召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者

めざすさきは

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『ズズ……』

 スープをすする音がして、ノアが「プハッ」と息を吐いた。

「おいしい?」
「うん!」

 コクコクとノアが頷く。
 あまりにも美味しそうにラーメンを食べるので、ついつい食べる手が止まって、皆がノアを凝視していた。
 こうしてみると、なぜ子供の頃に祖母がオレの食べるラーメンを小鉢に移し替えていたのかよく分かる。
 危なっかしい。
 もしこぼしてしまったら、やけどしてしまうのではないかと心配になる。
 でも、大丈夫だろう。
 ノアは子供の頃のオレよりもしっかりしている。
 それに、ラーメンは丼に直接口をつけてスープを飲むのがマナーだと言ったのはオレ達だ。
 いまさら無しにするのは、無しだ。
 オレ達の視線に気がついたのか、ノアはキョロキョロと見た後に申し訳なさそうに丼から両手を離し、レンゲを手に取る。

「大丈夫だよ。べつに、ノアノアは別に何にも悪いことないよ」

 ノアの恐縮した態度を見てとったのか、ミズキが笑いながらパタパタと手を振る。
 先日のスープをラーメンにアレンジした後、ラーメンを完全体にすべく皆が一致団結をした。
 いつも以上のチームワークだった。
 研究して作った成果は、今まさに食べているラーメン。
 影収納の魔法でオレの影の中にはいろいろな物がある。
 その中でも世界を旅して集めた具材をフル活用して、ラーメンの完成度を上げた。
 最初の上品でシンプルなスープはどこにいったのやら、目の前にあるチャーシューに見立てた巨獣の塩漬け肉のスライス、そして同行した料理人が提供してくれた生麺、それらが塩味の効いたスープに入っている。
 そこに、世界中の各種具材が大量に入った、具材もりだくさんのボリューム満点ラーメンだ。
 ラーメンというより、ちゃんぽんと呼んだほうがいいかもしれない。

「やっぱり、便利だよな」

 モペアにリクエストしたレンゲを片手に笑顔でサムソンがいった。
 やはりラーメンにはレンゲだ。
 いつものスプーンではなくて、レンゲが欲しいというリクエストに基づきドライアドであるモペアに作ってもらったものだ。
 レンゲ以外に、丼も。
 イラストを元に、木製限定ながらも複雑な形の物でも簡単に作れてしまうモペアは、ある意味3Dプリンタのように活躍してくれる。
 精霊の力というのは凄いと何時も思う。
 そんな、モペアもヌネフ、精霊二人もラーメンは気に入ったようだ。
 特にヌネフ、あいつは先ほどから無言でひたすらラーメンを食べている。
 ちょっとしたおふざけで「うひょぉ。うまそう」と言って手を伸ばしたオレを、こちらを見ることなく手ではたいたくらい夢中で食べている。

「ふむ。上品な料理に具材を色々と詰め込んだのを見たとき、これはいかんなと思ったが……なかなかどうして、美味であるな」

 ふよふよと宙に浮く、少しコミカルなちょうちんあんこうのウィルオーウィスプも、御満悦のようだ。

「やっぱりラーメンにはチャーハンっスね」

 大皿からチャーハンを装いながらプレインが呟く。
 これはプレインが今朝即興で作ったものだ。
 米にマヨネーズ、そしてちょっとした具材でチャーハンが出来るのは驚きだった。
 さすが、いつもマヨネーズをぶっかけて飯を食っているだけある。
 プレインはマヨネーズの色々な利用法をご存知だ。

「これは世界中の味をまとめた一品! 大国の王でもなければ、このような料理を食することがかなわぬ代物。拙者、これほどのものが食べられて感激でござる!」

 延々とブツブツと言っていて、途中から聞くのをやめていたが、やっとハロルドの演説も終わったようだ。もちろん彼も大満足。

「ところでこれから、どこに行こうか?」

 ミズキがチッキーの入れてくれたお茶を飲みながら言った。
 濃いめに入れてもらったお茶は、ラーメンによく合う。

「目的は帝都なんスよね」
「サイルマーヤさんによると、これからすぐに向かえば3ヶ月程度で着くらしいぞ」

 出発時の目的、クレベレメーアの町を助けるというミッションについては早々に片付いた。
 ということで、次の目的地を話し合う。

「最終目的地は帝都なんだが、どういうルートを通るかだな」

 一番簡単なのは、アサントホーエイの町まで1度戻り、そこから帝都まで進むルートだ。
 皇帝の道という、綺麗に舗装された道があるという。
 それは魔法により不思議な力をもった道。
 もし皇帝が進むことを禁止すれば魔法的な力により上手く進めなくなるという。
 だが通常はとてもきれいに舗装され、通常よりも早く進むことができる進みやすい道だということだ。
 交易にも使われる道で、途中に宿もたくさんあり、快適な旅が約束される。
 特に問題がなければ、この道を進むのが一番いいとサイルマーヤは言っていた。

「他に行きたいところがなければ、さっさと帝都に行くってことでいいと思うぞ」
「ピッキー達は何か希望ありますか?」
「おいら達は……」
「なんでもいいよ。せっかく帝国に来たんだ、好きな所に行ってみよ」
「だったらガラスが……ガラス畑が見てみたいです!」

 ミズキに促されたトッキーが意を決した様子で言った。
 ガラス畑か。
 そういえばこの世界では、ガラスは畑で取れると聞いたな。
 領主も話を通してくれると言っていた。
 確かに、一回見てみたい。
 どんな風に畑で取れるのか興味はある。

