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Jardin secret ~秘密の花園~
第21話
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ジョージ陛下の合図で部屋に入ってきたのは、立派な口ひげをピンッと上向きに整えている警察の制服に身を包み、胸にたくさんの勲章を飾り光らせたいかにも堅物のお役人といった雰囲気の大柄の中年の男性でした。
部屋に入るなり、ピシッと敬礼をして全員に挨拶をされます。
「こちらはグララスの警察署長のワトソンじゃ」
「警察署長殿…?」
「お初にお目に掛かりますウィリアム陛下…。堅苦しいご挨拶はこの辺にいたしまして、早急に説明をさせていただく無礼をお許しください」
「…いったい…」
ワトソン署長はいかにも公務員…と言った具合にサッと一礼すると、少し前に歩み出て、口ひげを少し触って整えるとんんっと喉も整えて話しはじめだしました。
ワトソン署長のオーデコロンでしょうか、いかにも中年の男性が好みそうな少し渋い何とも言えない濃厚な香りがワトソン署長が動くたびに部屋中に振りまかれました。
ジョージ陛下、ウィリアム様、ヴィンセントの三人はあまりその香りが好みではなかったのか、顔をしかめております。
「グララスで一か月ほど前にありましたジョージ陛下主催のパーティーでウィリアム陛下と踊られた、イリス・ブーリンと言う女性ですが…一昨日森の中で瀕死の状態で見つかったのです」
「何だって!?」
「実はイリス嬢は約一か月前から行方不明となっておりまして…ご家族より捜索願が出されておりました。それで一昨日の早朝のことですが、新聞配達員がモンテフェルロト伯爵家の敷地にあります森の近くにある川の橋のたもとで、数名の女性の遺体と共にイリス嬢は意識不明の状態で発見されました。幸いにも一命は取り留めておりましたが…彼女には暴行された痕があり、また大量に血液が抜き取られた状態で予断許さぬ状態であります」
ワトソン署長の口から『カルロ伯爵』というお名前が出てきて、ウィリアム様とヴィンセントは顔が硬直いたしました。その様子をワトソン署長は見逃さず、鋭い視線をお二人に投げかけました。
「…血液が抜き取られた…」
「えぇ、首筋に何やら噛まれたような傷口がありそこから大量の血液が抜き取られたようです。一緒に放置されていた他の遺体からも同じような痕跡がありました。ここ最近グララスで起こっている、通称『吸血鬼事件』と全く同じ手口であり我々はイリス嬢もその事件の被害者だと踏んでおります」
「…」
「…誠に恐縮ではありますが、もちろん形式的なもので…お気を悪くされましたら申し訳ございません。…陛下はカルロ・ジャン・モンテフェルロト伯爵という男をご存知だとお聞きいたしました」
「えぇ…ですが少し話をした程度です」
猛禽類のように鋭い視線のままワトソン署長はお二人の様子をジッと見つめ続けております。ウィリアム様は驚いてはおりましたが、冷静にをワトソン署長からの尋問に受けて立っております。
「…イリス嬢はどうやらそのカルロ伯爵と一晩共にしたようでして…で、そのカルロ伯爵に惚れ込みなんとかお近づきになりたいと画策していた様なんです。街で聞き込みをした際に彼女の知り合いがイリスはカルロ伯爵の情報を探っていた、と証言しております。行方不明になったその日も、夜遅い時間に彼女の乗った馬車がカルロ伯爵の屋敷に向かって行ったのを見たという目撃情報がありました」
「イリスに会った最後の人が…カルロ伯爵だと?」
「おそらく。事情を聴きたくとも最近よく伯爵はグララス以外の地を転々とされており、当日も屋敷にいらっしゃたかは不明なんです。最近外国やここビストリツァにいらっしゃったという証言もございます」
「えぇ…2週間前ほどでしょうか、ローザタニアに滞在されていたようです。ウチのばあやが…妹のシャルロット宛ての贈り物をカルロ伯爵らしき人物から受け取っております」
