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しおりを挟む男女間の友情なんて幻みたいなものだ。
「すまないシャロン、今日のディナーはキャンセルしてもいいかな?」
貴族学校からの帰り道。
乗り慣れた我が家の馬車よりも一回り小さな車内、向かい側に座る男は申し訳なさそうな顔でそう言った。
「……良いけど。それにしても突然ね、今日は珍しく父上も同席できる貴重な食事会なのに」
婚約者であるアルバート=キュレッドは一瞬驚いた表情をするものの、それでも目を伏せたまま小さく首を振った。
「それでも……ごめん、」
「もう1ヶ月も前から決まってた事じゃない、せめて理由くらい教えて?」
「エマに呼び出されたんだ」
その名前を聞いて「またか」と呟いてしまう。
彼が約束をドタキャンしたり私からの誘いを断る時、決まって彼女の名前が出てくる。
「……今日はどんな用で呼び出されたの?」
「多分また寂しくなったんだと思う。あの子は一人をすごく嫌うから」
あの子、だなんて随分と親しい呼び方をするのは彼が彼女の唯一の友達だから。
エマ=ラングレー。
ラングレー男爵家の一人娘で、彼女はよく幼馴染のアルバートを呼び出す。
アルバートいわく『エマは昔から病気を患っていて僕だけが彼女の支えなんだ』とか。
私と出会う前からの関係だから私も色々言わないようにしている。でも……
(流石に異常、なのよね)
エマは毎日のようにアルバートを家に呼び出すし、アルバートも例えどんなに大事な用事があっても彼女を優先する。
気持ち悪いくらい典型的な共依存。
「アルバート、いい加減私を優先くれても良いんじゃないかしら」
「……本当にごめん。エマとの約束なんだ」
(約束というよりは契約みたいだわ)
「彼女は病気なんだ、一人じゃ心細いんだよ」
「……分かったわ」
「ありがとう、君がホント理解ある人で良かった」
ホッとしたように微笑むアルバート。
顔だけはいい彼に微笑まれるのは悪い気はしない、でもそれが毎度だとこっちも怒りを通り越して呆れてくる。
「それでね、シャロン。このタイミングで言うのもあれなんだけど」
「何?」
「援助額をもう少しアップして欲しいんだ」
「また?」
金の催促は今に始まった事じゃない。
将来彼は公爵家であるうちに婿として来る予定になっている。うちには女の私しかいないしキュレッド伯爵家には後継者である彼の兄がいる。次男坊であるアルバートを貰い受ける代わりにキュレッド家には毎月援助をしているんだけど……。
「アルバート、流石にこれ以上は無理よ。一般的な援助額を超えているわ」
「そこを何とかして欲しいんだ、ロットバレン家はこの国きっての富豪じゃないか」
なんて嫌な言い方。
この国でも歴史ある公爵家をそんな俗っぽい言い方するなんて、彼の教養の無さにため息が出てしまう。
「頼むよシャロン、公爵様にお願いして?君がお願いしてくれるならきっと話をつけてくれるはずなんだ」
「……話だけは伝えておくわ」
「助かるよ!本当に君は素敵な人だ!」
パァと表情が明るくなる。
現金な人、というよりアルバートは私に金の話くらいしかした事ないか。
馬車が家の前に到着する。
地面に降りた瞬間にバタンと扉が閉まった。
「ごめんね、急いでるからもう出るよ」
「……ええ」
「この埋め合わせは必ずするから!」
何度目かの埋め合わせの約束に眉を顰める。
馬車は私の言葉を待たずして猛スピードで離れていった。
思えば彼が私を大事にした事なんか一度もない。
いつも最優先事項はエマで、私は恐らくそのずっとずっと下の存在。渡している援助金だってきっとエマの為に使われているはずだ。
『エマは僕の大切な友人なんだ。でもそれは特別な感情じゃない、あくまで僕たちは恋愛感情のない友人関係だよ』
その言葉を一瞬でも信じた私が馬鹿だった。
「潮時ね」
これ以上彼らの茶番に付き合っている暇はない。
貴族である以上、愛のない結婚があってもしょうがない。でも他に女がいるとなれば話は別だ。
婚約破棄。
早速その準備に取り掛からなきゃ。
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