「いいね、ガラス畑。オレも見てみたいと思っていた。とりあえずガラス畑と」

 テーブルの上に紙を取り出し、そこにガラス畑と書き込む。

「さぁ、次だ。次。何もない?」
「おいおいリーダ。どんだけ寄り道するつもりなんだお前?」
「ゴールは帝都だけどさ、もうなかなか来ないだろ? こんなとこ」
「確かにそうですけど……」
「オレ達は、誰が何と言おうと、好きな所に行って、美味しい物を食べて、楽しく進むんだ。嫌だったらいいけど」
「わたし賛成!」

 オレの言葉に、ノアが両手を挙げて身を乗り出して賛成と言った。

「ノアノアはどこに行きたい?」
「私はミズキお姉ちゃんが楽しみにしていた、お菓子の祭典」
「いいね、いいね。そうだった、お菓子の祭典行こうよ!」

 ノアに言われて、ミズキがバッと立ち上がった。
 絶対忘れていたよな。あいつ。

「じゃあ、お菓子の祭典と……。他にある?」
「うーん。ないな」
「あんまり帝国のこと詳しくないっスからね」
「カガミは?」
「えっ?」

 オレがカガミに声をかけると、驚いた様子でオレを見た。
 カガミはカガミで、人の話を聞いていない。
 たるんでいる。

「カガミ、蛇を連れ出すのやめてって言ったじゃん」
「ごめんなさい、ついつい」

 ミズキにたしなめられて、カガミが謝る。
 館に滞在している間に海亀の中の小屋を強化した。
 具体的にはサムソンが旅の間でもらった触媒などを使って、小屋の中を広く使えるようにしたのだ。
 以前から段階を踏んで、広くなっていったが、今回は広くなったのを利用して小屋のレイアウトを変えた。
 具体的には、台所と、そして家畜のための部屋を作った。
 トーク鳥はもちろん、いざという時のために、茶釜や3匹達の痕跡を入れるためのスペースだ。
 そこにカガミが持ち込んだのは、爬虫類だった。
 ついでに植物。
 カガミが人の話を聞かず頭を撫でていたのは、アサントホーエイの町で手に入れた、小さな真っ白い蛇。

「くりっとした目が可愛いと思います。思いません?」

 なんて言いながら、出発の日から一日中一緒にいてご満悦だ。
 まぁ、好きなことをやれるのはいいことだけれどさ。

「こんなとこか。それじゃあ、ちょっとサイルマーヤさんに道を聞いてくるよ」

 軽い気持ちで外に出た時、予想外の光景が広がっていた。
 広くなったとはいえ、小さい海亀の背にある小屋の中、せっかくなので皆さんにもラーメンを振る舞おうと外にテーブルを出した。
 だから、外のテーブルで神官の皆さんがラーメンを食べているのは問題ない。
 だが、問題はその周りにあった。
 神官の皆さんの周りには、腕を組んで凝視ている集団がいたのだ。

「リーダ様!」

 うち1人が小屋から出たオレの姿を認め、駆け寄って土下座した。
 何だ?
 いきなりの事に頭の理解が追いつかない。
 うろたえるオレに向かって土下座した男は震える声で言った。

「リーダ様。料理のレシピ秘匿されるのはわかりますが、ほんの少しだけでも構いません。料理のことについて、何卒、何卒お教えください」

 いきなりそう言い出した。
 周りの人達も、そんなオレと土下座した男のやりとりを興味深そうに見守っている。

「えっと、ラーメンのことですか?」
「これはラーメンと言うのですか。なるほど」
「ですが、スープについてリーダ様は、帝国へと来て初めて見られたと聞きました」
「確かにそうですね。こんなに美味しいスープがあるなんて知りませんでした」
「ですが、簡単にこのような全く別の、なおかつ素晴らしい料理を編み出された。聞くところによると、別の料理からの流用だと」

 言うとおりだ。ゼロから編み出したわけでもない。
 ラーメンを食べたいと思って、それに似せようと試行錯誤しただけだ。
 元々持っていた知識を使っただけ。それにこれ、大半はオレのアイデアではない。

「お願いいたします。私、この料理に惚れ込みました。なにとぞ、その料理にかかる知見、その一端をお教えください」

 言いたいことはわかった。ラーメンのレシピが知りたいということだ。
 最初はスープに麺ぶち込んだだけだったが、それから調子に乗って色々な具材を入れ、スープにも味加えたりしてるしな。
 別に隠すことでもないか。

「では、私ではなく、より詳しい者を呼んで参りましょう」

 うまく説明できる気がしないし、あんなギャラリーの前で料理のことを偉そうに言いたくない。
 だいたい試行錯誤したのはオレではない。
 というわけで、海亀の小屋へと戻り、カガミを見る。

「どうかしたんですか?」
「あのさ、カガミにお客さんだよ」

 カガミに丸投げ。
 あとは任せた。

「詳しいことは、あのー、その人に聞いてください」

 そう言ってカガミに全部丸投げして、オレはサイルマーヤの方へと向かった。
 それから、彼にこれから向かいたいところを伝える。

「ガラス畑、それにお菓子の祭典というのを見てみたいので、そこにも。それから、帝都へと行きたいのですが、可能でしょうか?」
「なるほど……なるほど……。うん! なるほど! ガラス畑に、コルヌートセル。もちろん可能でございます。快適な旅! 快適な道! この私、サイルマーヤめがご案内致しましょう」

 サイルマーヤは、とても前向きに引き受けてくれた。

「では、早速準備があります。しばしお待ちを、本日中には計画をお伝えに上がりますので」

 そう言って満面の笑顔でスキップしながらサイルマーヤは去って行く。
 大丈夫なのだろうか。
 頼んでおいてなんだけど。
 いつもとは違う、やたら前向きなサイルマーヤの後ろ姿に不安を覚えた。
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