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Jardin secret ~秘密の花園~
第20話
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ポツリポツリと降り出した雨は次第に雨脚が強くなっていき、厚い雲が空を覆い何だか重苦しい空気を纏い地面に降り注ぎはじめました。そんな最中、ナルキッスの要人たちとの会談を終えて一息つこうとウィリアム様とヴィンセントは少し湿って重苦しい空気の中を宿泊している別館へと戻って来られました。
「…実《み》のあるようでほとんどない会談でしたね」
「議題に則って話していたのは最初の10分だけだったからな」
「後の30分はほぼどうでも良いしょうもない話でしたね…。基本的にくだらない無駄な話ばかり聞かされて頭が拒絶反応示しておりましたよ」
「私も途中から話を聞くことを止めて適当に流していたよ」
「意外と陛下そう言うの上手ですもんね」
「まぁこれも一つの社交術だな」
部屋の中央に鎮座している硬めのソファーにドカッとウィリアム様は座り込み、少し襟元を緩め悪戯っ子のようにヴィンセントに笑いかけます。同じように制服の襟元のボタンを一つ外してヴィンセントもため息交じりにソファーに座りフッとウィリアム様に笑い返しました。
「そうですね。さて…次は経済担当大臣とのランチ会談ですね。30分後に応接間にてだそうです」
「30分後…微妙な時間だな」
「そうですね。どうせなら詰めて一気に終わらせてしまいたかったですね」
「まぁ先方の都合もあるだろうから仕方ないな。」
「それが終われば最後にジョージ陛下とお茶して終わりです。これでやっと帰れますね」
「3日程度の滞在なのにとても長く感じるなぁ」
「そうですね」
「シャルロットももうすぐマリー皇后との孤児院の慰問が終わって帰ってくるころか?」
「えぇ、ランチ会談で合流になります」
「そうか。上手くやっているといいが…」
「姫様はコミュ力はあるから大丈夫でしょう」
「そう言えばお前たち仲直りはしたのか?」
「…元から別に喧嘩なんてしてませんよ。姫様が勝手に拗ねているだけですから」
「そうか?お前の方が拗ねているように見えるが?」
「は?」
いきなりのウィリアム様からの質問にヴィンセントは思いがけず一瞬間が開いてしましたが、すぐに冷静さを取戻しいつも通りの冷たいトーンで何事もないかのように切り返しました。そんな様子のヴィンセントをおや?と言った表情でウィリアム様は見つめて顔を覗き込むと、当のヴィンセントは眉間に皺を思いっきり寄せ、明らかに嫌そうな態度を全開しております。
「お前の方が意固地になってるんじゃないのか?まぁ何が原因か分からないが、お前の方が大人なんだから拗らせる前に話し合ってお前が譲歩して仲直りしておけよ?」
「や、だから別に喧嘩なんて…」
「意外とお前も頑固だからな。全く…似たもの同志だよお前たち」
「だから陛下…」
「表面上は上手く取り繕って公務をこなしているが、なんやかんや言ってシャルもお前と喧嘩して全然会話してないからか少し寂しそうだしなぁ」
「…は?」
「シャルも頑固で意地っ張りだからなぁ」
「…そうやって甘やかす」
「仕方ないだろう。たった一人のめちゃくちゃ可愛い可愛い妹なんだから」
「可愛いって二回言いましたね…。ホント、シスコンですよね」
「実際めちゃめちゃ可愛いんだから仕方ないだろう」
大真面目な顔で語尾強く力説されるウィリアム様に思いきり呆れた顔で見つめますが、当のご本人には全く伝わっておらずにむしろよりキラキラと輝いた真っ直ぐな瞳でこちらを見返してきました。
もうダメだと悟ったヴィンセントははぁ…と聞こえるように大きな溜息をついて腕を組みソファーにのけ反ります。
「…まぁ後で姫様と少し話しますよ」
「あぁ。お前たちのくだらない小競り合いがないとつまらないよ」
