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第三十三章 未来に向けて
まるでおはかのように
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ボートのように地底湖に浮かびオレ達を運んだトロッコは、ゴーレムの袖口にあった入り口から中に入ると、少しだけ空中に浮かんだ。
そして、石畳の床の上を飛んでちょっとだけ進むと、音もなく消えた。
「消えちゃった」
「問題ない。今我々が立っているところに、ボートを作り出す魔法陣が描いてある。来た時と同じように詠唱して再び作り出せば帰りも行きと同じように帰れる」
ノアが困ったのように呟いた言葉に、ヒンヒトルテが笑顔で地面を指差した。
彼が指差した先、地面にうっすらと魔法陣が見えた。
くすんだ赤茶色をした大きめなレンガを組み合わせた床と壁面、どこまでも変わり映えのしない通路を進んでいく。静かな場所だ。
「あれ……何かあります」
「同じのが、入り口にもありました。隅っこに」
「トッキーが寸法を測りました」
カガミが指さしたのは自転車に似た何かだった。
自転車とは違い、地面に固定されている台形の台座にハンドルとペダル、それからサドルが付いている。くすんだ銀色に光っている。
「エアロバイクに似てるっスね」
「あー。思い出した、電気屋にあったな、似たようなヤツ」
「デンキヤ?」
足を止めたオレ達を見て、ズンズンと進んでいたヒンヒトルテが戻ってくる。
「それを知っているのか?」
「いや、似たようなものを見たことがあるなって。これは魔導具?」
「このゴーレムを動かす魔導具だ。ここを……」
ヒンヒトルテが、ペダルの片方を手に持って回す。台座を挟んで反対側にあるペダルも、対応するようにカラカラと音を立てて回っていく。
しばらく回すとグラグラと通路が揺れた。
通路が揺れた事に気がついたヒンヒトルテがペダルから手を放し、口を開く。
「ああやって回せば対応する一部分が動く。この魔導具はゴーレムの至る所にあるのだ」
「え? じゃあ、このゴーレムって、沢山あるエアロバイクを皆で漕ぐの?」
ヒンヒトルテの言葉にミズキが驚きの声をあげる。
まったく同感だ。彼が口にした先ほどの説明通りなら、対応するエアロバイクを一斉に動かさないとゴーレムが動かないことになる。
魔法で動くかと思ったら、まさかの人力。
「そうだな。戦いの末期、あれほどの栄華を誇った共和国も、魔力が足りず困っていたようだ。上を見るといい、金属製の筒があるのが見えるだろう。あれは、鉄のパイプに音を響かせて、遠くに声を運ぶ仕組みだ。魔力を節約するための工夫が、このゴーレムには沢山施されている」
彼の言う通り、通路の天井には金属製のパイプがあった。レンガに似た色をしていて気がつかなかった。
「伝声管か……。魔法が満足に使えない状況だったってことか」
サムソンがしんみりとした口調で言う。
「伝声管?」
「ほら、古い戦争映画であるだろ。なんか潜水艦とか船で、鉄パイプみたいなのに向かって叫ぶシーンとか」
そんなのあったかな。
でも、似たようなものが元の世界にもあったというなら、本当に魔法を使わない仕組みなのだろう。
このエアロバイクも、超巨大ゴーレムを動かすためには一斉にこがなきゃいけないのだろう。
こんな静かな場所で必死に漕ぐ姿を想像すると、何か可笑しくもあり、悲しくも感じる。
「もう少し進むと胸のあたりにたどり着く」
少しだけしんみりとした空気の中、ヒンヒトルテがそう言って歩みを再開した。
「なんだか、ちょっとイメージしてたのと違うね」
「いろいろ不足していたんだと思うぞ。戦争末期ってのはそういうものなのかもな」
ヒンヒトルテが言うように、エアロバイクに似た魔導具は、沢山あった。等間隔に設置されているようだ。静かな場所に鈍く光る魔導具を何度も見かけるうちに、それがまるで墓標のように見えてくる。
静かな場所に、ポツン、ポツンとあるからだろうか。うまく言葉に出来ないが、さみしさが募ってくる。
ここに来たときの盛り上がりはすっかりなりを潜め、静かに進む。
来た時は、キョロキョロと辺りを熱心に見ていたトッキーも俯いていた。
ノアは不安に感じたのか、オレの袖をギュッと握る。
「大丈夫だよ……昔の話だしね。ほらノア、何か見えてきた」
そんなノアに、笑いかけたとき、通路の先から緑色の光が差しているのをみつけた。
