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Jardin secret ~秘密の花園~
第39話
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「…姫様!しっかりしてください…姫様っ!!」
「シャルっ!!」
「もしかしたら…バラの毒気にやられているのかも知れません」
「バラの毒気…」
「ヴィンセント殿…ルドルの聖水はまだお持ちですか?」
「…まだ少しだけなら残っています」
「…シャルロット様に飲ませてあげてください」
ヴィンセントは飛んでくる火の粉から逃れるため教会から少し離れた安全な場所へと移動してすると、先ほど吸血鬼に掛けた聖水の小瓶を取出し、少しだけ残っているのを確認するとシャルロット様の口に小瓶を持って行き口に含ませました。
ジッと目を凝らして様子を見守っておりましたが、シャルロット様の喉が動くことはなく口の端から水がツーッと零れ落ちてしまいました。
「…飲まない…」
「シャルお願いだ…起きてくれ…」
「姫様…」
「…陛下、ヴィンセント殿…ちょっとエキセントリックなことを申し上げますと…」
「何だこんな時に…っ!!」
「…眠り姫の起こし方はご存知でしょう?」
「伯爵殿…ふざけていらっしゃるんですか?」
「…貴方がされないのなら私が変わりにして差し上げても構わないのですが…?」
「…誰が貴方なんかに…っ!」
カルロ伯爵はヴィンセントの手からシャルロット様を自分の腕の中に移動させようとします。ヴィンセントは気安く触るなと言わんばかりにシャルロット様を奪い返します。
フッと悪戯っ子ぽく微笑み、促すカルロ伯爵の視線を背にヴィンセントは深呼吸をして呼吸をと問えました。
「ったく…!人命救助ですからね…」
そう呟くと、ヴィンセントはシャルロット様の頬に優しく手を添えてから顎を少し上げて気道を確保すると、意を決してシャルロット様の唇に自分の唇を重ねました。
小さく開いた口へと吐息を吹き入れると、ヴィンセントはそっと唇を離します。
「…姫様…」
抱きかかえたまま、真っ白なお顔のままのシャルロット様を見守ります。するとピクンッと瞼が痙攣するかのように小さく動き出しました。
ふぅ…っと小さく吐息が漏れる音がしました。そして徐々に頬がピンクに染まり出すと、クルンッとカールしている長い睫がゆっくりと動き出し、エメラルド色をした瞳がぼんやりと開き始めたのです。
「…ん」
愛らしい鈴のような小さい声がヴィンセントの耳に届きました。
ホッとしたのか、ヴィンセントはいつもより優しい瞳でシャルロット様のお顔を見つめております。
「お目覚めは…いかがですか、姫様…」
「…ヴィー…」
「何ですか?」
「…何だかとても…怖い夢を見ていたような気がするの…」
「そうですか…」
「真っ暗な闇の中で…誰かに追いかけられていた気がする…。でも…」
「でも?」
「夢の中でも…ヴィーが助けてくれたわ…」
「…そうですか」
シャルロット様はまだ少し意識がフワフワしているのか、ご自分の頬に優しく置かれているヴィンセントの手にそっとご自分の手を重ね合わせ、ぼんやりとヴィンセントを見つめております。
ヴィンセントはそのままギュッとシャルロット様を抱き寄せると、シャルロット様もそれに応えるかのようにヴィンセントの肩に腕を伸ばし、まだ弱々しい力でしたがヴィンセントを抱きしめ返しました。
「お姫様は勇敢なる騎士の愛の力により…深い眠りから目が醒めるんですよ」
「…人命救助ですよ。それに家族みたいなもんですから」
「やっぱりヴィンセント殿は意地っ張りですね」
「…伯爵殿、永遠の眠りにつきたいですか?」
背中越しにからかう様に話しかけてくるカルロ伯爵をギロッと睨みかけ、ヴィンセントは地下神殿で拾ってきた銀の銃をカルロ伯爵に向けました。