「…ったく。何度も申しあげておりますが私は姫様の世話係ではないんですよ。ローザタニアの国王補佐長官兼執務官長なんですけど」
「まぁ同じ様なもんだろう」
「兄妹揃って同じような答えを仰いますね」
「まぁ兄妹だから仕方ないだろう」
「ったく…昔から貴方方兄妹は本当に仕方ないですね」
「お前はそんな私たちが好きなんだろ?」
「…国王陛下じゃなければぶっ飛ばしてますよ」
眉間に思いっきり皺を寄せてジロっとウィリアム様を見つめ、またしても聞こえるように溜息をつきながらヴィンセントはソファーのクッションを手に取りウィリアム様に投げつけます。あははと笑いながらウィリアム様はクッションを受け取りフッと微笑みながら穏やかな微笑みを返しました。
「お前とは幼馴染でもあり大切な親友でもあり、そして一番信頼している相棒だ。私もお前が大好きだよ」
「え…」
「お前以外そんな存在はいないよ」
クッションに肘をつき、まるで辺りにキラキラした粉が降っているかのようにヴィンセントに向けてウィリアム様はニッコリと微笑まれます。そんなウィリアム様のキラキラビームを受けてヴィンセントは一瞬フリーズしてしまいましたが、すぐに我に返り自分の頬を叩きます。
「出た、天然人たらし。キラキラビーム無駄に放たないでください。ってかいきなり愛の告白されても困ります。お気持ちは嬉しいですが、残念ながら私はマシュマロ巨乳のグラマラス美女じゃないと無理なんで」
「私だって知的でスレンダーな女性が好きだから安心しろ」
「女性の好みは一致しませんね」
「そうだな。でもまぁ競合しなくて良いじゃないか」
「…確かに遊ぶ時に被らなくていいのはラッキーですね」
年相応の若者の話題が可笑しかったのか、プッと吹きだして二人して屈託のない笑顔でひとしきり笑い合いました。
一国の国王とその側近とは言え、まだ10代の青年である若い二人はこのような少し砕けた話が好きなようで時おりシャルロット様のいらっしゃらないところではこのような話に花を咲かせたりしております。
しかしすぐに脱線から帰ろうと、ウィリアム様は襟元の乱れを正してんんっと喉を正します。
「そう言えばマリアは?」
「マリアでしたら今日はフランツ皇太子殿下の傍にぴったりとくっついております」
「そうか。…こういう時に三人でゆっくりとしたいものだがな」
「まぁ昔みたいに何も考えずにダラダラと酒でも飲みたいものですね」
「あぁ。もう少し自由な時間が欲しいものだ」
「…感傷に浸られているところ大変申し訳ありませんが会談までにあと15分しかございませんので、こちらの資料に目を通してもらえますか?」
「いきなり仕事モードになるな」
「休憩時間と言えど次の仕事のことを考えないと後々無駄が増えますので」
「…執務秘書官たちに同情するよ」
「アイツらはすぐサボろうとするので締め詰めないと仕事しないんです」
「…お前が女王様と呼ばれるところはそこだよ…」
「私の性別男なんですけど」
「うん…そうだな」
ヴィンセントの言っても効かない、頑なな氷のような態度に観念されたのかウィリアム様は目の前に積まれた書類の束をパラパラと捲って資料に目を通し始めました。
腕を組みながらヴィンセントはツンッとした態度のまま横から同じく資料を一緒に見ております。お二人が真剣に資料を読んで少しお互いの意見等言い合っているその時、部屋のドアを素早くノックする音が響き渡りました。
「陛下、ヴィンセント様…休憩中に申し訳ございません、セシルです。ジョージ国王陛下が今すぐ会談室の方へ来てほしいとのご伝言です」
「あと10分ほどでランチ会談だというのに?…分かった、すぐ行こう」
いささか疑問に思われている様子のウィリアム様はヴィンセントと顔を見合わせると、すぐに立ち上がり部屋のドアを開けました。走り回っていたのか汗だくのセシルが静かにお二人を見送ろうとスッとすぐ横に控えます。
ご苦労、と小さく声を掛けてウィリアム様はヴィンセントを伴って少し早足で会談室へと向かって行かれたのでした。
