召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

ばっくどあ

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  ほぼ同時に声をあげた、ロンロとサムソン。
 まずはサムソンの発見を聞く。

「この魔法陣なんだが、バックドアが仕込まれてるようだ」

 魔法陣の一角を指し示しながら、サムソンが言った。
 示した先、魔法陣の片隅に、小さな魔法陣が描かれている。

「バックドア?」
「裏口……、普通の意味でなくて、パソコンなんかを不法に動作させるための、セキュリティ的な意味合いでの言葉だよな?」
「そうだ。あらゆる動作は、この外周にある魔法陣を通じて命令することになっている。そして、その外周の魔法陣が作動するのには条件があって、条件を満たしていなければ中央の魔法陣は受け付けない作りになっている」
「条件……ですか?」

 サムソンの言葉に、カガミが首を傾げ質問する。

「オレ達が乗っていた飛行島とは違い、他の飛行島は、この魔法陣の上に立っている者だけが挙動を指示できるように作られている。指示は決められたキーワードを言うしくみだ。それも大体把握できた」

 なるほど、オレ達の飛行島は、マスターキーを持って文字を撫でながら呟くが、他は違うのか。

「それ以外の方法で、飛行島を動かす方法が、この小さな魔法陣に仕組まれていると?」

 オレの言葉にサムソンが大きく頷く。
 それにしても、よくこんな小さな魔法陣を見つけたものだ。それに、描いたヤツも描いたヤツだ。

「えっ、バックドアっていうことは、魔法陣同士を線で繋がなくても通信ができるってことになりません?」
「そういうことになるな。というか、通信できることは前からわかっていたんだ」
「そうなのか」
「ほら、看破の魔法などの極光魔法陣を使う魔法だって線で繋いでないけれども、遠く遠く離れた空の上にある魔法陣と通信してるだろう」
「なるほど」

 言われて納得する。看破の魔法は空にある星……極光魔法陣が本体だと聞いている。地上にあって普段オレ達が使っているのは、ただの起動用の魔法陣だ。

「つまりは、極光魔法陣と、オレ達の使う魔法陣は、サーバーとクライアントの関係にあるということだ」
「もう無理。私、パス」

 ミズキが両手を挙げて、降参といった調子で声をあげる。
 そんなミズキに目もくれず、サムソンは小さな魔法陣を指で叩きながら説明を再開する。

「それで色々な魔法陣を確認したところ、そういう結論に達した」
「つまり、どういうことっスか?」
「この空飛ぶ家は全部が全部、別の魔法陣によって動かすことができるということだ」
「乗っている人じゃなくて、遠く離れた人が動かすことができるっていうことっスか?」
「そういうことだ」

 乗り手の考えなどお構いなしに、好きに動かせる……か。
 物騒な話だ。オレ達が、飛行島を手に入れたときには、そんなものは載せたくない。

「ちなみに、その遠隔操作するための魔法陣ってのは、どこにあるのかわかるのか?」
「分からない」
「そんなセキュリティーホールがついてるものを納品するというのは……嫌だと思います。思いません?」
「そうだな、俺もそう思う」

 カガミの言葉に、サムソンが深く頷き応じ、言葉を続ける。

「そんなわけで、このバックドアは消すべきだと思うんだ」
「でも、消したらハイエルフさんたちは分かるんじゃないっスか?」

 プレインの言うとおりだ。検品されたらまずい。
 説明すれば分かってもらえるだろうか?
 ハイエルフは結構、こっちの話を聞かないところがあるからな……。

「じゃあさ、代わりに私たちのが動かせるように改造しちゃわない? どうせ私たち全部の飛行島を一気に動かそうなんて考えない訳だしさ」

 ミズキが言うこと考えはともかく、検品されてもごまかせる程度の補正で、バックドアを無効化したい。

「訂正は最小限で、この魔法陣を無効化できれば……」
「検品はどうするっスか?」
「書き換えるのは、ほんの一部だ……例えば1文字変えるだけ。指摘されれば、見間違いで済ませられる程度の……だ」

 うまくいけばそれでいいし、いかなければ修正を申し出ればいい。
 再修正の間に別の方法を考えればいいだろう。
 オレの提案に、サムソンがしばらくぶつぶつ呟いたかと思うと、紙に記号を書きだした。
 アルファベットのAに似た文字だ。

「これをこうする」

 Aの頂点から下に向かって1本棒を足す。

「なるほど」

 カガミが感心した調子で声をあげる。

「文字を間違えたよう装うのか」
「なるほどっスね」
「魔法陣が、どこを通信先に指定するのかは、文字の羅列で特定するようになっている。例えば看破の魔法陣は、こういう風に」