「まるで霧のように色々な場所を転々とされて足取りがつかみにくいですなぁ…。ジョージ陛下とビストリツァの署長からお伺いいたしましたが、昨晩も何やらこちらで事件があってその疑惑も掛けられているとか…」
口ひげを触るのが癖なのか、ワトソン署長はずっと口ひげを弄りながらうーんと困惑した表情で宙を仰ぎます。その横でジョージ陛下も何か考えていらっしゃるのか、目をつむったままのまま静かに話を聞いておりました。
「署長殿…カルロ伯爵がその…犯人だと?」
「断定は出来ませんが、容疑者の候補ではあります。しかしモンテフェルロト伯爵家…貴族の方なので…どう捜査して良いのか分からず困惑しております…」
「そうですか…」
「とりあえずイリス嬢に少しでも関与された人物から洗いざらい情報を集めている状況です。まぁ彼女はとても奔放な女性だったようで…その…正直いつ危ない目になってもおかしくないような激しくって危ない男性関係がいくつもあったようでして…容疑者候補はたくさんいるのですがねぇ」
「近頃社交界では自由恋愛が流行っておりますからねぇ。おおかた彼女もそう言うスタンスなんでしょう」
「…みたいですなぁ」
「ウィリアム、ヴィンセント…お主らも気を付けるんじゃぞ」
「肝に銘じておきます」
ピシッとジョージ陛下がウィリアム様とヴィンセントに注意するかのように語尾強く告げると、お二人はスッと頭を下げました。ワトソン署長はあはは…と少し乾いた笑いを漏らしておりましたが、ヴィンセントが鋭い氷のような瞳で横目に睨むかのように見つめると、ヤバいと思われたのか冷や汗をハンカチで拭い平静を保とうとしております。
「して…なぜワトソン殿はこちらに…?」
「…実は1時間ほど前ですが、グララス近くの検問所でグララスの屋敷に帰る途中であろう伯爵ご本人とその従者である少年を確保いたしました」
「見つかったのか!」
「はい。任意ではありますが本人に事情聴取を行う予定なんですが―――…」
ワトソン署長は何か言いにくいことでもあるようなのか、少しソワソワとしだしてお二人の顔色を伺うようなそぶりをしております。そんな様子に若干イラっとしたのか、ヴィンセントは冷たくワトソン署長を見つめ、なんですが?と語尾を取って問いかけました。
「…カルロ伯爵が事情聴取に応じる条件として、ウィリアム陛下とヴィンセント様と少し話がしたいと申しておりまして…」
「…一貴族が他国ではありますが国王陛下を交渉のダシに使うとは…ちょっと頭が高すぎませんか?」
ゴゴゴゴゴ…と地鳴りがするくらいの音を立てるがごとく、ヴィンセントは怒りを抑えながらも青筋を立ててハッと嘲笑し、ワトソン署長自身は悪くはないのにつつ署長に対して毒を吐くかのように言葉を投げ捨てます。ワトソン署長はそんなヴィンセントの毒と言うか八つ当たりを全身に浴びてヒィッと縮こまりガタガタと震えておりました。
「た…確かにヴィンセント様の仰る通りなんですがっ!この事件はナルキッスを揺るがす大事件でしてっ!!早急な解決が望まれておりますっ!!!そのためにも是非っ!ウィリアム陛下とヴィンセント様にもご協力をお願いしたくっ!!」
「…それでグララスの警察署長直々にこちらに来られた訳か…」
「はいぃっ!!」
「そう言うことじゃ。回りくどい説明で悪かったのぉ」
ふぅ…とウィリアム様は溜息をつかれると、天を仰ぐようにポスッとソファーの背もたれに寄りかかりました。ジョージ陛下も同じく大きく溜息をつかれるとウィリアム様とヴィンセントの二人を交互に見つめ、短くてプクッとした腕を組んでソファーに座り直されました。
「いえ…。それで…カルロ伯爵は今どちらに…?」
「カルロ伯爵ご本人の屋敷です。あくまでもまだ重要参考人での事情聴取なので…」
「ウィリアム、ヴィンセント…ワシからもお願いじゃ。どうかこの事件の解決の糸口を見つけるためにも…カルロ伯爵と話をしてもらえんかのぉ」
「…承知いたしました」
「恩に切るぞ」
「ありがとうございますっ!!」
「そうと決まれば早速伺います」
スクッとウィリアム様が立ち上がり、踵を返して会談室を出て行かれました。スッとヴィンセントはお辞儀をするとジロ…っとワトソン署長を冷たく横目で見て静かにウィリアム様の後に続いて出て行きました。
