【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

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『子爵令息がストーカー。結婚式当日に花嫁を襲う』
『全ては妄言?執着による歪な愛』

『連続不審死、ついに原因究明される!』
『毒草による完全犯罪。主犯である美人女医逮捕!』


朝刊に大きく書かれた見出しをぼんやり眺めながら、ターニャが淹れてくれたお茶に口をつける。

あの後、レオナは引きずられるように第三騎士団に連行された。所持品から怪しい小瓶が発券され、それが現行犯での逮捕に繋がったらしい。
後日、その小瓶を解析すると例の毒草成分が検出され一連の事件に大きく関わっているとして再逮捕されたとエドリックは言っていた。

報道はドレイクとレオナの名前は伏せてはあるが、一部の貴族たちの間では情報が漏れていてあっという間に二人の名前は広まった。
バーモン子爵は逮捕を受けドレイクを除籍、今は貴族牢に収容されている身柄もいずれ平民と同じ一般牢に移されることだろう。

それよりも問題だったのは、例の毒薬事件の方だ。
どうやらレオナは開発したその毒薬を闇ルートに流していたらしく、逮捕後も不審死は数件起こってしまった。
が、レオナの証言によりすぐに犯人たちは捕まる。どうやら金に困ると馴染みの店主を通じて殺し屋たちに売り捌いていたやうで、証拠が残る段階で一斉掃討できたのは唯一良かったといえることなのかもしれない。
いずれにせよレオナの罪は重い。情状酌量の余地もなく、このまま牢の中で一生を終えるだろう。



「……さま、カトレアお嬢さま?」

ターニャの声にハッとする。

「あ……ご、ごめんなさい。ぼうっとしてたわ」
「無理もありませんわ。ここのところ、第二騎士団と第三騎士団がひっきりなしに訪問してくるんです。疲れを癒す暇もございませんものね」

ハァと苦言するターニャに思わず苦笑いを返す。

「いくら仕事とはいえ結婚式を台無しにされ、命を狙われたお嬢さまのお気持ちも考えて頂きたいですわ!」
「仕方ないわよ、皆さんだって不眠不休で働いてくれているんだもの。それにエドリックだって同じでしょう?」
「う……そ、そうですけど」

あの日からエドリックはずっと騎士団の宿舎で寝泊まりをしている。旦那様が一生懸命働いているのに、妻の私がぬくぬく休んでなんかいられない。

(国のためを思えば私たちの結婚式なんて……)

残念ではあるけど、こればかりはしょうがないわ。

「とにかく、エドリックが戻るまで私だけで領地を守らなきゃ。今日もこの後街に顔を出して、それから山上の廃墟を視察してくるつもりよ」
「そういえば今朝アインスから頼まれておりましたね」

アインスの話だと、街からそんなに離れていない場所に今は使われていない建物があるらしい。近いうちにそれを壊すらしいが、その前に一度確認しておきたいとのことだった。

「そろそろ時間ね、行ってくるわ」
「……はい。お気をつけて」





街に出ると、いつものように領民たちが出迎えてくれた。
ちらちらと雪が舞う中、備蓄食糧の確認や馬小屋の点検を着々と済ませていく。そこでふと、いつもより人が少ないことに気付いた。
案内役に尋ねると「あ、あー……その、王都に買い出しに行ってる奴が多いんかねぇ」と歯切れの悪い答えが返ってくる。

詮索せずに話を流すと、その場にいた領民たちはあからさまにホッとした表情で息をついた。

(なんか……変なの)

「おくしゃまーーー!」

視察を終えて再び街に戻ってくると、数人の子供たちが何かを持って走ってくる。
それは見たことのない小さな花ばかりだった。

「まぁ、とっても可愛らしい花束ねぇ」
「あげましゅ!はいっ!!」
「ありがとう。みんなで作ってくれたの?」

そう言うと子供たちは嬉しそうに笑った。

「うんっ!かわいいでしょー?」
「おひめさまにはお花だもんねぇ!」
「おいバカッ!言うなよぉ」

(お姫さま……?)

きょとんとすれば子供たちはわたわたと焦りながら、誤魔化すようにへへっと笑う。

不思議な空気のまま馬車に乗り込むとき、見送りに来た全員が何故かニヤニヤと笑いながら集まってきた。

「奥様、今日という日を迎えられて儂らは幸せです」
「ど、どうしたのみんな……今日変よ?」
「どうか素晴らしい一日を」

バタンと扉が閉まった後も、全員姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。

「……?」

訳の分からないまま揺られていると、森を抜けた先でゆっくりと馬車が止まってしまった。

「奥様、馬の調子が悪いみたいです!」
「えっ?!」
「目的地はもうすぐなんですが……すみません、先に奥様お一人で向かって下さいませんか?」
「わ、私だけで……?」

慌てて外に出てみると、御者は申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げた。

(?調子が悪そうには見えないけど……)

男の後ろにいる馬を見た感じ、落ち着いているし怪我をしたわけでもなさそうだけど。

「すぐに追いかけますので!!」
「……それなら、まぁ」
「あ、ついでにこれも持っていった方がよろしいでしょう!餌と間違えて食べられてはいけませんから!」

そう言って先ほど子供たちからもらった花束を半ば強引に渡し、御者は目の前の一本道に向かってぐっと私を押し出した。

(……とにかく一人で行けばいいのよね?)

勢いに負けて一人で歩いていく。
高い木で出来たトンネルを進むと、すぐにその先が開けた場所になっていた。

サァッと冷たい風に目を細める。


「わぁ……」


ちらちらと雪が舞う中、そこには小さなチャペルが建っていた。
そして、廃墟だと聞いていたそのチャペルのステンドグラスからは……温かい光が漏れ出ているのだった。

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