刺したりへし折ったりして結界から弾き出すも、そうした場合なにが起きたか分からない彼らはすぐさま復帰して行く。

 その間、逃げては避け続ける俺を怒りの形相で追いかけるチンカスは時折、炎や石飛礫の魔法を放つも、威力は分からないが簡単に避けられる速度の魔法は復帰したばかりの仲間に当たったりして結界外に出されたりするも、そういうのはすぐさま復帰する。

 色んな方法で倒せることに段々楽しくなって行って、今度は想像魔法によって重力を操って一瞬にしてグラウンドにいたチンカスを含めた全てが潰れた。彼を含め、何が起きたか分からない様子だったものの、すぐに結界内に戻って復帰するも、復帰した側から、彼の仲間たちが視認できる速度で想像魔法で出した斬れ味が悪い剣で斬って、結界の外に弾き出されないギリギリの所を狙って降伏するよう誘う。

 仲間たちも回復が得意とする子がいたりして、回復していくが、そういう子を率先して斬って行ったりした場合、観客たちの野次で弱いのばっかり狙うな!とかが聴こえ、なんとも攻撃しにくい感じになることでこちらが躊躇してしまい、一瞬一瞬止まったりした時にチンカスが好機と思って剣を振り上げて向かってくるものの、カウンター気味に腹を蹴飛ばして一発退場させる。

 ここは派手な魔法で観客たちにも実力を見せつけてやろうと、彼らが最初に火炎弾を降り注いだみたいに俺も闘技場のグランドほどの大きさの炎の玉を作ってそのまま落とした。
 俺は自身の身体を守るために魔力で保護シールドをしているため無傷だが、あれだけで俺の桁違いの魔力が分かったようで、チンカス以外のメンバー皆んなが怯えた表情をしだしたところで、チンカスを除いたメンバーに強めの殺気を飛ばしたら、皆んな一斉に気絶した。

 気絶では結界内に留まっているため、チンカスの攻撃をギリギリのところで避けては気絶しているメンバーを想像魔法で出した鉄の棒で殴り飛ばして結界外に出して、気絶しない程度の殺気を飛ばしたところで一斉に降参を宣言した。
 降参を宣言したのを間近で見た彼は、仲間たちに後で折檻だからな!と怒鳴りつけていた。

「元々、キミがうちのメンバーをバカにした態度をしたのが原因なんだ。俺とキミだけで戦うのが本当なんだからキミが仲間たちに折檻とか何考えているんだ」
「うるせええええ!誰がチンカスじゃぁぁぁ!」

 二人っきりになったことで、彼にそう諭すも、彼は聞く耳を持たず、名前のことでブチ切れていて、剣を振り回しながら向かってくるものの、素手で剣を受け止めて結界の外に弾き出されないよう、腹を殴って呼吸困難になったのを確認したのち、喉を超手加減して殴って潰す。

 そうすることで降参と言えなくして、足を折って機動力も封じる。彼は声にならない言葉を喚き、なんて言っているか分からず、指一本一本をへし折って腕もゆっくりとへし折る。
 声にならない叫び声を上げ続けるも、そろそろ結界の外に出して回復してもらおうと背中を踏んで、ここでまたゆっくりと徐々に力を入れて背骨を踏みつけた。
 地面に足が付いたのを確認したところで、彼が結界の外に弾き出されたのが見えて、結界の外に弾き出されたところに行き、彼の頭を掴んで結界内に引きずって入れて再度、同じことを繰り返す。

 彼の仲間たちの目の前で俺がそうするものだから、悲鳴や目を伏せる子が出始めたことで、やり過ぎたかと思って結界の外に出た彼の様子を見たら、彼は恐怖に怯えた表情をしていた。
だが、俺の行動は止めない。
 怯えた表情でガタガタ震えている彼を転移によって、俺の側に引き寄せて喉を潰し、彼のみにしか見えないように石板で憶えた魔法の幻覚魔法を使って、彼がこれから俺に数百回さまざまな方法で殺される幻覚を殺気を込めながら行って、首を刎ねて退場させた。

「参りました!降参します!俺が悪かったからもう止めて下さい!お願いします!」

 退場した彼は叫びながらも辺りを見回して、安全だと分かると、土下座をしながら降伏して謝りながら小便を漏らしていた。
 彼以外の人たちにとっては、俺が幻覚魔法を使って首を刎ねるまでの動作は一瞬の出来事だっただろうが、彼にとっては幻覚を見せられたのが数十時間~数日間に感じられたことだろう。 だから安全地帯に戻った瞬間に自我を取り戻して降参を宣言したのだ。
 今後、彼は俺を思い出したり、俺の名前を聞く度に身体が震えることだろう。
 謂わば、トラウマをしっかりと植え付けたのだ。最後に転移で彼の元に行き、彼と彼の仲間たちに「次にまた決闘することがあったら、次はもっと容赦なく潰す」それだけ言って元の立ち位置に歩いて戻った。
 立ち位置に戻ってからというもの、途中から気が付かなかったが、実況どころか観客の声が聞こえず闘技場全体が静まり返っていた。

