召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

ぎゃくしょうかん

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『パチッ』

 すでに聞き慣れた音がして、魔法陣の中央に木イチゴが出現する。

「木イチゴだ。見たらわかる。これは美味しいものだ」
「実験の材料に使うんだから食べるなよ」

 召喚魔法で物体を呼び出す、逆召喚の魔法を試すための材料とするためだ。
 召喚した物体は数日放置すると消えてしまうが、それを時をおかず、今すぐ消すことができれば実験は成功となる。

「それでは、逆召喚の魔法を使ってみます。よく見てて欲しいと思うんです。お願いしますね」

 カガミが念を押すように言ったあと、魔法を詠唱する。
 触媒を片手に持ち、もう一方の手は魔法陣に触れた状態だ。
 詠唱が進むにつれて触媒である木製の短剣が、赤い光を帯びる。
 だが、短剣が赤く光っていたのは、ほんの数秒程度のことで、詠唱が終わる頃には光は消えていた。

「成功なんスか?」
「この短剣状の木片で、召喚した物体に触れると召喚は解除されるはずだ」

 サムソンが本を指でなぞりつつ解説する。
 言われたとおりに試してみても、召喚した木いちごは消えなかった。

「失敗かなぁ」
「光が消えていたので、魔法自体が上手くいってないんだと思います。思いません?」
「そうだな……、あれ、リーダ、この触媒の短剣だが、本に描いてあるイラストと模様がちがうぞ」

 サムソンの指摘をうけて、触媒となる木製の短剣を本と見比べる。
 よく見ると、本に描いてあるイラストでは彫り込まれた線は繋がっていたが、オレの彫った方は線が切れていた。
 その場でサクッと修正する。

「結構、細かいんだな」
「あぁ。それじゃ実験再開だ」

 今度は、詠唱が終わった後も、短剣は赤い光を帯びていた。
 木イチゴを軽く触れるように叩く。

『ビキキキッ』

 軋むような音がして触媒の短剣は白く変色しひび割れ、木イチゴは姿を消した。

「成功だ。一応、本に記載されている通りの結果だ」

 それから3回ほど同じように逆召喚の魔法を試してみた。
 結果はいずれも成功。ただし、触媒に彫り込んだ模様の不備で、やり直しということは2度あった。

「触媒の模様ごときのために苦労するとは……細かいのは嫌だよ。まったく」

 ついつい愚痴ってしまう。

「まぁまぁ、おかげで魔法が失敗しても無害ってことが分かったんですし、結果オーライっスよ」
「早速、銀竜クローヴィスに使いましょう。早めにお家に返してあげたほうが良いと思うんです。思いません?」
「そうだな。善はいそげだ」

 すぐに魔法陣や触媒をまとめ、広間へと向かった。
 ここ最近の見慣れた風景どおりに、ノアと銀竜クローヴィス、それにチッキーも談笑していた。
 オレ達が部屋に入ると銀竜クローヴィスが黙ってしまうところまでいつもの通りだ。

「……それは?」

 片目だけを開けて木製の短剣をみたあと、銀竜クローヴィスは訝しげに質問してきた。

「これは逆召喚の魔法、つまりクローヴィス様を帰還させる魔法に使う触媒です」

 ありのまま説明する。一目で木製とわかる物だ、怖いことは無いだろう。

「えへへ。よかったね。クローヴィス。お家に帰れるよ」
「……うん」

 ノアは自分のことのように喜んでいる。方やクローヴィスは不安げに見えた。
 早速、逆召喚の魔法を使う。先ほど試したときと同じように、短剣は赤い光を帯びる。
 そして、その短剣で銀竜クローヴィスに触れる。

『バシッ!』

 紙の束をたたき付けたような音をたてて、短剣は吹き飛ばされた。
 銀竜クローヴィスは、帰還していない。つまりは失敗した。
 その後も何度か繰り返し使ってみたが、同様の結果だった。

「本に載っていることを再現するだけでは、駄目なのかもしれないぞ。これ」
「この部分に載っているのは、基礎だけかもしれないと思うんです。思いません?」
「そうだとすると、調べ直しだな」

 別の部屋に移動して、いろいろ話あったが失敗の理由はわからないままだった。
 知識が不足しているという結論にいたり、調べ直すことになった。
 その後の調査で、触媒の材質や月の満ち欠けも影響することが判明したが、銀竜クローヴィスを帰還させる決定打とはならなかった。
 そして、とうとうその日がやってきた。

「遠くの空に竜がみえたわぁ」

 ロンロが最初に見つけて知らせてくれた。
 外に出ると、かなり遠く向こうに竜のシルエットが見えた。
 離れている距離を考えると相当にでかい。ギリアの町にあるお城くらいの大きさだ。いや、もっと大きいかもしれない。

「マジか……」

 サムソンの、呻くような声が耳にはいった。
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