ローザタニア王国物語

月城美伶

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Jardin secret ~秘密の花園~

第34話

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…………………………

 「カルロ…単刀直入に聞くけれど貴方…犯人なの?」
「何を馬鹿なことを言っているんですか、ルチア…。そんなしょうもないことを聞くためにわざわざ私の屋敷を訪ねてきてくれたのですか?」

空が今にも泣き出しそうなくらい重くて暗くどんよりとし、辺りは薄い霧が広がる午後の事です。カルロ伯爵のお屋敷に一人の修道女―――…ルチアがこっそりと訪ねてきました。
落ち着いたアイボリーの壁紙に深い緑色をした質のいい少し硬めのソファーが部屋の真ん中に設置されているアンティーク調のカルロ伯爵の自室で、バラの花の香り高いお茶を一口飲みながらカルロ伯爵は真剣なお顔でこちらを訝しむように見ているルチアを一蹴しました。

「でも…街の人たちが皆言っているわ!貴方が女好きなのは女の血を飲むためだって!ねぇカルロ…私には本当のことを話して…?貴方は…吸血鬼でなの?」
「私が人間なのは元婚約者である貴女なら知っているでしょう」
「…そうだけど…でもッ!」
「でも?」
「…貴方は大人の遊びを覚えてからかすっかり昔とは変わってしまったわ…」
「都会の社交界で遊んでいたら誰だってこうなりますよ。こんな田舎でのんびりと暮らしている人たちには刺激が強すぎるんでしょう。きっと私の事が嫌いな人が私を犯人のスケープゴートとして仕立て上げようとしているんですよ。派手な私が憎いんでしょうかね」
「馬鹿なこと言っていないで…っ!ねぇカルロ…もし本当に犯人じゃないならちゃんとそれを証明しないと!街の人たちは貴方が犯人だってほぼ決めつけているわ!今だってたくさんの街の人たちが神父様のところに相談に来ているの…」
「…あの神父のところに?」
「えぇ…」
「…」

ルチアは眉間に皺を寄せて必死の表情で、カルロ伯爵の座っているすぐ隣のに駆け寄りギュッと強く伯爵の手を握りました。カルロ伯爵はいきなりのことに驚いて顔を上げてそんな真剣なルチアの顔を見つめます。

「カルロ…神父様のところに行ってちゃんとお話ししましょう?もしかしたら…貴方自身自覚がないのかも知れないけれどもしかしたら吸血鬼にその身体を乗っ取られているかも知れないわ。だったらちゃんと神父様に清めてもらわないと…!」
「何を馬鹿なことを言っているんですか。だから私は殺人犯でもないし吸血鬼でもないですよ」
「でも神父様が神をも恐れずにそんな…不特定多数の男女構わず破廉恥なことをする者は…吸血鬼に違いないって仰っていたわ」
「神父様…?あぁ…あの最近赴任してきたあの若い男のことですか…。ルチア、貴女はその神父と私と…どちらを信用するのですか?」

カルロ伯爵の顔が強張りました。真っ直ぐな瞳でカルロ伯爵を見つめていたルチアはハッと驚き、握っていた手を離そうとしましたがカルロ伯爵はその手を離すことなくさらに強く握りしめます。

「…でも…」
「ルチア…私は吸血鬼などではない。ただの人間です。そして今でも貴女を心の底から愛している…ただの愚かな一人の男だ」
「カルロ…」
「ルチア私を信じてほしい」
「軽薄で嘘つきの貴方をどう信じろと言うの…?」
「ルチア…」

伯爵はアッシュグレーの瞳を悲しそうに曇らせてルチアのお顔をずっと見つめております。ルチアも凛と輝くヘーゼルナッツ色の瞳をカルロ伯爵から離すことなく見つめておりました。しばらく二人は見つめ合ったまま少しの沈黙が流れます。ルチアはカルロ伯爵の手を解きパッと瞳を逸らしておもむろにソファーから立ち上がりました。

「お使いの途中なの…。もう戻らないと…」
「待ってくださいルチア…」
「ごめんなさいカルロ…もう行かなきゃ」
「行かせない…」
「きゃっ…!」

ルチアの手再び取り、グイッと強引に引っ張ってそのまま抱き寄せました。

「カルロっ!?」
「…ルチア、ずっと君だけを愛しているんだ…」
「やめて…」
「愛している…」
「離してカルロ…お願い…」
「ルチア…」

カルロ伯爵はギュッと強く抱きしめられている腕の中から逃れようと身を捩るルチアをさらに強く抱きしめ、そして瑞々しい赤い紅を引いたような唇に強引に自分の唇を重ね合わせました。

