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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者
らーめん
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アサントホーエイの町を出て、サイルマーヤの案内のもとオレ達は進んだ。
「ノアサリーナ様、うまくいったようです」
それは出発の翌日、昼すぎた頃のことだ。
ユテレシアが海亀の小屋へと駆け込み、声を上げた。
ゼエゼエと息をしながらも、長い髪の間から除く顔はとても嬉しそうだ。
「うまくいったということは、アンデッドを倒したってことですか?」
「えぇ。ノアサリーナ様の聖なる力が、遥か空高くまで届き、町を取り囲むアンデッドを消し去ったのを確認しました」
オレの問いにユテレシアが嬉しそうに、それはとても嬉しそうに答えた。
ユテレシアの言葉は、イレクーメ神官達によって一行の隅々まで届けられ、ほどなくして歓声が湧き起こった。
「こんなに早く解決すると思わなかったぞ」
サムソンが声を上げる。
「ノアちゃんのスピーチのおかげっスよ。よかったっスね、ノアちゃん」
「うん。これでこの手紙のママも大丈夫だよね」
「もちろん。アンデッド倒しちゃったしな」
「うん」
「とりあえず問題を解決。なんかさ、安心したんで、お腹空いちゃった」
ミズキがお腹を空いたと言った瞬間。
『トントン』
まるで図っていたかのように、海亀の小屋にある扉がノックされる。
扉を開けると、そこにはサイルマーヤが立っていた。
「無事解決しました。お祝いを兼ねてということで、先日のスープ作り直してまいりました。極上の品物です」
「ラッキー」
サイルマーヤの言葉を聞き、スープを入った鍋をちらりと見て、ミズキが嬉しそうに呟く。
「無事解決したので、今日はご飯が美味しく食べられると思います」
「えぇ。サイルマーヤ様、お気遣いありがとうございます」
寸胴にも似た大きな鍋をカガミが受け取り、新しく作った台所へと向かう。
あとは前回と一緒だ。
温めて、皆の前に小分けされたスープが振る舞われる。
前も見たが少しだけ黄色く色づいた透明なスープに、鶏肉にも似た肉が一切れ沈んでいる。
あとは何かの花びらだ。
湯気に混じり、フワリといい匂いがする。
この世界特有の四角いスプーンで掬い上げ口に入れる。
しっかりと味のついた、スープの味が口に広がる。
塩味のスープだ。
「おいしい」
「米に合いそうっスね」
「そう言うだろうと思って準備してるんだよね」
ミズキがオレに向かってジェスチャーで影から米を取り出せと言った。
いわゆるハンドサインだ。
ということで、前に炊いて影の中に投げ込んだ米を取り出す。
取り出したのは薄く味付けのされた米。
この世界の材料を使って作った薄味のピラフだ。
しゃもじ代わりの大きなスプーンで、小皿に盛り付ける。
「やっぱり合うっスね」
「まぁね。私もいろいろ考えてるってわけ」
確かにミズキが言う通りだ、米によく合う。
「いや、本当に美味しいでござる。これが肉を茹でたのみの味とは、驚くべきほかござらん。これぞ奇跡。天の采配。この塩味、山より出でし岩塩とも、海より作られし海塩とも違う。不思議な甘み、そして軽やかな苦み。例えるならば朝日をまとめたかのような、すがすがしさ。それが、このスープに溶け込んでいる! そう、そのような爽やかな塩味でござる。なれど分からぬことも……」
いつの間にか呪いの解けているハロルドも、ぶつぶつ言いながらも、ご満悦だ。
「実は茹でただけではないらしいです」
「なんと!」
「一緒についてる花ビラ。これがスープに程よい香りを付けるから、小分けするときは、1枚は必ず合わせて入れた方がいいと、サイルマーヤ様から助言をいただきました」
「えぇ。偶然にも、いい花が手に入りました」
「合点がいった。臭みのない肉であるが、それとは別の香りが漂っているでござる。なるほどなるほど、花か。これはスープによく合い、その味をひときわ演出するでござる」
「良かったね。ハロルド」
