召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

まるなげ

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 予想以上の大きさに思考が停止しそうになる。
 本当に会話になるのか?
 不安になってくる。
 そんな時こそ初心に返れだ。

「とりあえず4階へいく。いつでも結界を張れるように、スタンバっておく」
「わかりました。私は、ノアちゃんについてますね」
「そうだな。攻撃したとしても、さすがに銀竜クローヴィスごと攻撃しないだろう。一緒にいた方がカガミ氏も安全だと思う」
「それだったら、皆、広間にいたら……」
「そうっスね」
「確かにそうかもしれない。でも、誰も姿をみせず屋敷にこもるのも話し合いのチャンスを逃すと思う。オレだけは4階へ向かう」
「大丈夫?」
「安全かどうかわからないが、強化結果を起動できるし、なんとかするさ」

 そう庭に集まっていた同僚に伝え4階に向かう。
 4階に向かう途中、竜とは別に、誰かが馬で駆けてくるのがみえた。
 赤い髪に、軍服に似た服、大きな厚い毛皮のマント。
 何処かでみたことのあるその人物は、一直線に屋敷に乗り込んでくる。

「リーダか!」

 2階の廊下を走っていたオレをめざとく見つけ声をかけてきた。
 思い出した。あれは……領主様だ。

「そうでございます」

 上がっていた息を無理矢理おさえつけ、可能な限り丁寧に声を返す。
 正直なところ、この忙しい時に何しに来たんだと思ったりもした。しかし相手は領主、1階に下りて出迎える必要を感じ玄関へと向かうことにした。

「よい、緊急事態だ。そこから返答せよ」

 良かった。向こうも時間が無いという認識だ。

「何でしょうか?」
「あれは何だ? 正直に申せ、私は領主だ。領民を守る義務と責任がある。お前達も領民であることには違いない。力になれるかもしれぬ」

 感動した。さすが領主様だ。もしかしたら、なんとかしてくれるかもしれない。
 代わりに交渉してくれるかもしれない。仲裁してくれるかもしれない。期待が膨らむ。

「あの竜は、自らをロウス法国の守り神にして龍神と名乗っています。ちょっとした行き違いで、この屋敷へと怒りを向けているのです」
「ロウス法国の……龍神……?」
「はい、そうです」
「ロウス法国の龍神……テストゥネル! あれはテストゥネル相談役か!」

 領主は相手を知っている。
 よかった、仲裁をお願いできるかもしれない。
 それから領主は、しばらく遠くに見える龍神を凝視して、オレに向き直り言葉を続けた。

「リーダよ!」
「はい!」
「あとは任せた!」

 は?
 それだけ言うと領主は馬に乗ったまま凄い勢いで離れていく。
 本当に、あっという間に米粒のように小さくなった。
 あの野郎、丸投げしやがった! しかも、なんて逃げ足の速さだ。あんなに早く馬って走れるものなのか、唖然とする。
 くそ! 期待して損した!
 悪態をつきながら4階へと向かう。
 4階についたときに初めてマスターキーを持っていないことに気がついた。
 焦っていて失念していた。
 これから、鍵をノアから受け取って戻らなくてはならない。

「やれやれ……だ」

 ひとり呟き広間へと向かおうとしたときに、息を切らせてサムソンが部屋に入ってきた。

「リーダ。マスターキー忘れてただろ。預かってきた。俺もここに残るぞ。相談できる奴がいた方がいいだろ」

 もつべきものは同僚だ。頼りになる。

「助かるよ。でもいいのか?」
「前の……オーガの時は逃げることしかできなかった。今回はリベンジだ」
「そっか」

 さて、勇気もわいてきた、さて相手がどうでるかだ。
 オレ達が龍神のいる方向に気を向けたとき、互いの顔が分かるほどに龍神は接近していた。
 龍神の体が日の光を遮り屋敷全体が薄暗くなる。
 鈍く光る金の竜だ。銀竜クローヴィスと同じような姿をしているが、大きさは比べものにならない。目の大きさだけでもオレよりも大きいだろう。

『二人か……いや違う……そうか、他の奴らはクローヴィスと一緒にいる……な』

 頭に声が響く。声に怒りの気配が混じっているのを感じる。

「いえ、違います。事故なのです」

 挨拶するよりも前に否定の言葉が口をついてでた。
 相手に、オレの声は聞こえているのだろうか……。

『知らぬ』

 龍神の目がオレとあった。声は相手に届いている実感が得られた。
 少しだけ希望がみえてきた。
 ところが、その希望もすぐに萎える。龍神の口のあたりに黄色い火花がパチパチとみえたのだ。
 何かしてしてくる。とっさに強化結界を最大出力で起動する。
 次の瞬間、大きな衝撃と共に屋敷の敷地全体が、黄色い火花に覆われた。強化結果に防がれたそれは這うように黄色火花を弾けさせながら少しの間まとわりついたあと消えた。

「炎じゃない……電流のようだったぞ」

 サムソンが、ボソリと呟く。その声音には、余裕が感じられる。
 炎だろうが、電撃だろうが関係ない。龍神の攻撃は、最大強度の強化結界で防げたのだ。
 その事実に安堵する。
 このまま落ち着いてくれれば、こちらの言葉も聞いてくれるだろう。
 それにしても、何が龍神だ。
 屋敷のもつ防御力を前にしては、単なるビックリ特技持ちの巨大トカゲじゃないか。
 まったくビビらせやがって。安堵したこともあって強気になれた。
 この調子で、交渉まで持っていきたい。
 だが、相手はそんなに甘くはなかった。

『うむ。妾をトカゲとな……なかなかに面白い意見を持つ人間であるな』

 先ほどと打って変わって楽しげな龍神の声が、頭に響く。言っている内容に冷や汗がでた。
 え? これって……考えたことを読まれているのか?

『この龍神たる妾が、人の思考ごとき読めぬと思っていたのかえ』

 やばい。

『そうだ……其方の隣に立つ人間が、妾をトカゲと評したのよ。おかしくば笑うがよい』

 ちらっと横をみるとサムソンがオレを見ている。

「リーダ……お前」
「いや不可抗力だ。ほら、学校で習っただろ、思想の自由だよ」

 そうだ。思想と良心の自由だ……あれは何だったっけ?
 現実逃避気味にいろいろ考えたが、そんなことをお構いなしに事態は進む。

『では、これは耐えれるかえ?』

 その言葉の次の瞬間、先ほどの攻撃の時とは比べものにならないほどの轟音が響いた。
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