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Jardin secret ~秘密の花園~
第24話
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…………………………
それはとても静かな夜のことでした。
オレンジ色に光る街燈がぼんやりと見える街はずれの霧深い人里離れた森に、酒場でしこたま酔った中年のおそらく労働者階級の男と、その男たちと盛り上がって一緒に店を出てきたお化粧の濃い女がケラケラと何かに盛り上がって笑いながらもつれ合いながら、千鳥足でよたよたと歩いてきております。
「もぉう~やだぁ…旦那ったらっ!こんなところでぇ」
「いいじゃねぇか!たまには開放的なのもいいだろ?」
「誰か人が居たらどうするのさぁ」
「誰も居ねぇよこんな森にゃあ」
男は女を大きな木に持たれかけさせ、顎をクイッと持ち上げてぷっくりとしたどこか淫靡さを持つ女の唇を貪るように吸い付き出します。
女は最初は顔を横に向けたりとして抵抗してみるものの、徐々に身体をモジモジとさせて男の首に腕を回し、男の唇を受け入れて何度も何度も男からの無骨な熱いキスを受け入れていました。安っぽいペラペラのドレスの間から力仕事でゴツゴツとした筋肉のついた太い手を差しこみ、女の足の間や腰をまさぐっています。女もそんな太い指の男らしい手の感触にうっとりし、甘いため息を何度も何度も漏らし始めました。
「お前やっぱり色っぽくてたまんねぇなぁ…最高だぜティナ…」
「フフフ…」
虫の声とフクロウの声しか聞こえない静かな森の中で二人はお互いを激しく求めあいながらひと時の快楽を楽しんでおりました。
しばらくして二人は最高潮に盛り上がり始め、ついに男が女を後ろ向きにさせてまさに今から女の身体を楽しもうとしたその時です。男は頭に何か殴られたような強い衝撃を受けたのを感じました。
「っ!」
ドサッと乾いた土の上に倒れ込むような音が響きました。
「…旦那?」
女は異変を感じて後ろを振り向こうとしました。しかし女が振り向くよりも早く、今度は女の首筋に何やら強い衝撃が加わったのです。
「…っ!?」
女は何が起こったのか分からずにジタバタと動いて必死に抵抗します。しかし後ろ向きにされている上に酔っぱらったままの身体では普段よりもさらに力が弱くなっており、女は自分の首筋に加わる力に必死で抵抗しますが全く歯が立ちません。
女は段々と意識が遠のいていくのを感じ、そのままブランと身体を放り出してついには動かなくなってしまいました。
そして地面に倒れている男と、女を襲ったモノ―――…黒いローブを頭からすっぽりと全身に被り、男なのか女のかましてや人間なのか異形の者なのか正体が分からないその黒い姿は、自分の腕の中でダランと意識を失っている女を抱えると、そのままズルズルと森の中に引き込んでいきました。そしてその後、微かに女の悲鳴が聞こえてきましたが静寂が広がる森の中にそっと掻き消されていきました。
新月で空には星の灯りしか無く、とても暗い夜のことです―――…。
・・・・・・・・
「おい、また街外れの森の中で女が殺されたらしいぜ…」
「えっ!?怖いわねぇ…」
「安酒場インフェルノの踊り子のティナって子だろ?可哀想に…乱暴された後、全身の血を首から抜き取られていたらしいぜ」
「怖いわねぇ…」
翌日の昼下がりのことです。教会でのミサが終わり、街の人々がバラバラと教会から出て行きながら口々に今朝街外れの森の中で発見された事件の話をしておりました。
「前にも同じような事件が何件かあったよな…」
「あぁ。先月は娼婦が同じような手口で殺されてたな」
「その前は男娼の少年だったか?」
「その前に孤児の女の子が殺されてるよ!何だか…変な事件ばっかりだな」
「ちくしょうっ!犯人はいったい誰なんだっ!!こんなひどいことをしやがって…」
「全身の血を抜かれるだなんて恐ろしいっ!まるで吸血鬼みたいだね…」
ゴーンっと教会の鐘が鳴り、木に止まっていた鳥たちがバサバサと羽根を羽ばたかせて飛び去って行くと、街の人たちは口々に恐怖や不安等を言い合って教会から家へと足早に帰っていきました。そして人気がなくなり静かになった教会から一人の若い男性がふっとため息をついてそっと表に出てきて、今にも泣き出しそうな曇った空を見上げました。
