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しおりを挟む『協力して頂けますよね、ビオラ様』
そう、あの子は突然やって来てそう言った
いつもの花が綻ぶような笑顔と違い、冷たくて妖艶なその笑みに私の心は踊ってしまったの。
清く、正しく、美しくーー。
そんな聖母のような彼女のあんな顔を見たら子供の頃に戻ったみたいにワクワクしたの。退屈が大嫌いな私を見抜いていたあの子、そんな時に知った彼女の失踪計画。
もちろん協力するに決まってるでしょ?
美しい彼女と、寄り添う一人の彼のために……。
「お呼びでしょうか、アレグロ公爵夫人」
訪れたガタイのいい男は跪きながら恭しくそう言う。
大きな体を丸める姿に私は苦笑した。
「性に合わないことはするもんじゃないわマルクス」
「……一応やっとかねぇと」
パッと顔を上げたマルクスは困ったように笑ってみせた。
この子はダリッジとは違い、騎士団長という立場を得てもなお私に物怖じせず発言してくる。そんな図々しいところが実は結構気に入ってるのよね。
「で、こんな時間に俺を呼び出してどうしたんスか」
「ダリッジ侯爵が来たの」
「へぇ」
「ほら、今日侍女が一人捕まったでしょ?その報告らしいけど……本当の目的はルノアの居場所を聞きに来たんでしょうね」
そう言えばマルクスはガシガシと頭を掻く。
「あー……やっぱそうなるかァ」
「あの様子じゃゴロツキや傭兵に大金を出してでも探し出しそうな勢いよ」
「でしょうねェ。まぁ今のダリッジ家は全部お嬢の力でデカくなったようなもんですからなァ」
マルクスの言葉に小さく舌打ちをしてしまう。
ダリッジ侯爵家がルノアを王家に差し出したのは彼女が5つのとき。早すぎる婚約関係に周囲の貴族たちは文句を言ったが、出世を望む彼は頑なに周りの意見を無視した。
そして、ある事件が起こる。
そのせいでルノアは心を閉ざしてしまった……。無邪気で子供らしい令嬢はいなくなり、代わりに品行方正で大人びた高嶺の花が完成してしまったの。
「あの坊やが心配してるのはルノアの安否なんかじゃない。侯爵家の弱体化よ」
「噂じゃマノン一派がダリッジ家から手を引くらしい。財源を失い、王家からの後ろ盾もなくなったあの家が衰退するのは目に見えてんなァ」
「当然よ」
私はフンと鼻を鳴らす。
あのマノン一派が仲介としてダリッジ家を選んでいた理由は他ならぬルノアがいたから。それがなくなればあの家に用はないでしょう。
「ルノアを傷つけた奴は許さないわ」
「盲目的だな夫人」
「あの時みたいに……ライラのように後悔はしたくないのよ」
ライラ、その名前を出せば飄々としたマルクスの態度が一変する。
私やマルクスが何故こんなにもルノアの為に行動するのか。その全てはあの子の亡き母親であるライラが関係している。
男爵令嬢だったライラは美しい女だった。
身分は低くても天真爛漫で、素直で、当時王女の私をいつも楽しませてくれる友人だった。
そんなあの子はある日、アーサー=ダリッジと結婚してしまう。
その美しい顔を、利用する為とも気付かずに。
「あの男、美しいライラによく似た女の子が欲しかっただけなのよ。その子を王家に嫁がせ自分がのし上がるために……ライラの事なんかこれっぽっちも愛してなかったの」
「………」
私は持っていたティーカップを床に叩きつける。
結果としてライラはダリッジとの口論の末、自分の顔に火傷を負い、屋敷に引き篭もるようになってしまった。そしてその一年後に火傷の後遺症で命を引き取る……哀れな最期だったわ。
「……ふふっ、ごめんなさいね。少し取り乱してしまったわ」
「………」
「ライラに関して一番はらわたが煮え繰り返ってるのは貴方の方かもね、マルクス」
「……俺は関係ないっスよ」
「そう?ライラの幼馴染である貴方がこんなにもルノアに協力的だった理由はそれでしょ?」
顔を覗き込めば困ったように視線を逸らされた。
本当に……不器用な子ね。
「それよりルノアの方は大丈夫でしょうね?もしダリッジが傭兵を雇っていればすぐに連れ戻されてしまうわよ?」
ルノアが国を離れたのは1週間ほど前。
早馬で探せば追いつかれてしまうかもしれないわ。
「あのわんこ、ちゃんと強いんでしょうね?」
「わんこって。俺の息子はヤワじゃねぇっスよ」
未婚のくせに孤児を引き取ったこの子を最初は怒鳴りつけたけど……。
マルクスはニッと笑いまるで自分の事のように胸を張り堂々と宣言した。
「愛した女を死なせるな。そう躾けてあるからなァ」
ならいいけど。
私はマルクスにつられるように小さく微笑んだ。
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