 サムソンが結構長い文字列を紙に書き込む。意味のない文字の並び。よくこんなの憶えていられるものだ。

「IPアドレスみたいなものですか?」
「あいぴーあどれす?」
「ミズキ……あなた?」
「え? ほら、もう長いことパソコン触ってないしさ、忘れちゃってアハハ」
「コンピューターのネットワーク……インターネットで、相手のコンピューターを識別する番号。つまり、手紙を送るときの住所みたいなものだ」
「了解、完璧に理解したよ」

 爽やかすぎる笑顔に、軽快な声音でミズキが答える。
 今後の仕事は大丈夫なのかと、コイツの将来が心配になる。まったく、たるみきっている。困ったものだ。
 だが、サムソンの言いたいことはわかった。
 文字を1文字、わざと間違える。
 オレ達以外は、魔法陣の文字を理解して読めない。検品するにあたって、小さい魔法陣の、さらに小さい1文字の誤差はわかりにくい。なんとかなりそうだ。

「とりあえず、これでいこう」
「じゃ、カスピタータさんから預かっている原本にも書き加えておくぞ」
「そうだな。できれば汚れを装っておいてくれ。それとは別の……本物の原本があっても、ごまかせるようにな」
「まかせろ。そのつもりだ」
「なんだか先輩も、サムソン先輩も、手慣れてるっスけど……」
「人聞きが悪いな、プレイン君。気のせいだよ」

 とりあえず、バックドア対策はこれでいいだろう。
 それで、次、ロンロの報告だ。

「んで、ロンロの方はどうだったんだ」
「こんな魔法陣が書いてあったわぁ」

 ロンロはフワリとゆっくりと身を翻した。すると服装がローブに変わった。
 まるで変身だ。
 そしてくるりと後ろを向く。
 後ろには魔法陣が描かれていた。シンプルな魔法陣だ。

「こんな魔法陣が書いてあったのぉ」

 サムソンが大急ぎでそれを描き写す。
 ほんと、ロンロって器用だよな。
 前は小芝居を見せてくれたし、今度は魔法陣を衣装で再現するとはね。

「んで、この魔法陣なんなの」
「さあ」

 うーん、これも起動の魔法陣っぽいな。看破の魔法陣に近いが……ずっとシンプルだ。
 パソコンの魔法で魔法陣をプログラムに変換すると、訳の分からない文字の羅列が途中で出てくる。

「これは……通信先だな」
「んじゃ、これも別の魔法陣があるってことっスか?」
「おそらく」
「これは起動用の魔法陣でしかないようだ」

 起動用の魔法陣からわかるのは、通信先があるってことだけだ。

「うーん。じゃあ、まだまだ調べなきゃっスね」
「物尋ねの魔法を使ってみるのは?」

 カガミが提案する。

「下に?」
「そうです。私たち、部屋や庭では物尋ねの魔法を使ったけれど、この家の下では使ったことが無いと思うんです」

 確かにそうだ。
 飛行島の下に魔法陣があったのだ。下にも何か手がかりがあるかもしれない。
 あとは下に潜る方法を探すだけか……。

「カスピタータさんに頼むかなぁ」
「飛行島は軽々に動かせないって……会議を通す必要があるってシューヌピアさん言ってたよ。ほら、何日か前の夕食の時にさ」
「じゃ……自力か」

 同僚達とアイデアを出し合う。
 飛翔魔法、念力で床を動かす。
 いくつか案が出るが、どれも決定打にならない。飛行島近辺の風が強いこと、そしてしくじれば落下するという部分に、尻込みしてしまうのだ。
 帰宅し、夕食後にノア達も含めて話を再開する。

「おいら達が気球が飛びます」
「風が強い……ピッキー達が飛んでしまうよ」
「ノアお嬢様と、クローヴィス様はどうでちか?」
「ノアノアに物尋ねの魔法を使って貰うってこと?」

 よくよく考えれば、別に皆で下に潜る必要はないか。
 可能であれば人が多い方がいいが……背に腹は代えられない。

「クローヴィス、世界樹に来れないの……お母さんが行っては駄目だって」
「手紙が来たの?」

 ノアが頷く。
 テストゥネル様か。
 世界樹は安全に見えるけど、どうして行っては駄目だと言うのだろうか。ここは危険な場所? いや違うだろう……居ては駄目な場所なら、警告くらいはしてくれそうだ。

「飛行島ってリーダ達がごちゃごちゃ何かやってるところか?」
「そうだよ。モペア」
「世界樹の近くにある飛行島でもいいのか?」
「そうだな……近くならどこでも。別にオレ達が乗っていたやつでもいいよ」
「んじゃ、あたしが樹の蔓でも伸ばして居場所つくってやるよ。あの程度の風、びくともしないやつ」

 モペアの提案に皆が笑顔になる。
 世界樹で、モペアは大活躍していた。あのノリで蔓を伸ばしてくれるなら、大丈夫そうだ。

「決まりだ。飛行島の下に潜って物尋ねの魔法を使おう」
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