「ジャン神父様…!」
「…ルチア!どうしたのですか?」
ジャン神父と呼ばれたその男性は、爽やかな鳶色の瞳と、同じく鳶色の髪が映える端正な彫刻の様な顔を少し青ざめながら声の方へと顔を上げました。そこには心配して狼狽した表情の一人の修道女―――…ルチアの姿がありました。
「…今の話は本当ですか?」
「聞いていたのですか」
「…申し訳ございません。聞くつもりはなかったのですがつい耳に聞こえてしまったので…」
「そうですか。あまりにも恐ろしいので女性である貴女にはお聞かせしたくない話ですが…えぇ、本当のことです」
「まぁ…」
「殺された女性の魂に神の救いを…祈りましょう」
神父様は悲しそうに顔を下に背けて十字を切り支社を弔うように祈りました。ルチアも神父様に続いて祈りをささげます。少しの沈黙の後、神父様は辺りを見回すとルチアを教会の中に入るように促しました。
「人に聞かれてはならないと思いますので中へ…」
「神父様…?」
曇天の弱い光を浴びて床にぼんやりと映るステンドの影がひしめく人気のない静かな教会の中に二人は入り、キョロキョロと辺りを見回して他に誰も居ないことを確認すると神父様はゴクッと唾を飲みこみ神妙なお顔で小声でルチアにそっと打ち明け始めました。
「実は…少し前から警察から相談されていたのですが…犯人はどうやら私と同じくらいの背格好の男の様だと聞いております」
「え…?」
「もし私と似たような背格好の男が、この教会に自分の犯した罪を抱えきれずに懺悔に来るかも知れません。その場合は…すぐに警察に連絡できるように手筈を整えねばなりません」
「神父様…」
「その時はルチア、貴女にも協力していただきたい…」
「はい…」
「たとえそれが…知り合いであろうとも」
「え?」
「頼みましたよ、ルチア」
神父様はキュッとルチアの手を強く握り、獲物を狙う鳶のように真っ直ぐで鋭く力強い瞳でルチアの顔を見つめました。
「ま…待ってください神父様…!どういうことですか…?」
「…ルチア、誠に申し上げにくいことですが…私は貴女の元婚約者であるカルロ伯爵殿が怪しいのではないかと…警察もそのように疑っている節がありました」
「…何ですって!?」
「まだ証拠も何もありませんので伯爵殿を犯人扱いするのもどうかと思いますが…ですが殺された方々が発見されたのは伯爵殿の領地の森であったりその近くの川べりだったり…」
「でもそれだけでカルロ伯爵を犯人だなんて…っ!」
「…私だって信じたくありません。ですが…貴女も噂で耳にしていると思いますが、あの伯爵がとんでもない好色家だというのはご存知でしょう?社交界の貴婦人を始め、娼館の娼婦や男娼までも抱き…そして妖しい香りのする薬を使い複数で乱れるような夜会を毎晩あの館で行っているという噂もあります」
「…」
「そのような貞淑・純潔の神の教えに背く不埒なことをする者は悪魔に身体を乗っ取られているのかそれとも伯爵殿自身が悪魔なのか…」
「そんな…」
「…それに、伯爵殿の背格好は私ととてもよく似ています…。きちんとした証拠はありませんが…疑うには充分の理由があります」
「神父様…」
「とにかくルチア…あの伯爵殿には近づいてはなりません。貴女とあの伯爵が過去に婚約者同士だったと知っているのはごくわずかな人間だけですが…接点があると分かれば貴女も疑われてしまうかも知れない。ルチア…いいですね?」
「…」
神父様はもう一度ルチアの手を強く握り、語尾を強くしてルチアに言い聞かせるように言いました。
青白い顔で言葉を失っているルチアはまっすぐ前を見ておりましたが、瞳は焦点を定めておらずに明らかに動揺しているかのように見えました。
神父様はそんなルチアを落ち着かせる様に優しく肩を抱き寄せてギュッと力強く包み込むように抱きしめました。洗いたての清潔な石鹸の香りとどこか甘い花の香りのするお香の香りがする神父様の腕の中に包まれてルチアは小さくこくんと頷くと、そのままキュッと神父様の腕を掴み、不安で震える子供のように小さくなってしまいました。
