ローザタニア王国物語

月城美伶

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Jardin secret ~秘密の花園~

第19話

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  ビストリツァの街の中心から20分ほど馬を走らせると辺りは自然に囲まれ緑豊かな風景が広がりだします。そして更に進んで行くと、森に囲まれた小高い丘の上にポツンと大きな古びたお屋敷がポツンと一件、ひっそりと森に溶け込むように建っておりました。
その屋敷の周りには色とりどりたくさんのバラが植えられており、ほのかに甘い香りが辺りを包み込むように漂っているのでした。
お屋敷には大きなガラス窓にアイアンで細やかな植物の装飾が施されております。
その窓からお屋敷の中を覗いて見ますと、そこにはアンティーク調のミントグリーンのクッションが貼られたソファーに腰かけてうたた寝をしているカルロ伯爵の姿がありました。
お疲れなのでしょうか、襟元を少し開いて砕けた格好でスゥ…と寝息を立てながら長い睫を伏せて眠っておりました。
ノックの音が数回部屋にこだましたがカルロ伯爵は気が付かずにそのまま寝入っております。しばらくして遠慮がちにドアが開き、おずおずとロイが中を覗きながら入ってきました。

「カルロ様…」

そっとお声を掛けてもカルロ伯爵は反応せずにスゥスゥと寝息を立てております。
お休みのところ申し訳ないと思ったロイはすぐにお部屋から退散しようと思いましたが、お部屋の手前の本棚に入れてある本が大量に床に置かれて―――…と言うよりかは散乱する形でたくさん置かれているのが目につきました。

「そう言えば…昨晩もカルロ様のお部屋、遅くまで灯りがついていらっしゃったけれど…そっか…ご本を読まれていたんだ…」

ロイはふと、昨晩カルロ様のお部屋の灯りが付いていたのを思い出しました。いえ、昨晩だけではありません。こちらのお屋敷に来て以来、カルロ様のお部屋の灯りは遅くまで着いていることが多かったのを思い出しました。
チラッと、カルロ様の方をロイは振り返りました。まだスゥスゥと静かな寝息が聞こえてきており起きる気配はなさそうです。
お疲れなのだから片付けて差し上げようと思いそっと静かに床に散らばっている本を手に取り本棚に直しはじめようとしました。

「…難しそうな本だけど…何の本だろう?」

ロイは黒い革に金の文字で何か書かれている表紙の本を手に取ってパラパラと手に取って捲ってみましたが、簡単な読み書きしか習っていないロイは本の中に書いてある内容が難しすぎて何が書いてあるのかさっぱり理解できませんでした。

「興味ありますか?」
「…っ!カルロ様!」

ソファーから顔だけ起こして、自分の背の方にある本棚の前で唸っているロイの姿を見てカルロ様は優しく微笑まれます。眠りこけていると思っていたのに急に声を掛けられてパッと本を手放して床に落としてしまうくらいロイは驚き、顔を真っ赤にしてカルロ伯爵を見返しました。

「その本はね…薬に関する本です。古今東西あらゆる種類の薬について載っているんです」
「薬の本…」
「えぇ。薬と名の付く物であれば毒だって載っています」
「ど…毒っ!?」
「毒だって使い方によっては良薬になったりする場合もあるんですよ」
「…」
「その本はとても貴重で大事な本なので丁重に扱ってもらわないと困ります」
「す…すみませんっ!」

ゆっくりとソファーから身体を起こし、カルロ伯爵はロイが落とした本を拾い上げて本についた埃を払いました。すっかり恐縮してしまったロイは縮こまってしまい肩を竦めております。

「いえ…まぁ置きっぱなしにしていた私が悪いんです。ここ最近忙しかったとは言え…大切な本を放置していたのを君が片づけてくれたのにね」
「いえ…」
「それはそうとロイ…今日は体調がよさそうですね」
「あ、ハイ。昨晩…僕が休む前にカルロ様にエネルギーを分けていただいたので…」

スッとカルロ伯爵はロイのお顔に手を置いて肌つやの感触を確かめました。少し恥ずかしそうにうつむくロイはカルロ伯爵の手にそっと自分の手を重ねてその温かさを感じております。

「昨晩は有り余るくらいのとても強烈なエネルギーをいただきましたからね。虚弱体質の君にも分けてあげないとと思いまして。倒れられると困るんでね」
「…はい…」
「でも…ちょっと強引にエネルギーを注いだからしんどくないですか?」
「…大丈夫です。あれくらい…平気です」
「そうですか…。君はととても小さくて華奢だから…強く抱きしめすぎていつか壊してしまうのではないかと心配してしまいます」
「カルロ様…」
「まるでシャルロット様と同じくらい…繊細で華奢で…愛らしい…」
「…」

ロイの顔が一瞬強張って固まったのに気が付いたカルロ伯爵はフフフ…と微笑み、ロイを優しく抱きしめるとそのままそっと優しくロイのさくらんぼのように赤く瑞々しい唇るに指を添わせて撫でました。いきなりの事に驚き、ん…っとロイは少し声を出してその身体にピリッと走るこそばさに身もだえします。
そんな様子をご覧になったカルロ伯爵はニヤッとカルロ伯爵は悪戯っ子ぽく微笑み、頬を赤く染めてピルプルと震えているロイの顔を覗き込みます。

