どうやら夫がパパになったらしい

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11 ミシェル視点

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「明日から3日くらい帝都に戻る」

出勤するギリギリになって、めんどくさそうにジェイクは言った。
最近は体調もよく落ち着いてきたと思ったのに、不安な気持ちよりも怒りが爆発する。

「何それっ!妊婦を一人残していくの?!」
「仕事なんだからしょうがないだろ」
「だったらもっと早く帰ってきてよ!3日も家に一人なんて、もしその間に赤ちゃんが産まれたらどうするの?!ジェイクは心配じゃないの?!」
「チッ!あー……うるせぇ」

乱暴に髪をかきむしる姿に、ジェイクもイライラしていると察した。

(信じられないっ!私が悪いわけ?!)

逃げるように出て行こうとするジェイクの腕を両手で掴んで阻止する。

「ねぇ、出産予定日までもう時間ないんだよ?もうすぐパパになるんだよ?いつになったら自覚してくれるのよっ!!」

訴えかけているとじわりと涙がにじみ出た。

「……自覚って何だよ」
「え、」
「お前の飯も作って、働いて金も稼いで、なのにまだ俺に求めてくるのか。たかが子供が出来たくらいで何でそこまでしなきゃなんないんだよ」

力任せに殴られた壁から大きな音がする。
こんな姿、出会って初めて見た。どんなに私がわがまま言っても優しく許してくれたあのジェイクが怒鳴ったり壁を殴ったりするなんて……!

(子供が出来て嬉しくないの?)

思い返せば妊娠報告した時、ジェイクは口では嬉しいと言っても楽しみだとは言ってくれなかった。その時の顔も引きつっていたような気が……。

自分の中で段々とある疑惑が生まれる。

「え……私たち、結婚、するよね?」
「………」
「夫婦になれるんだよね?ねぇそうだよねっ?!」

大きくなったお腹を擦る。

この子が籍を入れないまま産まれてきてしまった場合、私生児として国が管理する孤児院に連れていかれてしまう。
帝国管轄の孤児院は面会条件がとても厳しく、たとえ親が会いたいと望んでも簡単には会わせてもらえない。年に数回あればいい方で、その子たちのほとんどが親の顔を覚える前に成長すると噂が立つほどだ。

よろけながらも駆け出し、縋るようにジェイクの服を掴んだ。
見上げるとジェイクとばっちり目があった。なのに……

「何よそれ」

完全に目が泳いでいる。

「………すまない」
「す、すまないじゃないわ。お願いだからちゃんと説明してよっ!!!」

力いっぱいジェイクの胸を叩き続けた。

「ミシェル、お前とは結婚できない」
「……は?な、に言って」
「俺には既に妻がいる」

その言葉にピタッと動きが止まる。

「………つ、ま?」
「………」
「え……?ま、まって……?妻って……?」

もう結婚してるの?
そう聞くと、ジェイクは小さく頷いた。

(ジェイクが……既婚者……………?)

「最初は騙すつもりはなかった。妻との関係は冷えきっていたし、お前と結婚したいとも思ったことがある。だが俺は妻と別れられない。それは愛し合ってるどうこうの問題じゃないんだ」
「………」
「俺は近々男爵になる。貴族の中には堂々と愛人を囲うタイプもいるし、そうなればこんなアパートよりずっといい家に住めるぞ!花屋のバイトだって辞めてもいいし、なんなら別に恋人を作っても……」

必死に取り繕った笑顔で喋るジェイクを、私はただただ呆然と眺めていた。

この人は、一体何を言ってるの……?

私がいついい家に住みたいって言った?
私がいつ仕事を辞めたいって言った?
私がいつあなたの愛人になりたいって言った?

「じゃあ、この子は?孤児として手放せって?」
「え……あ、あぁまぁ。簡単にいうと」


カ        ン        タ        ン        ニ        ?



その後の事はよく覚えていない。

座り込んで動けなくなった私に何か声をかけていたような気がするけど、正直何も耳に入ってこなかった。

(ジェイクは……最初から私と結婚する気なんかなかった)

じわじわと涙が溢れてくる。
楽しかった日々は全部まやかしだったの……?

その時、ぽこぽこっとお腹に胎動を感じた。

「……泣いてちゃダメだよね」

グッと涙を拭い、代わりに唇をきつく噛んだ。
私にはこの子がいる。守られるだけの女じゃなくて、今度はこの子を守る母親にならなくちゃ。

クローゼットから大きな鞄を引っ張り出して服や財布、地図を詰め込む。

(きっと帝都にいる奥さんに会いに行くんだ!何もなったみたいに夫婦関係をやり直すなんて、絶対に許さない!)

電車を乗り継いで初めてやってきた帝都。
ジェイクに会える確証がないまま、フラフラと街を彷徨っていた……まさにその時だった。

路地裏に入っていくジェイクを見つけ、すぐさま尾行する。花束を持ったジェイクが誰かと話をしていて、その相手の姿を見た瞬間思わず口を押さえた。


「なんで……先生が、」


彼が親しげに呼んだのは、私の主治医であるマリエル先生の名前だ。

(うそ、うそ、どうして……)

先生は私の味方じゃないの?
無事に産まれるように、私を支えてくれたのは他でもない先生だったのに。

(そう、そういうこと……優しいこと言いながら心の中では私を馬鹿にしてたのね!)

人の良さそうなふりをして弄ばれている私を見て笑っていたんだ。
不信感がどんどん怒りに変わっていく。先生に裏切られた反動はもしかしたらジェイクよりも大きいかもしれない。

熱烈なジェイクに対し先生は終始冷たく当たる。

「……いらないなら、ちょうだいよ」

全部持ってるんだから。
あんな男でもこの子にとっては唯一無二の父親なの。居なくちゃダメなの。

怒りと焦り、悲しみでぐちゃぐちゃになった頭のまま静かにその場を離れていく。


「ふふ、ふふふふ。次会うときが楽しみね先生」

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