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第7章 中告サービス社
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二人は、岐阜市郊外ある中告サービス社を訪ねた。この中告サービス社は、タウン誌「ナ・がら」の発行元で高橋 涼子(たかはし りょうこ)の勤務先である。
「高橋涼子さんですね。今日は、上田健一さんのことでお伺いしました」
「弁護士さん? ですか。上田君、両親を刺しちゃたんですって」
「まだ、決まったわけじゃありません」
「そう。彼、認めてないの」
「高橋さんは、事件前に、上田健一さんにお会いになっていますよね」
「ええ。取材で合っていますよ。そのことは警察の方にもお話しましたけど」
「高橋さんは、上田さんと大学が同じだったとお聞きしましたが、お二人は、どんな関係でしたか」
「関係? 大学でサークルが同じだっただけ、何も無いですよ。私は、雑誌編集者を目指してたから写真やカメラのことを覚えようと写真サークルに参加したのよ。そのサークルに彼がいた、ただそれだけ」
「学生時代の上田さんは、どんな方でしたか」
「学生のころ、そうね……今と、同じだったわね。そう、一言でいえばシャイな感じね。口数は少ないけど、こちらから聞けば何でも教えてくれたわ。カメラのことや構図など随分教わったわ。 彼の撮る写真は、優しいのよ。私も、あんな風に撮れたらいいなと思ってね。 これ、彼が撮った写真、この後ろ姿の親子どう見えます?」と、タウン誌ナ・がら『特集・郡上の夏』の、中ほどのページを開き2人の見せた。
「なんか、楽しそうにみえますね」
「そうでしょ、後ろ姿でも優しいのよね。 特集の写真も、彼のストックをいくつか使わせて貰ったわ。この表紙、彼が撮ってくれたのよ、綺麗に撮れてるでしょ」
「お綺麗ですね」
「ありがとうございます。 まあ、彼は、背も高いし顔もマアマアだけど野暮ったいのよ、センスがね。田舎臭いの、聞いたら、服はお母さんが選んでくれるって言ってたわ。それを、彼、嬉しそうに話すのよ、完全なマザコンよね」
「お付き合いは、有りましたか」
「いいえ。『特集・郡上の夏』を任されることになって、彼が、郡上出身だったことを思い出したの、それで連絡をしたのね、そうしたら市の観光課にいて観光協会の仕事もしてるからって、案内してくれることになったのよ」
「取材は、6月30日と7月1日と聞いていますが」
「そう、火曜・水曜日の2日間。彼の案内で、郡上おどり八幡博覧館、郡上八幡城と旧城下町、本町の宗祇水、やなか水の小路や、古い商店街。 そう下駄屋さん、靴は売ってないのよ下駄専門店なのよ、さすが盆踊りの街よね」
「宿泊は、どちらで」
「老舗の『美濃屋』さん、取材を兼ねてね」
「お一人でしたか」
「そうですよ、彼とは、そんな仲じゃありませんから。一応ね、夕食を一緒にどうかと誘ったけど『お母さんが、夕食の準備してるから』って、完璧なマザコン男子になってたわ。きっとブリーフに、“ケンイチ”って書いてあるわよ」
「2日目は、どうでしたか」
「2日目? 食品サンプルの工房で、サンプル作りを体験したわ。レタスを作ったんだけどね、これがなかなか難しいのよ、冷蔵庫に1週間も入れられてたみたいになっちやって、シャキシャキ感ゼロ。
それから役場の車で、お昼に八幡のやなでBBQをして、大滝鍾乳洞に行って。国道156号線の五町堤の桜、ここはあまり知られてないけど『太平洋と日本海を桜でつなごう』と、桜を植樹し続けた旧国鉄バスの名金線(名古屋と金沢を結ぶバス路線)の車掌さんが植えた桜なのよ、映画にもなったそうよ、今は毎年『さくら道国際ネイチャーラン』が行われているわ。これ彼から聞いた小ネタ。
