【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

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何だ……何が、起きている?

「あぁあっ!たのむ、待ってくれっ!」
「いやいや無理っすよ国王さま、俺達はあの人についていくんで」
「あ……そ、そんなっ……き、きみはっ!」
「私も無理。可哀想だけどあとは自分たちで何とかしなきゃ」

偉大なる国王陛下が俺の部下たちにみっともなく縋り付いている。だが二人はそんな陛下に視線もやらずのびのびと談笑していた。
陛下はモランに振り払われ、シルフィに触れようとする手はひらりとかわされている。

それに、陛下はひどく怯えているようだ。

「ね、ねぇ……どうしたのみんな、王様にそんなことしちゃダメよ!ぶ、不敬罪で国を追放されちゃうよ!」

唖然とする俺よりも先にアリスは彼らに駆け寄った。そして1番近くにいるエイの腕を触れようとした瞬間、

「触るな」

勢いよく手を振り払われ、アリスの体は簡単に地面に倒れ込んだ。

「っおい!」

ようやく頭がはっきりしてきた。

「エイ、お前誰を突き飛ばしたと……!」

こいつは……本当にあのエイか?
エイはいつだって笑顔を絶やさず、穏やかで礼儀正しい男だ。荒っぽいモランやシルフィをまとめ上げ、俺の右腕として尽くしてきた。
そんな男が、俺の大事なアリスを……?!

「誰?聖女の名を語り、男に媚を売るしか能がないだけの小汚い女ですが?」
「何だと!………っ!」

顔を上げれば、エイの冷ややかな視線が俺たちに注がれているのに気付く。
心の底から軽蔑するかのように見るのは、エイだけではなくモランやシルフィも同様だ。

「お、お前たち……どうしたんだ急に」
「急に、ですか。まぁ何も知らないあなた方からしてみれば急にですかね」
「詳しいことは国王さまに聞いてくれや」
「そうね、私たちこれから荷造りで忙しいし」

荷造り?
討伐戦からようやく帰って来られたのに、これから何処へ行くつもりだ。
……いや、そんな事は関係ない。
部屋を出て行こうとする3人の前に立ちはだかる。

「話が見えないが勝手は許さない。これは聖十字騎士団の団長である俺が命ずる!」

そう叫べば一瞬シンと静まり返った。

「ぷっ!あははははっ!やぁだ団長ったら!これ以上恥の上塗りはやめてよっ!」
「は、恥……?!」
「そうだぜ団長っ!確かにアンタは団長だ。だが俺たちの主君ではないんだからよぉ」

ケラケラ笑いながらモランは言う。
何故こんなにも二人に馬鹿にされなくてはならないんだ……俺は、こいつらの団長で……英雄で……!

「マーベラ団長」
「エイ……」
「長らくお世話になりました。急ではありますが、我々は本日で聖十字架騎士団を抜けさせて頂きます」
「なっ!!」

3人が抜ける?
馬鹿な……俺たちはこの5年間、苦しい時も辛いときも数々の修羅場を乗り越えてきた同士だ。それが、こうも簡単に捨てられるはずがない!

「そ、そんなの許すはずが……」
「団長が許さなくとも、国王陛下より一つ願いを叶えていただくお話ですから。我々は騎士団を抜け、この国を出ていきます」

エイの言葉にぐっと喉奥が詰まる。
確かに……陛下がそう仰った以上、俺にはどうする事も出来ない。
だが……っ!

「……ただ、少なくとも私はあの二人よりもあなたに情がありますから。一つご忠告を」

エイは俺の耳元にそっと顔を寄せる。

「魔王ロキはまだ死んでいませんよ」
「………は?」

一瞬、何もかもが停止する。

魔王が死んでない?馬鹿な……あり得ん。
仮にそうだとして何故エイがそんな事を言い切れる?はったりか?虚言か?
思考をフル回転させるが、これといった真実は掴めないままだ。

「え、え、エイ……どういう、」
「私達も誤算でした。あなたならばアイツを封印してくれると思っていたのですが、どうやら買い被っていたようです」
「っ、魔王は死んだ!お、俺が倒したんだ!俺がこの手で……俺が、おれがぁ!」

ふざけるなふざけるなふざけるなっ!
そんな訳がない!信じられない!
そう叫ぶ俺に苦笑しながら、エイはポンと俺の肩を叩いた。

「……そうですか。では、とひとときの幸せをお楽しみ下さい。今までありがとうございました」
「ま、待ってくれ……エイ、話を……」
「我々はあの方についていきます」


「全ては、ニーナ様のためですから」


去り際にエイはそう言い、パタンと扉が閉められ再び部屋は静まり返った。

残された俺やアリス、そして床にうずくまったままの国王陛下の呼吸音だけが聞こえる。


「……何故、ニーナの名前が出てくるんだ」
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