召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

しんやのできごと

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 受け取りだけを誰かにお願いするか。
 でも、誰に?

「どうしよう、リーダ?」

 目の前に座る鎧姿の男が考え込み無言になった様子をみて、ノアが振り返り小声で尋ねてきた。
 オレ達の希望は早めにモルトールを出ること。
 この町……モルトールで出会ったパルパランという男。
 オレはパルパランを敵だと考えている。
 こことは別の世界で出会ったイ・アという奴の仲間だと思っている。
 イ・アは言っていた。
 奴の仲間が、オレ達を殺しに来ると。
 オレの考えが正しければ、パルパランは最初の刺客というわけだ。
 だから、パルパランがこの町での滞在を望むのであれば、逆をいく。
 つまり、この町からすぐに出て行くことが、それだ。
 ところがなかなか上手くいかない。
 誘拐の次は、誘拐犯を捕らえた報奨金の受け取りに時間がかかる……か。
 報酬を諦めるしかないかな……でも、それには躊躇してしまう。
 パルパランが敵だというのは、未だオレの勘による判断だ。
 それなりに確信があるが、絶対ではない。
 借金がいまだ残る現状で、もらえるはずの報奨金をフイにはしたくない。
 だが、延々と滞在するのも御免被りたい。

「本音をいえば、報奨金は欲しいけど……もう、名誉なんて売ってでもいらないから早く出て行きたいね」

 困ったねといった感じで正直なところを答える。
 さて、本当にどうしたものか。
 ん?
 売るか。
 案外いい手かもしれない。

「ところで……」

 考え込む鎧姿の男へと声をかける。

「なにかね?」
「皆様は、あの……他にラプテイオ一味を追っている人はいなかったのですか?」
「いや。皆が追っていた。わしも含めてな。役務であっても報奨金はでるからな」

 思ったよりいい話だ。
 他に追っている人を聞き出して交渉しようかと思ったが、目の前にいた。
 これはチャンスだと考えて、話を進める。

「協力して、壊滅した……ということにはなりませんか? 無償に、とはいきませんが……」
「何を言っている? ん、そうか、そうだな。確かに其方の言うとおりだ」

 乗ってきてくれた。
 もういっそのこと、手柄を売ってしまおうというオレの考えは理解してもらえたようだ。

「えぇ。皆様の情報を元に私達がチッキー……いや、ノアサリーナ様の奴隷を助けたということで」
「うむ……そうだな。ところで相談なのだが」

 そう言って鎧姿の男はオレを手招きした。

「何でしょうか?」
「相談なのだが、協力といわず手柄全てを売ってくれぬか?」

 突然そんなことを言い出した。
 オレ達としては協力でも、手柄全てでも、どうでもいいことだ。

「手柄の全てですか?」
「うむ。全てはわしと、わしの仲間がやったこと。其方達はただ居合わせただけということにする」
「それはかまいませんが……」
「手柄全てということになれば、其方達は対外的にラプテイオ一味に関わっていない事になる。つまり後日、報酬の上乗せがあっても得ることができない」
「そうですか」

 ピンとこないけれど、それもどうでもいいか。
 オレ達としてはチッキーが無事だっただけで十分だ。
 あとのことは、ついでにくっついてきただけだ。

「その代わりだ。支払いは金貨でなく宝石で、すぐに払う」
「宝石で?」
「其方達は、帝国にいくのだろう? 金貨よりも宝石のほうが都合が良いはずだ」

 そうか、帝国は使うお金が違うのか。
 南方でもそうだったな。
 無言のオレに、鎧姿の男はさらに続ける。

「それに、わし個人が手柄を買い取るとなると、この場で全てを終える事が出来る」
「この場で?」
「わしにとっても、今晩中に全てを終えることが好都合だからな。其方達が了承すれば、すぐに金を用意しよう」

 今までの話は、オレ達にとっては特に問題ないな。
 重要なのは手軽に問題無く町を出ることだ。
 ノアを見ると小さく頷いた。

「では、それで進めましょう」
「うむ。では、これから宝石を用意する間に、ノアサリーナに手紙をしたためてもらいたい」
「手紙……ですか?」
「伯爵家のご令嬢ピサリテリア様に宛てて……だ。今回の件は、わしこと、ブライオリスの指示に従って進めたこと。そして、この町に滞在していることはあまり大きな声で言って欲しくないという内容でだ」

 確かにそれは必要そうだ。
 ピサリテリアが、それは違うといえば、この取り引きは台無しだからな。
 文面は……ロンロに考えてもらえばいいか。
 それも了承する。
 オレの即答に気を良くしたのか、彼はすぐにインクと紙を手配した後、部屋から出て行った。

「ロンロ、頑張ろうね」

 ノアも快く手紙を書いてくれた。
 ただ、ちょっと眠たげな様子をみて、少し申し訳なく感じる。

「ごめんね、ノア。あと少しだから」
「大丈夫なの」

 ノアが手紙を書き上げて、しばらくしてから鎧姿の男が息を切らせて戻ってきた。
 テーブルのうえに、宝石の入った小箱を置いて、手紙を一瞥する。

「うむ。思った以上にしっかりと書いてある。これなら大丈夫だろう。では、その宝石は其方達の物だ。金貨2000枚相当の宝石だ」

 予想外の臨時収入。
 それにしても、ラングゲレイグがあれだけ焦っていた金貨3000枚。
 領主である彼があれだけ焦っていたにも関わらず、それなりに上の立場とはいえ一介の兵士が金貨2000枚相当の宝石をいとも簡単に集めてしまっている。
 うーん。
 この世界の金銭感覚はわからないことだらけだな。
 なけなしの貯金でも持ってきたのだろうか。
 そんなことはどうでもいいか。
 宝石をありがたく頂く。

「確かに、受け取りました」
「さて、それではこれで取り引きは成立だ」
「左様ですね」
「あぁ、1つ言い忘れた」

 それまでの穏やかな印象から一変。
 鎧姿の男は顔色を変えた。
 彼に付き従っている者達も、緊張した面持ちになった。

「なんでしょうか?」
「其方達には、今からすぐにモルトールを出てもらう。しかも内密にだ」
「内密にでございますか?」
「そうだ。其方達が町にいない状況で、捕らえたことにしたい。よって、町を出て行ってもらいたい。なに、後始末は、わしがしておく」

 オレ達が飲まない可能性を考慮したのか。
 彼は随分と居丈高だった。
 まるで脅すような口調だったが、オレ達にとっては渡りに船だ。

「えぇ。ではすぐに出て行きましょう」

 何の不満もなく了承する。
 深夜にこそこそと門を小さく開けてもらい、町を出発する。
 モルトールの外は真っ暗だった。
 天気が悪いのか、星もほとんど見えない。
 こうして、深夜、真っ暗の中、オレ達はとりあえず東へと出発する。
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