召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

うらめにでても

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 目の前にあった大きなノイタイエルがくるくると回り出す。
 そして、大きく飛行島が揺れる。
 左右に大きく揺れる地面に踏ん張りがきかなくなり、転げるようにして側にあった崩れかけた建物の壁にぶち当たった。
 ガラリと音を立てて、すぐ側にある壁の一部が崩れ落ちる。
 目の前のツインテールは、大きく揺れる飛行島にあっても身軽にバランスを保ち、すぐに足元に転がったペンダントを手に取った。
 こちらから目を離さず、両手で抱き抱えるように胸元にペンダントを押し付けてゆっくり深呼吸を続ける。
 そこでようやく揺れが収まった。

「うふふ」

 遠くから笑い声がする、もう1人のツインテールの声だ。
 そして何かに気がついたのかオレの前にいるツインテールも笑い出した。ツインテールの双子、その2人の揃った笑い声が小さく響き渡る。

「何がおかしい?」
「あの声が聞こえないの? これだから、ヒトは……」

 周りの音に耳を澄ますと、小さな物音が聞こえた。
 物音ではない……呻き声。いや、叫び声。
 獣の叫び声だ。

「まさか。ミノタウルスが生きてきたのか」
「そのようですね。それにいいのですか?」

 余裕を取り戻したオレの前に立つツインテールは、視線をオレから外す。
 移った視線の先には、オレが陰から取り出したバリスタがあった。
 先程の揺れで方向が変わっている。オレに向かってギリギリと小さな音を立てていた。仕掛けが、バリスタにつがえられた矢を繫ぎ止める杭が外れかけていた。
 矢じりがこちらへ向いた状態で、だ。
 まずい!
 その射線上から、逃げるため身を翻す。
 焦っての行動が裏目に出てしまった。
 ツインテールは右手に持った杖を一振りした。すると杖の先に、今まで影も形もなかった木の蔓が出現して、ムチのようにオレを強く打ち付けた。
 オレは大きくバランスを崩し、ノイタイエルのあった半壊した城の一室から転げ落ちるように下に落下する。

『カァン』

 高い音が響き地面に打ち付けられ、身体を覆っていた魔法で作りだした鎧が砕けた。
 こんなに簡単に壊れるとは思わなかった。

「うぅ……」

 魔法による守りを失い落下のダメージをもろにうけた。息が苦しく呻き声しかでない。
 ふと、視線にカスピタータを見つけた。
 みると満身創痍だ。短剣を手に持ち、肩で息をしていた。
 一方ミノタウルスもボロボロだったが、まだまだ戦えそうなこと状況だった。
 そして、その後ろにはもう1人のツインテールが笑顔でオレ達を見ている。

「うまくいかないもんだな」

 カスピタータが自重気味に言う。

「ウフフ。全くその通りですね、逆に私達は幸運に恵まれています。見てください、この飛行島!」

 両手を広げてミノタウロスの後ろにいるツインテールがクルリと回る。
 そのまま上を見上げて言葉を続ける。

「この飛行島、先程の攻撃で大きく破損してしまいました。ですが、見てください! 速度が上がっています! あの逃げ行く飛行島を捉えています。見てください。ぐんぐんと迫っているの!」

 星降りの直撃を受けて巨大飛行島は大きく破損したが、その分身軽になってスピードが上がったということか。確かに言うようにじわじわと近づいているのがわかる。
 だが、破損したと言ってもまだまだこちらの飛行島の方が巨大だ。接近され、体当たりされる事になれば、ひとたまりもないだろう。

「参ったな」
「えぇ、えぇ。貴方達の行動は裏目に出ていました。やはり最後には愛する者が勝つのです」
 開いた片手を胸元にのせ、恍惚とした表情でツインテールが笑う。

 違うな。

 そんな勝ち誇る彼女の言葉が耳に入ったが、即座に、反射的に、否定する。
 最後に勝つの諦めないものだ。
 投げやりにならず最後までジタバタもがく者だ。
 オレはこの世界に来る直前まで、決して抗えない運命というものがあると思っていた。
 だが違う、諦めなければ道がある。
 そう、道が。
 諦めるつもりはない。
 注意して辺りを見る。左手側の頭上、半壊した城の一室、その端に立ったツインテールがオレ達を見下ろしている。勝利を確信した笑みでオレ達を見下ろしている。
 横たわるオレの足の先に見えるのはカスピタータ、ミノタウルス、そしてもう1人の恍惚とした表情でオレ達を見るツインテール。
 彼女の向こう側には空が見える。星降りによって地面は大きくえぐられ、でこぼこがひどい。
 星降りという魔法は本当に凄い威力だな。
 それを放ったノアがいる飛行島は、上へ上へと逃げている。
 まだまだ遠いが、接近しつつある。
 このままだと激突する。その前にケリをつけねばならない。
 さて、カスピタータは満身創痍だ。ミノタウルスも手傷を負っている。だが、ツインテールはほとんど傷を負っていなかった。
 本当にピンチだな。
 笑みがこぼれる。
 反撃の手段をみつけたのだ。

「カスピタータさん」

 ようやく痛みに慣れ、声が少し出る。

「すまない」

 オレを見る事なく、ミノタウロスから目を離さないままカスピタータが答える。

「諦めていませんよ」
「そうか」
「まぁ、うまくいけば、オレの仲間が来るまで、ほんのちょっとだけ、オレを抱えて逃げ回ってほしいんですよ」
「なにを言っている?」

 訝しげにオレを見て、カスピタータが苦笑する。

「頼みました」

 そう言って、ゴロリと体を動かし横転がる。
 オレの視界には何もなかった。だが、オレの背中には反撃の手段があった。
 動くかどうかは分からない。だけれど、小さな期待はあった。
 魔法によって作られたオレの鎧が簡単に砕けたのは、落下による衝撃だけではない。
 この背中にある魔道具がまだ生きていたからだ。

「ラルトリッシに囁き……」

 決められた言葉を呟く。オレが触れた鉄の板は、特に反応を示さなかった。だが、感覚でわかる。ゴロリともう一回仰向けになった後、空をつかむように手を伸ばす。
 何枚かの板がふわふわと浮かぶ。
 成功だ。
 やはり、この魔道具はまだ生きていた。
 魔壁フエンバレアテ。
 分厚く巨大な金属製の板。
 星降りにより、ボロボロだが、問題ない。

「動かないで!」

 ツインテール2人が声を上げる。
 彼女達は、オレがやることを予想したのだろう。
 だが、遅い。

「やめて!」

 焦る双子の声が聞こえたが、そんなのは無視だ。
 オレはためらわず、右手を大きく振った。

『ゴォッ』

 金属製の板は、風を押しのけ轟音をたてて大きく動く。
 勢いのついた魔壁フエンバレアテは、頭上からオレを見下ろしているツインテールの横をすり抜けた。

『ガゴォン』

 金属が震える音が辺りに響く。
 それは、この飛行島を動かす魔導具ノイタイエルを大きく打ち抜いた音だった。
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