「…美人が睨みつけると怖いですね…」
「うむ…迫力があるのぉ…」
部屋に取り残されたジョージ陛下とワトソン署長は、まるで極寒の氷の大陸で吹雪に思いっきり吹かれているように感じていたのでした。
部屋に入るなり、ピシッと敬礼をして全員に挨拶をされます。
「こちらはグララスの警察署長のワトソンじゃ」
「警察署長殿…?」
「お初にお目に掛かりますウィリアム陛下…。堅苦しいご挨拶はこの辺にいたしまして、早急に説明をさせていただく無礼をお許しください」
「…いったい…」
ワトソン署長はいかにも公務員…と言った具合にサッと一礼すると、少し前に歩み出て、口ひげを少し触って整えるとんんっと喉も整えて話しはじめだしました。
ワトソン署長のオーデコロンでしょうか、いかにも中年の男性が好みそうな少し渋い何とも言えない濃厚な香りがワトソン署長が動くたびに部屋中に振りまかれました。
ジョージ陛下、ウィリアム様、ヴィンセントの三人はあまりその香りが好みではなかったのか、顔をしかめております。
「グララスで一か月ほど前にありましたジョージ陛下主催のパーティーでウィリアム陛下と踊られた、イリス・ブーリンと言う女性ですが…一昨日森の中で瀕死の状態で見つかったのです」
「何だって!?」
「実はイリス嬢は約一か月前から行方不明となっておりまして…ご家族より捜索願が出されておりました。それで一昨日の早朝のことですが、新聞配達員がモンテフェルロト伯爵家の敷地にあります森の近くにある川の橋のたもとで、数名の女性の遺体と共にイリス嬢は意識不明の状態で発見されました。幸いにも一命は取り留めておりましたが…彼女には暴行された痕があり、また大量に血液が抜き取られた状態で予断許さぬ状態であります」
ワトソン署長の口から『カルロ伯爵』というお名前が出てきて、ウィリアム様とヴィンセントは顔が硬直いたしました。その様子をワトソン署長は見逃さず、鋭い視線をお二人に投げかけました。
「…血液が抜き取られた…」
「えぇ、首筋に何やら噛まれたような傷口がありそこから大量の血液が抜き取られたようです。一緒に放置されていた他の遺体からも同じような痕跡がありました。ここ最近グララスで起こっている、通称『吸血鬼事件』と全く同じ手口であり我々はイリス嬢もその事件の被害者だと踏んでおります」
「…」
「…誠に恐縮ではありますが、もちろん形式的なもので…お気を悪くされましたら申し訳ございません。…陛下はカルロ・ジャン・モンテフェルロト伯爵という男をご存知だとお聞きいたしました」
「えぇ…ですが少し話をした程度です」
猛禽類のように鋭い視線のままワトソン署長はお二人の様子をジッと見つめ続けております。ウィリアム様は驚いてはおりましたが、冷静にをワトソン署長からの尋問に受けて立っております。
「…イリス嬢はどうやらそのカルロ伯爵と一晩共にしたようでして…で、そのカルロ伯爵に惚れ込みなんとかお近づきになりたいと画策していた様なんです。街で聞き込みをした際に彼女の知り合いがイリスはカルロ伯爵の情報を探っていた、と証言しております。行方不明になったその日も、夜遅い時間に彼女の乗った馬車がカルロ伯爵の屋敷に向かって行ったのを見たという目撃情報がありました」
「イリスに会った最後の人が…カルロ伯爵だと?」
「おそらく。事情を聴きたくとも最近よく伯爵はグララス以外の地を転々とされており、当日も屋敷にいらっしゃたかは不明なんです。最近外国やここビストリツァにいらっしゃったという証言もございます」
「えぇ…2週間前ほどでしょうか、ローザタニアに滞在されていたようです。ウチのばあやが…妹のシャルロット宛ての贈り物をカルロ伯爵らしき人物から受け取っております」
「まるで霧のように色々な場所を転々とされて足取りがつかみにくいですなぁ…。ジョージ陛下とビストリツァの署長からお伺いいたしましたが、昨晩も何やらこちらで事件があってその疑惑も掛けられているとか…」
口ひげを触るのが癖なのか、ワトソン署長はずっと口ひげを弄りながらうーんと困惑した表情で宙を仰ぎます。その横でジョージ陛下も何か考えていらっしゃるのか、目をつむったままのまま静かに話を聞いておりました。