神父様は心配そうに眉をひそめておりましたが、そろそろ講義の時間ですね、とルチアに告げてポンポンと優しく背中を叩くと一足先に奥の部屋の方へと帰っていかれました。
一人教会に取り残されたルチアは、神父様の足音が聞こえなくなると教会に掛かっている大きな十字架をぼんやりと見つめながら呆然とその場に立ち尽くしていたのでした―――…。
それはとても静かな夜のことでした。
オレンジ色に光る街燈がぼんやりと見える街はずれの霧深い人里離れた森に、酒場でしこたま酔った中年のおそらく労働者階級の男と、その男たちと盛り上がって一緒に店を出てきたお化粧の濃い女がケラケラと何かに盛り上がって笑いながらもつれ合いながら、千鳥足でよたよたと歩いてきております。
「もぉう~やだぁ…旦那ったらっ!こんなところでぇ」
「いいじゃねぇか!たまには開放的なのもいいだろ?」
「誰か人が居たらどうするのさぁ」
「誰も居ねぇよこんな森にゃあ」
男は女を大きな木に持たれかけさせ、顎をクイッと持ち上げてぷっくりとしたどこか淫靡さを持つ女の唇を貪るように吸い付き出します。
女は最初は顔を横に向けたりとして抵抗してみるものの、徐々に身体をモジモジとさせて男の首に腕を回し、男の唇を受け入れて何度も何度も男からの無骨な熱いキスを受け入れていました。安っぽいペラペラのドレスの間から力仕事でゴツゴツとした筋肉のついた太い手を差しこみ、女の足の間や腰をまさぐっています。女もそんな太い指の男らしい手の感触にうっとりし、甘いため息を何度も何度も漏らし始めました。
「お前やっぱり色っぽくてたまんねぇなぁ…最高だぜティナ…」
「フフフ…」
虫の声とフクロウの声しか聞こえない静かな森の中で二人はお互いを激しく求めあいながらひと時の快楽を楽しんでおりました。
しばらくして二人は最高潮に盛り上がり始め、ついに男が女を後ろ向きにさせてまさに今から女の身体を楽しもうとしたその時です。男は頭に何か殴られたような強い衝撃を受けたのを感じました。
「っ!」
ドサッと乾いた土の上に倒れ込むような音が響きました。
「…旦那?」
女は異変を感じて後ろを振り向こうとしました。しかし女が振り向くよりも早く、今度は女の首筋に何やら強い衝撃が加わったのです。
「…っ!?」
女は何が起こったのか分からずにジタバタと動いて必死に抵抗します。しかし後ろ向きにされている上に酔っぱらったままの身体では普段よりもさらに力が弱くなっており、女は自分の首筋に加わる力に必死で抵抗しますが全く歯が立ちません。
女は段々と意識が遠のいていくのを感じ、そのままブランと身体を放り出してついには動かなくなってしまいました。
そして地面に倒れている男と、女を襲ったモノ―――…黒いローブを頭からすっぽりと全身に被り、男なのか女のかましてや人間なのか異形の者なのか正体が分からないその黒い姿は、自分の腕の中でダランと意識を失っている女を抱えると、そのままズルズルと森の中に引き込んでいきました。そしてその後、微かに女の悲鳴が聞こえてきましたが静寂が広がる森の中にそっと掻き消されていきました。
新月で空には星の灯りしか無く、とても暗い夜のことです―――…。
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「おい、また街外れの森の中で女が殺されたらしいぜ…」
「えっ!?怖いわねぇ…」
「安酒場インフェルノの踊り子のティナって子だろ?可哀想に…乱暴された後、全身の血を首から抜き取られていたらしいぜ」
「怖いわねぇ…」
翌日の昼下がりのことです。教会でのミサが終わり、街の人々がバラバラと教会から出て行きながら口々に今朝街外れの森の中で発見された事件の話をしておりました。
「前にも同じような事件が何件かあったよな…」
「あぁ。先月は娼婦が同じような手口で殺されてたな」
「その前は男娼の少年だったか?」
「その前に孤児の女の子が殺されてるよ!何だか…変な事件ばっかりだな」
「ちくしょうっ!犯人はいったい誰なんだっ!!こんなひどいことをしやがって…」
「全身の血を抜かれるだなんて恐ろしいっ!まるで吸血鬼みたいだね…」