その後に、美並町の粥川の星宮神社に行って、知ってます、ここの氏子さんたちは、ウナギを食べない、食べちゃいけないのよ」
「食べちゃ、いけないのですか」
「ここの氏神様の、お使いが『ウナギ様』なの。これも彼から聞いた話し、ヘェーよね」
「そうですか」
「ウナギは、1日目のお昼に食べたから良かったけど、そんな所に嫁いだら大変、ウナギ食べられなくなっちゃう。その後は、八幡駅まで送ってもらって別れたわ。
彼、よく知ってるのよさすが観光課だわ。おかげでいい記事が書けたし、評判も上々。次の特集『高山の秋』も、任せてもらえることになったのよ。上田君様様ね」
「それは良かったですね。その2日間で、何か変わったことはありませんでしたか」
「特に、何も無かったけど」
「2日目の取材が終わって、戻ってきた上田さんの機嫌が悪かったと、勤め先でお聞きしました。何か、トラブルがあったのはありませんか」
「何か、気に障ること言ったかな……私、空気読めないから」
「そうですか」
「ご家族のことは、何かお聞きになりませんでしたか」
「お父さんが、信金の支店長だと聞きましたけど……」
「お母様のことは?」
「特に、話題にはならなかったけど」
「高橋さんは、上田さんが、『養子さん』だったことはご存知でしたか」
「そう。彼、養子さんなの……知らなかったわ」
「そうですか」
「お仕事中、お時間を頂きありがとうございました」
「涼子さん。健一君の写真を、絶賛していましたね」
「確かに、私は写真のこと詳しくはないがね、確かにいい写真だと思いました。ところで、恵美子君、高橋さんの印象はどうでした。美人な方でしたが」
「なるほど、先生のタイプでしたか、冊子の表紙になるくらいですからね」
「私のことじゃなくて……」
「嫌味にも聞こえましたが、悪気のない、さっぱりとした人でしたね」
「そう、悪気は感じられませんでしたね。その高橋さんに、健一君が好意を寄せていたと思いますか」
「それは、無いわ。賭けてもいいですよ」
「そう、ですよね」
「警察も聞き込みに来ているようですが、証人依頼はしていないようですから、検察側は、重要性が無いと判断したわですよね」
「そのようだね」
「『取材の後、健一君の機嫌が悪かった』というのは、何だったのしょうかね? 涼子さんは、健一君が、施設出身だとは知らなかったようですから、あの調子で、何か健一君の気に障ることを言ってしまったとか……涼子さんが、言うように何事もなく、ただ疲れていて体調が悪かったのでしょうかね」
「いや。何か、あったはずですよ」
「先生は、何か思い当たることがあるのですか」
「いや、そんな気がしてなりません」
「ヤメ検の感ですか」
儀父の紘一は、信金の和田結衣から、写真を借り見合い話しを進めていた。 健一は、タウン誌の編集者 高橋涼子の取材に同行し2日間八幡の街を訪ね歩いていた。その様子が、義母の絢子の耳に入り、健一を咎めた。と、廣田は考えたのだ。
第一回公判の前日、廣田と美恵子は、上田健一に接見をした。
「健一君、よく聞いてください。明日は、初公判です。君は、殺人罪で起訴されています。殺人罪は、殺意があって成立します。 検察は、君に殺意があったとして、その殺意を強く主張しそれを証明しようとするでしょう。 私は、君に殺意はなかったと主張し弁護をします。 いいですか、明日の罪状認否で『殺意はなかった、事故だった』と主張し、殺人は否認してください。絶対に、殺意を認めてはいけません。いいですね」
健一は、自らは何も語らず廣田の話しを聞いていた。
「お父さんは、信金の和田結衣さんから写真を借りお母さんに見せ、見合い話しを進めていた。君は、6月30日と7月1日の2日間タウン誌の編集者 高橋涼子さんの取材に同行し八幡の街を訪ね歩いていた。それが、お母さんの耳に入り、あの日……」