「よい。戦いであった。流石ミーツ殿である。
冒険者であるミーツ殿は、仲間を馬鹿にされたことで今回このような決闘をし、完膚なきまで痛めつける所業見事なり!我の友人でもあるミーツ殿の今後の活躍を聞くのが今からでも楽しみである」

 静まり返った闘技場内で大きく拍手をしながら、そう言葉を発する豪雨の言葉に闘技場内の観客たちはざわめき始めるも、実況者が陛下のお言葉ありがとうございますと礼を言ったあとに、ここで一つミーツ選手の決闘に至った行動の理由についての証拠をお見せしますと、ハラミからダンジョンでの監視用の玉を受け取って、闘技場の上部に浮かせたら、俺と彼とのやりとりが闘技場グラウンドの上部で映像となって流された。

 俺の顔は黒く見えないように加工されているものの、映像を見る限りでは、ギルド地下ダンジョンでのあの時の出来事そのままのことが流された。しかも、決闘前の闘技場の控え室で彼が俺に言った映像も流されて、既にボロボロの彼に観客から非難の声が多く浴びせることになった。

「皆さんお静かに!ここで、再度何かを賭けた決闘で、ミーツ選手が相手に求める物についてお聞きしたいと思います」

 実況者はそう言ったのち、グラウンドにいる俺の元に輪っかが降りてきて、さあコメントをお願いしますと言われ、この輪っかに話しかければいいのかと思って口を開く。

「えー、先ほどの映像の通り、彼らと戦うに至った経緯について知ってもらった次第です。
 それで名前の変更は最初の名前で死んで墓石に刻まれる名前も、あの名前にしてもらいたいと思っています。
 それで、二度目の決闘についての賭けですが、彼のパーティ名の変更と、パーティメンバーの脱退はあっても生涯解散ができないようにすることです。つまり、一人になってもその名前でやってもらうとのことです。
 まず変更後の名前は『チンカス伝説』にしてもらいたく思います」

 俺が輪っか型マイクを使ってそう通してそう言うと、観客たちはクスクスと笑う声が聞こえ始める。実況者は気まずそうにしながらも、分かりましたありがとうございますと言って輪っか型のマイクを自分の手元に引き寄せた。

「ミーツ殿の容赦ない戦いに盛大な拍手喝采を送ろうではないか!」

 再度大声を出して発した豪雨のその言葉に、闘技場内は盛大に拍手をし、俺を褒め讃える声が聞こえ、その拍手喝采のなか、皇族の面々が顔を隠した状態で退出していくさまが見えた。
 流石に今回、幼いミゾレやアラレは見られないものの、レインとキリサメの姿が顔を隠していても居たのが分かった。
 彼らは俺に手を振ってあと消えた。
 恐らく転移したのだろう。

 冷めやらぬ拍手喝采に俺も手を振りながらグラウンドを退場して、ベンチにいたアマとアミ、それにいつの間にか来ていた姐さんとシオンとシーバスが笑顔で迎えてくれた。

「おじさん、中々容赦ないね。あたしでもドン引きだよ。でも面白った!」
「私はミーツさんのことを信じてました。
 私たちのことを性奴隷にしようと思っていたなんて、本当に死ねばよかったのに…。
 どうせならミーツさんの性奴隷になりたいです」
「あらあらあら、アミちゃんったら厳しいわね。
でも、ミーツちゃん、本当にあたしでも敵わないくらい強くなっていたのね。今度本気の手合わせをお願いするわ」
「ミーツが俺と出会って、初めてステータスを見せた最弱の頃と比べたら、今のお前はとんでもねえんだろうな」
「うおおおお!俺の妹たちを任せられるのはミーツさんしかいねえぜええ!
 あ、やっぱ今の無し、ミーツさんが俺の義弟とか嫌だ」

 笑顔で出迎えて来てくれた仲間たちはそれぞれコメントしてくれたものの、シーバスとアミの言葉に引っかかるが、敢えてスルーした方がいいと判断し、出迎えてくれた仲間たちと共に闘技場を後にした。
 アミだけが俺の腕に密着して歩きにくいと思いながらも、彼女の好きにさせて置いた方が良いと判断してそのままにしておいた。


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