「まだまだ、おかわりありますので、じっくりと帝国が誇る美味のひとつを堪能していただければと思います」
そんなサイルマーヤに頷き、食事を再開。
またたく間に、全員がスープを飲み終える。
そして2杯目。
2杯目を手に取った直後、ミズキがスープを片手に持ったまま席を立った。
「はしたないですよ。ミズキ」
客人がいる為か、カガミがよそ行きの言葉でミズキをたしなめる。
「申し訳ありませんですが、こちらのスープ、試したいことがあるのです」
そう言ってカガミの返事も聞かないまま、ミズキが台所へと入っていく。
行ったかと思うと、すぐにひょっこりと顔を出した。
ミズキが小さくオレを手招きする。
何だろうとついていくと、テーブルにスープの入ったお腕を置いて、ミズキが腕を組んでいた。
「リーダ。あのさ、フェズルードで買ったパスタ。あれ出してよ」
「そんなのあったっけ?」
「あるある。フェズルードで買った食材の中にあるって」
言われるままフェズルードで買った食材の入った箱を取り出す。
確かにミズキがいうように、乾燥した棒状の麺があった。
小鍋を用意して、ミズキがウンディーネとサラマンダーに頼み、湯を沸かし麺を茹でる。
「前回食べた時にちょっと思ったんだよね」
「うん?」
「何か似てるなって」
そう言いながら、素早く麺を茹でたミズキは茹で汁を捨て、麺をスープにぶち込んだ。
それから少しだけスープに沈めた麺をほぐした後、フォークでくるくると麺を絡め取り、パクリと口に入れた。
「成功。やっぱりそうだ」
「何が? そうなんだ」
「ちょっと食べてみてよ」
ミズキにフォークを渡され、同じように麺を絡め取り、口に入れる。
ラーメン!
これ、塩ラーメンだ。
「めちゃくちゃうまい塩ラーメンだ」
「でしょ、塩ラーメンっぽいでしょ」
オレの感想を聞いて、いたずらっぽく笑みを浮かべミズキが頷く。
「あぁ!」
これは大発見だとスープを手に、すぐに皆の元に戻る。
にやにや笑いが止められない。
そして、テーブルの上にコトリと麺の入ったスープを置いた。
「何を入れたのです?」
サイルマーヤが不思議そうにのぞき込む。
南方で使う料理の具材を入れたのです。
ミズキがそれに間髪入れず答える。
「少し、味見してみよう」
一目見て何かに気づいたサムソンが、フォークを手にくるくると麺を絡めて口に運ぶ。
「ラーメンか!」
そして、オレと同じようにラーメンと言って笑みを浮かべる。
カガミもサムソンに続いて一口食べると、上を向いた。
「リーダ。世界樹の葉を一切れいただけますか?」
何かを思いついたようだ。カガミが言う。
世界樹の葉を言われるまま渡す。
受け取ったカガミは台所に入ったかと思うとすぐに戻ってきた。
小皿に刻んだ世界樹の葉を乗せて。
それをパラパラとスープの上に載せる。
続いて一枚の小さな肉を置いた。
ますますラーメンっぽい。
「あっ。乾燥肉を薄く切ったんスね。チャーシューっぽくていけるっスよ。世界樹の葉もいい感じっス。ネギ感でてる」
それから全員分に同じように工夫したスープが振る舞われる。
「南方の具材に北方の料理。これほど合うとは想像し得なかったでござるよ」
「なるほど。さすがリーダ様達でございますな。即興でこのような料理を作られるとは」
サイルマーヤの後ろからひょっこり出てきたブロンニも、驚愕といった感じで驚いた後、ひたすら食べ続ける。
「ブロンニ殿が驚くのも無理はない。これは未知の味。先程のスープに足りなかった要素、かみごたえ、それをこの具材面が補った。さらに加え、世界樹の葉を小さく刻んだもの。独特の歯ごたえと、素朴な風味を付け加えることにより、よりスープの味を引き立て、麺に絡まるスープの量を増やしている。料理はより高貴な姫君を迎え、錫杖を持った女王になったのだ!」
興奮気味にハロルドがまくし立てる。
相変わらず意味はわからないが、絶賛の言葉に食べながらも大きく頷く。
その後は、同僚達も含め、全員が黙々と食べた。
懐かしい味を思い出し、他にもやしが欲しいとか、いろいろとアイデアが浮かぶ。
「あとはこれにマヨネーズをのっければ完璧っすよね」
オレに向かってプレインが小声で呟く。
何考えてんだ?
ラーメンにマヨネーズ?
