【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

文字の大きさ
4 / 20

しおりを挟む

「陛下、お髪が乱れておいでですよ」

再び顔を合わせた老婆は呆れ気味にそう言った。

「うるさいっ!分かっておるわ!」
「……くれぐれも黄の姫には迫る事なきように」
「なっ!当たり前だろっ!セリーヌは妊婦だぞ、私にだってそのくらいの常識はある!」

この婆、人を色狂いみたいに決めつけおって!あと数年の命だと思って甘く見てやれば偉そうに……。
フンと鼻を鳴らし最後の離れへと向かった。 




*****

「まぁ陛下、来てくださったのですか!」

離れを訪れてすぐに眩い金髪が駆け寄ってくる。
キラキラと輝く金髪に青い瞳、西洋の人形のように美しいその子はとても無邪気に笑ってみせた。

「セリーヌ、体調が優れないと聞いたがその後身体はどうだ?」
「ええ、おかげさまですっかり良くなりました!お医者様が言うには今すぐ産まれてきても不思議ではないとのことですわぁ」

そう言ってセリーヌは愛おしそうに自分の大きな腹を撫でる。そうか、もうすぐ生まれてくるのか。愛おしい我が子、女児ならきっと母親譲りの可愛らしい子になるだろう。もちろん男児ならば私によく似てくれば間違いはないしな!

「そうか。ほら、立っていないで座るんだ。それとも横になった方が楽か?」
「お気遣いありがとうございます。ですがせっかくの陛下との時間、寝てばかりではもったいないですぅ」

ニコッと笑うセリーヌに自然と私も笑顔になる。

(セリーヌに会う時はいつも元気が貰える)

セリーヌは側室の中で一番若い。西洋からやって来た彼女は無邪気でいつもニコニコと笑っている。モニカやアズミにはない子供っぽさも魅力的だが、何と言っても彼女は私への愛を何度も口にしてくれる。美しい女に褒められて嫌な思いをする男はいないだろ?

二人してソファーに座れば、ちょこんと肩にセリーヌの頭が乗っかった。

「へへっ!ちょっとだけ甘えても宜しいですかぁ?」

上目遣いで言ってくる彼女に年甲斐もなくときめいてしまう。国王相手には無礼と思われるその行為もセリーヌ相手なら余裕で許してしまう。

(可愛すぎるっ!ああもう、子がいなければすぐにこのソファーへ押し倒していた!)

何度目かの情事を終えたというのに未だに衰えない自分の性欲に感服してしまうな。
私はセリーヌの髪に触れ優しく頭を撫でてやる。

「もうすぐか……男か女か、どちらだろうな」
「陛下に似た子ならばどちらでも構いません。男の子であれば陛下のように聡明で逞しく、女の子であれば陛下のように優しくて麗しく育つでしょう」

嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

「セリーヌ、安心しなさい。生まれてきた子には何不自由な思いはさせん。側室の子と言えど不当な扱いは決してさせないからな?」
「まぁ!お心遣い、痛み入ります」

ぎゅっと私に抱き着く彼女を受け止める。

(くそぅっ……セリーヌ、何と愛らしい!身体の調子が戻った時には声枯れるまで抱いてやろう)

自分を戒めるのも楽ではないな。

「ですが無理はなさらないで下さいね?私とこの子は平穏に生きていければそれで十分ですので」
「ん?もちろんこの子にも後継者になれる権利はちゃんと与えるぞ?」
「良いのです。私たちはここでは一番身分が低いので、次期国王には紅の姫様の子か藍の姫様の子になさって下さいませぇ」

ニコニコと笑うセリーヌに私は心を鷲掴みにされてしまう。

(私の側室たちは何て健気で可愛いのだ!自分たちの得より、相手を思いやるなど簡単には出来んぞ!)

西洋の国は我が国の同盟国ではあるが、実質属国のような扱いを受けている。セリーヌの気持ちなれば敵国での地位を何としても確立させたいはずなのに……。

「それとも妃殿下との御子を今からでも……?」
「まさか!あの年増を今更抱く気は起きないさ!」
「そうでしょうかぁ?妃殿下はこの国一の美貌をお持ちだと聞いたことがありますよぉ」

国一番?あり得ないだろ。
嫁いできたばかりの頃ならまだ分かる、だがいくら美人でも常に眉間に皺を寄せる女を抱こうなど誰が思う?そもそもあの女は見た目どうこうじゃないんだよ、性格が最悪なんだ!

「あり得ん、私にはお前たちがいる。この後宮さえあればあとはどうなろうと私の知ったことじゃない」
「ふふっ、陛下ったら悪いお人ですぅ」
「本当のことだ。だからセリーヌ、お前も私の側にずっといるんだぞ」
「はいっ!もちろんですわぁ!」

無邪気に笑う彼女を抱きしめる。

(あぁ……幸せだ、この瞬間が一番……)
しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄をしてきた元婚約者さま、あなただけは治せません。

こうやさい
ファンタジー
 わたくしには治癒の力があります。けれどあなただけは治せません。  『婚約者に婚約破棄かお飾りになるか選ばされました。ならばもちろん……。』から連想した、病気を婚約破棄のいいわけに使った男の話。一応事実病気にもなっているので苦手な方はお気を付け下さい。  区切りが変。特に何の盛り上がりもない。そしてヒロイン結構あれ。  微妙に治癒に関する設定が出来ておる。なんかにあったっけ? 使い回せるか?  けど掘り下げると作者的に使い勝手悪そうだなぁ。時間戻せるとか多分治癒より扱い高度だぞ。  続きは需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/206551)で。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/423759993

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。 そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。 二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。 やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。 そんな彼女にとっての母の最期は。 「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。 番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。

ヒロインはあなたじゃない

三木谷夜宵
ファンタジー
公爵令嬢のリア・ハインツシュタインは、王立学園の卒業式を前に行われた舞踏会で婚約者であるエリアス殿下に、真実の愛で結ばれた男爵令嬢のルイーザを虐げたという理由で婚約破棄を言い渡される。 かつてこの学園では真実の愛で結ばれた身分違いのロマンスがあり、殿下と男爵令嬢は、自分たちもそのロマンスのように真実の愛で困難を乗り越えていけると夢を見ていた。 そんな二人の様子を見たリアは、ロマンスの真実を語るであった。 カクヨムにも公開しています。

処理中です...