まぁまぁ…と顔面蒼白で引き攣りながら笑うウィリアム様がお二人の間に入ってなだめていると、パキッと小枝が折れる音が聞こえてきました。
皆一瞬で表情を変えてその血らの方に視線をやると、そこには白い伝書鳩を肩に乗せた白いキャソックを着て帽子を目深に被った男性が静かに立っておりました。
「ご苦労でした」
「守護神父殿!」
「派手にやりましたね」
「申し訳ございません」
「まぁ良いでしょう、事後処理はこちらで取り計らいましょう」
「ありがとうございます」
カルロ伯爵が深々とその男に対し頭を下げました。煌々と燃え盛る教会を見てふぅ…と大きく溜息をつくとその男はウィリアム様の方を見て威厳深い声で話しはじめました。
「謹んで教皇よりのお言葉を申し上げます。『…ローザタニアの若き国王ウィリアム殿、シャルロット王女…ヴィンセントよ。お主たちを巻き込んでしまったことを詫びよう。今後この事件の事は一切他言無用願いたい』とのことです」
「…承知いたしました」
「この火事で人が集まってくるでしょう。さぁ…ここは私に任せてお戻りください、陛下」
「は…」
遠くの方でザワザワと人が騒ぎ立てる声が聞こえてきました。守護神父殿と呼ばれる男性に促され、皆乗ってきた馬に跨ります。
まだ少しフラフラとしているシャルロット様の手を引き、ヴィンセントは馬に同乗させました。
「ありがとうヴィー…」
「少し飛ばしますので落ちないようにしっかり掴まってってください」
カルロ伯爵の馬を先頭に、ウィリアム様、ヴィンセントの馬が続きます。人が集まってくる前にさっさとここから立ち去ろうと、人目をさせるために猛スピードで森の中へと入って行きました。
「ねぇ…ヴィー」
「なんですか?」
「…ごめんなさい」
「何がですか?」
「…つまらないことで意地張って…ごめんなさい。…あのね、ヴィーが他の女の人と一緒に居るのを見たら…何だかとても苦しくなって…悲しくなって…辛くなっちゃってどうしようもなかったの…」
「…」
シャルロット様はヴィンセントの胸に頭を寄せて、ギュッと背中に腕を回して強くくっ付くと、まだ気だるそうな様子ではありましたが一生懸命言葉を振り絞りヴィンセントに語りかけました。
「ヴィーの横に居るのは私だけだって思っていたのに、どうして他の女の人がヴィーの横に居てあんなに楽しそうにしているのっ!?って思うと悔しかったの。ヴィーは私の所有物じゃないのにね…」
「…いつだって私は姫様のお世話係ですよ」
「ヴィー?」
「…姫様だけの騎士が現れるまでは私が貴女を全力でお守りするんです」
「…私だけの騎士?」
「えぇ。それまで全身全霊で貴女をお守りするのが私の使命です」
「…ヴィーより強くて素敵な騎士なんて現れるかしら」
「きっといつか来ますよ。でもまぁ…待っているだけじゃ何も始まらないし、そんな女性つまらないですから、私がきっちり教育して差し上げますけどね」
「…ヴィー好みの?」
「えぇ。超絶最強女子にね」
ずっと前だけを見てシャルロット様の方を見なかったヴィンセントでしたが、チラッとシャルロット様の方を見てフッと笑い掛けられました。シャルロット様もつられて、大きな瞳でヴィンセントのお顔を見上げて微笑みます。
「…優しくしてね?」
「姫様次第ですね。って…そんな喋っていたら舌噛んで危ないのでそろそろ黙ってください」
「…はーい」
「『はい』は伸ばさない!ったく…帰ったら色々特訓ですからね。ダンスも何ですかあのワルツ…。何度脚を踏まれそうになった事か…!」
「…やっぱりヴィー嫌いだわ」
「嫌いで結構!はい、飛ばしますよ!」
シャルロット様が喋り出したからでしょうか少しだけ馬のスピードを緩めていたヴィンセントは、馬を鼓舞してスピードを出す様に促しました。