・・・・・・・・
「再びすまんのぉウィリアム…。まぁ掛けなさい」
「いえ、陛下からお声が掛かればすぐにでも馳せ参じます」
頭を抱えながらふぅ…と大きな溜息をついているジョージ陛下は、丸々としたお腹の横についているこれまたむちっとした丸い手でウィリアム様に着席を促しました。ジョージ陛下の後ろに控えていたマリアは、ウィリアム様が着席されヴィンセントもすぐ後ろで待機されたのを確認すると、ドアをもう一度開けて廊下に誰も居ないことを確認すると素早くドアを閉めてその場に待機しておりました。
「病院から連絡があって、エマ嬢は一命を取り留めた様じゃ。父親のハミルトン子爵も安堵しとったわい」
「そうですか…!それは何よりです」
「うむ、じゃがまだ喋られるような状態ではないようでのぉ。一命を取り留めたからと言ってヴィンセントやマリアは一応まだ重要参考人扱いのままなのは変わらん」
「はぁ…」
「こんな話はランチ会談の前にサラッと話せばよいだけじゃが。お主らを呼んだのはほかでもない…例のあの男、カルロ伯爵の件じゃ」
「その後何か進展があったのですか?」
ウィリアム様は少し身を前に乗り出すかのようなしぐさをされると、ジョージ陛下は待て待て…と言わんばかりに手でストップのジェスチャーをされてウィリアム様を落ち着かせようとされます。
「まぁ落ち着くのじゃ。まず…ビストリツァ周辺のホテルの宿泊名簿を洗いざらい調べたのじゃがそのカルロ伯爵の名前は見当たらんっかった。まぁ偽名を使って止まっているかも知れんし、似顔絵を描かせて聞き込みを当たっているそうじゃ。それでじゃな、街外れの古い屋敷にそのカルロ伯爵に似た男性が滞在しているという目撃情報があったのじゃ」
「…なんと」
「しかし先程警察がその屋敷を訪ねるともうそこはもぬけの殻だったんじゃ」
「…事前に察知して逃げられた…と言うことでしょうか」
「そうかも知れんのぉ。誰かがこの伯爵と繋がっていて情報を流したとかも考えられる。ヴィンセントよ、昨晩、お主とそのカルロ伯爵が一緒にいて何やら言い争っているのを見たという者がおってのぉ…」
「えっ!」
「…まさか陛下はヴィンセントを疑っておりますか!?」
ウィリアム様、マリアは同時にユニゾンするように驚きの声をあげました。そしてチラッとヴィンセントの方を見ると、顔色一つ変えずにジッと前を見据えたままの表情で立っておりました。
「まさか。たいして親しくもない人間と仲間になど…冗談にもほどがあります、ジョージ陛下」
「ふむ、ワシかてお主がそんなことするなどもちろん思ってもおらぬ!お主がつるむのは基本的にここに居るウィリアムとマリアくらいじゃろう」
フンッと溜息のように大きく息を吐き、ジョージ陛下はソファーに座り直してついでにむちっとした腕を組み直します。そして目を瞑り、片目でじろっとヴィンセントを見るとニヤッと笑い出しました。
「まぁヴィンセントとそのカルロ伯爵がつるんでいるのではないかという話には無理があるじゃろうてのぉ。おおかたヴィンセントに恨みを抱いているやつとかが適当に言ったんじゃろう」
「まぁそう言うの慣れておりますので大丈夫です」
「19で慣れるようなもんではなかろうて…」
それが何かと言わんばかりにヴィンセントは顔色一つ変えずに淡々とジョージ陛下相手に答え続けました。ウィリアム様とマリアはそんな二人のやり取りに多少冷や冷やしながらも見守っております。
「話が脱線したわい…。そのカルロ伯爵の件なんじゃがな…実は更なる疑惑が降って来たんじゃ」
「…え?」
「ウィリアムよ、お主イリス・ブーリンと言う女性を覚えておるか?」
「イリス…?確か先日のグララスで開催されたパーティーで少し一緒に踊ったのを覚えております。そのイリスですか?」
「うむ…。実はな、そのイリス嬢なんじゃが…一昨日街外れの森の中で見つかったんじゃよ」
「え?どういうことですか…?」
「詳しい話は…彼に説明してもらおう。入って来てくれ!」
