召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
699 / 830
第三十三章 未来に向けて

おんねんまじゅつ

しおりを挟む
 風吹き荒れるなか、虚ろな目になったノアが、コアである柱にペタリと手をついた。
 コポコポと泡立つ音がして、柱の根元にある緑に輝く部分がつり上がっていく。

「いかん!」

 焦った様子のヒンヒトルテが、ノアに駆け寄り手を大きく振りかぶる。

「カボゥ」
「ちょっと」

 殴りかかろうとするヒンヒトルテを、カーバンクルは威嚇し、ミズキは慌てた様子で腕を掴み抑えた。

「あれは怨念魔術だ。あのままでは……」

 ノアに向けて振り下ろした手を、ミズキに止められたヒンヒトルテが何かを訴えようと呻いた。

「問題ねえだァ」

 それに答えるかのようにゲオルニクスが大声で言い、叩きつけるように柱へと手をついた。

『ボコリ……』

 柱から泡立つような音が鳴った。

『ゴゴゴ』

 続けて地響きが鳴り、グラグラと部屋中が揺れた。
 そして部屋が明るくなる。

「あれ……」
「気が付いたか、ノアサリーナ」

 小さく声を上げたノアを見て、ヒンヒトルテが少しだけ後ずさった。

「まさか!」

 それから彼は光り輝く柱を見て、唖然としてつぶやく。
 何に驚いているのかは明白だった。
 ほんの少し前まで根元のみが、輝いていた柱。それが、今や柱そのものが緑に輝いていたのだ。

「一体何が起こったんですか?」
「怨念魔術だ。ノアサリーナは、死者の思いに突き動かされて、あの柱……ゴーレムのコアに魔力を捧げようとした。命が尽きるまでその全ての魔力をだ」
「それで、その怨念魔術っていうのは何なんだ?」
「そういえば大学で聞いたことがあるな。でもあれは、大したことがないと聞いていたぞ」

 オレの疑問にサムソンが答える。
 怨念魔術という言葉を聞いてもなおサムソンは納得がいかない様子だった。

「そうだなァ。まず怨念魔術っていうのは、普通の魔法じゃねぇだ」
「死者が、死ぬ寸前まで魔力を込めた魔導具。もしくは死ぬ寸前に行使していた魔導具、それらに想いが乗るのだ」
「想い?」
「この魔導具に更に魔力を込めなくてはならない……などだな。結果、死者が残した魂の訴えは周りにいる生者に伝わる」
「死者の魂が、ノアちゃんに、魔力を捧ぐことを強要したということでしょうか?」
「そういうことになる。命を失ってでも魔力を込めろというように」
「でもなぜ、ノアちゃんだけが影響を受けたんスか」
「それはノアサリーナが、強い魔力を持っていて、優しくて、そして子供だからだなァ」

 ゲオルニクスが光る柱を見つめたまま言葉を続ける。

「怨念魔術ってのは、周りにいる人の魔力を通じて魂に囁きかけるだ。こうして助けてほしい、協力して欲しいってな。うんで、魔力が大してないと死者の言葉をそこまではっきりと聞き取れねえ。優しくないと、協力したいって気にもならねぇ。そして、大人はずるいから、命をかけようと思わねぇだ」
「私が、大人じゃ……ないから」
「心配ないだよ。ノアサリーナ。もう大丈夫、この魔導具に込めるべき魔力は、オラが全部、込めてしまっただ。だからもう安心していいだよ」
「もし今後、同じことがあったら対策しておく必要があると思います。思いません?」
「怨念魔術は、防ぐ方法がない。もし干渉にあったら、魔力を伴わない打撃で気を失わせるしかない。それか誰かがその思いを引き継いで、先に実行するしかないのだ」
 
 カガミの質問にヒンヒトルテが小さく首を振りつつ言った。
 殴り飛ばす対処法。だからヒンヒトルテはノアに殴りかかろうとしたのか。

「魔法で何とかできないのか?」
「怨念魔術に誘われたものに対し、魔法を使ってはならない。さらにその術者の想いが干渉し、より酷いことになってしまう」
「対処法がないのか」

 困ったものだな。今後は、まずオレ達が先行して進んだほうがいいかもしれない。妙な魔導具がないかを確認してから、ノアを呼ぶか……。
 ということは、前のアレもそうなのか。
 鉄槌の出来事も、怨念魔術によって引き起こされたってことか。
 杖の魔導具を使って、巨大な星をギリアに落とす……鉄槌を下せって意味合いだったのだろうな。
 そして、望み通り星は落ちようとした。途中で阻止はできたが、極光魔法陣は天から剥がされて、おそらく魔神は自我を取り戻した……か。

「ここに同じような魔導具はあるのか?」
 念のためヒンヒトルテに質問しておく。あるとすれば、先ほど考えた通りオレ達が先行すべきだ。
「あと、もう一箇所、ここと連動して魔力を貯蔵する仕組みがある」
「もう魔力は限界まで貯まっているだァ。大丈夫だよ」
「他に、厄介な魔導具は?」
「いや、ないな。怨念魔術が絡むような魔導具は確認されていない」

 発言の意図を汲み取ったようで、ヒンヒトルテが断言してくれた。
 だったら必要以上に心配する必要ないだろう。

「それじゃ安心して他の所も見てみようか。何か見栄えのする所ってあるのか?」
「では頭の部分がいい。少しだけ外を見ることができる。あちらの階段だ」

 部屋の壁面に沿って設置された階段を、ヒンヒトルテが指さす。

「一番乗り」

 オレは、ことさら陽気に言って階段を駆け上る。

「ノアもおいで」

 さらにノアへ努めて明るく声をかけた。
 先ほどの出来事はノアの責任ではない。

「そうそう。次に行っちゃお、次」

 ミズキがノアの背中を押しながらオレに続く。

「そうだな」
「楽しみっスね」

 それからサムソン、プレインと、続く。

「オラもいくだ」

 それからゲオルニクス。

「まさか、これほどの魔力を一瞬で……やはり貴方は」

 最後にそう呟いたヒンヒトルテが追いかけてくる。
 階段を上った先は、円筒形の部屋があり、そこにも壁面に沿って設けてある階段があった。そして、その先は開けた部屋だった。
 外から日の光が差す、とても明るい部屋があった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...