「もうすぐ胸の部分にたどり着く。魔力の貯蔵と配分を行う部屋が、そこにはある」
オレ達の会話を拾ったヒンヒトルテが、緑色の光に指を向けて言った。
そして、彼の言葉どおり、大きな部屋へとたどり着く。
茶色く光る金属製のパイプがあちこち這っている部屋だ。部屋の中央あたりに床と同じ色をした茶色い石柱があり、その側には巨大な円柱があった。
円柱の根元は緑色に眩しく光っていて、部屋一面を照らしていた。
「あっ、ゲオおじちゃん」
その円柱側には、ゲオルニクスが立っていた。あと、ノームが数匹。
「ゲオルニクス様は、皆さんが来ると聞いて、こちらにお見えになったのだ。ここのゴーレムの解析にも、力を貸していただいている」
どうしてゲオルニクスがいるのだろうと、疑問に感じていたオレに、ヒンヒトルテが言った。
「ノアサリーナは。元気になったようだな。よかっただ」
笑顔のゲオルニクスが、オレ達を見つけるとドタドタと駆け寄ってきた。そして、彼と合流し、部屋へと進む。
「この円柱。これは、魔力貯蔵の……」
「そうだァ。サムソンの言う通り、ここに魔力を貯めて、ゴーレムを動かす仕組みだなァ」
そして、サムソンの質問に答える形で、ゲオルニクスとヒンヒトルテが分かっていることを教えてくれる。
超巨大ゴーレムは、中継都市ティンクスペインホルの外れに掘られた縦穴で作られていたという。
元々は巨人族の祖先である古巨人族の鎧がベース。
それが長い年月で地中に埋もれ、今は頭と片腕の一部が地表に露出するのみだとか。
動力は、この部屋にある円柱型のコアに、魔力を込めて動かす予定だったらしい。
だが、その魔力を捻出できず、次の計画としてデイアブロイの作る月を乗っ取ることで魔力をまかなう計画を立てていたそうだ。
「乗っ取るって?」
「デイアブロイの心臓たる第2の月は、奴の弱点でもある。万が一の事を考えて、第2の月は外部から干渉できるように作った……と、資料にある」
それは、ミズキのちょっとした疑問にヒンヒトルテが答えていた時に起こった。
「報復を。血の一滴。魂の欠片を……全てを、同胞の為に、報復を……未来を……」
ノアが呟き、ユラユラとコアに向かって歩いて行く。
「ノアちゃん?」
カガミが急変したノアに手を伸ばそうとする。
『ゴォッ』
その途端、魔力貯蔵の柱から風が吹いて、カガミが飛ばされた。
「まさかっ。怨念魔術か!」
ヒンヒトルテが叫んだ。
そして、石畳の床の上を飛んでちょっとだけ進むと、音もなく消えた。
「消えちゃった」
「問題ない。今我々が立っているところに、ボートを作り出す魔法陣が描いてある。来た時と同じように詠唱して再び作り出せば帰りも行きと同じように帰れる」
ノアが困ったのように呟いた言葉に、ヒンヒトルテが笑顔で地面を指差した。
彼が指差した先、地面にうっすらと魔法陣が見えた。
くすんだ赤茶色をした大きめなレンガを組み合わせた床と壁面、どこまでも変わり映えのしない通路を進んでいく。静かな場所だ。
「あれ……何かあります」
「同じのが、入り口にもありました。隅っこに」
「トッキーが寸法を測りました」
カガミが指さしたのは自転車に似た何かだった。
自転車とは違い、地面に固定されている台形の台座にハンドルとペダル、それからサドルが付いている。くすんだ銀色に光っている。
「エアロバイクに似てるっスね」
「あー。思い出した、電気屋にあったな、似たようなヤツ」
「デンキヤ?」
足を止めたオレ達を見て、ズンズンと進んでいたヒンヒトルテが戻ってくる。
「それを知っているのか?」
「いや、似たようなものを見たことがあるなって。これは魔導具?」
「このゴーレムを動かす魔導具だ。ここを……」
ヒンヒトルテが、ペダルの片方を手に持って回す。台座を挟んで反対側にあるペダルも、対応するようにカラカラと音を立てて回っていく。
しばらく回すとグラグラと通路が揺れた。
通路が揺れた事に気がついたヒンヒトルテがペダルから手を放し、口を開く。
「ああやって回せば対応する一部分が動く。この魔導具はゴーレムの至る所にあるのだ」
「え? じゃあ、このゴーレムって、沢山あるエアロバイクを皆で漕ぐの?」
ヒンヒトルテの言葉にミズキが驚きの声をあげる。
まったく同感だ。彼が口にした先ほどの説明通りなら、対応するエアロバイクを一斉に動かさないとゴーレムが動かないことになる。
魔法で動くかと思ったら、まさかの人力。