ジョージ陛下が短い腕をスッと上げて合図をされると部屋の奥のドアが開き、何やら大きくて黒い影がスッと部屋に入り、皆の前に姿を現したのでした。
「…実《み》のあるようでほとんどない会談でしたね」
「議題に則って話していたのは最初の10分だけだったからな」
「後の30分はほぼどうでも良いしょうもない話でしたね…。基本的にくだらない無駄な話ばかり聞かされて頭が拒絶反応示しておりましたよ」
「私も途中から話を聞くことを止めて適当に流していたよ」
「意外と陛下そう言うの上手ですもんね」
「まぁこれも一つの社交術だな」
部屋の中央に鎮座している硬めのソファーにドカッとウィリアム様は座り込み、少し襟元を緩め悪戯っ子のようにヴィンセントに笑いかけます。同じように制服の襟元のボタンを一つ外してヴィンセントもため息交じりにソファーに座りフッとウィリアム様に笑い返しました。
「そうですね。さて…次は経済担当大臣とのランチ会談ですね。30分後に応接間にてだそうです」
「30分後…微妙な時間だな」
「そうですね。どうせなら詰めて一気に終わらせてしまいたかったですね」
「まぁ先方の都合もあるだろうから仕方ないな。」
「それが終われば最後にジョージ陛下とお茶して終わりです。これでやっと帰れますね」
「3日程度の滞在なのにとても長く感じるなぁ」
「そうですね」
「シャルロットももうすぐマリー皇后との孤児院の慰問が終わって帰ってくるころか?」
「えぇ、ランチ会談で合流になります」
「そうか。上手くやっているといいが…」
「姫様はコミュ力はあるから大丈夫でしょう」
「そう言えばお前たち仲直りはしたのか?」
「…元から別に喧嘩なんてしてませんよ。姫様が勝手に拗ねているだけですから」
「そうか?お前の方が拗ねているように見えるが?」
「は?」
いきなりのウィリアム様からの質問にヴィンセントは思いがけず一瞬間が開いてしましたが、すぐに冷静さを取戻しいつも通りの冷たいトーンで何事もないかのように切り返しました。そんな様子のヴィンセントをおや?と言った表情でウィリアム様は見つめて顔を覗き込むと、当のヴィンセントは眉間に皺を思いっきり寄せ、明らかに嫌そうな態度を全開しております。
「お前の方が意固地になってるんじゃないのか?まぁ何が原因か分からないが、お前の方が大人なんだから拗らせる前に話し合ってお前が譲歩して仲直りしておけよ?」
「や、だから別に喧嘩なんて…」
「意外とお前も頑固だからな。全く…似たもの同志だよお前たち」
「だから陛下…」
「表面上は上手く取り繕って公務をこなしているが、なんやかんや言ってシャルもお前と喧嘩して全然会話してないからか少し寂しそうだしなぁ」
「…は?」
「シャルも頑固で意地っ張りだからなぁ」
「…そうやって甘やかす」
「仕方ないだろう。たった一人のめちゃくちゃ可愛い可愛い妹なんだから」
「可愛いって二回言いましたね…。ホント、シスコンですよね」
「実際めちゃめちゃ可愛いんだから仕方ないだろう」
大真面目な顔で語尾強く力説されるウィリアム様に思いきり呆れた顔で見つめますが、当のご本人には全く伝わっておらずにむしろよりキラキラと輝いた真っ直ぐな瞳でこちらを見返してきました。
もうダメだと悟ったヴィンセントははぁ…と聞こえるように大きな溜息をついて腕を組みソファーにのけ反ります。
「…まぁ後で姫様と少し話しますよ」
「あぁ。お前たちのくだらない小競り合いがないとつまらないよ」
「…ったく。何度も申しあげておりますが私は姫様の世話係ではないんですよ。ローザタニアの国王補佐長官兼執務官長なんですけど」
「まぁ同じ様なもんだろう」
「兄妹揃って同じような答えを仰いますね」
「まぁ兄妹だから仕方ないだろう」
「ったく…昔から貴方方兄妹は本当に仕方ないですね」
「お前はそんな私たちが好きなんだろ?」
「…国王陛下じゃなければぶっ飛ばしてますよ」