「関係ありません!」と、健一は興奮し席を立った。
「君は、何を隠している! 誰を、庇っているんだ!」
「高橋涼子さんですね。今日は、上田健一さんのことでお伺いしました」
「弁護士さん? ですか。上田君、両親を刺しちゃたんですって」
「まだ、決まったわけじゃありません」
「そう。彼、認めてないの」
「高橋さんは、事件前に、上田健一さんにお会いになっていますよね」
「ええ。取材で合っていますよ。そのことは警察の方にもお話しましたけど」
「高橋さんは、上田さんと大学が同じだったとお聞きしましたが、お二人は、どんな関係でしたか」
「関係? 大学でサークルが同じだっただけ、何も無いですよ。私は、雑誌編集者を目指してたから写真やカメラのことを覚えようと写真サークルに参加したのよ。そのサークルに彼がいた、ただそれだけ」
「学生時代の上田さんは、どんな方でしたか」
「学生のころ、そうね……今と、同じだったわね。そう、一言でいえばシャイな感じね。口数は少ないけど、こちらから聞けば何でも教えてくれたわ。カメラのことや構図など随分教わったわ。 彼の撮る写真は、優しいのよ。私も、あんな風に撮れたらいいなと思ってね。 これ、彼が撮った写真、この後ろ姿の親子どう見えます?」と、タウン誌ナ・がら『特集・郡上の夏』の、中ほどのページを開き2人の見せた。
「なんか、楽しそうにみえますね」
「そうでしょ、後ろ姿でも優しいのよね。 特集の写真も、彼のストックをいくつか使わせて貰ったわ。この表紙、彼が撮ってくれたのよ、綺麗に撮れてるでしょ」
「お綺麗ですね」
「ありがとうございます。 まあ、彼は、背も高いし顔もマアマアだけど野暮ったいのよ、センスがね。田舎臭いの、聞いたら、服はお母さんが選んでくれるって言ってたわ。それを、彼、嬉しそうに話すのよ、完全なマザコンよね」
「お付き合いは、有りましたか」
「いいえ。『特集・郡上の夏』を任されることになって、彼が、郡上出身だったことを思い出したの、それで連絡をしたのね、そうしたら市の観光課にいて観光協会の仕事もしてるからって、案内してくれることになったのよ」
「取材は、6月30日と7月1日と聞いていますが」
「そう、火曜・水曜日の2日間。彼の案内で、郡上おどり八幡博覧館、郡上八幡城と旧城下町、本町の宗祇水、やなか水の小路や、古い商店街。 そう下駄屋さん、靴は売ってないのよ下駄専門店なのよ、さすが盆踊りの街よね」
「宿泊は、どちらで」
「老舗の『美濃屋』さん、取材を兼ねてね」
「お一人でしたか」
「そうですよ、彼とは、そんな仲じゃありませんから。一応ね、夕食を一緒にどうかと誘ったけど『お母さんが、夕食の準備してるから』って、完璧なマザコン男子になってたわ。きっとブリーフに、“ケンイチ”って書いてあるわよ」
「2日目は、どうでしたか」
「2日目? 食品サンプルの工房で、サンプル作りを体験したわ。レタスを作ったんだけどね、これがなかなか難しいのよ、冷蔵庫に1週間も入れられてたみたいになっちやって、シャキシャキ感ゼロ。
それから役場の車で、お昼に八幡のやなでBBQをして、大滝鍾乳洞に行って。国道156号線の五町堤の桜、ここはあまり知られてないけど『太平洋と日本海を桜でつなごう』と、桜を植樹し続けた旧国鉄バスの名金線(名古屋と金沢を結ぶバス路線)の車掌さんが植えた桜なのよ、映画にもなったそうよ、今は毎年『さくら道国際ネイチャーラン』が行われているわ。これ彼から聞いた小ネタ。
その後に、美並町の粥川の星宮神社に行って、知ってます、ここの氏子さんたちは、ウナギを食べない、食べちゃいけないのよ」
「食べちゃ、いけないのですか」
