召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

閑話 机上と実践(伯爵家令嬢ピサリテリア視点)

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「どういうことですか、お祖父様」

 私は話を聞いて、お祖父様に詰め寄った。

「落ち着きなさい。これは彼女達が望んだことなのだよ。それに、ピサリテリアや。お前にとってもいい話であろう?」

 お祖父様は困ったように肩をすぼめてそう言った。
 私を助けてくれた人、そして盗賊団ラプテイオ一味を壊滅させた人達。
 ノアサリーナは今回の件について、対外的には関わっていないことにすると、砦の守衛隊長である男爵と約束したらしい。
 私宛の手紙と一緒に。
 どういったやり取りがあったのかは分からない。
 だが、そんな話をまとめた後、ノアサリーナ達は翌日の朝を待つことなく町を出発したそうだ。
 私が戻ってきて大喜びだったお祖父様は、その言葉を聞いて、さらに喜ばれた。
 その喜びようが無性に腹立たしかったので、私はお祖父様に詰め寄ってしまったのだ。
 でも、私は分かっている。
 お祖父様の方が正しいのだと。
 私はちょっとした出来心で家出をした。
 平民の格好をして、平民に偽装して、町をほんのちょっと散歩するつもりだったのだ。
 お祖父様の昔話に憧れて、私も平民のフリをして町を冒険したかったのだ。
 もし悪党にであったら、私が覚えた魔法でやっつけて、帰ったら自慢しようなんてことまで考えていた。
 ところが、それは何も知らない私の思い上がりだった。
 学校でたくさんのことを学んだ。
 破壊の魔法。身を守る魔法。そして困った時、色々な出来事を解決してくれる魔法。
 ところが、あんなにがんばって勉強したのに。
 勉強したのに、実際に使うべき時には、私は何一つできなかった。
 怖くて震えるだけだった。
 せいぜい周りの言葉に聞き耳を立てるだけだった。
 私を閉じ込める檻の鍵。
 鍵の場所は分かっていても、鍵を手繰り寄せることはできなかった。
 どれほど強い攻撃魔法を知っていても、怖くて震えて、戦いを挑むことができなかった。
 私は恐怖に震え、周りの言葉に聞き耳を立てるしかできないまま、時間はすぎていった。
 そんな時、獣人の子供たちが次々と投げ込まれはじめた。

「どうしたんだ? 獣人ばっかりじゃねーか?」
「獣人の奴隷1人あたり、金貨100枚出そうっていう大口の客がいるんだとよ」
「100枚? おいおい、騙されてるんじゃねーだろうな」
「いや、確かな筋らしいぜ。親分は今回の件で荒稼ぎして、しばらく遊んで暮らすと言っていたぜ」
「確かな筋か……親分が言うんなら従うがな」

 そんな言葉と共に投げ込まれた獣人のうち1人。
 チッキーは他の誰とも違った。
 皆が諦めて呆然するか、小さく声を上げて泣いていたとき。
 彼女は、私たちを励ましてくれた。

「どうして、あなたは元気なの?」

 私は思わず聞いてしまった。

「大丈夫でち。ご主人様がすぐに迎えに来てくれるでちよ」

 それはもう既に決まりきった事のように、その娘チッキーは答えた。
 私を誘拐した人達。彼らの言葉を聞く限り、手練れだ。
 しかも、ここは彼らの隠れ家に使っているような屋敷だ。
 多分、準備も万全だろう。
 でも、そんなことはお構いなしに、この娘チッキーは、自信満々にそう言っていた。
 そして、それは本当だった。
 けたたましい音とともに登場したノアサリーナ達は、唯一残っていた見張りを瞬く間に倒し、私達を檻から解き放ってくれた。
 次の日になって、お爺様から聞いて知ったことだが、彼女たちは有名な呪い子、そしてその従者達だという。
 吟遊詩人に詠われる強力な魔法使い達。
 あの娘は、そんな呪い子の奴隷だったのだ。
 呪い子。
 だからこそ、お祖父様の言葉は理解できる。
 伯爵家の一員たる私が誘拐されて、なおかつ呪い子などに助けられたとは言えるわけがない。
 それが、人聞きの良いものではないことは確かなのだ。
 だからこそ、モルトールの役人をしている男爵が手紙を持ってきた時に、この件にノアサリーナは関わっていないことにすると聞いた時に、お祖父様は喜ばれたのだ。
 そして、私のお祖父様に対する抗議は、ただの八つ当たりだということもわかっている。
 でも、でも。