眉間に思いっきり皺を寄せてジロっとウィリアム様を見つめ、またしても聞こえるように溜息をつきながらヴィンセントはソファーのクッションを手に取りウィリアム様に投げつけます。あははと笑いながらウィリアム様はクッションを受け取りフッと微笑みながら穏やかな微笑みを返しました。
「お前とは幼馴染でもあり大切な親友でもあり、そして一番信頼している相棒だ。私もお前が大好きだよ」
「え…」
「お前以外そんな存在はいないよ」
クッションに肘をつき、まるで辺りにキラキラした粉が降っているかのようにヴィンセントに向けてウィリアム様はニッコリと微笑まれます。そんなウィリアム様のキラキラビームを受けてヴィンセントは一瞬フリーズしてしまいましたが、すぐに我に返り自分の頬を叩きます。
「出た、天然人たらし。キラキラビーム無駄に放たないでください。ってかいきなり愛の告白されても困ります。お気持ちは嬉しいですが、残念ながら私はマシュマロ巨乳のグラマラス美女じゃないと無理なんで」
「私だって知的でスレンダーな女性が好きだから安心しろ」
「女性の好みは一致しませんね」
「そうだな。でもまぁ競合しなくて良いじゃないか」
「…確かに遊ぶ時に被らなくていいのはラッキーですね」
年相応の若者の話題が可笑しかったのか、プッと吹きだして二人して屈託のない笑顔でひとしきり笑い合いました。
一国の国王とその側近とは言え、まだ10代の青年である若い二人はこのような少し砕けた話が好きなようで時おりシャルロット様のいらっしゃらないところではこのような話に花を咲かせたりしております。
しかしすぐに脱線から帰ろうと、ウィリアム様は襟元の乱れを正してんんっと喉を正します。
「そう言えばマリアは?」
「マリアでしたら今日はフランツ皇太子殿下の傍にぴったりとくっついております」
「そうか。…こういう時に三人でゆっくりとしたいものだがな」
「まぁ昔みたいに何も考えずにダラダラと酒でも飲みたいものですね」
「あぁ。もう少し自由な時間が欲しいものだ」
「…感傷に浸られているところ大変申し訳ありませんが会談までにあと15分しかございませんので、こちらの資料に目を通してもらえますか?」
「いきなり仕事モードになるな」
「休憩時間と言えど次の仕事のことを考えないと後々無駄が増えますので」
「…執務秘書官たちに同情するよ」
「アイツらはすぐサボろうとするので締め詰めないと仕事しないんです」
「…お前が女王様と呼ばれるところはそこだよ…」
「私の性別男なんですけど」
「うん…そうだな」
ヴィンセントの言っても効かない、頑なな氷のような態度に観念されたのかウィリアム様は目の前に積まれた書類の束をパラパラと捲って資料に目を通し始めました。
腕を組みながらヴィンセントはツンッとした態度のまま横から同じく資料を一緒に見ております。お二人が真剣に資料を読んで少しお互いの意見等言い合っているその時、部屋のドアを素早くノックする音が響き渡りました。
「陛下、ヴィンセント様…休憩中に申し訳ございません、セシルです。ジョージ国王陛下が今すぐ会談室の方へ来てほしいとのご伝言です」
「あと10分ほどでランチ会談だというのに?…分かった、すぐ行こう」
いささか疑問に思われている様子のウィリアム様はヴィンセントと顔を見合わせると、すぐに立ち上がり部屋のドアを開けました。走り回っていたのか汗だくのセシルが静かにお二人を見送ろうとスッとすぐ横に控えます。
ご苦労、と小さく声を掛けてウィリアム様はヴィンセントを伴って少し早足で会談室へと向かって行かれたのでした。
・・・・・・・・
「再びすまんのぉウィリアム…。まぁ掛けなさい」
「いえ、陛下からお声が掛かればすぐにでも馳せ参じます」
頭を抱えながらふぅ…と大きな溜息をついているジョージ陛下は、丸々としたお腹の横についているこれまたむちっとした丸い手でウィリアム様に着席を促しました。ジョージ陛下の後ろに控えていたマリアは、ウィリアム様が着席されヴィンセントもすぐ後ろで待機されたのを確認すると、ドアをもう一度開けて廊下に誰も居ないことを確認すると素早くドアを閉めてその場に待機しておりました。