「分かりやすい子ですね、君は。そう言う素直なところがとても好きなんですよ」
「カルロ様…っ!」

さらにお顔を真っ赤に染めてロイはからかうカルロ伯爵に怒るように声をあげました。カルロ伯爵はそんなロイを笑い飛ばし、さらにギュッと抱きしめるとそのまま二人でソファーに飛ぶように腰かけます。

「あははは…少しからかい過ぎましたね。それはそうとロイ…この先はなかなかハードな日々になりそうだと思います。近々たくさんお客さんが尋ねてくると思いますので粗相のないようにお願いしますね」
「お客さん…ですか…?」
「えぇ…。頼みますよ」
「はい…」
「良い子ですね。じゃあご褒美として…もう少しエネルギーを分けてあげましょう…さぁ…ロイ」

カルロ伯爵は首筋に掛かっている自分の髪を払い、襟元を広く広げてロイの前にスッと差し出します。ロイは躊躇い、困惑した表情でカルロ伯爵を見つめ返します。

「私は大丈夫ですから…」
「でも…」
「さぁ…」
「…」

フッと優しくロイに微笑みかけ、カルロ伯爵はロイの頭にそっと手をやり自分の首筋の前まで誘導しました。そっとロイの白くて細い指がカルロ伯爵の首筋に沿わされると、伯爵はその指の冷たさに、フフフ…とまた余裕の笑みでロイを見つめます。

「カルロ様…」
「遠慮しないでいいんですよ、ロイ…」

ロイは上目づかいで伯爵を見つめると、伯爵はロイの柔らかな栗毛色の髪を愛おしそうに撫でて優しく微笑みます。その笑顔にほだされてきたのか、ロイは覚悟を決めるようにゴクッと唾を飲みこんでそっとカルロ伯爵の首筋の少し赤くなっている痣がある部分に自分の唇をあてがいスゥ…っと大きく息を吸いそのままキスするかのように唇を這わせました。
ん…っとカルロ伯爵は溜息のように艶やかな息を吐き、お顔をのけ反ってジワジワと感じる何とも言えない感覚を楽しみます。そしてためらいがちではありますが一生懸命エネルギーを吸おうとしているロイを見てフッと微笑むとロイの頭を愛おしそうにギュッと抱き寄せました。

「美味しいですか?私のエネルギーは…」
「…甘くて…でもどこか苦くて…そして頭がくらくらしそうな程…なんだか濃い…です」
「くらくらする…?」
「カルロ様…何だか身体が変です…」
「他には?」
「…身体が溶けてしまいそうです…」
「媚薬みたいでしょう?」
「飲んだことないから…分かりません」
「ふふふ…まぁそうですよね。…上質なエネルギーを摂取するとそうなるみたいです。昨晩大量の強いエネルギーと…そしてとても上質で極上なエネルギーをいただいてきましたからね」
「あのお姫様…ですか?」
「えぇ。純真無垢な乙女のエネルギーほど良いものはありませんから」
「…」
「…私たちはあのバラの花だけではエネルギーを長期に維持できない。定期的にどこかから調達していかないと…。ロイ、君はまだ人からエネルギーをもらうことをしたことが無い。今から練習しておかないと」
「…練習…」
「来るべき日の為に…」
「…来るべき日…」
「さぁ準備にとりかかりましょう…」

カルロ伯爵はクタッと雪崩れるように倒れ込んだロイの身体を抱きフッと笑いました。そしてそのままロイの髪を掻き分け、おでこにそっとキスをされました。
恥ずかしさの余りにお顔を真っ赤になったロイは倒れながらもそのお顔を隠そうと必死にずり下げようとします。
それをカルロ伯爵は許さず、再びロイのお顔を自分の方に向けさせました。

「…カルロ様…」
「君は本当に可愛い子ですね、ロイ。どうかずっとこのままでいてください」
「…ハイ」
「ふふふ…良い子です。さぁロイ…もっとご褒美をあげましょう」
「カルロ様、これ以上は僕は無理です…」
「大丈夫ですよ。優しくしてあげますから」

カルロ伯爵はそっとロイのブラウスのリボンに指を絡めて引っ張り、スルッと抜き取りました。ロイはもう何が何だか訳が分からず、ただお顔を真っ赤に染めてカルロ様の金色がかった妖しい瞳を見つめております。

「…カルロ様、僕はもう…貴方のその瞳に囚われてしまったんですね」
「私も君のそのヘーゼルナッツ色の愛らしい瞳が愛おしくて仕方ありません」
「カルロ様…僕は―――…」
「もう何も言わなくてもいいですよ、ロイ」
「カルロ様…」
「愛していますよ、誰よりも…永遠に―――…」

カルロ伯爵はロイの滑らかな頬に指を這わして愛おしそうにそっと撫でております。
ロイもそれに応えるようにカルロ伯爵の手に自分の手を重ねました。
お二人はそのままお互いを愛おしそうに見つめ合いながら身体を寄り添わせていたのでした。

窓の外ではどんよりとした雲が更に濃くなっていき、空からはポツポツと雨が降り出してきました。まるでそれは涙の雫のように乾いた地面に降り注いでいったのでした―――…。
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