「いいかい、ピサリテリアや。きっと、ノアサリーナはお前のことを思って、なかったことにしてくれたのだと思うよ。自分達が受けるべき名誉も辞退してね」

 私の心を見透かしたように、お祖父様は優しく言われた。
 そうかもしれない。
 ノアサリーナ達には、お金も、名誉も、不要なのかもしれない。
 あれほどの魔法を使う者達なのだ。
 俗世の事と割り切っているのかもしれない。
 偉大な魔法使い達がそうであるように。
 私は見た。
 ノアサリーナの従者であるリーダという人が、何かを呟いて手を挙げた瞬間のことを。
 大きな音を立てて、私達が閉じ込められていた屋敷が壊れてしまった場面を。
 あんな魔法、聞いたこともない。
 きっとノアサリーナ達の持つ魔力の知識は私の想像以上のものなのだろう。
 私はまだまだ実力がない。
 今回の件で、それを思い知った。
 あらゆる面で未熟であると思い知った。
 だから、勉強して、勉強をして、より素晴らしい魔法使いを目指すしかない。
 私は、私自身の力で恩を返そうと思った。
 それこそが、伯爵の孫たる、私のプライドなのだ。
 気を取り直し、あらためて努力を続ける。
 そして、あの一件から数日がすぎた。
 昼も過ぎ、そろそろ日も落ちてこようという時、大きな物音がした。

「……で、ございます」
「なんてことだ、こんなことであればモルトールに来なかった方が良かったかもしれぬ」

 何が起こったのかを知りたくて、すぐに部屋を出て、玄関まで降りた時のことだ。
 お祖父様と家の使用人の会話が聞こえた。

「はい、旦那様。見たこともないほどの……アンデッドの軍勢でございます」
「衛兵はどうしている」
「あまりの大群。そして、強いアンデッドには並の兵士ではかなわないとあって、もはや手の打ちようがないということで……領主からも、各々門を固く閉めて守りに努めるようにというお言葉でございました」
「なんと……領主すら諦めてしまう程か……」
「とにかく数が膨大なのでございます。それに、魔法の武具で武装している者もいる始末。えぇ。この屋敷の物見塔の窓からも、かの軍勢のすさまじさが見えるはずでございます」
「では、まずは見ておかねばならぬ」

 そういって使用人とお祖父様は物見塔へと上がっていく。
 私もお祖父様の後をついて上がる。

「一体、何があったのですか?」
「アンデッドの軍勢だというが……わからぬ」

 そして、物見塔から外を見た時、私は言葉を失った。
 町を埋め尽くし、それだけに留まらない広がる古戦場を埋め尽くす程の大軍勢。
 何が起こったのだろうか。
 すでにモルトールの門は破壊され、留まることのない軍勢……アンデッドの軍勢が東へ東へと進んでいた。

「ついに、魔神が復活するのか……」

 お祖父様がうなるように言葉を発した。
 魔神の復活。
 もっと先だと大学の先生方は言っていたのに、間違っていたのか。
 でも、目の前の軍勢は、世界の終わりを予感させる十分だ。

「かもしれません。モルトールの領主は既に王都へと使いを送ったそうにございます。キユウニへも第4騎士団の出動を依頼したとか」
「いや、それでは足りぬかもしれぬ。なんてことだ……これほどの大軍勢とは。モルトールどころではない、ヨラン王国そのものが飲み込まれるかもしれぬ」
「ですが、旦那様……あの軍勢。この町には危害を加えるつもりはないようです。皆、東、東へと進んでおります」
「帝国か、それとも魔神の柱か……」

 そういえば、ノアサリーナ達は東に向かっているという。
 彼女達は大丈夫なのだろうか。
 私は目の前に広がるアンデッドの軍勢を……東へと広がる古戦場を埋め尽くすアンデッド軍勢が進む姿を見ながら、ノアサリーナ達の無事を祈った。
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