【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

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ドレイクを追い出した後、お母様はすぐに私の手を引いてお父様の元へ連れていった。
飛び込んできた私たちにお父様は目を丸くする。

「どうしたんだ二人とも」
「あなたっ!今すぐバーモン子爵に手紙を出して!ドレイクにカトレアへの接近禁止を忠告してちょうだい!」

部屋に入るなりそう叫んだお母様。
私もお父様もただただびっくりするだけで、何がどうしてそうなったのか不明だ。

フーフーと怒り続けるお母様の代わりにさっきまでのやり取りを説明すると、お父様は「そういうことか」と納得したように目を伏せた。

「つまりドレイクがカトレアを長年軽んじていた、と」
「そうなの。だからすぐにあの男をカトレアから引き離したいのよ!」

お母様は当の本人である私よりもすごい熱量で訴えた。

「恐ろしい男よ……カトレアのためだと言いながら、カトレアの人格を否定し続けるの。自分が側にいなきゃダメだ、価値なんてないと言っているようだったわ」
「そこまで……」
「長い付き合いだからあの子のことをよく理解しているつもりだった。心優しくて面倒見がいい男だと……でもそれも全部間違っていたのよ」

お母様は私に向かって深く頭を下げた。

「ごめんね、お母様何も分かっちゃいなかった……っ貴女を苦しめ続けたのも、私たちのせいだわ」
「お母様……」
「ごめんなさい……っ、本当に、」

顔を手で覆い泣きながら謝る姿に胸がきゅっと苦しくなる。

「カトレア」
「お父様……」
「私も謝る。これまでのことはリリスだけの責任じゃない、父親である私も同罪だ。すまなかった」

お母様の肩を抱きながら、同じく頭を下げるお父様。

(二人にこんな顔、させたくなかったのに……)

一度目の人生では確かに両親を恨んだこともあった。
何故助けてくれないの?どうして突き放すの?と悲撃のヒロインのように泣いた夜もあった。

でも今は、全てが二人のせいじゃないと知っている。
はっきりと意思を伝えなかった自分にも責任がある、それを知った時初めて両親を大事にしたいと思った。

頼ってばかりじゃダメ。
私の人生なんだから、私が何とかしなきゃ。

「……お父様、お母様。もういいんです」
「っ、でも!」
「私、幸せだわ。お父様とお母様にこんなに大切にされていたなんて知らなかったから……だからそれが分かって嬉しい」

二人を安心させたい一心でにっこりと微笑んだ。
お父様とお母様は互いの顔を見合せ、少しだけ申し訳なさそうにしながらも笑い合う。

全員が落ち着いたタイミングで、私はまたドレイクの話を切り出した。

「でも、私もドレイクのことは子爵様にもお伝えしておくべきだと思います。幼なじみだからと言って礼儀を欠いた人間とは付き合いは止めたい、と」
「そうだな……分かった、バーモン子爵には手紙を出しておこう。場合によっては今後の付き合い方も考えると付け足しておくさ」
「ありがとうございます」
「それと……もう一つ、カトレアに確認しておきたいことがあるんだ。これを見てくれるかい?」

そう言ってお父様は紙の束を取り出した。

「これはここ数ヶ月レオナから送られてきた請求書と診察記録だ。一番上が今月の請求書なんだが……」

トントンと指で示された金額に思わず目を見開いた。

「こ、高額な……!」
「ああ。私の記憶が確かなら彼女は今月3回しかここを訪れていない。にも関わらずこの法外な治療費……とても見過ごせないだろう?」

専属医師とは貴族お抱えの医者である。
毎月決まった金額+診療に必要な薬代や経費を上乗せし当主に請求書を上げるのが通常であった。
先代の医師であったレオナの父はここまでの金額を要求したことはなく、むしろ一般診察料よりも安い金額で献身的に勤めてくれた。

しかしレオナに代替わりすると、その診察料はとたんに跳ね上がったという。

「一度レオナ本人に直接確認したことがあるんだが……その時彼女は『お金についてはカトレアの了承を得ている』と言っていた」
「私の、ですか」
「あぁ。だから今まで見て見ぬふりをしてきたんだが……お前がユーフェリオ家に嫁ぐとなれば家督を遠縁に引き継がねばならない。そこで予算を見直したんだが、さすがにもう庇いきれなくてな」

お父様はふぅとため息をつき、何枚もの請求書を見比べていた。

(私の知らないところでそんなことが……)

「だったら一言相談して下されば良かったのに」
「……そうだな。ただレオナをクビにすれば、お前の数少ない友人がいなくなってしまうと思って言えなかった」
「!」

そうか……お父様は違和感を覚えつつも『娘のため』に知らないふりをし、お金を払い続けていたのか。

「お父様、レオナとの専属契約を今月で打ち切りましょう」
「いいのか?」
「私たちの友情は所詮お金で成り立った関係だったというわけです。そんなの本当の親友じゃないから」

薄々気付いていた。気付かないふりをしていた。
レオナは私のことを金づるとしか見ていない。…、最初からそこに友情なんかなかった。

(それでも私は……レオナが好きだったのよ)

こんな私にはっきり物申してくる彼女が新鮮で、心寂しい私は勝手に親友のポジションまで明け渡していたんだろう。

「……本当に、私って馬鹿」
「カトレア」
「っ、でもおかげで目が覚めたわ」

この地を離れる前に、“要らないもの”はきれいさっぱり片付けよう。
まずは……あの二人から。

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