召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十八章 素敵な美談の裏側で

ひとのあらそい

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 大学指定のローブを着たヘレンニア。
 とどのつまり、変装したミランダ。
 あいつ……。
 いけしゃあしゃあと、まだ大学に通っていたのか。
 カチンときたオレは、大股でヘレンニアに詰め寄るべく歩く。
 彼女が、もう一人……ニフレインと一緒に、談笑しながらどこかへ行こうとしていた。
 二人と彼女達の従者へと近づくと、ヘレンニアがオレを見た。
 そしてリフレインと彼女の従者も、気がついた様子だ。
 近づくオレに、彼女の従者達が立ち塞がるように動く。

「何か?」

 それから、尋問するように、警戒感もあらわに聞いてきた。
 そうだった。オレは変装中だった。
 怪しまれても、しょうがない。

「申し訳ありません。えっと……私はカガミ様の従者で……、イ……イアタッタと申しまして」
「ん? お前の名前はカワリンドではないのか?」

 しくじった。
 そうだった、そうだった。変装の魔法で、偽名がランダムに決まるんだった。

「申し訳ありません。家名と自分の名前を間違えておりました」

 オレの言い訳は、彼らを怪しませる結果になったようだ。
 険悪な雰囲気につつまれる。

「あぁ、あなたは?」
「ヘレンニア様は、ご存知なのですか?」
「はい。リーダ様と一緒にいらっしゃったのを見かけたことがございます。ひょっとして私に用事が?」

 そこに助け舟を出して出してくれたのは、ヘレンニアだった。

「左様でございます」

 助け舟に乗らない手はない。ニコリと笑い彼女に大きく頷く。

「では……あちらでお話を伺いましょう」

 そしてヘレンニアに促され、ニフレインから離れ通路の陰へと向かった。

「リーダでしょ?」

 そして開口一番、オレの正体が言い当てられた。

「やっぱり、バレていたか」
「今日は一体どうしたの? 私に会いに?」
「サムソン探しに来たんだが……それとは別にだ、ミランダ。オレを置いて逃げやがったな」
「自分のことで精一杯だったのよ。それに、ほら、リーダだったら大丈夫かなって」

 彼女は、問い詰めるオレに対し、楽しそうにそんなことを言い放つ。
 なんてことだ。
 適当な事をいいやがって。
 そして、オレが口を開こうとしたら、かぶせるように彼女は言葉を続ける。

「それにしても、あっさり卒業したのにはびっくりしたわ。さすがよね」
「あれには、いろいろと理由があるんだよ」
「へぇ。そうそう、サムソン様だっけ? 彼だったら図書塔で最近よく見かけるけど」

 そう言って、彼女が3本ある大きな塔の一本を指さした。
 続けて、スッと指を動かす。そして、大きな塔のそばにある赤い旗が特徴的な塔で指を止める。
 あれが、図書塔か。

「そっか、ありがとう。行ってみるよ」
「もう間も無く講義なのだけれど……時間もないけれど……。せっかくだから案内してあげるわ」

 そう言って、早足で進むミランダと一緒になって図書塔へ向かうことになった。
 みちすがら、ヘレンニアは、目的を達成したらすぐに姿を消すつもりだったこと。
 それから、オレが卒業していなくなったため、予定を延期したことを聞く。

「少し考えたのだけれども、同じタイミングでいなくなると怪しまれると思ったし……。それに、リーダがいなくなって寂しがる人間もいたのよ。少し予定を変えてね……予定変更の辻褄を合わせるのも大変なのよねぇ」

 なんてことを、ヘレンニアは言っていた。
 そしてたどり着いた図書塔は、スプリキト魔法大学に数ある塔でも、ちょうど中間ぐらいの大きさだった。
 それなりに高い塔なので、入り口側にはエレベーターもどきが存在する。

「助かったよ。じゃあ、早速、サムソンのやつを探してくるよ」

 パタパタと振ってヘレンニアと別れようとしたら、ローブを掴まれた。

「リーダは今生徒じゃなくて従者でしょ? だったら、階段登らなきゃだめじゃない」

 そうだった。そうだった。
 ああいう設備を利用できるのは生徒と同行している従者だけだった。
 オレが一人であれに乗ったら、すぐに叩き出されるところだった。

「助かったよ……ヘレンニア様」
「全く。暢気なものよね」

 オレの言葉にミランダは呆れたようにため息をつく。
 そうだな。
 先ほど、ニフレインの従者に止められた時といい、少し行動が迂闊だった。
 気をつけなくてはなるまい。
 あと何か注意することは……。
 そうだ。
 忘れていた。
 離れていくヘレンニア……いや、その正体であるミランダに対して、言わなくてはいけないことを思い出した。

「おい、ミラ……じゃなくてヘレンニア……様。あなたにも話さなくてはいけないことが、ありましたので、えっと……」

 思ったより距離が離れていたため、口調をどうしようかと迷ってしまう。
 それにミランダが変装しているのも、混乱の元だ。ややこしい。

「分かったわ。でも、これから授業があるの。近く、伺いますね」

 やや大きめな声で言葉を選びつつ声をかけるオレに、ミランダは楽しげに笑うとフワリと体を翻し去っていった。
 あいつ、分かっているのかな。
 うーん。まぁ、まずはサムソンだ。できることからやろう。
 図書等の各フロアを覗き込みながら階段を上っていく。
 一階、二階と、階段を上っていくのだが、一つのフロアが高いため階段を上るのが結構きつい。
 それにしても、フクロウが多いな。
 図書塔には、やたらと鳥がいる。もっとも、鳥はいても、サムソンは見当たらない。
 それからも、サムソンは見つかることなくずんずんと登っていく。
 そして、5階のフロアで、サムソンがちょうどエレベーター代わりのゴンドラに乗って上がっていく姿が見えた。
 サムソンを見失わないように、駆け足で階段を上っていく。
 あいつは6階を超え、ずっとずっと上に行った。
 頑張って追いかけて行き、屋上でサムソンの姿を見つけた。
 塔の端に体を寄りかからせて、地上を見下ろすサムソンへ近づく。

「オレだよ」
「なんだ、リーダか」

 一瞬だけ変装を解いてサムソンに手をあげる。
 すると、彼はオレに近づいてきた。

「カガミが困っていたぞ。団扇を持った集団が争っているって」
「あぁ。把握している。なんとか、このまま7対3……シルフィーナ様の優位で進めたい。だが、レンケッタ様の陣営も侮れないぞ。昨日から、演説前の歌にダンスを取り入れた」
「ダンス?」
「それだけじゃない。俺達の陣営がサイリュームの魔導具を使うのに対し、レンケッタ様の陣営は、指を光らせる魔法を代用した。やられたよ。光量は劣るが低コストで沢山の人間が光による応援できる」
「いや、サムソン。カガミが団扇をだな……」
「あぁ。人の争いというものは、そういうものだ。一方が強い兵器を使うと、相手も同じように対抗を試みる。そして、次第にエスカレートしていくんだ。だから、今が大事なんだ」

 オレの言葉をどう取ったのかは知らないが、サムソンが地上をみやり静かに語った。
 しんみりとした彼の言い方に、少しだけ悲壮感が見て取れる。
 あれ? なんか違う……と、流石にオレが違和感を抱いていた時のことだ。
 サムソンが驚愕した表情でオレを……いや、オレの肩を見た。
 直後、自分の耳元でシュルリと微かな音がした。
 ふと音がした方を見ると、オレの肩に、一匹の白蛇がいて、いままさに頭を持ち上げたところだった。

「サムソン……図書塔にいたんですね」

 そして、白蛇は……カガミの声音でそう言った。
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