召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十九章 理想郷と汚れた世界

おうごんきょう

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「リーダ……」

 ノアがオレの袖を掴んだ。

「大丈夫」

 見下ろして、ノアの頭に手を乗せようとした時だ。
 オレの目に、金に変わりゆく自分の右手が映った。

「あっ」

 ノアもそれに気づき、即座に手を放した。
 ジュウジュウと音をたて、金に変わる状況は、オレの肘手前で止まった。

「触った物が……金になる?」

 何処かで聞いたことがある。なんだっけかな。触った物が金に変わる呪い。

「黄金の呪い……」
「ロンロ、知っているの?」
「えぇ。ノア。でも、これは、金貨を複製したときにしか……」

 そういえば、少し前に聞いたな。黄金の呪い。
 金を複製した人間が受ける呪い。
 同僚達も、チッキーもトッキーも、知らないようだ。
 知っていそうなのは……。

「スライフ」

 知っていそうな黄昏の者スライフを呼び出す。
 オレに呼びかけに応じ、何も無い所からヌッとスライフが現れる。
 ゴツイ悪魔にしか見えない、黒に近い紫をしたスライフが静かに辺りを見回す。
 よく考えれば、ラミアとの戦いにもコイツを呼べばよかった。
 焦って、頭が回っていなかった。
 冷静にならなきゃな。

「金貨を複製したのか?」

 いつものように現れたスライフはさすがだった。
 見た直後に、これが黄金の呪いだと気がついた。

「一目でわかるんだな」
「普通の金とは違う。黄金の呪いによる金は腐敗する。そして、その呪いでは骨は骨のまま残る。骨は黄金の呪いには影響を受けない。だから、あちらの子供……」
「ピッキーの事か?」
「よく見るとわかる。肉ではない歯は黄金ではない」

 確かに、よく見るとピッキーの歯は白い。
 なるほど、そういう見分け方があるのか。
 そして、骨は呪いの影響は受けないか……。

「歯で触れば黄金化はしないのか?」
「理論上ではそうだ」

 エリクサーのビンを歯で咥えれば……。いや、ダメだ。飲み込む時に、黄金化してしまう。

「ところで、オレ達は金貨を複製していないのに、こうなったんだ。それで、解除する方法はあるのか?」
「我が輩にはわからない。だが、一般的な黄金の呪いであれば、対応する王剣を破壊すれば解呪される」

 一般的だったら、王剣を壊せ……か。
 だったら、オレ達の呪いにも、対応する何かがあるのか。
 チラリとサムソンを見る。
 思っていた以上に傷は深そうだ。
 エリクサーが飲めないのは辛い。
 手を考えなくては。

「相談はお仕舞い? 早く治さなくては、その男、死んでしまうのでは、はてさてそれは可哀想でございます」

 頭上からウ・ビの馬鹿にした声が聞こえる。

「ぬっ」

 そんな時、スライフが呻き声をあげた。
 ハロルドだ。
 スライフの背中を踏み台に、ハロルドが飛び上がる。
 標的はウ・ビか。
 高く飛び上がったハロルドが、にやけ笑いのウ・ビに飛びかかる。
 だが、攻撃は当たらない。
 軽く飛び上がったウ・ビは、ハロルドの噛みつきをフワリと避けた。

「このウ・ビ、ダンスに心得がありますれば」

 そして、そう言い残し、ウ・ビは急上昇してやがて見えなくなった。
 結局、黄金郷とかいうこの場所に、オレ達は取り残された。
 横になったサムソンは、苦しそうだ。息が荒くなってきた。

「リーダ……俺はダメそうだ」

 オレと目があったサムソンが、弱々しく言った。

「ちょっと、サムソン。なんとかするから、なんとかするから」
「いや。カガミ氏。エリクサーが使えない。手段は限られている」

 カガミの言葉に、サムソンがピッキーをチラリと見て応えた。
 言いたい事がわかった。

「何か言い残すことはあるか?」
「黄金の呪いを解く方法はわからないが、ノイタイエルを探せ」
「ノイタイエル?」
「そうだ。この黄金郷……の、ノイタイエルだ。見つけて触れば金塊になるんだろう? そうしたら、飛行島のノイタイエルは自由になる」

 オレ達の飛行島は、強制的にこの黄金郷にあるノイタイエルと連結状態にある。
 片方を破壊することで連結を解除か。

「あとは……キーワード、起きるべきは物見の家。ゆくべき土地はギリアと言えば、飛行島はギリアへ飛ぶ」
「逃げろと?」
「多分、この土地から離れれば、呪いは解ける。条件……あるんだ。現に、俺達、飛行島に」
「もういい。あとは任せろ」

 サムソンの胸元に触れて、黄金化する。
 彼は金の彫像になってしまうが、怪我の悪化は止まる。

「リーダ」
「大丈夫だよ。ノア。サムソンが言ったとおりだ。ノイタイエルを探し、破壊する」
「それから、飛行島に乗って、皆で脱出ってことだよね」
「そうだ。敵の狙いにわざわざ乗る必要はない」

 とりあえず方針は決まった。
 ノイタイエルを探す。魔物が出ても、ハロルドがなんとかしてくれるだろう。
 問題は、敵さんのノイタイエルが何処にあるかだな。

「スライフ。この……黄金郷のノイタイエルの場所、わかる?」
「ダメだな。場所の隠蔽がなされている。ある程度、近くになければ探知できない」

 スライフだったら見つけてくれるかなと淡い期待をしたが、ダメだった。
 しばらく考えるような素振りをしたスライフの答えは、残念なものだった。

「さて、どうするかだ」
「探すのって、ノイタイエルだよね。あの緑色の」
「ここって、どれくらいの広いんスかね」
「あのね。すれ違う時、端から端まで数えたら17数えられたよ。いーち、にーって」
「スピードが一定だったとして……そこまで広大ってわけでは無さそうに思います」
「起伏はあるけど、茶釜いるしね」
「バウッワウ」
「でも、茶釜に乗ったら金になるっスよね?」
「黄金の呪いはぁ、地肌が触れてなければいいのぉ。立ったまま乗れたら大丈夫なはずよぉ」

 皆で、アイデアを出し合う。
 途方もなく広い場所ではないが、人の足では距離がある。
 しかも、それなりに起伏のある黄金の町だ。

「どうやってノイタイエルを探すかだ」
「えぇ。それに急いだほうがいいと思います。蒸し暑いので、すぐにバテそうです」
「手がかり……」
「そうだね。ノアノア。手がかりが欲しいよね」

 確かに。
 方角くらいはわかればいいな。
 上に飛ぶウ・ビを上手く言いくるめて……虫が良すぎるか。

『カチャリ……』

 そんな時、ほんの微かにだが、小さな音が聞こえた。
 なぜ、その音が気になったのかはわからない。
 でも、気になって、音がした方に目をやる。
 そこにあったのは、ミズキが手にしていた魔剣。
 黄金の塊になった魔剣。
 そして、オレが目にしたのは、その一部が変色し、崩れ落ちる瞬間だった。
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