「却下だ」
小さい声で、プレインに返答した。
「先輩まで……皆、冷たいっスよね」
プレインがぼやく。
その様子が、妙におかしくて吹き出しそうになった。
「ノアサリーナ様、うまくいったようです」
それは出発の翌日、昼すぎた頃のことだ。
ユテレシアが海亀の小屋へと駆け込み、声を上げた。
ゼエゼエと息をしながらも、長い髪の間から除く顔はとても嬉しそうだ。
「うまくいったということは、アンデッドを倒したってことですか?」
「えぇ。ノアサリーナ様の聖なる力が、遥か空高くまで届き、町を取り囲むアンデッドを消し去ったのを確認しました」
オレの問いにユテレシアが嬉しそうに、それはとても嬉しそうに答えた。
ユテレシアの言葉は、イレクーメ神官達によって一行の隅々まで届けられ、ほどなくして歓声が湧き起こった。
「こんなに早く解決すると思わなかったぞ」
サムソンが声を上げる。
「ノアちゃんのスピーチのおかげっスよ。よかったっスね、ノアちゃん」
「うん。これでこの手紙のママも大丈夫だよね」
「もちろん。アンデッド倒しちゃったしな」
「うん」
「とりあえず問題を解決。なんかさ、安心したんで、お腹空いちゃった」
ミズキがお腹を空いたと言った瞬間。
『トントン』
まるで図っていたかのように、海亀の小屋にある扉がノックされる。
扉を開けると、そこにはサイルマーヤが立っていた。
「無事解決しました。お祝いを兼ねてということで、先日のスープ作り直してまいりました。極上の品物です」
「ラッキー」
サイルマーヤの言葉を聞き、スープを入った鍋をちらりと見て、ミズキが嬉しそうに呟く。
「無事解決したので、今日はご飯が美味しく食べられると思います」
「えぇ。サイルマーヤ様、お気遣いありがとうございます」
寸胴にも似た大きな鍋をカガミが受け取り、新しく作った台所へと向かう。
あとは前回と一緒だ。
温めて、皆の前に小分けされたスープが振る舞われる。
前も見たが少しだけ黄色く色づいた透明なスープに、鶏肉にも似た肉が一切れ沈んでいる。
あとは何かの花びらだ。
湯気に混じり、フワリといい匂いがする。
この世界特有の四角いスプーンで掬い上げ口に入れる。
しっかりと味のついた、スープの味が口に広がる。
塩味のスープだ。
「おいしい」
「米に合いそうっスね」
「そう言うだろうと思って準備してるんだよね」
ミズキがオレに向かってジェスチャーで影から米を取り出せと言った。
いわゆるハンドサインだ。
ということで、前に炊いて影の中に投げ込んだ米を取り出す。
取り出したのは薄く味付けのされた米。
この世界の材料を使って作った薄味のピラフだ。
しゃもじ代わりの大きなスプーンで、小皿に盛り付ける。
「やっぱり合うっスね」
「まぁね。私もいろいろ考えてるってわけ」
確かにミズキが言う通りだ、米によく合う。
「いや、本当に美味しいでござる。これが肉を茹でたのみの味とは、驚くべきほかござらん。これぞ奇跡。天の采配。この塩味、山より出でし岩塩とも、海より作られし海塩とも違う。不思議な甘み、そして軽やかな苦み。例えるならば朝日をまとめたかのような、すがすがしさ。それが、このスープに溶け込んでいる! そう、そのような爽やかな塩味でござる。なれど分からぬことも……」
いつの間にか呪いの解けているハロルドも、ぶつぶつ言いながらも、ご満悦だ。
「実は茹でただけではないらしいです」
「なんと!」
「一緒についてる花ビラ。これがスープに程よい香りを付けるから、小分けするときは、1枚は必ず合わせて入れた方がいいと、サイルマーヤ様から助言をいただきました」
「えぇ。偶然にも、いい花が手に入りました」
「合点がいった。臭みのない肉であるが、それとは別の香りが漂っているでござる。なるほどなるほど、花か。これはスープによく合い、その味をひときわ演出するでござる」
「良かったね。ハロルド」
「まだまだ、おかわりありますので、じっくりと帝国が誇る美味のひとつを堪能していただければと思います」
そんなサイルマーヤに頷き、食事を再開。
またたく間に、全員がスープを飲み終える。
そして2杯目。
2杯目を手に取った直後、ミズキがスープを片手に持ったまま席を立った。
