【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

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とは言ったものの……

「つ、疲れた……」

私は今、会場から少し離れた場所に身を潜めていた。

ドレイクとの騒動の後、噂好きなゲストたちが一斉に集まり詰め寄ってきた。
『プレゼントの件は本当なのか?』や『いつもあんな嫌がらせをされていたの?』と心配する声がほとんどで、気弱だった性格がここで効いてきているらしい。
とりあえず悪口っぽくならない程度に今までのことを説明すると、よりゲストたちをヒートアップさせてしまった。

結果、そのままパーティーは噂や悪口大会に発展してしまい……居たたまれなくてここに逃げてきた。

(やり過ぎたかな?いや、このくらいしないと効果ないわ)

今だってきっと余計なことをした私にイラついているはず。自分が少しでも悪かったなんて思うような人じゃないから。

「はぁ……ずっとここに居ようかな」

ベンチに座りぼんやりと目の前にある池を眺めた。

(そう言えば一回目の時もここに逃げてきたんだっけ)

今日は温かくてつい眠たくなってしまう。
うとうとしかけた時、ベンチの後ろからシュッと何かが飛び出してきた。

「?!へ、へびっ?!」

大きさからして子供だろうか、茶色と黄色の小さなヘビは私と一定の距離を保ちながらじっとこちらを睨んでいる。

(きゅ、急に動いたら噛みつかれるよね?!)

身動き取れないままヘビが去っていくのを待つしかない。でも、何かジリジリ近づいてきているような気も……!!
すぐ近くまで迫ってくるヘビが恐ろしくてぎゅっと目を瞑る。その時だった。


「じっとしていろ」


低くてよく通る声が耳元で聞こえる。
驚いて目を開けるとヘビはもう居なくなっていて、代わりに背の高い男性が立っていた。

(この人は、もしかして……)

黒い短髪に鍛え上げられた身体、背中越しにチラリと見えた目は鋭くて心臓を射貫かれてしまいそう。

彼とのは、これで二度目だ。

「久しいな、アヴェルティン嬢」

貴族学校の同級で、王宮騎士として活躍している彼──エドリック=ユーフェリオは私の正面に立つ。

見上げるほど大きいのは相変わらず、そして表情筋が死んでるかと思うくらい仏頂面なのも相変わらずだ。

「怪我はないか」
「え?えぇ。もしかしてあのヘビ追っ払ってくれたの?」
「追っ払ったというより睨んだら逃げていった」

……動物同士の威嚇勝負?
突っ込みどころ満載の返答だけど、彼はジョークを言うタイプじゃない。まぁ、私がヘビ側だったら同じく逃げ出していたかも。

「助けてくれてありがとう」
「いや」
「……えっと、パーティーに参加してたのね!」
「ああ。友人が参加しろとうるさくてな」
「へ、へぇ」
「………」
「………」

(か、会話が続かない……!!)

一度目の人生でも彼とはここで会っている。
同じようにヘビに襲われそうになっていたところを、たまたま通りかかったエドリックに助けてもらった。
あの時はまともに目も合わせられず、お礼もそこそこに逃げ出してしまったのよね。

(だってしょうがないじゃない。初恋の人なんだから……)

恥ずかしすぎる過去にそっと目を伏せた。

当時からエドリックは目立つ生徒で、大きな身体と剣術の才能に誰もが注目していた。強面な見た目に大抵の女子が怯えていたけど、一部からは密かに人気があって……実は私もその内の一人。
でも特にアピールをするわけでもなくバレないように彼を見つめているだけ、ほとんどストーカーと変わりはない。

だから平気なふりしてるけど、正直余裕ないわ。

「アヴェルティン嬢は、」
「へ?」
「目星の男は見つかったのか?」

(め、目星って……)

遠慮のない言い方に苦笑すると、すぐに思ってもみないセリフが飛んできた。

「いやそうか……君にはバーモンがいるか」
「え……ど、ドレイク?何故今、彼の名前が出てくるの」
「?君たちは付き合っているんだろ」

付き合ってる?!え、何で?!

「常に君たちは一緒に行動している。周りの連中は恋仲だと噂していた」
「っ、違うわ!ドレイクはただの幼なじみ!そんな毎日一緒にいるわけじゃないから!」
「そうなのか?」
「そう!!」

立ち上がって叫んだ瞬間ハッと我に戻った。

(な、何ムキになってるんだ私っ!)

恥ずかしさを誤魔化すようにストンと座り、ちゃんと伝わるようにゆっくりと息を吐く。

「……彼を異性として見たことはないの。それに、仮に恋人だったらこのパーティーに参加していないわ」
「……そうか。すまない」
「いいの、今まで誤解されるような距離感でいた私も悪いと思うし。は、ははっ!自分から友達が作れなくてドレイクばっかりに頼ってたツケが回ってきたのかも!」

(うん、自分で言って痛々しいなぁ……)

暗くなった空気を少しでも立て直そうとしたけど逆効果。
かえって一人ぼっちな自分を強調して何ともいえない空気感に仕上がってしまった。

(エドリックとは、もっと別の話をしたかったのに)

学生時代、何度も夢に見た。
彼と2人きりになったらどんな話をしよう?
好きな食べ物、休日の過ごし方、聞きたいことが山ほどあった。でも実際には上手にお話できないカトレアのまま……カッコ悪いなぁ。

「……自分を卑下しなくていい。誰にだって不得意なことはある」
「……うん」
「それとも君は俺が話上手に見えるか?」

真面目な顔でずいっと身を乗り出すエドリック。

(これは……気を遣ってくれてる、のかな?)

「ふふっ」
「?」
「あははっ!そうね、私たちって似た者同士だわ」

不器用すぎる優しさがとっても嬉しい。
気を遣ってもらえたのも声を出して笑ったのも久しぶりで、少しだけ泣きそうになってしまった。

「……君の笑った顔を見るのは、これで二度目か」
「え?」
「カトレア=アヴェルティン伯爵令嬢」

さっきまでとは違う真剣な表情に、思わず息を飲み込んだ。

「結婚を前提に貴方に交際を申し込む。もし今、好いている男がいないならば、俺にチャンスをくれないか」

結婚……、交際……………


「け、結婚っ?!」


あまりにも唐突な、初恋の人からの仮プロポーズ。
私の二度目の人生は……どうなっちゃうの?!

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