召還社畜と魔法の豪邸

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最終章 リーダと偽りの神

やみのせかい

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 オレは考えた。
 でも、それは僅かな時間。
 少しだけ考えて、望みを口にした。

「思い切った選択だった」

 ケルワッル神は、そう言って楽しそうに笑った。

「どうでしょう。欲の無いリーダの為、彼が楽しく過ごせるよう僅かな力を貸すというのは? あと、信徒を増やす道に繋がりそうですし……」

 微笑んだルタメェン神は、そう神々に提案し「異議無しと」回答を得ていた。
 そしてオレは地上に降りた。

「思い切った選択か……」

 神界から地上に降ろされ、日の光が差す森の中で呟く。
 どちらの世界で生きるのか。
 皆が好きにすればいい。

「せっかくです。貴方は好きなときに神域に来ることが出来るよう取り計らいましょう」

 地上に降りた直後、タイウァス神の声が聞こえハンドベルを受け取った。

「これをもって、合図としましょう。我らへの頼み事……そして扉を開く合図です」

 続いてタイウァス神の言葉を聞いた。
 木製の柄をもった銀のハンドベル。装飾も無いシンプルな品物。これを鳴らせば、力を貸してくれるらしい。
 地上にもどり、ハンドベルを鳴らす。

『カララン、カララン』

 渇いた音がなった。

「未来を常に……念頭に……」

 タイウァスの囁くような声が聞こえた。
 それから、オレの目の前に背丈の3倍近くある巨大で縦長の5角形の薄い壁が出現した。
 まるで滝の一部を5角形に切り取ったように、水が流れて見えた。
 すぐに5角形の中央に十字の亀裂が入り、水の流れは真っ黒な一色の何かになった。
 何か……その正体はすぐに分かった。
 夜景だ。
 音も聞こえる。懐かしい音。車のエンジン音、遠くから電車の音も聞こえた。
 扉はきちんと開いたわけだ。この先に元の世界がある。
 無事、扉は開いた。オレの口にした望みが叶ったのだ。
 先に進もうとしたとき、ふと足が止まる。

「……呼ぶか」

 思いつきでハンドベルを振った。

「クローヴィスを呼んで欲しい」

 オレは神々にちょっとだけ願い事をした。

「あれ? ここは? リーダ?」

 三角巾で腕を吊したクローヴィスが出現し、キョロキョロとあたりを見てオレを見つけた。

「ちょっと頼み事があってね」
「頼み事? だけど、ボク、怪我をしてるんだ」

 彼は三角巾で吊り下げた右腕を揺らして言った。
 よく見ると口の端も赤く腫れている。

「クローヴィスの傷を治して欲しい。これからの事で手を貸してほしいんだ」

 オレは再びハンドベルを鳴らす。思ったとおり神々は気安く力を貸してくれる。
 クローヴィスの傷は瞬く間に癒えた。

「すごい。どうやったの?」

 三角巾を取り外したクローヴィスが自分の体をパンパンと叩きつつ言った。

「後で教えるよ。で、ちょっと、これから皆を迎えに行くんで手伝ってほしいんだけど」

 オレはニヤリと笑い、端的に頼む。

「手伝い?」
「そうそう。この先にさ、皆が居るから一緒に迎えにいって、ノアの所へ連れて行きたいんだ」
「ノアの所に?」
「そうそう。皆で帰った方がノアが喜ぶからね」
「ノアが?」
「そう。びっくりさせてしかも大喜びだ。だから、一緒に迎えに行って……今回だけ皆を背に乗せてほしいんだ」

 オレの言葉を聞いて、しばらくクローヴィスは考えていたが「いいよ」と言ってくれた。
 そして彼は、扉の前で銀竜の姿になった。
 銀竜クローヴィスの背に乗って、バッと向こう側へ飛んだ。
 こうしてオレは元の世界に帰還した。
 扉の先はビルの屋上だった。道路を挟んで召喚直前まで働いていたビルが見えた。

「クローヴィス、あっちだ。皆がいる」
「なに、ここ。真っ暗だし、魔力がまるで嵐のように凄い勢いでうねっているよ」

 クローヴィスが悲鳴にも似た声をあげながら飛ぶ。
 右や左に大きく揺れて飛びにくそうだ。

「まぁ、夜だしな。とりあえず、あっちだ」

 左右にぶれつつ飛ぶクローヴィスに目的地を指示する。
 どうやら本当に飛びにくいようで、直線距離だとそれほどない距離を大きく揺れて飛び進んだ。

「もぅ」

 クローヴィスはようやく慣れたようで、進路を定めると大きく羽ばたいた。
 そこでオレは失敗に気がついた。

「やばい。クローヴィス。そっちに扉は無かった。一旦屋上に!」
「急に言わないでよ。止まれない」

 ところがオレの指摘は遅かった。
 クローヴィスは泣きそうな声で言った。

「うわぁぁぁ!」

 オレとクローヴィスは叫ぶ。勢いは止まらずビルの壁に直進する。

『ゴッ……ガァン』

 ビルの一面を覆っていたガラスをぶち破り、オレ達は部屋へと飛び込んだ。
 部屋は真っ暗闇だった。だけど、すぐに、向かい側から光が差し込んでくる。
 その光はオレとクローヴィスを照らす。

「ヒッ……ヒィィィ」

 それは懐中電灯の光だった。それを持っていた男の人が悲鳴を上げて逃げていった。
 あたりにはガラスの破片。倒れたテーブル、PCにディスプレイ。
 そして……。

「先輩!」
「リーダ!」

 同僚達が居た。
 プレイン以外は体感的には一日も過ぎて居ない。
 でも、再会できてホッとした。
 皆がそろっていた。なんとなく、皆が帰還している事はわかっていたが、そろっていたのは朗報だ。

「先輩! なんか変なんです!」

 再会したとたんプレインから異常事態の報告をうけた。
 皆の願いが叶ったこと。
 だけど、警備の人は同僚達を憶えていないし、部屋は使われていない状況だったという。
 プレインとしては、召喚された事で、自分達が人々の記憶から消えているのではないかと不安らしい。
 同僚達も不安そうだ。
 だけど、すぐに答えはわかった。
 簡単な事だった。問題ない。

「リーダ、お前……どうして、というかその格好は?」
「どうしてクローヴィス君がいるの?」
「あの、何から言えばいいか」

 プレインの言葉をかわきりに同僚達が困惑した声をあげた。
 しかし、オレは笑った。
 全てを把握し、答えを得ていた。原因も、これからのことも。
 オレからも話をする事がある。
 問題は全部サクッと解決して、ノアに会いに行こう。
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