ゴーンっと教会の鐘が鳴り、木に止まっていた鳥たちがバサバサと羽根を羽ばたかせて飛び去って行くと、街の人たちは口々に恐怖や不安等を言い合って教会から家へと足早に帰っていきました。そして人気がなくなり静かになった教会から一人の若い男性がふっとため息をついてそっと表に出てきて、今にも泣き出しそうな曇った空を見上げました。
「ジャン神父様…!」
「…ルチア!どうしたのですか?」
ジャン神父と呼ばれたその男性は、爽やかな鳶色の瞳と、同じく鳶色の髪が映える端正な彫刻の様な顔を少し青ざめながら声の方へと顔を上げました。そこには心配して狼狽した表情の一人の修道女―――…ルチアの姿がありました。
「…今の話は本当ですか?」
「聞いていたのですか」
「…申し訳ございません。聞くつもりはなかったのですがつい耳に聞こえてしまったので…」
「そうですか。あまりにも恐ろしいので女性である貴女にはお聞かせしたくない話ですが…えぇ、本当のことです」
「まぁ…」
「殺された女性の魂に神の救いを…祈りましょう」
神父様は悲しそうに顔を下に背けて十字を切り支社を弔うように祈りました。ルチアも神父様に続いて祈りをささげます。少しの沈黙の後、神父様は辺りを見回すとルチアを教会の中に入るように促しました。
「人に聞かれてはならないと思いますので中へ…」
「神父様…?」
曇天の弱い光を浴びて床にぼんやりと映るステンドの影がひしめく人気のない静かな教会の中に二人は入り、キョロキョロと辺りを見回して他に誰も居ないことを確認すると神父様はゴクッと唾を飲みこみ神妙なお顔で小声でルチアにそっと打ち明け始めました。
「実は…少し前から警察から相談されていたのですが…犯人はどうやら私と同じくらいの背格好の男の様だと聞いております」
「え…?」
「もし私と似たような背格好の男が、この教会に自分の犯した罪を抱えきれずに懺悔に来るかも知れません。その場合は…すぐに警察に連絡できるように手筈を整えねばなりません」
「神父様…」
「その時はルチア、貴女にも協力していただきたい…」
「はい…」
「たとえそれが…知り合いであろうとも」
「え?」
「頼みましたよ、ルチア」
神父様はキュッとルチアの手を強く握り、獲物を狙う鳶のように真っ直ぐで鋭く力強い瞳でルチアの顔を見つめました。
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「…ルチア、誠に申し上げにくいことですが…私は貴女の元婚約者であるカルロ伯爵殿が怪しいのではないかと…警察もそのように疑っている節がありました」
「…何ですって!?」
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「…」
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「そんな…」
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「とにかくルチア…あの伯爵殿には近づいてはなりません。貴女とあの伯爵が過去に婚約者同士だったと知っているのはごくわずかな人間だけですが…接点があると分かれば貴女も疑われてしまうかも知れない。ルチア…いいですね?」
「…」
神父様はもう一度ルチアの手を強く握り、語尾を強くしてルチアに言い聞かせるように言いました。
青白い顔で言葉を失っているルチアはまっすぐ前を見ておりましたが、瞳は焦点を定めておらずに明らかに動揺しているかのように見えました。
神父様はそんなルチアを落ち着かせる様に優しく肩を抱き寄せてギュッと力強く包み込むように抱きしめました。洗いたての清潔な石鹸の香りとどこか甘い花の香りのするお香の香りがする神父様の腕の中に包まれてルチアは小さくこくんと頷くと、そのままキュッと神父様の腕を掴み、不安で震える子供のように小さくなってしまいました。
神父様は心配そうに眉をひそめておりましたが、そろそろ講義の時間ですね、とルチアに告げてポンポンと優しく背中を叩くと一足先に奥の部屋の方へと帰っていかれました。
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