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しおりを挟む「陛下、お髪が乱れておいでですよ」
再び顔を合わせた老婆は呆れ気味にそう言った。
「うるさいっ!分かっておるわ!」
「……くれぐれも黄の姫には迫る事なきように」
「なっ!当たり前だろっ!セリーヌは妊婦だぞ、私にだってそのくらいの常識はある!」
この婆、人を色狂いみたいに決めつけおって!あと数年の命だと思って甘く見てやれば偉そうに……。
フンと鼻を鳴らし最後の離れへと向かった。
*****
「まぁ陛下、来てくださったのですか!」
離れを訪れてすぐに眩い金髪が駆け寄ってくる。
キラキラと輝く金髪に青い瞳、西洋の人形のように美しいその子はとても無邪気に笑ってみせた。
「セリーヌ、体調が優れないと聞いたがその後身体はどうだ?」
「ええ、おかげさまですっかり良くなりました!お医者様が言うには今すぐ産まれてきても不思議ではないとのことですわぁ」
そう言ってセリーヌは愛おしそうに自分の大きな腹を撫でる。そうか、もうすぐ生まれてくるのか。愛おしい我が子、女児ならきっと母親譲りの可愛らしい子になるだろう。もちろん男児ならば私によく似てくれば間違いはないしな!
「そうか。ほら、立っていないで座るんだ。それとも横になった方が楽か?」
「お気遣いありがとうございます。ですがせっかくの陛下との時間、寝てばかりではもったいないですぅ」
ニコッと笑うセリーヌに自然と私も笑顔になる。
(セリーヌに会う時はいつも元気が貰える)
セリーヌは側室の中で一番若い。西洋からやって来た彼女は無邪気でいつもニコニコと笑っている。モニカやアズミにはない子供っぽさも魅力的だが、何と言っても彼女は私への愛を何度も口にしてくれる。美しい女に褒められて嫌な思いをする男はいないだろ?
二人してソファーに座れば、ちょこんと肩にセリーヌの頭が乗っかった。
「へへっ!ちょっとだけ甘えても宜しいですかぁ?」
上目遣いで言ってくる彼女に年甲斐もなくときめいてしまう。国王相手には無礼と思われるその行為もセリーヌ相手なら余裕で許してしまう。
(可愛すぎるっ!ああもう、子がいなければすぐにこのソファーへ押し倒していた!)
何度目かの情事を終えたというのに未だに衰えない自分の性欲に感服してしまうな。
私はセリーヌの髪に触れ優しく頭を撫でてやる。
「もうすぐか……男か女か、どちらだろうな」
「陛下に似た子ならばどちらでも構いません。男の子であれば陛下のように聡明で逞しく、女の子であれば陛下のように優しくて麗しく育つでしょう」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
「セリーヌ、安心しなさい。生まれてきた子には何不自由な思いはさせん。側室の子と言えど不当な扱いは決してさせないからな?」
「まぁ!お心遣い、痛み入ります」
ぎゅっと私に抱き着く彼女を受け止める。
(くそぅっ……セリーヌ、何と愛らしい!身体の調子が戻った時には声枯れるまで抱いてやろう)
自分を戒めるのも楽ではないな。
「ですが無理はなさらないで下さいね?私とこの子は平穏に生きていければそれで十分ですので」
「ん?もちろんこの子にも後継者になれる権利はちゃんと与えるぞ?」
「良いのです。私たちはここでは一番身分が低いので、次期国王には紅の姫様の子か藍の姫様の子になさって下さいませぇ」
ニコニコと笑うセリーヌに私は心を鷲掴みにされてしまう。
(私の側室たちは何て健気で可愛いのだ!自分たちの得より、相手を思いやるなど簡単には出来んぞ!)
西洋の国は我が国の同盟国ではあるが、実質属国のような扱いを受けている。セリーヌの気持ちなれば敵国での地位を何としても確立させたいはずなのに……。
「それとも妃殿下との御子を今からでも……?」
「まさか!あの年増を今更抱く気は起きないさ!」
「そうでしょうかぁ?妃殿下はこの国一の美貌をお持ちだと聞いたことがありますよぉ」
国一番?あり得ないだろ。
嫁いできたばかりの頃ならまだ分かる、だがいくら美人でも常に眉間に皺を寄せる女を抱こうなど誰が思う?そもそもあの女は見た目どうこうじゃないんだよ、性格が最悪なんだ!
「あり得ん、私にはお前たちがいる。この後宮さえあればあとはどうなろうと私の知ったことじゃない」
「ふふっ、陛下ったら悪いお人ですぅ」
「本当のことだ。だからセリーヌ、お前も私の側にずっといるんだぞ」
「はいっ!もちろんですわぁ!」
無邪気に笑う彼女を抱きしめる。
(あぁ……幸せだ、この瞬間が一番……)
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