「はしたないですよ。ミズキ」
客人がいる為か、カガミがよそ行きの言葉でミズキをたしなめる。
「申し訳ありませんですが、こちらのスープ、試したいことがあるのです」
そう言ってカガミの返事も聞かないまま、ミズキが台所へと入っていく。
行ったかと思うと、すぐにひょっこりと顔を出した。
ミズキが小さくオレを手招きする。
何だろうとついていくと、テーブルにスープの入ったお腕を置いて、ミズキが腕を組んでいた。
「リーダ。あのさ、フェズルードで買ったパスタ。あれ出してよ」
「そんなのあったっけ?」
「あるある。フェズルードで買った食材の中にあるって」
言われるままフェズルードで買った食材の入った箱を取り出す。
確かにミズキがいうように、乾燥した棒状の麺があった。
小鍋を用意して、ミズキがウンディーネとサラマンダーに頼み、湯を沸かし麺を茹でる。
「前回食べた時にちょっと思ったんだよね」
「うん?」
「何か似てるなって」
そう言いながら、素早く麺を茹でたミズキは茹で汁を捨て、麺をスープにぶち込んだ。
それから少しだけスープに沈めた麺をほぐした後、フォークでくるくると麺を絡め取り、パクリと口に入れた。
「成功。やっぱりそうだ」
「何が? そうなんだ」
「ちょっと食べてみてよ」
ミズキにフォークを渡され、同じように麺を絡め取り、口に入れる。
ラーメン!
これ、塩ラーメンだ。
「めちゃくちゃうまい塩ラーメンだ」
「でしょ、塩ラーメンっぽいでしょ」
オレの感想を聞いて、いたずらっぽく笑みを浮かべミズキが頷く。
「あぁ!」
これは大発見だとスープを手に、すぐに皆の元に戻る。
にやにや笑いが止められない。
そして、テーブルの上にコトリと麺の入ったスープを置いた。
「何を入れたのです?」
サイルマーヤが不思議そうにのぞき込む。
南方で使う料理の具材を入れたのです。
ミズキがそれに間髪入れず答える。
「少し、味見してみよう」
一目見て何かに気づいたサムソンが、フォークを手にくるくると麺を絡めて口に運ぶ。
「ラーメンか!」
そして、オレと同じようにラーメンと言って笑みを浮かべる。
カガミもサムソンに続いて一口食べると、上を向いた。
「リーダ。世界樹の葉を一切れいただけますか?」
何かを思いついたようだ。カガミが言う。
世界樹の葉を言われるまま渡す。
受け取ったカガミは台所に入ったかと思うとすぐに戻ってきた。
小皿に刻んだ世界樹の葉を乗せて。
それをパラパラとスープの上に載せる。
続いて一枚の小さな肉を置いた。
ますますラーメンっぽい。
「あっ。乾燥肉を薄く切ったんスね。チャーシューっぽくていけるっスよ。世界樹の葉もいい感じっス。ネギ感でてる」
それから全員分に同じように工夫したスープが振る舞われる。
「南方の具材に北方の料理。これほど合うとは想像し得なかったでござるよ」
「なるほど。さすがリーダ様達でございますな。即興でこのような料理を作られるとは」
サイルマーヤの後ろからひょっこり出てきたブロンニも、驚愕といった感じで驚いた後、ひたすら食べ続ける。
「ブロンニ殿が驚くのも無理はない。これは未知の味。先程のスープに足りなかった要素、かみごたえ、それをこの具材面が補った。さらに加え、世界樹の葉を小さく刻んだもの。独特の歯ごたえと、素朴な風味を付け加えることにより、よりスープの味を引き立て、麺に絡まるスープの量を増やしている。料理はより高貴な姫君を迎え、錫杖を持った女王になったのだ!」
興奮気味にハロルドがまくし立てる。
相変わらず意味はわからないが、絶賛の言葉に食べながらも大きく頷く。
その後は、同僚達も含め、全員が黙々と食べた。
懐かしい味を思い出し、他にもやしが欲しいとか、いろいろとアイデアが浮かぶ。
「あとはこれにマヨネーズをのっければ完璧っすよね」
オレに向かってプレインが小声で呟く。
何考えてんだ?
ラーメンにマヨネーズ?
「却下だ」
小さい声で、プレインに返答した。
「先輩まで……皆、冷たいっスよね」
プレインがぼやく。
その様子が、妙におかしくて吹き出しそうになった。
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