少しだけヴィンセントの耳たぶが紅くなっておりましたが、暗い夜の闇の中でシャルロット様の目にはそれは分からなかったようです。
空に輝く満天の星だけが、その様子を優しく見守っていたのでした―――…。
「シャルっ!!」
「もしかしたら…バラの毒気にやられているのかも知れません」
「バラの毒気…」
「ヴィンセント殿…ルドルの聖水はまだお持ちですか?」
「…まだ少しだけなら残っています」
「…シャルロット様に飲ませてあげてください」
ヴィンセントは飛んでくる火の粉から逃れるため教会から少し離れた安全な場所へと移動してすると、先ほど吸血鬼に掛けた聖水の小瓶を取出し、少しだけ残っているのを確認するとシャルロット様の口に小瓶を持って行き口に含ませました。
ジッと目を凝らして様子を見守っておりましたが、シャルロット様の喉が動くことはなく口の端から水がツーッと零れ落ちてしまいました。
「…飲まない…」
「シャルお願いだ…起きてくれ…」
「姫様…」
「…陛下、ヴィンセント殿…ちょっとエキセントリックなことを申し上げますと…」
「何だこんな時に…っ!!」
「…眠り姫の起こし方はご存知でしょう?」
「伯爵殿…ふざけていらっしゃるんですか?」
「…貴方がされないのなら私が変わりにして差し上げても構わないのですが…?」
「…誰が貴方なんかに…っ!」
カルロ伯爵はヴィンセントの手からシャルロット様を自分の腕の中に移動させようとします。ヴィンセントは気安く触るなと言わんばかりにシャルロット様を奪い返します。
フッと悪戯っ子ぽく微笑み、促すカルロ伯爵の視線を背にヴィンセントは深呼吸をして呼吸をと問えました。
「ったく…!人命救助ですからね…」
そう呟くと、ヴィンセントはシャルロット様の頬に優しく手を添えてから顎を少し上げて気道を確保すると、意を決してシャルロット様の唇に自分の唇を重ねました。
小さく開いた口へと吐息を吹き入れると、ヴィンセントはそっと唇を離します。
「…姫様…」
抱きかかえたまま、真っ白なお顔のままのシャルロット様を見守ります。するとピクンッと瞼が痙攣するかのように小さく動き出しました。
ふぅ…っと小さく吐息が漏れる音がしました。そして徐々に頬がピンクに染まり出すと、クルンッとカールしている長い睫がゆっくりと動き出し、エメラルド色をした瞳がぼんやりと開き始めたのです。
「…ん」
愛らしい鈴のような小さい声がヴィンセントの耳に届きました。
ホッとしたのか、ヴィンセントはいつもより優しい瞳でシャルロット様のお顔を見つめております。
「お目覚めは…いかがですか、姫様…」
「…ヴィー…」
「何ですか?」
「…何だかとても…怖い夢を見ていたような気がするの…」
「そうですか…」
「真っ暗な闇の中で…誰かに追いかけられていた気がする…。でも…」
「でも?」
「夢の中でも…ヴィーが助けてくれたわ…」
「…そうですか」
シャルロット様はまだ少し意識がフワフワしているのか、ご自分の頬に優しく置かれているヴィンセントの手にそっとご自分の手を重ね合わせ、ぼんやりとヴィンセントを見つめております。
ヴィンセントはそのままギュッとシャルロット様を抱き寄せると、シャルロット様もそれに応えるかのようにヴィンセントの肩に腕を伸ばし、まだ弱々しい力でしたがヴィンセントを抱きしめ返しました。
「お姫様は勇敢なる騎士の愛の力により…深い眠りから目が醒めるんですよ」
「…人命救助ですよ。それに家族みたいなもんですから」
「やっぱりヴィンセント殿は意地っ張りですね」
「…伯爵殿、永遠の眠りにつきたいですか?」
背中越しにからかう様に話しかけてくるカルロ伯爵をギロッと睨みかけ、ヴィンセントは地下神殿で拾ってきた銀の銃をカルロ伯爵に向けました。
まぁまぁ…と顔面蒼白で引き攣りながら笑うウィリアム様がお二人の間に入ってなだめていると、パキッと小枝が折れる音が聞こえてきました。
