召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
467 / 830
第二十三章 人の名、人の価値

閑話 第3皇子

しおりを挟む
 その地下室は、煌々とした明かりで照らされていた。

「お前がっ! リーダとかいう者の!」

『ドガッ』

「口車に乗ったせいでっ」

『ドガッ』

「私の栄光が、遠のいたではないか!」 

 部屋の一室で、男はひたすら横たわる女性を蹴り続けていた。
 男の名は、ナセルディオ。
 イフェメト帝国第3皇子。
 ナセルディオはひたすらに悪態をつきながら女性を蹴り続けていた。

「おーうじ。そのあたりでぇ、止められましてはア?」

 いつまでも続くかと思われたナセルディオの暴行を、ヒラリと彼の前に飛び出した男が止めた。黒い鼻のピエロ姿の男だ。

「こいつが、さっさとノアサリーナを連れてくれば、こんなことにはならなかった! 違うか?」
「落ち着いてくださぁい、皇子。いちおう、大切な生贄ですのデ」
「あぁ、あぁ。分かってる。皇帝になるために必要な部品だというのだろう」
「理解なされているのであれば、よろしいのです。ハイッ」
「だが、少しくらいはいいだろう? ノアサリーナが寄り道などしなければ、クシュハヤートが増長することはなかった! クソッ、イブーリサウトを殺した意味がないではないか!」
「ですが……ねえ。ケアルテト様、壊れてしまいますよオ」
「ふん。まったく、どいつもこいつも」

 鼻を鳴らし、椅子にナセルディオは腰掛ける。
 そして、部屋付きの侍女からサッと出された酒を一飲みすると、片膝をガクガクと揺らす。
 ナセルディオの、いらつきが見て取れる様子に、その場は無言になった。

「あっ、あの、ナセルディオ様。報告を続けても宜しいでしょうか?」

 しばらくして、紙束を手に持った女性がおずおずと声をかけた。

「よろしいですよ」

 問いに答えたのは、ナセルディオではなく、ピエロ姿の男だったが、女性は頷き報告を再開する。
 帝都では、ナセルディオ派は主流であること。
 クシュハヤート皇子が、帝都を離れたことで、帝都における求心力は低下していること。

「ナセルディオ様が、皇帝に成られる日は間もなくと思われます」

 最後に、そう言って報告は終わる。
 だが、ナセルディオは首を振る。

「いや、後一押しが足りない。次なる皇帝が私であるという証しが必要だ。血塗られた聖女。石の靴……どちらかが必要だ」
「血塗られた聖女につきましてはー、フヒヒ、ここに部品がありますからねエ」

 ピエロ姿の男は、ニヤリと笑いながら横たわる女性の髪を掴み持ち上げ、言葉を続ける。

「魔力も十分。そしてー仕込みも十分。これ以上の部品はありませんよぉ。大事にしていただかなくては」

『ゴトン』

 そしてピエロ姿の男は、髪から手を離す。
 小さな音を立てて、地面に女の頭が地面にぶつかり「うぅっ」と呻き声を上げた。

「確かに、大事だな。悪かった。血塗られた聖女。皇帝の証しのためだ。我慢するよ」

 呻き声をあげた女性を一瞥し、ナセルディオが言った。

「それぇでーこそ、皇子」

 小さくステップを踏みながら、ピエロ姿の男はナセルディオを褒め称えた。

「さて……どうしたものかな。そこのクズの失敗を取り戻さねば、な」
「まずは帝都を押さえるのでは? フヒヒ、せぇっかくのクシュハヤート皇子の不在。生かーさない事はありえませんよオ」
「そんなのは、すぐ終わる。そこから先だ」

 ナセルディオは立ち上がり、部屋の壁に掛けられた地図をなでる。

「ふぅむ。またまたマタ、ノアサリーナに使いを送りますか?」

 小さくスキップしながら、ナセルディオの後へと近づいたピエロ姿の男は、小さい声で提案する。
 それに対し、ナセルディオは首を振って否定した。

「同じ事の繰り返しだ。もういい。私自らが迎えにでるとしよう。一向に来る気配がないのだ。待つのはうんざりだ」
「帝都はどうされますか?」
「全ての皇子が不在になれば、私の優位は変わらないだろ」
「クシュハヤート皇子は動きませんが、ディクヒーン皇子は?」
「あの生きている毒が、すでに解毒済みだとでも?」

 ナセルディオの言葉に、ピエロ姿の男が、フヒヒと笑う。

「あり得ませんな」
「前に、食事会で見たときも、体調は芳しくも見えなかった。奴の姉からも、無理をしていると報告があったのだろう?」
「そういえば、そうでしたね。双子の弟を毒殺しようとしてまで、ナセルディオ様に尽くすお姿、涙無しには読めませんでした」
「毒が残った状態で、帝都の貴族を刈り取ることはできない……そうだろう?」
「確かに、さっすが聡明なる皇子。フヒヒ」

 ピエロ姿の男がからかうように言うお世辞に、小さく頷いた後、ナセルディオは部屋を出る。

「あぁ、確かコルヌートセルだったな。儀式もあっちでしよう。準備を」

 命令をした彼は、返事を待たず部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...