「…やめ…っ」
「ルチア…」

抵抗して逃げようとして離れるルチアの唇を何度も何度も捉えては唇を重ね合わせておりますと、次第にルチアは敵わないと思ったのか抵抗することを止めてカルロ伯爵の唇を受け入れるようになり、二人は甘い口づけを交わし始めました。静かな部屋の中には二人のため息交じりの甘い吐息が響いてきました。ん…っと甘い吐息を放ってルチアが赤らめた顔をずらし、そのままカルロ伯爵の胸に倒れ込むように抱きつきました。

「…どうして…こんなこと…」
「貴女を愛しているからですよ、ルチア…」
「…じゃあどうして…私以外の他の人達ともこういうことしたの…?」
「ルチア…」
「私だって貴方を愛してたわ…。だからどうしても許せないのよ…。どうして…?私を愛しているのに…どうして…他の人にもキスしたり…平気で触れたりできるの…?」
「…」
「私だって…貴方に触れたかった…いつだって貴方のぬくもりを感じたかった…でも…私は嫌。私以外の人が触れたその身体で私に触れないで…」
「ルチア…」
「お願い…もう私を困らせないで…。両親が亡くなってから修道女シスターとして強く一人で生きていこうと決めたのよ。もう…私は貴方の知っているシャロン子爵家のルチアじゃない…シスタールチアなの」
「戻って来てくれないのか…?」
「…もう無理よ。全てが遅すぎるわ」
「まだ君は修道女シスターとなるための勉強をしている身だ。まだ神に忠誠を誓っていない」
「…ごめんなさいカルロ…」
「ルチアッ!」

ルチアは伯爵の胸に埋めていたお顔を上げてその腕の中から出て行こうとしました。しかしカルロ伯爵は逃さまいとルチアを再び強く抱きしめるともう一度唇を重ねて熱い口づけを交わします。

「駄目…っ!」

少し息が上がり頬が紅潮しているルチアはカルロ伯爵のお顔を叩き、涙ぐんだ瞳で伯爵を見つめます。頬を叩かれた拍子にうつむいたカルロ伯爵はゆっくりとお顔を上げてルチアと目が合うと、一気にルチアをベッドに突き飛ばしました。

修道女シスターの条件は清らかであること…でしたね?」
「カル…ロ…?」

ルチアはベッドから起き上がろうとしましたが、それを阻むかのようにカルロ伯爵はルチアに覆いかぶさるようにベッドに足を掛けました。そしてゆっくりとタイのリボンを外して胸元を少し緩め、ルチアの耳元で囁くように愛している、と呟くとそのまま小さく震えているルチアのベールを外しました。

「最初からこうしていればよかった…」
「やめ…」
「ルチア…」

カルロ伯爵はそのままルチアに覆いかぶさるようにベッドに沈むと胸元に掛かっているロザリオを引きちぎりました。部屋中に薄いピンク色のロザリオの珠がバラバラと散らばっていきます。

「あ…っ!」
「ルチア…愛している」
「やめて…カルロ…お願い…。これ以上私を…困らせないで…」
「ルチア…」

カルロ伯爵はルチアに再び熱い口づけをぶつけてきました。伯爵の絡みつくように迫ってくる舌から逃れようとルチアは必死に抵抗しますが、頭がぼんやりとするほどの自分の身体の芯から込み上げてくる甘くて熱い衝動にほだされて徐々に抵抗する力が無くなっていき、次第にカルロ伯爵を受け入れ、そのまま伯爵の愛を素直に受け入れだしました。

どれほど時間が経ったでしょうか。
涙で頬を濡らしたルチアは伯爵に身を委ねて降り注ぐ愛を全身で感じておりました。
伯爵はそっとその頬に優しく手を添えて、その涙を拭います。

「…もし貴方が吸血鬼なら…私の血を一気に飲み干して今すぐ殺して…」
「それが出来たなら幸せでしょうね…。愛しい貴女を永遠に独り占めできるのに…」
「…やっぱり大嫌いよ…カルロ…」
「嫌いでも構わないですよ…。貴女の中で…私がいっぱいになるのならこれ以上にない幸せですよ…」
「…愛しているわカルロ…」

ルチアはぼんやりとした意識の中でカルロ伯爵を睨むように真っ直ぐに見つめながらそう呟きました。そんなルチアを見た伯爵はフッと笑いルチアの目の縁に溜まっている涙をそっと指で拭い、優しい口づけをして上体を起こして強く抱きしめました。

「ルチア…愛している」

ルチアは何も答えずに潤んだ瞳でにっこり微笑み、カルロ伯爵の首に手を回してぴったりと身体を重ね合わせました。伯爵はルチアをもう一度強く、そして優しく抱き締めると、そのままそっとお顔を合わせて何度も何度も甘い口づけを交わし、二人は再び崩れるようにベッドへと沈んで行ったのでした―――…。

…………………………
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