「署長殿…カルロ伯爵がその…犯人だと?」
「断定は出来ませんが、容疑者の候補ではあります。しかしモンテフェルロト伯爵家…貴族の方なので…どう捜査して良いのか分からず困惑しております…」
「そうですか…」
「とりあえずイリス嬢に少しでも関与された人物から洗いざらい情報を集めている状況です。まぁ彼女はとても奔放な女性だったようで…その…正直いつ危ない目になってもおかしくないような激しくって危ない男性関係がいくつもあったようでして…容疑者候補はたくさんいるのですがねぇ」
「近頃社交界では自由恋愛が流行っておりますからねぇ。おおかた彼女もそう言うスタンスなんでしょう」
「…みたいですなぁ」
「ウィリアム、ヴィンセント…お主らも気を付けるんじゃぞ」
「肝に銘じておきます」
ピシッとジョージ陛下がウィリアム様とヴィンセントに注意するかのように語尾強く告げると、お二人はスッと頭を下げました。ワトソン署長はあはは…と少し乾いた笑いを漏らしておりましたが、ヴィンセントが鋭い氷のような瞳で横目に睨むかのように見つめると、ヤバいと思われたのか冷や汗をハンカチで拭い平静を保とうとしております。
「して…なぜワトソン殿はこちらに…?」
「…実は1時間ほど前ですが、グララス近くの検問所でグララスの屋敷に帰る途中であろう伯爵ご本人とその従者である少年を確保いたしました」
「見つかったのか!」
「はい。任意ではありますが本人に事情聴取を行う予定なんですが―――…」
ワトソン署長は何か言いにくいことでもあるようなのか、少しソワソワとしだしてお二人の顔色を伺うようなそぶりをしております。そんな様子に若干イラっとしたのか、ヴィンセントは冷たくワトソン署長を見つめ、なんですが?と語尾を取って問いかけました。
「…カルロ伯爵が事情聴取に応じる条件として、ウィリアム陛下とヴィンセント様と少し話がしたいと申しておりまして…」
「…一貴族が他国ではありますが国王陛下を交渉のダシに使うとは…ちょっと頭が高すぎませんか?」
ゴゴゴゴゴ…と地鳴りがするくらいの音を立てるがごとく、ヴィンセントは怒りを抑えながらも青筋を立ててハッと嘲笑し、ワトソン署長自身は悪くはないのにつつ署長に対して毒を吐くかのように言葉を投げ捨てます。ワトソン署長はそんなヴィンセントの毒と言うか八つ当たりを全身に浴びてヒィッと縮こまりガタガタと震えておりました。
「た…確かにヴィンセント様の仰る通りなんですがっ!この事件はナルキッスを揺るがす大事件でしてっ!!早急な解決が望まれておりますっ!!!そのためにも是非っ!ウィリアム陛下とヴィンセント様にもご協力をお願いしたくっ!!」
「…それでグララスの警察署長直々にこちらに来られた訳か…」
「はいぃっ!!」
「そう言うことじゃ。回りくどい説明で悪かったのぉ」
ふぅ…とウィリアム様は溜息をつかれると、天を仰ぐようにポスッとソファーの背もたれに寄りかかりました。ジョージ陛下も同じく大きく溜息をつかれるとウィリアム様とヴィンセントの二人を交互に見つめ、短くてプクッとした腕を組んでソファーに座り直されました。
「いえ…。それで…カルロ伯爵は今どちらに…?」
「カルロ伯爵ご本人の屋敷です。あくまでもまだ重要参考人での事情聴取なので…」
「ウィリアム、ヴィンセント…ワシからもお願いじゃ。どうかこの事件の解決の糸口を見つけるためにも…カルロ伯爵と話をしてもらえんかのぉ」
「…承知いたしました」
「恩に切るぞ」
「ありがとうございますっ!!」
「そうと決まれば早速伺います」
スクッとウィリアム様が立ち上がり、踵を返して会談室を出て行かれました。スッとヴィンセントはお辞儀をするとジロ…っとワトソン署長を冷たく横目で見て静かにウィリアム様の後に続いて出て行きました。
「…美人が睨みつけると怖いですね…」
「うむ…迫力があるのぉ…」
部屋に取り残されたジョージ陛下とワトソン署長は、まるで極寒の氷の大陸で吹雪に思いっきり吹かれているように感じていたのでした。
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