「病院から連絡があって、エマ嬢は一命を取り留めた様じゃ。父親のハミルトン子爵も安堵しとったわい」
「そうですか…!それは何よりです」
「うむ、じゃがまだ喋られるような状態ではないようでのぉ。一命を取り留めたからと言ってヴィンセントやマリアは一応まだ重要参考人扱いのままなのは変わらん」
「はぁ…」
「こんな話はランチ会談の前にサラッと話せばよいだけじゃが。お主らを呼んだのはほかでもない…例のあの男、カルロ伯爵の件じゃ」
「その後何か進展があったのですか?」
ウィリアム様は少し身を前に乗り出すかのようなしぐさをされると、ジョージ陛下は待て待て…と言わんばかりに手でストップのジェスチャーをされてウィリアム様を落ち着かせようとされます。
「まぁ落ち着くのじゃ。まず…ビストリツァ周辺のホテルの宿泊名簿を洗いざらい調べたのじゃがそのカルロ伯爵の名前は見当たらんっかった。まぁ偽名を使って止まっているかも知れんし、似顔絵を描かせて聞き込みを当たっているそうじゃ。それでじゃな、街外れの古い屋敷にそのカルロ伯爵に似た男性が滞在しているという目撃情報があったのじゃ」
「…なんと」
「しかし先程警察がその屋敷を訪ねるともうそこはもぬけの殻だったんじゃ」
「…事前に察知して逃げられた…と言うことでしょうか」
「そうかも知れんのぉ。誰かがこの伯爵と繋がっていて情報を流したとかも考えられる。ヴィンセントよ、昨晩、お主とそのカルロ伯爵が一緒にいて何やら言い争っているのを見たという者がおってのぉ…」
「えっ!」
「…まさか陛下はヴィンセントを疑っておりますか!?」
ウィリアム様、マリアは同時にユニゾンするように驚きの声をあげました。そしてチラッとヴィンセントの方を見ると、顔色一つ変えずにジッと前を見据えたままの表情で立っておりました。
「まさか。たいして親しくもない人間と仲間になど…冗談にもほどがあります、ジョージ陛下」
「ふむ、ワシかてお主がそんなことするなどもちろん思ってもおらぬ!お主がつるむのは基本的にここに居るウィリアムとマリアくらいじゃろう」
フンッと溜息のように大きく息を吐き、ジョージ陛下はソファーに座り直してついでにむちっとした腕を組み直します。そして目を瞑り、片目でじろっとヴィンセントを見るとニヤッと笑い出しました。
「まぁヴィンセントとそのカルロ伯爵がつるんでいるのではないかという話には無理があるじゃろうてのぉ。おおかたヴィンセントに恨みを抱いているやつとかが適当に言ったんじゃろう」
「まぁそう言うの慣れておりますので大丈夫です」
「19で慣れるようなもんではなかろうて…」
それが何かと言わんばかりにヴィンセントは顔色一つ変えずに淡々とジョージ陛下相手に答え続けました。ウィリアム様とマリアはそんな二人のやり取りに多少冷や冷やしながらも見守っております。
「話が脱線したわい…。そのカルロ伯爵の件なんじゃがな…実は更なる疑惑が降って来たんじゃ」
「…え?」
「ウィリアムよ、お主イリス・ブーリンと言う女性を覚えておるか?」
「イリス…?確か先日のグララスで開催されたパーティーで少し一緒に踊ったのを覚えております。そのイリスですか?」
「うむ…。実はな、そのイリス嬢なんじゃが…一昨日街外れの森の中で見つかったんじゃよ」
「え?どういうことですか…?」
「詳しい話は…彼に説明してもらおう。入って来てくれ!」
ジョージ陛下が短い腕をスッと上げて合図をされると部屋の奥のドアが開き、何やら大きくて黒い影がスッと部屋に入り、皆の前に姿を現したのでした。
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世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
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