召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
383 / 830
第二十章 聖女の行進

こせんじょう

しおりを挟む
「おはよう」
「リーダ。今日は早いんだな」
「なんとなくだよ」
「今日も、昨日と同じ微妙な天気だぞ」
「みたいだね。まぁ、雨が降りそうで降らないね」
「そうだな。もっとも、静かなのはいいな」
「あぁ。このまま何事もなく、静かに平和に帝国へいきたいな」
「帝国に行って、ノアちゃんのお父さんに会って……とりあえず、そこまでは静かに波風たてないようにしたいな」
「そうだね。もう騒ぎはモルトールの一件だけで十分だよ」

 モルトールを出発して3日目の朝。
 サムソンと会話しながら見る風景は、昨日の朝とほぼ同じ。
 曇り空から、差し込む朝日が延々と続く緑の丘を照らす。
 燃える屋根のあった宿で聞いた営業トークの中で、ここは幾たびも戦いが繰り広げられた場所だと聞いた。
 だが、そんな戦いの後など何処にもない。今は休戦中だからだろう。
 広大な丘陵地帯。
 緩やかな起伏のある台地は、背の低い草が生い茂っていて、緑豊かな丘だった。
 ここで争いがあったと思えないほど穏やかな土地だ。
 たまに野犬や馬などがいた。
 それ以外は何も見当たらない延々と続く丘。
 空を飛ぶ鳥も優雅に飛んでいて、魔物にも出会うことがなかった。
 最初の数日は、美しく広がる緩やかな起伏のある丘陵地帯を眺めていられた。
 だけれど、3日目ともなるとさすがに飽きる。
 まぁ、いつもの景色だよなといった感じだ。

「本当に何もないっスね」
「あのね。昨日、羊飼いさんを見たよ」

 ノアがノートに描いた羊飼いの絵を見せてくれる。
 大きな鐘がついた杖を持ったおじさんの絵だ。まわりには丸い羊がいる。
 ずいぶんと絵が上手くなったものだ。
 なんにでも一生懸命だな。ノア。

「へー、羊飼いか」
「それに、茶釜で走り回るととてもいい感じだと思います。思いません?」
「そうそう。もう、どこまでも広がる丘がすごく綺麗なんだよね」
「えぇ。昨日なんかは、野生の馬と競争しましたよ」
「いいなぁ、私も今度馬を見かけたら、やってみようかな」

 なんだか話を聞くと楽しそうだ。オレも、たまには茶釜に乗ってみようかな。

「明日ね。クローヴィスを呼んでいい?」
「いいよ。せっかくだから茶釜に乗ったオレと競争しようか?」
「うん!」

 大した事のない雑談。いつものようにのんびりした日常だった。

「リーダ様。誰かが立ってます!」

 ピッキーの声を聞くまでは。

「羊飼いかな?」
「違います。急に出てきました。なんか怖いです。じっとこちらを見ています」

 ピッキーが怖いと表現したことが気になって、すぐにピッキーの隣へと進む。
 確かに前方に、人が立っている。
 近いというわけではない、人がいるとわかる程度だ。
 身体強化で視力を強化して、前に立っている人を見る。
 見たことのある人物。
 パルパランが立っていた。
 初めて会った時と同じように、宝石をジャラジャラと身に纏いパルパランはたった1人で、丘の上に立っていた。
 まるでオレ達を待ち構えているように。
 先回りしたのだろうか。
 しばらく様子を窺うことにする。
 パルパランは微動だにしなかった。
 じっと立ったまま、オレ達を見ていた。
 ふと目が合う。
 その瞬間、パルパランは笑った。
 オレが身体強化で視力を強化し見ているように、パルパランも何らかの方法で視力を強化し、オレ達の方を見ているようだ。

「どうしますか?」
「突っ込む?」
「罠かもしれない。あまりも不気味だ」
「では、迂回します」

 ピッキーがそう言って、身を前に乗り出し海亀に指示を出す。

「かってこの地で戦いがありました」

 それとほぼ同時、パルパランの声が辺りに響いた。
 遠くにいるパルパランの声が、すぐそばで話しているように聞こえた。

「んーふふふふ」

 笑うパルパランの言葉はさらに続く。

「戦いは1000年を超える間、幾たびも続き、そして戦いに明け暮れた結果、この土地は血に染まりました。そこでは悲劇も喜劇もありました。人の夢、人の想い、いや人だけではなくあらゆる生き物の願いや想いを、この土地は記憶し、そして存在しております」

 演説するように言葉を続けながらパルパランは、近づいてくる。
 あくまでゆっくりと。

「何かおかしいぞ」
「おかしくはございません」

 サムソンがオレに向かって言った言葉に、パルパランが答える。
 まるでオレ達の側にいて、気軽に会話に参加するように。

「そんなに離れているのに、聞こえているのか。耳が良いな」
「聞こえている? 聞こえていない? 問われれば、聞こえていると答えましょう」
「そうか」
「思えば、貴方達はいつの頃からか、わたくしを警戒しておりました」
「あぁ」
「おそらく館の者が失態を犯したのでしょう」

 いや、違うよ。
 お前が失敗してオレに警戒心を抱かせたんだ。
 人のせいにするなと思う。

「やはり敵か」
「そうでございますね。敵かと問われれば敵と答えましょう。貴方方を殺すために、私は活動しているのですから」
「イ・アの仲間か?」
「王妃様の名前を! お前ごときが軽々しく口に出すな! ただの喋る家畜のくせに! ただの出来損ないのくせに!」

 先ほどまではまったく違う口調。
 ゆったりとして穏やかな口調ではなく、バルパランは怒りをあらわにして怒鳴り声を上げた。

「やはり、仲間だったのか」
「仲間ではございません。王妃イ・ア様が敬愛する王の下僕の1人でございます」
「そうか」
「本来であれば……もうしばらく時間があれば、最高の舞台を用意できました。なれど、急がれてしまうので、不完全な状態で迎えねばなりません」

 オレの予想は当たっていた。
 パルパランは敵で、なおかつ時間を稼ぎたかった。
 もしかしたら、チッキーの誘拐はおろか、報奨金を積み上げたのもパルパランだったのかもしれない。
 それにしても、イ・アの仲間か。
 パルパランの言動から推測すれば、やつは準備不足だ。
 今回は魔改造聖水も含めて、対策も出来ている。
 しかも、ここは見晴らしの良い丘陵地帯。
 いくらでも走って逃げることができそうだ。
 オレは自分の選択が正しかった事に、少しだけ安心し、次に備えた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...