「ここの氏神様の、お使いが『ウナギ様』なの。これも彼から聞いた話し、ヘェーよね」
「そうですか」
「ウナギは、1日目のお昼に食べたから良かったけど、そんな所に嫁いだら大変、ウナギ食べられなくなっちゃう。その後は、八幡駅まで送ってもらって別れたわ。
彼、よく知ってるのよさすが観光課だわ。おかげでいい記事が書けたし、評判も上々。次の特集『高山の秋』も、任せてもらえることになったのよ。上田君様様ね」
「それは良かったですね。その2日間で、何か変わったことはありませんでしたか」
「特に、何も無かったけど」
「2日目の取材が終わって、戻ってきた上田さんの機嫌が悪かったと、勤め先でお聞きしました。何か、トラブルがあったのはありませんか」
「何か、気に障ること言ったかな……私、空気読めないから」
「そうですか」
「ご家族のことは、何かお聞きになりませんでしたか」
「お父さんが、信金の支店長だと聞きましたけど……」
「お母様のことは?」
「特に、話題にはならなかったけど」
「高橋さんは、上田さんが、『養子さん』だったことはご存知でしたか」
「そう。彼、養子さんなの……知らなかったわ」
「そうですか」
「お仕事中、お時間を頂きありがとうございました」
「涼子さん。健一君の写真を、絶賛していましたね」
「確かに、私は写真のこと詳しくはないがね、確かにいい写真だと思いました。ところで、恵美子君、高橋さんの印象はどうでした。美人な方でしたが」
「なるほど、先生のタイプでしたか、冊子の表紙になるくらいですからね」
「私のことじゃなくて……」
「嫌味にも聞こえましたが、悪気のない、さっぱりとした人でしたね」
「そう、悪気は感じられませんでしたね。その高橋さんに、健一君が好意を寄せていたと思いますか」
「それは、無いわ。賭けてもいいですよ」
「そう、ですよね」
「警察も聞き込みに来ているようですが、証人依頼はしていないようですから、検察側は、重要性が無いと判断したわですよね」
「そのようだね」
「『取材の後、健一君の機嫌が悪かった』というのは、何だったのしょうかね? 涼子さんは、健一君が、施設出身だとは知らなかったようですから、あの調子で、何か健一君の気に障ることを言ってしまったとか……涼子さんが、言うように何事もなく、ただ疲れていて体調が悪かったのでしょうかね」
「いや。何か、あったはずですよ」
「先生は、何か思い当たることがあるのですか」
「いや、そんな気がしてなりません」
「ヤメ検の感ですか」
儀父の紘一は、信金の和田結衣から、写真を借り見合い話しを進めていた。 健一は、タウン誌の編集者 高橋涼子の取材に同行し2日間八幡の街を訪ね歩いていた。その様子が、義母の絢子の耳に入り、健一を咎めた。と、廣田は考えたのだ。
第一回公判の前日、廣田と美恵子は、上田健一に接見をした。
「健一君、よく聞いてください。明日は、初公判です。君は、殺人罪で起訴されています。殺人罪は、殺意があって成立します。 検察は、君に殺意があったとして、その殺意を強く主張しそれを証明しようとするでしょう。 私は、君に殺意はなかったと主張し弁護をします。 いいですか、明日の罪状認否で『殺意はなかった、事故だった』と主張し、殺人は否認してください。絶対に、殺意を認めてはいけません。いいですね」
健一は、自らは何も語らず廣田の話しを聞いていた。
「お父さんは、信金の和田結衣さんから写真を借りお母さんに見せ、見合い話しを進めていた。君は、6月30日と7月1日の2日間タウン誌の編集者 高橋涼子さんの取材に同行し八幡の街を訪ね歩いていた。それが、お母さんの耳に入り、あの日……」
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