召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

しごとのほうしゅう

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 手紙にはヘイネルさんが過労で倒れた事が書いてあった。
 そしてもう一つ。オレかサムソンに対し、魔術士ギルドへの出勤要請だ。

「お仕事するの?」

 手紙を読み上げると、ノアが手をあげ発言する。
 なんだかとても嬉しそうだ。

「そうだよ。リーダが、働くんだって」
「ちょっと待て、ミズキ。なんでオレが確定なんだ」

 なんてことだ、皆がオレに労働を強制しようとしている。
 ノアはなんで嬉しそうなんだろう。仕事好きなのかな。
 それは不味い。
 近いうちに仕事は健康に悪いと説明せねばなるまい。

「でも、サムソンには魔法の研究を進めて欲しいと思います」
「カガミ氏の言う通りだ。後、少しなんだ」
「いいじゃん。リーダは仕事好きでしょ? ノアノアも、働いているリーダ好きだよね?」
「あのね、お仕事するリーダは格好いいよ」

 皆が一丸になって、オレに労働を勧める。なんて団結力だ。
 とはいえ、サムソンには超巨大魔法陣の研究を優先してもらいたい。
 困ったものだ。

「しょうがない。わかったよ」

 結局、引き受けることにした。
 オレ達をこの世界に引き留める命約の数。それは既に一桁だ。
 時間が無い状況で、サムソンの足を引っ張るわけにいかない。
 その日のうちに、領主の城へと行くことにした。
 手紙に、最低限の打ち合わせをしたいとあったからだ。

「本当ならば、名だけを借りるつもりでしたが、少々事情が変わりました」

 城ではフェッカトールが資料を用意して待っていた。
 ヘイネルさんが過労で倒れて、ピンチヒッターとしての出勤になるらしい。

「ヘイネル様は、大丈夫なのですか?」
「えぇ。少し休めば復帰可能だと聞いています。おそらく、魔術士ギルド本部との交渉が負担になったのでしょう」

 フェッカトールの口ぶりから、ヘイネルさんは大した事が無さそうでホッとする。
 でもホッとはするが、代わりに魔術士ギルド本部とのやり取りってのは勘弁して欲しい。
 おそらく交渉なんて任されないだろうけれど、念の為に確認しておくか。

「ところで、私はどのような仕事をするのでしょうか?」
「魔術士ギルドの運営全般です。もっとも、現場の者達に任せておけば問題は無いかと思われます。とりあえず魔術士ギルドに居ていただければ大丈夫です」
「居るだけですか? ちなみに、出勤時間は?」
「時間の決まりはないですが、昼前には顔を出すべきかと」
「昼前ですね」

 良かった。思ったより緩い職場だ。早起きせずにすむことにホッとする。

「ともかく、この町には、ヘイネル、リーダ、サムソン……ギリアにいる魔術士ギルドの正規ギルド員は3名のみです。私もそうですが、城を離れるわけにはまいりませんので」

 いつの間にか、オレは正規ギルド員になっていたらしい。身分は奴隷なのだが、そのあたりは大丈夫なのかな。
 あんまり突っ込んで聞いて面倒事になるのは嫌なので、黙っておくけど。

「もちろん、報酬無しで……というわけではありません。表向きは無報酬にせざる得ないので、金銭での報酬は払えないのですが、代わりを用意しました」

 そうフェッカトールは言葉を続けて、城の役人を呼んだ。
 その人は、オレの上半身くらいのサイズはある箱を抱えていた。
 カコン、カコンと音をたてるソレは、箱の側面に穴が開いていて振り子が揺れていた。
 揺れる振り子と、一定のリズムで鳴る音が振り子時計を思わせる。

「これは南方にあるベヘヘバーケンの賢人達が作り出した魔導具です。効果は、この魔導具の付近から、呪い子がまき散らす不快感を軽減する効果があります」

 なんだろうと見ていると、フェッカトールが解説してくれた。
 呪い子のまき散らす不快感を軽減……、その効果は最近作った魔導具で実感したばかりだ。
 あれは身につけるタイプで、これは設置するタイプか。

「このような魔導具が……」
「あまり望まれない魔導具ですから知る人はほとんどいません。それに、これはそれほど強い効果は無いそうです。おそらく……ノアサリーナ様にとっては気休めにもならないでしょう」

 驚くオレに、フェッカトールが申し訳無さそうに付け加える。
 内心とても期待したので、少しガッカリだ。世の中、それほど甘い話はない。

「それは、残念です」
「報酬として、この魔導具の作り方が記された物も含めて差し上げます。皆様であれば、これを強化することも可能かもしれません」

 作り方から仕組みを調べて、パワーアップバージョンを作るか。
 呪い子の不快感を軽減する設置型の魔導具がある……その存在を知ることができただけでも朗報だ。
 領主から依頼を断ることはできないわけだし、前向きに考えるかな。
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