【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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時が経つのはものすごく早い。
そんなことを考えながら、私はまた中庭のベンチに座っている。

アルバートとの婚約破棄は、貴族界隈でも有名な破談話になった。
「公爵令嬢が身分の低い男爵令嬢に婚約者を寝取られる」というニュースはスキャンダル好きの貴族たちの間では持ちきりの話題となる。だがそんな噂もすぐに過ぎ去り、アルバートの不貞行為が公になれば下世話な話は一切耳にしなくなった。

お母様曰く、あの日、私がヴィンセントと部屋を出た後はまさに地獄だったそうだ。

泣き叫ぶラングレー嬢と宥めるアルバート、放心状態のキュレッド夫妻を屋敷から追い出すのに手間がかかったらしい。

『ほんと最後まで迷惑な人たちね』

と、お母様はこめかみに筋を立てながら笑っていた。

(アルバートは何をしてるのかしら……確か地方で日雇いの仕事をしていると聞いたきり良くも悪くも噂も聞かなくなってしまったわ)

この街に居づらくなったキュレッド家は地方に移り住んだと聞いた。借金こそはないにしろ、財産全てを慰謝料として支払った為、今日明日を生きていくために必死で働いているらしい。

(彼らには良い傾向かも。だって、今まで頼りきりだったが居なくなったんだもの)

空を見上げながら彼を思い出す。

あの後、お父様の計らいによりヴィンセントはうちの遠縁にあたる子爵家へと養子に入った。いずれは公爵家に入る事にはなっているがヴィンセントはしばらくそちらの世話になるのだ。

『こんな俺を受け入れてくれたからね、少しでも子爵家に恩を返してから君に会いに行くよ』

結局ヴィンセントは子爵の仕事を手伝う事が決まりここから少し離れた領地にすぐさま行ってしまった。

(そういう義理堅いところもヴィンセントらしい)

そう思いながらも、私は少しだけ不安になる。


今日までの半年間、ヴィンセントから私への連絡は一切なかった。


(私との約束、忘れてしまったかしら……それとも向こうで素敵な女性と出会ってしまったとか?)

こう見えて内心ものすごく焦っている。
手紙でも書いてくれるだろう、そんな事を呑気に考えていた自分が恥ずかしい。

(私から連絡してみる?いやでも恋人でもないのにそれは図々しい、というか束縛っぽい?)

頭の中をぐるぐる悩ませ何も出来ずに今日に至る。

彼の負担にはなりたくない。
アルバートの時は、少なからず彼にとって私という存在は重荷になっていただろう。だからもし我儘なんか言って、ヴィンセントに嫌われるのだけは嫌だった。

(早く言いたい……)

「こんなに好きに、なってたのね……」





「誰のことを?」





雲一つない青空を見ていたはずなのに、私の視界いっぱいにヴィンセントが現れる。ベンチの後ろから顔を覗き込んできた彼は半年前と変わらぬ満面の笑みを浮かべていた。

思わず立ち上がろうとすればゴチンと額と額がぶつかってしまう。

「いたっ!」
「っ……ぷっ、あはは!そんなにびっくりした君を見たのは初めてだよ!」

頭突きしてしまった額を摩りながらヴィンセントは声をあげて笑う。その箇所はうっすら赤くなっていた。

「ごっごめんなさいっ!大丈夫?」
「平気だよ。ふふっまた一つ君の魅力を知れた」
「か、からかわないで」

(絶対に石頭だと思われた!)

恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
するとヴィンセントは私の額を優しく撫でた。

「ちょっと赤くなってるね」
「私は大丈夫です」
「コブが出来ないと良いけど」
「いっ石頭だから平気よ」
「ぷっ!」

また堪えるように笑うヴィンセントに思わず私も笑ってしまう。
ベンチから立ち上がり向き合う。
久しぶりに会った姿に心臓がバクバクと高鳴った。

「おかえりなさい、ヴィンセント」
「ただいま、シャロン」

改めて向き合うと何だか恥ずかしい。
そして何を話して良いか分からなくなってしまった。

「えっと……ど、どうだった?向こうの生活は」

たわいもない話をしながらニコッと笑う。

「ああ、子爵殿は良い人だったよ。それに凄く勉強になった」
「そう」
「君の元に早く行きたいと言ったら快く送り出してくれた。本当に感謝しかないよ」

軽く目を伏せるヴィンセント。

「会いたかった」

ぱちっと目が合えばまた心臓が縮こまる。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、私は彼から視線を逸らす事が出来なかった。

「シャロン、あの日のこと俺は覚えてるよ」
「ヴィンセント」
「教えて」

痺れるくらいの甘い声。
あんなに伝えたかった言葉が本人を目の前にすると上手く出てこない。

(大丈夫、ちゃんと言えるわ)

何度も自分に言い聞かせた。

「あなたが好きです」

声が震えてしまう。
ぎゅっと服の裾を掴み彼を見つめた。

「前に貴方は言ってくれたわ、『好きな子が誰かのものになったら嫉妬するし、好きな子を悲しませる存在があるなら全力で排除する』って」
「ああ」
「私も同じ気持ち。ラングレー嬢が貴方に抱き着いた時すごく嫉妬した」

アルバートを奪われたと知った時よりもずっと嫌だった。こんな思い、今まで生きてきて一度もなった事がない。

「ヴィンセント、私だけのモノになって欲しい」

逃げ出したくなるくらい恥ずかしい気持ちを押さえ込み、私は彼を見つめながら言い切った。
ヴィンセントは黙ったままでしばらく沈黙が続く。

「シャロン」
「っ……」
「ありがとう」

そう言ってヴィンセントは優しく抱き締める。
強張った私の体はゆっくりと力を抜き、伝わる温もりに体を預けていく。

「俺も君が好きだ」
「ヴィンセントっ……」
「ずっとこの日を待ってた。あー……ようやく君をこの手で抱き締められる」

ぎゅっと力がこもる。

「シャロン、ずっと前から俺は君のモノだよ」
「ほ、本当?」
「ああ。ここで初めて出会った時からずっと」

胸に押しつけられる顔を上げれば、至近距離でヴィンセントと目が合ってしまう。逃げようと体を捩ってみるものの、がっちりホールドされていて身動きが取りづらい。

「あ、あの……そろそろ離して」
「んー?もうちょっとだけ」
「こ、ここ屋敷から丸見えなのよ!」
「もうちょっと」

子供のように駄々を捏ねる彼に思わず笑ってしまう。こんな顔、私だけしか知らない一面だろう。

(もうしばらくは、良いか……)

ぎゅっと抱き締め返せば彼は嬉しそうに微笑む。



暖かい風と花の匂いに包まれて、私たちはようやく長い片思いを実らせた。




*****

これにて本編完結です。
ご愛読頂き誠にありがとうございました。
また、長きに渡り人気ランキング1位にして頂いたのも皆様のお陰でございます!
番外編は数本予定していますが更新不定期です。
それでは次回作でお会いしましょう!

2021.03.15
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