【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

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18 ドレイク視点

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「ドレイク、お前もう何もするな」

アヴェルティン家での一件の後、父上は僕を呼び出してそう告げた。

手元には一通の手紙、その封印は間違いなくアヴェルティン家の紋章だった。
父上が無言で差し出すそれに目を通す。そこにはあの日のことや金輪際カティに接近することを禁ずること、それが破られた場合は慰謝料請求をやむを得ないとも書かれていた。

「アヴェルティン伯直々に公私共にうちとの交流を控えると連絡もあった。……ここに書かれていることが本当であれば当たり前だ」
「っ……父上、これには訳があって!」
「訳だと?カトレア嬢を貶めていい訳がどこにある!」

怒りに震える父上はギロッと僕を睨み付けた。

「カトレア嬢と良い仲だというからうるさく口を挟まなかったんだ。それがこんなことになってるなんて……もういい、お前のことは今後全て私たちが管理する」
「か、管理って……」
「お前の行動全てだ。今後は兄さんの手伝いをさせる、結婚相手も付き合う友達も全部私たちが精査しよう。もう好き勝手なことはさせない」

さっさと出ていけ、と言い放った父上は終始僕の目を見てはくれなかった。


(っ……最悪だ)

これまで僕は上手くやってきた。それもこれも全部父上や周りを見返すためだった。
長男というだけで将来を約束された兄を選んだことを後悔させたくて……なのに、なのにっ!

(ここにきて問題児扱い、それよりも最悪なのは……)

結婚相手を決められることだ。

子爵家の男を結婚したい女なんか男を征服したいだけの高貴な令嬢か、どこからも貰い手のないブス女くらい。
そんなのと一生居なきゃなんないのは御免だっ!

(……かと言ってレオナと一緒になるのはなぁ)

もう一人の幼なじみを思い出しつい舌打ちした。

レオナ=ピコットという女は僕に惚れている。
医者という立場だから食いっぱぐれることはないし、見た目もそこそこ良いから連れて歩くには申し分ない。が、自信がある故にかなりめんどくさい女だ。遊ぶにはちょうど良いが、嫁にはしたくない。

だからこそカティと結婚すれば全部上手くいってたのに……!

(……仕方ない。レオナでも呼んで発散するか)

ストレスを溜め込むのは良くない。あいつに出来ることはせいぜい性処理くらいだからな。





「はぁ?クビになっただって?」

レオナとはいつも裏町にある小さな酒場で密会している。
公に連絡が取れないこともあり、ここのマスターが伝言役となって約束を取り付けることが僕たちのルールだった。
いつものように顔を出すと、マスターからレオナがここ2週間ほど顔を出していないことを聞かされる。

さらに話していくと、レオナがアヴェルティン家をクビになったという新事実まで飛び出した。

「何かの間違いじゃないか?」
「いいや、本当さ。アヴェルティン伯爵がついに見切りをつけたんだと。まぁここいらでも相当な医療費ふんだくってたからなぁレオナのやつ」

ケケッと下品に笑うマスターについ眉をひそめた。

(アヴェルティン伯の独断とは思えない。となると)

やはりレオナもカティに切られたって訳か。

「じゃああいつ、今どこにいるんだ?」

レオナの親父は確か死んでるはずだ。近しい身寄りもないと前に愚痴を言っていたはずだが……

「ケケッ、どこだと思う?」
「もったいぶるなよ」
「第二騎士団の訓練場さ。そこの医務室で働いてる」

第二騎士団だと?!
あの不真面目な女が国の機関で働くなんて、頭がおかしくなったのか……?

「まぁ給料は安いが住むとこと食いモンは困らねぇからな。それにあいつにゃ天国だろ、なんたってほら!血気盛んな若い男がうじゃうじゃいるんだから!」
「……チッ、くそビッチが」

だからあいつを選びたくないんだ。
口じゃ『好き』だの『結婚して!』だの言ってくるくせに、ちょっと顔のいい男がいたら簡単に股を開いてしまう。
そういう下品なところが令嬢であるカティに遠く及ばない理由だ。

「ってのはまぁ冗談で。レオナ、就職が決まった後に一度だけうちに来たんだよ」

マスターは煙草に火をつけゆっくり煙を吸い込んだ。

「そん時言ってたよ。『久々に本気で落とす男が出来た』ってね。俺はてっきりドレイクのことかと思ったんだが、どうやらそいつ第二騎士団にいるみたいなんだよ」
「第二騎士団……」

待てよ、それって……

「エドリック=ユーフェリオか」
「ご名答!女の嫉妬って怖いよなぁ!」

ケラケラ笑うマスターとは違い、僕はいたって冷静に状況を考察する。

もしその話が本当ならカトレアは知っているのだろうか。あの無愛想男がわざわざカトレアに弁明しているとも考えにくい、とすれば必ずどこかですれ違いが起こるはずだ。
レオナとユーフェリオを怪しい仲だと疑えば疑うほど、カティはまた一人ぼっちになる。

「……酒をくれ」
「お?どうしたんだ?ずいぶんと嬉しそうだな」

マスターのその言葉で、自分の口元が三日月のように歪んでいることに気付いた。

これが喜ばずにいられるか。

(カティが僕の所に戻ってくるチャンスだ)

どんなに強く見せたった人間の根底は変わらない。
カティは臆病だ。だからこそ疑り深く、何よりも自分の保身が一番大切なんだよ。
そんな彼女が結婚相手の不貞を知ればどうなる?結局また自分の殻に閉じこもり、次に助けてくれる人間を待つしかない。

弱くて可哀想な、かわいいカトレア。
ボロボロに傷ついた君を救い出す僕は、今度こそ君の唯一無二になれるんだろうね。

「ククッ……待っててね、カティ」

苦しんだ君を救えるシナリオを、今から綿密に考えてあげるから。

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