皆一瞬で表情を変えてその血らの方に視線をやると、そこには白い伝書鳩を肩に乗せた白いキャソックを着て帽子を目深に被った男性が静かに立っておりました。
「ご苦労でした」
「守護神父殿!」
「派手にやりましたね」
「申し訳ございません」
「まぁ良いでしょう、事後処理はこちらで取り計らいましょう」
「ありがとうございます」
カルロ伯爵が深々とその男に対し頭を下げました。煌々と燃え盛る教会を見てふぅ…と大きく溜息をつくとその男はウィリアム様の方を見て威厳深い声で話しはじめました。
「謹んで教皇よりのお言葉を申し上げます。『…ローザタニアの若き国王ウィリアム殿、シャルロット王女…ヴィンセントよ。お主たちを巻き込んでしまったことを詫びよう。今後この事件の事は一切他言無用願いたい』とのことです」
「…承知いたしました」
「この火事で人が集まってくるでしょう。さぁ…ここは私に任せてお戻りください、陛下」
「は…」
遠くの方でザワザワと人が騒ぎ立てる声が聞こえてきました。守護神父殿と呼ばれる男性に促され、皆乗ってきた馬に跨ります。
まだ少しフラフラとしているシャルロット様の手を引き、ヴィンセントは馬に同乗させました。
「ありがとうヴィー…」
「少し飛ばしますので落ちないようにしっかり掴まってってください」
カルロ伯爵の馬を先頭に、ウィリアム様、ヴィンセントの馬が続きます。人が集まってくる前にさっさとここから立ち去ろうと、人目をさせるために猛スピードで森の中へと入って行きました。
「ねぇ…ヴィー」
「なんですか?」
「…ごめんなさい」
「何がですか?」
「…つまらないことで意地張って…ごめんなさい。…あのね、ヴィーが他の女の人と一緒に居るのを見たら…何だかとても苦しくなって…悲しくなって…辛くなっちゃってどうしようもなかったの…」
「…」
シャルロット様はヴィンセントの胸に頭を寄せて、ギュッと背中に腕を回して強くくっ付くと、まだ気だるそうな様子ではありましたが一生懸命言葉を振り絞りヴィンセントに語りかけました。
「ヴィーの横に居るのは私だけだって思っていたのに、どうして他の女の人がヴィーの横に居てあんなに楽しそうにしているのっ!?って思うと悔しかったの。ヴィーは私の所有物じゃないのにね…」
「…いつだって私は姫様のお世話係ですよ」
「ヴィー?」
「…姫様だけの騎士が現れるまでは私が貴女を全力でお守りするんです」
「…私だけの騎士?」
「えぇ。それまで全身全霊で貴女をお守りするのが私の使命です」
「…ヴィーより強くて素敵な騎士なんて現れるかしら」
「きっといつか来ますよ。でもまぁ…待っているだけじゃ何も始まらないし、そんな女性つまらないですから、私がきっちり教育して差し上げますけどね」
「…ヴィー好みの?」
「えぇ。超絶最強女子にね」
ずっと前だけを見てシャルロット様の方を見なかったヴィンセントでしたが、チラッとシャルロット様の方を見てフッと笑い掛けられました。シャルロット様もつられて、大きな瞳でヴィンセントのお顔を見上げて微笑みます。
「…優しくしてね?」
「姫様次第ですね。って…そんな喋っていたら舌噛んで危ないのでそろそろ黙ってください」
「…はーい」
「『はい』は伸ばさない!ったく…帰ったら色々特訓ですからね。ダンスも何ですかあのワルツ…。何度脚を踏まれそうになった事か…!」
「…やっぱりヴィー嫌いだわ」
「嫌いで結構!はい、飛ばしますよ!」
シャルロット様が喋り出したからでしょうか少しだけ馬のスピードを緩めていたヴィンセントは、馬を鼓舞してスピードを出す様に促しました。
少しだけヴィンセントの耳たぶが紅くなっておりましたが、暗い夜の闇の中でシャルロット様の目にはそれは分からなかったようです。
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