「そうだな。戦いの末期、あれほどの栄華を誇った共和国も、魔力が足りず困っていたようだ。上を見るといい、金属製の筒があるのが見えるだろう。あれは、鉄のパイプに音を響かせて、遠くに声を運ぶ仕組みだ。魔力を節約するための工夫が、このゴーレムには沢山施されている」
彼の言う通り、通路の天井には金属製のパイプがあった。レンガに似た色をしていて気がつかなかった。
「伝声管か……。魔法が満足に使えない状況だったってことか」
サムソンがしんみりとした口調で言う。
「伝声管?」
「ほら、古い戦争映画であるだろ。なんか潜水艦とか船で、鉄パイプみたいなのに向かって叫ぶシーンとか」
そんなのあったかな。
でも、似たようなものが元の世界にもあったというなら、本当に魔法を使わない仕組みなのだろう。
このエアロバイクも、超巨大ゴーレムを動かすためには一斉にこがなきゃいけないのだろう。
こんな静かな場所で必死に漕ぐ姿を想像すると、何か可笑しくもあり、悲しくも感じる。
「もう少し進むと胸のあたりにたどり着く」
少しだけしんみりとした空気の中、ヒンヒトルテがそう言って歩みを再開した。
「なんだか、ちょっとイメージしてたのと違うね」
「いろいろ不足していたんだと思うぞ。戦争末期ってのはそういうものなのかもな」
ヒンヒトルテが言うように、エアロバイクに似た魔導具は、沢山あった。等間隔に設置されているようだ。静かな場所に鈍く光る魔導具を何度も見かけるうちに、それがまるで墓標のように見えてくる。
静かな場所に、ポツン、ポツンとあるからだろうか。うまく言葉に出来ないが、さみしさが募ってくる。
ここに来たときの盛り上がりはすっかりなりを潜め、静かに進む。
来た時は、キョロキョロと辺りを熱心に見ていたトッキーも俯いていた。
ノアは不安に感じたのか、オレの袖をギュッと握る。
「大丈夫だよ……昔の話だしね。ほらノア、何か見えてきた」
そんなノアに、笑いかけたとき、通路の先から緑色の光が差しているのをみつけた。
「もうすぐ胸の部分にたどり着く。魔力の貯蔵と配分を行う部屋が、そこにはある」
オレ達の会話を拾ったヒンヒトルテが、緑色の光に指を向けて言った。
そして、彼の言葉どおり、大きな部屋へとたどり着く。
茶色く光る金属製のパイプがあちこち這っている部屋だ。部屋の中央あたりに床と同じ色をした茶色い石柱があり、その側には巨大な円柱があった。
円柱の根元は緑色に眩しく光っていて、部屋一面を照らしていた。
「あっ、ゲオおじちゃん」
その円柱側には、ゲオルニクスが立っていた。あと、ノームが数匹。
「ゲオルニクス様は、皆さんが来ると聞いて、こちらにお見えになったのだ。ここのゴーレムの解析にも、力を貸していただいている」
どうしてゲオルニクスがいるのだろうと、疑問に感じていたオレに、ヒンヒトルテが言った。
「ノアサリーナは。元気になったようだな。よかっただ」
笑顔のゲオルニクスが、オレ達を見つけるとドタドタと駆け寄ってきた。そして、彼と合流し、部屋へと進む。
「この円柱。これは、魔力貯蔵の……」
「そうだァ。サムソンの言う通り、ここに魔力を貯めて、ゴーレムを動かす仕組みだなァ」
そして、サムソンの質問に答える形で、ゲオルニクスとヒンヒトルテが分かっていることを教えてくれる。
超巨大ゴーレムは、中継都市ティンクスペインホルの外れに掘られた縦穴で作られていたという。
元々は巨人族の祖先である古巨人族の鎧がベース。
それが長い年月で地中に埋もれ、今は頭と片腕の一部が地表に露出するのみだとか。
動力は、この部屋にある円柱型のコアに、魔力を込めて動かす予定だったらしい。
だが、その魔力を捻出できず、次の計画としてデイアブロイの作る月を乗っ取ることで魔力をまかなう計画を立てていたそうだ。
「乗っ取るって?」
「デイアブロイの心臓たる第2の月は、奴の弱点でもある。万が一の事を考えて、第2の月は外部から干渉できるように作った……と、資料にある」
それは、ミズキのちょっとした疑問にヒンヒトルテが答えていた時に起こった。
「報復を。血の一滴。魂の欠片を……全てを、同胞の為に、報復を……未来を……」
ノアが呟き、ユラユラとコアに向かって歩いて行く。
「ノアちゃん?」
カガミが急変したノアに手を伸ばそうとする。
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